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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第五部「神葬編」
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番外編 姫召喚士(プリンセスサモナー)と豪腕使用人(パワフルメイド)

「な、なに!? うわあっ」

「これは!」

 あたしはなにやら黒い帯のような物でぐるぐる巻きにされてしまい、食べることは勿論、椅子から立ち上がる事すら出来なくなってしまった。

 スノーフィリア王女を除くエミリアも含む他の賓客の人達も同じ様な状態になってるし、これかったくて解けないし、一体何なのこれ!?


「さて晩餐会の参加者方々、大人しくしていただきたい。そして水神の国の王女様は、我々と一緒に来て貰いましょう」

 一部を除きほぼ全員が動けず、今起きているこの状況に動揺しているであろう時、部屋の入り口がゆっくりと開くと、目つきの悪そうな男とがたいのいい男の二人が現れる。


「どうして? 何故こんな事をするのですか?」

 一人無事なスノーフィリア王女は、困り顔で男二人組みに問いかけると、男達は彼女の問いかけを馬鹿にするかのように鼻で一つ笑った後答える。


「決まってるじゃないですか。お金ですよ。あなたを誘拐し、水神の国から莫大な金を要求する」

「馬鹿げている。その為にこんな事を?」

 あたしは二人が会話をしている時、何とか気持ちを落ち着かせてこの状況の打破を考える。

 うーんどうしよう。

 ここの警備を突破して全員拘束したって事は、あの二人は相当強いって事だし。

 ……それって相当まずいじゃん!

 なんとかしないと、あたしがしっかりしないと。


「うるせえ! 何の苦労も知らない青臭いガキに何が解るというのだ? この場所で抵抗出来る人間はいない。おとなしく来て貰おうか!」

 姫様の問いかけがいい加減鬱陶しく感じたのか、何か気に障る事があったのか、今まで丁寧だった口調がいきなり乱暴になる。

 ああああ、まずいまずいよ怒らせちゃってるよ。

 落ち着け、落ち着くんだ。考えろ、うーんうーん。


「私を捕まえるために、関係のない風精の国の人々も巻き込んだというの?」

「ああそうだ。普段城内にいる姫様が、外へ出る絶好の機会だからな」

 その答えを聞いた姫様はひどく悲しそうな表情をする。

 何だか自分が連れ去られるよりも、他の人達を巻き込んだ事が気に入らない様子だ。

 そんな事よりも姫様、自分の心配しないと!

 ああ、早く助けなきゃ。


 そうだ、エミリアならきっとこの状況を打開しようと考えているはずだよね!?

 そう思い、あたしは自身のパートナーの方を向くが。


 あ、あれ?

 あたしの考えとは裏腹にエミリアは、まるで抵抗せず無表情のままこの場の成り行きを見守っていた。

 なんで、どうして!


「私の事はいい。でも皆を巻き込んだあなたを許すわけにはいかない!」

「許す? 何を言っているんだ。そんな綺麗な手で何が出来る? おい、さっさと連れて行くぞ!」

 目つきの悪い男は、がたいのいい男に対し手で合図をすると、この場所から連れさそうと姫様へ近づいていく。

 何でエミリアはそんな余裕なの?

 うーん。どうにかしようって考えているようには見えない。

 やっぱりあたしが、何とかしなきゃ……。でもこれ解けない。

 ううっ、悪魔化すれば楽勝なのに。

 でも変身しちゃったら風精の国には居られないし。


「スノーフィリア・アクアクラウンが命ずる。異界に住まいし飢えた獣よ、我の下に姿を現し、その荒ぶる爪で過ちを犯した者を引き裂け! 白雪水晶(ホワイトクリスタル)()獣戦士(ウォーリアー)!」

 あたしがどうにかしようと考えもがいている時、姫様は高らかに宣言する。

 すると、姫様の体を中心に光で描かれた魔法陣が広がっていく。

 魔法陣がある程度の大きさになると、そこからまるで水晶を削って出来た上半身狼で下半身が人間のような怪物が現れる。


「なにっ、召喚術だと!?」

 な、なんだか凄いのを出してきたよ!

 なにあれ、異界がどうとか言ってたから、もしかして別の世界から呼び出したの?


制圧せよ(サプレッション)!」

 姫様がぴしっとがたいのいい男の方へ指を指すと、呼び出された水晶の獣は一つ大きく吼え猛り、男へと飛びかかる。

 男がうろたえていたらしく、獣の大きな手で体を押さえつけられてしまった。


「ルリ、今だよ!」

 召喚された水晶の獣が男を捕まえると同時に、今まで姫様の後ろで縛られていた白いメイド服と薄い桃色のストレートロングヘアーが印象的な女性が腕を大きく広げると、自身の体を縛っていた黒い帯を引きちぎる。


「奥義、満天星空ライジング・オーシャンスター!」

 凄まじい速度でメイドさんはがたいのいい男の懐へ入り、大きく息を吸い込んだ後に技の名前を叫ぶと鈍い音と同時に男は蹴り飛ばされ、壁を突き破り夜空へと消えてしまった。

 う、うそでしょお!

 なんてパワフルなメイドさんなの……。

 あんな大柄な男を一蹴しちゃったよ。何者なの。


「こ、こんなの聞いていないぞ」

 風精の国の兵士達の自由を奪い、普通のお姫様だったらとっくに連れ去られている程に、この男の計画は完璧だった。

 しかしスノーフィリア姫とそのメイドによって、何もかもが破綻してしまったのだ。

 確かにお姫様があんなに強いなんて普通は想像もしないよね。

 エミリアが、何も抵抗しないわけだよ。自分たちで解決できちゃうんだもの。


「もう一度聞くよ。どうしてこんな事を?」

 指をぱちんと鳴らすと、召喚した水晶の人狼は光の粒と共に消えてなくなる。

 姫様はその場で立ったまま、再びこの騒ぎの首謀者であろう男へさっきと同じ質問を投げかけた。


「俺はお前さんが治める国にある、北方第四居住区の人間だ」

 捕まるのは時間の問題と悟り、相方を失った男はしぶしぶ話し出すと同時に、城内がざわざわと騒がしくなる。

 他の来賓の人達の男を見る目が憐れみを感じる様になったのは気のせいじゃないかもしれない。


「北方第四地区って言うのは、水神の国の貧困街で最も治安と環境の悪い場所って言われているの」

 あたしが疑問に感じ、聞こうとしていた時、その事を見越してかエミリアがこっそりと先に教えてくれる。

 貧乏だから、お金欲しさにお姫様を誘拐しようとしたのかな?


「あんなどうしようもない場所だが思い入れはあるし、仲間もいる。だからあの場所を少しでも良くしたくて、無学だった俺は必死に努力し差別や偏見にも耐えて、ようやく水神の国で官吏として働く事が出来た」

 官吏ってめっちゃ賢い人じゃないとなれないじゃん!

 この人、実は凄い人なんだね。

 まあでもそうだよね、この場にいるほぼ全員拘束出来ちゃうくらいだし。

 でもどうしてこんな事をするんだろ。


「だがそこまでだった。上官となった貴族出身の男は、俺の出身を理由に散々な仕打ちを繰り返してきやがった。俺は耐え切れず少し反抗したらこのザマだ。今では職を失い、故郷へ帰らざるを得なくなったわけだ」

 そんな事があったなんて。

 ふとあたしは学生の時、貴族の子に間違ってスープをこぼしてそれ以降、いじめられ続けた事を思い出す。

 何だか少し気持ちがわかる気もするよ。悪い事している人に同情しちゃ駄目なんだけども……。


「だが手ぶらでは帰れねえ。そこでちょうど姫様が他国へ出かけるって話を聞いたからな。……気がすんだだろう? 拘束は解いてやる。正直あんたらここまで異常な強さだなんて予想もしていなかった」

 男が話し終えると同時に、あたしを縛っていた黒い帯は解けて跡形も無くなってしまう。それと同時に外で警備していた騎士や魔術師の人達が会場内へと入り、犯人を取り押さえてしまう。


「おやめなさい!」

 無抵抗のまま地面へと押さえつけられた騎士達は、姫様の一言でびくりと体を震わせた後、とっさに男から離れる。


「もう一度、私の下でその力を発揮して欲しいのです」

「おいおい、俺は国の王女を誘拐しようとした罪人だぞ? 正気か? それとも世間知らずなだけか?」

 男はまるでお姫様を馬鹿にしたように、嘲笑まじりに問いかけた。

 自分を誘拐しようとした人を雇うなんて、あたしにも解らないよ。ありえないもの。


「ええ、私は世間知らずです。だから、あなたのような別の視点から物事を見れる人が必要なのです」

 自分が無知である事も、まったく恥じていない様子なのか堂々と男に向かって言い放ち、姫様は倒れている男にそっと手を差し伸べる。


「取調べの後、官職を与えます。それまで拘束しておきなさい。くれぐれも乱暴な事はしないように」

 男はゆっくりと立ち上がり、警護をしていた騎士らにつれられていく。


 こうして王女誘拐事件は一件落着した。

 だけどこの騒ぎによって、晩餐会は中断となり、行き場を失った参加者達は自分らの部屋や家へと戻っていく。

 あたしもエミリアと別れて自室へと戻るのだけど、途中あたしのドレス姿が珍しいのか、すれ違った仲間の騎士達にこそこそと噂話をされてしまう。

 わ、わるかったね!

 どうせ似合ってませんよ、ふーんだ。


 自室へ到着したあたしは着ていたドレスを脱ぎ、下着姿のままベッドへ飛び込む。

 はぁー、いろいろあって疲れちゃったよ。

 普段着慣れない衣装をここまで長く着続けるのもしんどいねえ。

 そう思っている時に、自身のお腹からぐるぐると空腹を告げる音を発せられる。


 ……あたし、お昼から何も食べていない。


 事件は円満解決した。あのお姫様なら、騒ぎをおこした男の人を悪いようにしないだろうし。

 けどもあたしは納得いかないよ!

 むーむー。

 結局晩餐会は中止になって、ごちそうを食べ損ねてしまったじゃん。

 はぁ、おいしそうだったなあ……。

 名前も解らない料理だったけれど、とってもいいにおいだったし、張り切ってお昼抜いちゃったからおなかが空き過ぎて、ぐぅ。


「シュウちゃん」

「ラプラタ様!? どうしてここに?」

 自身の空腹と格闘している時、気がつかないうちにラプラタ様がいつもの笑顔であたしに呼びかける。

 いつの間に入ってきたんですか!

 お腹空き過ぎて解らなかったのかな。ふう。


「エミリアが呼んでいるわ。着替えて部屋まで来なさい」

「わ、解りました」

 何か用があるのかな?

 あたしは心当たりを頭の中で考えつつ、普段鎧の下に着ているワンピースに手早く着替えてラプラタ様へとついて行く。


 エミリアの部屋へ到着すると、机の上にはたくさんの家庭料理が並べられていた。

 あたしとラプラタ様に気がついたのか、奥からいつもの魔術師姿にエプロンをつけた格好のエミリアが現れ、おたまを片手にあたしに笑顔を見せる。


「お腹空いてると思って、簡単だけどご飯作ったよ。一緒に食べよう」

「うん! うん!」

 おいしそうなにおいが部屋中に広がっていて、も、もう駄目我慢出来ないっ!

 あたしは大きく二つ頷くと、椅子に座りいつも通りにエミリアの作った料理に手をつける。

 本当にあたしの事何でもお見通しなんだね!


「おいしいいい! すっごいおいしいよエミリア! うちのお母さんの料理よりおいしい!」

 なにこれ、すっごくおいしい!

 うちで食べた事ある料理だけど、何だか違う。

 優しい味付け、絶妙な食感と舌触り。

 今まで食べた事がある料理なのに、どうしてこんなに違うの!?

 うひょー、やばいかも!


「ふふ、ありがとう。まだいっぱいあるからね」

 エミリアの笑顔を、お昼抜いてよかったと心から思いながら見つつも、あたしは夢中で手作り料理を食べ続ける。


「うん、確かにエミリアの料理は美味しい。宮廷料理人として雇おうかな?」

「駄目ですよユキ様。彼女は最高ランク魔術師なのですから」

 あたしが二口目を食べようとすると、いつの間にか一緒にスノーフィリア姫とがたいのいい男を蹴り飛ばしたメイドさんが、エミリアの作った料理を堪能していた。


「ゆ、ユキちゃ……、スノーフィリア姫様! どうしてここにおらっしゃられるのですか!」

 いつの間にいたの!

 さっきまで居なかったのに。あたしが気がつかなかっただけかな?

 慌てて何だか言葉おかしいし。

 てかお姫様がここにいていいのかな……。


「ユキでいいんだよ? あと敬語もいらない。今は普通の村娘~♪」

「わたくしはそんな村娘の姉~♪」

 あたしの自分でも解るほどおかしい敬語か、それともお姫様という事がわかって態度を変えた事なのか、どちらにしてもスノーフィリア姫はとても不機嫌な表情をあたしに見せると、お付のメイドと一緒に歌いながら一般人を装っている事を告げる。


「初めましてシュウさん。わたくし、ユキ様の身のまわりのお世話をさせていただいております、ルリフィーネと申します。あなた様のご武勇は、遠く水神の国にも広まっております」

「ど、どうも……」

 そんな姫様とは逆に、姫様のメイドさんはあたしにでもとても丁寧に、物腰低く接する。

 二人の対応があまりに違ったせいか、褒められ慣れていない事もありあたしは動揺してしまう。


「みんなで食べようね」

 料理も全て並び終えるとエミリアは、つけていたエプロンを取り開いている椅子へ置くと、みんなと一緒に食べ始める。


「ねえ。エミリアはスノーフィ……おおっと、ユキちゃんの事知ってたの?」

「うん。きっかけは任務で知り合ったんだけどね。ユキはかあいいからすぐに仲良くなれたよ」

 ほおほお、元々知り合いだったのかあ。

 それだったら襲撃された時も、ユキちゃんの強さ知ってるから安心するわけだよねえ。

 しかも呼び捨てとか!

 い、意外と仲がよろしいのね……。むう。


「ふふ、妬いてるのかな?」

「そ、そんな事ないもん! エミリアのいじわるー」

 不埒な考えをして、さらにそれをエミリアに読まれてしまい、何だか恥ずかしいじゃん!

 だ、だってあたしの知らない人だし、やっぱり気になるよ?


「ユキ様、噂通り仲が良いご様子」

「うんうん、見ているこっちが恥ずかしくなっちゃうね」

 いやんもう!

 ユキちゃんまで茶化してるし!

 は、はずかしい……。ううう。


 こうして、赤面しながらも宮廷魔術師長、ランク一ペア、他国の王女様と言う晩餐会の延長のような、豪華な面々によるお食事会を楽しむ。

 晩餐会が中止になったのはちょっと残念だったけれども、あたしはやっぱり、形式ばった祭事よりもこっちの方が好きだね。うんうん。

 王女様とも仲良く慣れたし、よかったよかったー。

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