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魔王城の管理人  作者: チバ テツロー
アルティスの決意
16/32

暖かいココロ、熱いカラダ

 アルティスは、城の近くにある池のほとりに来ていた。

 蝶々が飛び回り、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 涼しげな風が吹き、頬を撫でた。

 若き魔王は仏頂面で、どかりと腰を下ろし頬杖をついた。


「なんだよ……今は俺の修行中なのに……」

 そう言って、近くに生えていた草を千切り、池に投げた。

 すると、水面から魚が顔を出した。口をパクパクと動かしている。

「お前も、そう思うよなー……って魚に話しかけてどうするんだ……」

 自嘲気味に笑い、頭を掻いた。

 しかし、その時返事が聞こえてきた。


「うむ、頑張っておるな魔王よ」

「うわー!魚が喋った!」

 アルティスが絶叫した。

 魚は相変わらず、口をパクパクさせている。


「拗ねているのか魔王よ」

「拗ねてなんか……いや、ちょっとだけ……。ガキっぽいってわかってるんだけどさー……。」

 そう言って、また草を投げる。

「焦るでないぞ。毎日の積み重ねがキミを強くする」

「良いこと言うなー、魚!いや魚師匠と呼ぼう!」

 アルティスが目を輝かせた。


 後ろからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

 アルティスが後ろを振り返った。

 そこには手を口に当て、目尻を下げたアイリスの姿があった。


「アイリスだったのかよ……」

「ごめんごめん。すぐにバレるかと思ったら意外と気づかなかったね」

 そう言って、隣に腰を下ろした。

「………」

 アルティスは再び池に顔を向け、小石を投げた。

「皆に相手されなくて拗ねてるの?」

「それもあるけど。なんかショックでさ……」

「ショック?」

「ルーファスさんが、俺が3日もかかった事一瞬でやっちゃったからさぁ……。こんなに特訓してるけど、凄い才能の持ち主には敵わないのかなって」

 そう言って、空を見上げた。頭の中には、宿敵の姿が浮かんでいた。


「お兄ちゃんには私もビックリしたわ。けどアルティスも凄い成長だって、おじいちゃん興奮してたよ」

「でもさ……」

「隙あり!」

 アルティスは頭に軽い衝撃を受けた。アイリスの手刀がアルティスの髪を抑える。

「泣き言ばっかりは、かっこ悪いぞ」

 立ち上がり、服に付いた草を払いながら言った。


「じゃ、私お城に戻ってるから」

 そう言って、城に向かって歩いていく。

「………」

「アルティス! 待ってるからね!」

 満面の笑みで、そう言うと、城の中に入っていった。


「…………よし!」

 アルティスも立ち上がった。





「よいか。ルーファスよ。どんな所にもあらゆる要素を司る精霊がいるものじゃ。深く意識の底で語りかけるように……じゃ」

「わかりました」


「わぁお兄ちゃん今度は何やってるの」

「魔物とも戦えるように、戦いの魔法を教えてもらっているんだよ」

「アイリスちゃん。あなたのお兄さんは本当に凄い魔法の才能を持っているわ」

「へぇ……」

 その時、入り口の扉が開いた。


 アルティスが立っていた。

「あっ!アルティス!」

 アイリスの顔がパッと輝いた。

「あ、魔王様……!そうじゃ……修業が……!」

 爺やの顔が青ざめた。


 ルーファスの才能に惚れ込むあまり、主君の事が頭から抜け落ちていたのだ。

 そして、そのような時には魔王が拗ねてしまう事も熟知していた。


「いいんだ。続けて」

 しかし、アルティスは落ち着いていた。

「もう、大丈夫なの?」

 アイリスが隣に来て囁きかけた。

「大丈夫?俺は最初っから大丈夫だぜ!」

 そう言って、ニッと歯を見せた。

「調子良いんだから」

 そう言いつつも、アイリスも笑いかえした。


「アルティス君。すみません。君の修業中だというのに」

「いや。ルーファスさんが強くなればあの村も安心だ。で、今は何を?」

「火の初級魔法ファイエルを教えて頂いているんです」

「もうそこまで!?」


「よし、ではルーファスよ。先程教えたように、手のひらに集まってくる精霊を意識し、語りかけるのじゃ」

「はい……!」

 周りにいるアルフレアや幹部達の目にも好奇の色が宿る。

 アルティスとアイリスも真剣な表情をして見守っていた。

 ルーファスがゆっくりと手を顔の高さまで上げていった。

 そして、深く語りかけるような声で魔法の詠唱を始めた。


「手のひらの熱よ。現れなさい!ファイエル!」

 その瞬間、炎が巻き上がった。

 周りにいた者たちが思わずのけぞった。


 皆、顔が驚きで満たされている。

 魔法を放ったルーファス本人も、口をアワアワと動かし驚いていた。


「アルティス!」

 アイリスも目を見開いている。

「ああ!凄いな!ルーファスさんは!」


 今までのアルティスなら、嫉妬心から拗ねていたかもしれない。

 しかし今は穏やかな心でいられた。隣にアイリスがいたからだ。

 アルティスは心に誓った。

 例え、どんな事があろうと強くなり皆を守れるようになろう、と。


 この子が、隣にいると、心が暖かくなる。……そう、暖かく……というよりも少し、熱い。

 やけに熱い。そして焦げ臭い。


「熱っ!熱っ!あつつつつつつつーーー!」

「魔王様!魔王様!下!下!」

 "海竜の化身レヴィアタン"が慌てた様子で言った。


 ズボンが燃えていた。

「ヴァッサー!!」

 レヴィが水の魔法を唱え、魔王の下半身を鎮火した。

 アルティスはほっとしたが、自分よりも、近くにいたアイリスの事が気になった。


「アイリスは無事か!」

「きゃーーー!」

 アイリスは魔王にビンタを繰り出し、走り去っていった。





 玉座の間を沈黙が支配した。

 時折、ポタポタと滴る水の音が聞こえてくる。


「ムッ……魔王よ」

「……わかってる。フルチンなんだな……」

「うむ……鎮火して、チン可視化(かしか)した……。そんな所だ。ふふふ」

「ターロス、笑えない」


「ぶぅらぶらぁ〜〜」

「うるさい、ショゴス」


「あ、アルティス君……。すまない……」

「……良いんです。お互い修業、頑張りましょう!」

「ああ!よろしくお願いするよ!」

 アルティスとルーファスは固く握手を結んだ。


「……服、着なさいね」アルフレアが笑っていた。

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