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魔王城の管理人  作者: チバ テツロー
アルティスの決意
15/32

天賦の才

 元王選剣士のガルフとの修行は、毎日のように行われていた。

 玉座の間は、今ではすっかり修行の場と化していて、剣の交わる音が聞こえない日はなかった。

 涼しい顔で剣を振るガルフとは対照的に、この城の若き魔王は汗だくになり応戦していた。





「うおぉーーーー!」

 思い切り剣を縦に振った。

 しかし、そこにはすでに相手の姿は無かった。


「大振りし過ぎてはいかん!簡単に軌道を見切られてしまうぞ!」

「なら。これはどうだ! 豪炎の息吹よ……」

 魔法を唱え始めた。しかし、すぐに距離を詰められ胸に掌底を打ち込まれた。


「ぐはっ!!」

 胸に衝撃を受け、膝をつき、むせた。


「この至近距離では詠唱している間は無い!」

「……っのヤロォ!」

 アルティスは立ち上がりざま、剣を大きく振りあげようとした。

「じゃから、大振りは……」

 しかし、すぐに軌道を変化させ、突きに転じた。


「とった!!」

「ムッ!?」

 ガルフはすかさず、剣で払いのけた。

 アルティスの手から、剣が弾き飛ばされた。


「くっ!!」

 すぐに体制を立て直そうとするが、頭に風圧を感じた。ガルフの剣が、頭上にビタリと制止していた。




「一本!そこまでね」

 アルフレアが止めに入った。

「くっそー! また負けた!これで0勝666敗か……」

 そう言って床を殴る。

 ガルフが剣を置き、笑顔を見せた。


「いやいや、アルティス殿。凄まじい成長ぶりですぞ。まさかもう剣を防御に使わされるとは」

「本当ですぞ。魔王様。ささ!こちらでお身体をお休めください」


 玉座の間の隅には、テーブルと椅子があり、その上には出来立てのお茶とパンが、用意してあった。湯気が立ち上がり、出来立てである事が伺える。

 主人の疲れを癒そうと爺やが用意したのだ。


「爺やありがとう。でも次の特訓までガルフと話す事にするよ」

「そう、ですか……。余り無理はなさらぬよう……。ほっほっほ。なんたってガルフの小僧ももう歳……」

 爺やは途中で話を止めた。既にアルティスとガルフは剣を手に持ち、先程の特訓の復習をしていたのだ。

 



 爺やが複雑な表情でその場から離れようとすると、よく通る優しげな声が聞こえてきた。


「いやぁ。驚いたよ。まさかアルティス君が魔王だったなんて」

「でも。悪い奴じゃ無いのよ。お兄ちゃん」

 アイリスとその兄、ルーファスである。


「それはわかるよ。なんたって私達の村を救ってくれたからね」(7〜10話参照)

「そうそう!それに剣の修行だってあんなに頑張ってるし!」

「……なんだかアルティス君の話になると嬉しそうだねぇ」

 にこやかに妹の顔を覗き込む。


「そんなこと無いわよ。アルティスすけべだし! よく鼻が伸びるし……!」

「あはは!わかったわかった」

「もう! あっ爺やー! こんにちは!」

 明るい笑顔で手を振った。


「……ふん」

 爺やは一度アイリスの方を見たがすぐに視線をそらし、そのまま遠ざかっていく。


「あれ?爺や?」

 アイリスが首を傾げた。

 そこにアルフレアがゆっくりと歩み寄り、小声で話しかけた。

「爺やはね、アルティスをガルフにとられちゃって拗ねてるのよ」

 すぐに拗ねる所は、主人と配下でそっくりであった。


「そうなんですか。アルティスみたいですね」

「聞こえておりますぞ!アルフレア様」

 アルフレアを睨んだ。目線は悪人のそれであった。


「まぁまぁ爺や。世界一の大魔導の名が廃るわよ」

 それを聞いたルーファスが突然立ち上がった。

「なんと! 爺や様は、世界一の大魔導なのですか!?」

 爺やに詰め寄る。

「なんじゃ。お前さんは? 嫌なオーラじゃ。ふん!」

 爺やは拗ねに拗ねていた。


「もしよろしければ、私に魔法を伝授してくださいませんか? 私も強くなりたいのです」

「嫌じゃ! ガルフに剣技でも教われば良かろう」

「それが……」

 ルーファスが顔を伏せた。


「お兄ちゃんは身体がうまく動かせないの。昔は私より、自由に動き回ってたんだけど、突然……」

 一気に場の雰囲気が暗くなった。


「むぅぅ……」

「教えてあげたら? 爺や」

 アルフレアが腰に手を当て諭すように言う。

「……ならば、これを浮かせてみぃ」

 そう言って懐から、紫色の水晶の球を出して、床に置いた。


「これは魔導玉というものじゃ。念じてみて動かせれば才能ありじゃ。魔法を教えてやっても良いぞ。まぁ五年以内に動かせれば上等じゃな。ほっほっほ」

 そう言って、その場から立ち去ろうとする。

「爺や! 爺や!」

 アルフレアが呼び止めた。


「なんですかな。別に意地悪で言っているわけでは………おっほーーーーーーーー!!」

 爺やが振り返ると、そこにはプカプカと宙に浮く魔導玉があった。


「う、浮きました……」

 ルーファスも驚いたように、光る水晶玉を見ていた。

「おっほ……! いやいや待ちなされ待ちなされ! 落ち着きなされ!」

「爺や落ち着いて」

 騒がしい気配を聞きつけ、幹部達もゾロゾロと姿を現した。


「どうしたんですか?……あっ魔導玉ですか」

「ムッ……この人間が……?」

「ただの人間にしてはすごいんじゃな〜い?」

「おっほほ! 待て! 凄くないわい! こんなのワシだってできるし!」

 そう言いつつも目が輝いていた。

「そりゃ爺やはできるでしょ」


「ごほん! ……おい! ルーファスとか言ったの。今度は空中で球を動かしてみぃ」

「おいおい爺や。そりゃ無茶だぜ! 俺だって3日はかかったんだぜ!」

 アルティスも顔を出し、覗き込んでいた。


 しかし次の瞬間、球は目まぐるしく動き出し、最後にはゆっくりとアイリスの手のひらの中に落ちていった。

「なん……だと?」

 アルティスは目を見開いた。

「わぁー!お兄ちゃん!すごい!」

 手のひらの中の水晶玉を握り、キラキラした目で兄を見つめた。


「おっほーーーー! も、モノホンですぞ! こやつはモノホンですじゃ!」

「爺や落ち着いて。……でも確かに凄いわね」

「ただの人間がありえないわ……」

「ムッ……素質アリだな」

「天才ってやつ〜?」

「何でもできる奴じゃが、まさか魔導の才能まであるとはのう」

 輪の中心には、ルーファスがいた。




「お〜い……そろそろ修行しない?」

 アルティスが声をかけたが誰も気がつかない。

「そろそろ修行しようぜー。おーい」

 しかし、興奮でやはり誰も気がつかない。当然のごとく、彼は拗ねた。そして玉座の間から抜け出していった。


 誰もがルーファスの魔導の才能に驚いている中、一人だけアルティスの不在に気づいたものがいた。

「あれ……アルティスは……?」

 若き魔王の想い人、アイリスである。


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