第一話 転生したら俺の親はモンスターペアレントでした
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方も初めまして。
小説家になろうでは、実に数年ぶりの投稿となります。
またよろしくお願いします
いきなりで悪いけど、俺の家族は…変だ。
自分の状況も色々とツッコミどころがあって変なところもあるから、人のことは言えないのだろうけど、はっきり言おう。
俺の家族は、変だ。
普通の人は、素手で化け物……この世界で言う魔物を倒すなんてことは、まずできないだろう。
自分よりも巨大で強大な、それでいて人間にはない武器、牙や爪何かを持っている者もいる。
中には魔法を使う魔物もいるし、空を飛ぶ魔物もいる。
普通の人だったら、武器を使うだろう、魔法を使うものもいるだろう。
パーティを組んで協力して討伐するものもいるだろう……。
この世界においては、それが普通であり、常識のはず……なんだけども。
俺の家族はそれを…素手でやってのける。
何かもう目にも見えないパンチを繰り出したり、キックをくり出したりして、魔物はすごいスピードで飛んでいくのだ。
音速の域に達しているかもしれないその速度で分かる通り、威力は絶大で、それだけで魔物は絶命する。
ナニコレ怖い…。
「はっはっは! 母さん!今日は大量だなぁ!」
そう言いつつも、迫りくる魔物を笑いながら殴り飛ばす俺の父さん…。
そしてその直ぐ近くで、綺麗な長髪をなびかせて、良い笑顔で魔物を蹴り飛ばす母さんの姿がそこにはあった。
「そうねぇ、でももう少し歯ごたえがあるといいんだけ、どっ!」
ドゴォッ!っと、一見して普通の人間が出せるような音ではない音が鳴り、そのままどこかへ吹き飛んで行ってしまう魔物。
スローモーションで見たら、きっとそいつの身体に、凄い力の蹴りがめり込んでいるに違いないだろう。
それほどの威力の蹴りを、果たして女性が出せるだろうか…。
いや、きっと男でも無理だろう。
いくら鍛えても、格闘家でも、純粋な攻撃で相手が音速でぶっ飛ぶような威力は出ないだろう。
それをこの二人は平気でやってのける
そんな風景を、俺は家の中で見ながら、感想を述べる。
「……人間じゃねぇ……」
***
俺が生まれたこの世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界で。
外には魔物や悪魔と言った、色々な化け物が存在している、平和とはかけ離れた場所である。
自分が元いた世界とは、まるっきり違う、常識からかけ離れた世界である。
あー…さっき自分の状況ツッコミどころがあるって事だが。
俺は前世の記憶を持って生まれている。
前世は生粋の日本人で、歳は18歳だった。
何処にでもいる高校三年生で、卒業を間近に控えていた。
その時に不慮の事故にあってしまい、死んでしまった……はずだった。
気付いたら俺は、見知らぬ男性に持ち上げられていた。
その男性の笑み……それがこの世界での最初に目にした光景で。
次に目にした光景が、これまた見知らぬ女性にだっこされてみた、その女性の安堵しきった顔だった。
自分が赤ん坊になっていると気付いたのは、そう時間はかからなかった。
それからまぁ…色々あったなぁ。
精神年齢的には、もう親離れしている年頃ゆえに、オムツを取り替えられたり、授乳されたりしたのは、ものすごく恥ずかしかった。
「何だこいつ、恥ずかしがってるのか?」
「あっはっは! 生まれて間もない赤ん坊がかい? 何のジョークだいアトラス」
「んー…それもそうだなっ、俺の見間違いかもしんねぇ。 しっかし、こいつは夜泣きも癇癪すらも起こさねぇなぁ。 手がかからなくて良いんだろうが、母親からしてはどうなんだ?アリア」
「そうね…私とあんたの子が案外凄い子、だったりして?」
そう言っていい笑顔で父さんに、すっぱりと言い張る母さん。
それを聞いて大笑いし「違いないっ」何て言い出す父さん。
この二人、親ばかなんだなぁと思いつつも、俺が羞恥を感じていることが指摘されたことに驚き、それが気のせいって事で片づけられたみたいで良かった。
気を付けないといけないだろうけど、これは流石になれない…。
ちなみに、俺の父さんの名前はアトラス・ニルバーナ。
母さんはアリア・ニルバーナと言う。
そんなこんなで、こういった生活を続けてはや三年経過したある日である。
「さて、そろそろアルに、戦いってものを叩きこもうと思う」
唐突に俺事、アル・ニルバーナは、母さんからそんな事を言われた。
いきなり何を言っているんだこの母親は見たいな感じで母さんを見ていて。
次に父さんが口を開く。
「実はなぁ…父さんと母さん、お前に少し隠し事をしていたんだ」
「隠し事ー?」
罰が悪そうに話している父さんをみるのは、これが初めてかもしれない。
やる事なすこと豪快な父さんは、何でもすっぱりと決断して行動する……と、この三年で見て取れる人柄だった。
それがどうだろう。何か言い淀んでいる表情が見て取れる。
その隠し事が何なのか、よほど言いたくないことなら別にそのまま隠してもらっても構わないんだけど。
俺が戦い方を覚えるのに必要なことなのだろう、黙って聞いてみようと思う。
「あぁ…実は父さんと母さんな、冒険者なんだ」
ほうほう、冒険者ねぇ…。
別にそれ自体は珍しい事でもないだろう。よくこの世界の事とか、色々母さんが話してくれていたし。
それがこの世界での普通と思っていたから、たいして驚きもしない。
「それでな?あー…何つったら良いかなぁ。 後数年したら、お前と離れ離れに何なきゃならないんだ。 お前は賢い奴だから、この意味が分かると思うが…?」
「んー…。父さんと母さんは、冒険にまた出かけてしまうから、今から鍛えて独り立ちさせる計画?」
さも普通にそう二人に返答してみる。
父さんは「そうだ」って、たいして驚くこともなく、肯定する。
どうやらこの世界では、三歳児がここまで理解が速い事は、あり得ないわけではないらしい。
もしかしたらこの二人が順応しているだけという事もあるかもしれないが…。
それにしても、鍛えるねぇ……。
母さんから色々話してくれたことの中に、魔法使いの存在も確認できている。
出来れば俺は、魔法を使ってみたいなぁ、等とのんきに考えていた。
「それで、それなりに強くなるまで、母さんと父さんとで、アルに稽古をつけようと思うの。 良い?」
「まあ嫌なら断ってくれてもいいぞ? お前がどうしても嫌だって「良いよ」言うなら、父さんと母さんは冒険者をやm…良いのか!?」
そう聞き返し、驚いた顔をずいっと俺に近づけてくる父さん。
ちょ…顔近いし暑苦しいしつば飛ぶからやめてほしい…。
ちらっと母さんを見ると、ほらね?って感じの表情を浮かべ、父さんを見ている。
どうやら俺の父さんは、意外に心配性なところもあるようだ。
「ほら、アトラス。 アルが良いって言ってるんだし、覚悟を決めなさいっ」
「う、うぐ……そ、そうだな。 んんっ、それでだアル、今日は父さんと母さんがどう戦うかを見せようと思うんだ」
そう、これが事の始まりだった。
きっと、剣を使ったり魔法を使ったりして、鮮やかに、かっこよく戦うんだろうなと。
子供の俺(精神年齢は二十歳を超えた)は、そんな中二を脳内で繰り広げていた。
……実際に、父さんと母さんの戦い方を見るまでは……。
危ないから家の中にいなさいと、二人に言われて、俺は家の中で、二人の戦いを見ることとなった。
窓からよく見える位置に、二人が来てすぐに、父さんが何かを取り出し、それをばらまいた。
それから少しして、森の方からがさごそと、家の中からでも聞こえる大きな音とともに、それはやってきた。
魔物の大群……見たこともない光景に硬直してしまった俺は、いくらなんでも多すぎだろと思った。
だがその考えも、父さんと母さんの一撃で粉々に吹き飛んだ。
「ふんっ!」
「はぁっ!」
ドゴォッ!メキャッ!っと、何とも生々しい、肉を打ち、骨を砕くような音が響くと、父さんと母さんを襲っていた魔物が姿を消していた。
えっ?えっ??っと混乱しているうちに、どんどん二人は魔物を倒していく。
それも、素手でだ。
武器や魔法なんか一切使わない、己の肉体のみで戦っている二人。
父さんは拳で、母さんは脚で、魔物の攻撃を受け流し、避け、そこから一撃必達の拳を、蹴りをくり出していく。
それを見て俺は思った。
なにこれ、俺が思っていたファンタジーと違う…と。
それで、冒頭に戻るわけなんだけど……。
「あ、アトラス、あれあれっ」
「おっ?これは珍しい」
二人して空を見上げ、何かを見ている。
何だろうと思い、俺は窓を開けて上を見てみる。
そこには、黒い物体が飛んできていた、俺にはそれが何なのか分からなかったが、父さんと母さんは分かっているようだ。
一体何だろう、何て考えていると、その黒い物体だどんどん近づいてきていたので、その正体があらわになってきていた。
その黒い物体の正体とは……ドラゴン。
「黒龍か、これは今晩の晩飯は豪華そうだなっ!」
「作るの誰だか分かって言ってる? 全く…」
ちょ、何であの二人あんなに余裕なわけ!?
父さんと母さんは軽口をたたきながらも、お互い余裕の表情を見せている。
そして、ドラゴンがここに気づいた瞬間、父さんがググッとしゃがみこんだと思ったら、次の瞬間…。
ドゴンッ!っという音とともに、父さんの姿が消えたのだ。
みると、さっきまで父さんがいた場所は、変なクレーターみたいなものが出来ていた。
そこからわかることは、父さんが飛んだ、という事だった。
なので上を見てみると、物凄い跳躍力で、ドラゴンの眼前まで近づいていた。
そしてそこから右腕を引き__
「オッラァァァッ!!」
ボゴンッ!と、もはや何かを殴る音なのかも怪しい音を響かせ、ドラゴンの顔を殴りつける。
そしてその攻撃で、ドラゴンはものすごいスピードで地面に落下していく。
しかもその下には母さんが悠然と立っていて、すでに構えを取っていた。
おいおい、今度は何をする気なんだ何て、そろそろ顎が外れるのではないかというくらいまで
口をぽかんと開けながら見ている。
フゥゥゥ…と、息を吐き出し、ドラゴンが地面に激突しようとしたその瞬間。
「シッ!」
バチィィィンッ!!という破裂音が森全体に響き、あの巨大なドラゴンの身体がくの字に曲がったまま吹っ飛んでいく。
母さんは、父さんが殴り落としたドラゴンを、タイミングを合わせて蹴り飛ばしたの。
とどめを刺す意味合いもあったのだろうか、それとも俺にドラゴンの仕留める所でも見せたかったのだろうか。
スタッと着地した父さんと母さんは、俺が見ている窓に視線を向け、同時にブイっとピースし、笑みを浮かべる。
果たしてこれを三歳児の子供に見せて良い光景なのだろうか…。
そして、俺はこの人たちに稽古をつけてもらって、死んでしまわないだろうかと本気で思い始めた。
これのどこがファンタジー世界なんだぁぁぁぁぁ!!