表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第五部「神葬編」
84/107

第七十七話 黒翼の封印者

「ラプラタ様! どういう事なのですか? 一体何が……?」

 シュウの挙動がおかしくなり、その後に謎めいた言葉を口ずさむとこの場所とは真逆の真っ黒な光に包まれてしまった。

 どうしてしまったの?

 何がおこっているの?


「柱は災を封じ、環は柱の封をより頑なにする」

 ラプラタ様の、今までに見たことが無い程冷徹な表情と言葉に遭遇した瞬間、私は今置かれた状況とこれから起こる事の予想が嫌でもついてしまう。

 それと同時に、シュウを包んでいた黒い光がゆっくりとおさまっていく。


「う、嘘だよね……?」

 光がおさまった場所にいた私の愛しい人。

 灰色の髪に青白い肌、真っ黒で艶やかな翼を背負い、スカートは燕尾状になっている黒いドレスを身に纏っている、普段の姿や今までの変身とは想像もつかない程に変わり果ててしまった。

 そんな姿を見た私は愕然とし、そして間も無く酷く絶望の淵へ立たされてしまう。


「ねえシュウ!」

 そうだよね、たとえ見た目が変わったって中身が変わるだけじゃないよね?

 今までだってそうだったもの。悪魔になっても、さらに大きな力を引き出せるようになっても何も変わらなかった。

 何の確証もない私の願いを篭めて大好きな人の名前を呼ぶが……。


「ごめんねエミリア。あたし、全部解っちゃったの」

 私のそんな儚い思いも、彼女の冷たい眼差しと言葉によってあっけなく壊されてしまう。


 今まで喜怒哀楽がはっきりとしていたシュウとはまるで違い、全てを悟ったような表情をしながら、七色の鮮やかな虹彩を持つ瞳でこちらを見て一言謝ると、破滅の女神が居る方へゆっくりと歩きだしていく。


「これよりプロジェクトリングピラー、最終段階へ移行する」

 魔王の一声により、豪華な装飾のローブを羽織った悪魔たちが破滅の女神を取り囲み、魔術の詠唱を始める。


「何をするつもりなの!」

「……愚問ね。あなたなら察しているはずよ」

 私は全てを知ってしまった。口ぶりから察するにシュウも物事の結末を理解しただろう。

 それでも嘘であって欲しかった。

 ラプラタ様が、私とシュウを騙していた事。

 そしてシュウが女神の封印の為の人柱(・・)だという事!

 全てはまやかしであって欲しかった。悪い夢で済ましたかった。


 それなのに!

 何故気づかなかったのか?

 どうして疑わなかったのか?

 何の対策もせず、無条件に信じてしまった自分に苛立つ!

 悔しいし、情けない。


「あなたはいつも私に嘘をつく。ルシフェルの時も、今回も!」

 やり場の無い憤りをラプラタ様へとぶつけるが、はっと我に返り大きく顔を横へ振る。

 ううん、違う。そうじゃない。今はそんな事をしている場合じゃないの。

 私の大切なシュウを取り返さないといけない。

 それで封印が解かれてしまってもそんなのはもう関係ない。世界なんてどうでもいい。私にとって必要な人が居ない世界なんて意味が無いのだから。


「お願い、目を覚まして! 私の側に居てよ!」

 私は力いっぱいシュウへと呼びかけた。

 しかしシュウは、まるで私の声が聞こえていないかのように、私の事を無視して破滅の女神の方へと歩んでいく。

 それでも諦めない、だってあなたが居なくなったら私は……。私は!


「私を一人にしないでよ! どうして私から離れるの?」

 駄目、まるで反応が無い。

 もしかして私の事、もう解らなくなっちゃったの?


 ……こうなったらせめてあなたが封印の一部になる前に無理矢理でも!


「おやめなさい。そんな事をしても無駄よ」

「放して! シュウ! シュウー!」

 私が天空術を発動させようとした瞬間、今まで背後に居たラプラタ様に腕を握られ止められてしまう。どんなに振りほどこうしても、その手が放れる事は無く、恐らく魔術のせいか天空術の発動も出来ずにいた。

 そしてどんなに私が呼びかけても、彼女は戻ってくる事が無かった。


 目の前でシュウは、足先からじわじわと切り刻まれた紙のような物体へと変わり、女神の封印の一部へ加わっていく。


「いやああああ! シュウ!」

 大切な人が、私の側から離れていく。居なくなっちゃう!

 嫌だよ、そんなの絶対に嫌!

 どうして、こんなにあなたの事を思っているのに。

 何故、離れなければいけないの……?


 こんなの、こんなのは嘘だよ。ありえないんだよ……。


 私の事を支えてくれた。

 一緒に笑ってくれた。

 苦しい時だって助け合った。

 人間じゃなくなった私を受け入れてくれて、そして愛してくれた。


 そんな私の大切な人は、もう居ない。


 全身の力が抜け、目の前が真っ暗になっていった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ