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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
最終部「暁天編」
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第八十九話 悪魔達の叫び

「全てに滅びを!」

 破滅の女神が術を発動すると、彼女の背後に禍々しく輝く巨星が現れ、耳を劈くような音と共に大地が崩れていく。

 今度こそ全ての終わり、何もかもが破壊されてしまうと諦めた時だった。


「壊させはしない」

 女神となったシュウちゃんは、両手を破滅の女神の方へゆっくりだが力強く向ける。

 すると破壊の濁流は、自らが壁となり彼女の足元でぴたりと止まった。


 私はふと、シュウちゃんの足元を見る。

 まさか、破壊と同時に創造を行っているの……?

 だから一見崩壊が止まっているように見えるのね。


 しかし破滅の女神の力をとめると同時に、シュウちゃんの顔は酷くゆがみ、苦しそうに歯を食いしばりだす。


「あなたは神と同等の力を得る事が出来た、けれども私は神そのものなのよ? そんなあなたにこの力は止められない!」

「それでも……、それでもあたしは負けない! あたしが倒れちゃ駄目なんだ!」

 必死の形相になりながらも何とか破滅の女神の力を防ぐが、女神の眼光がぎらりと光ると巨星はより強く輝き、大地の崩壊はさらに加速してシュウちゃんはじりじりと後ろへ押されていく。


 このままではシュウちゃんが負けてしまう。

 確かにあの女神の言うとおり、神そのものと神の力を得た者の差が出ているとしか思えない。

 こんなにも頑張っているのに、全てを捨てて世界を救おうとしているのに。

 私は何も出来ないの?

 私は魔王の娘、魔術の大半を極めているはずなのにどうしようも出来ないの?

 己の無力感に苛まれて、全身が悔しさで引き裂かれそうになっている最中。


「私には解らない。何故そこまでしてこんな世界を守ろうとするの? 全く理解出来ない」

 私はある異変に気づく。

 破滅の女神の真っ白な瞳から、灰色のドロドロとした液体が流れ出ている。あれは……、涙?


「ラプラタも気づいたようだね?」

「お爺様……。あれは一体? 女神に何がおきているのですか?」

 どうやらお爺様も気づいていたらしい。しかもその口ぶりだと、もしかして今起きている事を知っているのかしら?


「リリスが何故あれだけ強大な力を持ったのか、そして破滅の女神を取り込めたのか。簡単に言うと、彼女は一人ではないからだ」

 一人じゃない?

 それはどういう事なの?

 お爺様が言われた言葉が理解できず、何とか自分なりの答えを探そうと考えるが、全く見当もつかない。


「リリスが天使によってかけられた祝福(・・)、それはリリスが死ぬまで毎日百人の子供を生み、その全てが死んでいく。恐らくは、その死んだ子供達の魂も彼女は取り込んだのだろう」

 そんなむごい呪い(・・)を受けていたなんて。

 新たになる事実、同性ならば聞いただけでも吐き気がするようなえげつない行為、そしてリリスの根源ともなる出来事の恐らく片鱗であろう所を知り、目の前の世界を壊す様を見ていた私ですら、リリスに同情してしまう程だった。


「それでも、私は!」

「む、ラプラタ! どこへ行く!」

 正直、今自分に恐怖している。

 リリスの天使に対する憎悪、そして天使の庇護にあったであろう人間への怨念に、賛同しようとしていたからだ。

 私は何を考えているの?

 憎いからといって、他の関係のない人々や動物、悪魔達を巻き込んでいいわけが無い。


 自身のそんな考えを振り払うかのように、今必死に破滅の女神と化したリリスへ立ち向かうシュウちゃんの背後へと駆け寄ろうとする。


 もしかして、こうやって真実を敢えて伝え、気持ちを理解させた上で他の体を乗っ取ってきたの?

 という事は、リリスが体を乗っ取る事が出来るのは、そんな考えを心から理解できる”女性”のみ?


 今までぼんやりと雲がかっていた部分がゆっくりと晴れていくような、そんな気がした時、はっと気がつくと私はシュウちゃんの体の後ろで赤く禍々しく光る杖を出して構えている事に気づく。

 どうやら頭よりも、体の方が賢くて素直みたいね。

 今何をするべきかを、はっきりと示してくれているもの。


「我が杖に眠りし悪魔の魂達よ、今こそ我が契りの血より目覚め、その幽玄なる力を示せ! 超黒魔術、血魂の錫杖(マリッジスタッフ)全封(リミット)印解除(オールクリア)!」

 闇のエレメントを持つものが見つからなかった場合、最悪自身が柱にならなければいけない。その為にお母様奪還を決意した時からずっと、私が愛用しているこの杖に自身の力を送り蓄えていた。

 しかしそれだけでは足らないと見越し、各地に封じられた大悪魔の魂や、地方を占領した時の戦いで没した悪魔達の命も全てこの杖に吸収させてきた。

 私のとっておきの魔術、それはこの杖に宿る全ての魂と力を解き放つモノだった。


 杖はより赤く、まるで太陽のように激しく光りだす。

 そして解放した力を、女神となったシュウちゃんへと送る。


「ラプラタ様……? この力は?」

「可愛い子ばっかりに苦労させちゃ、保護者(・・・)の面目が立たないもの。私のありったけの力、使いなさい」

 正直、神と神の戦いに私なんて手が出せない事は知っている。

 今送った力だって、シュウちゃんやリリスに比べたら全然大した事無いのも解っている。

 だけどね、頑張っている子を見てると応援したくなるもの。

 勝って欲しいと心から願っているわ。あなた達”二人”の旅路の果てが無だなんて、そんなの納得がいかない。


「お父様? どうして?」

「ラプラタよ。お前の勝手な行動の責任、しっかりとって貰うぞ」

 私が頑張っているシュウちゃんを何とか助けようとしている時、よこから青白い腕がすっと伸びてくると、その手から大量のエーテルがシュウちゃんへと注がれていく。


「だから今は大いなる厄災を止める。我々の全力を以ってだ!」

 ええ、その通りね。

 私もお父様も生きなければいけない。

 折角お母様が戻ってきてくださった、お爺様だっている、ゲヘナの住民や、風精の国の女の子たち、地上で出会った多くの人々。

 そんな無数の命を、シュウちゃんだけに背負わせるわけにはいかない。

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