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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第五部「神葬編」
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第七十話 中央書庫の特級地域へ

「うーん。よく寝た!」

 窓からの日差しに起こされたあたしは、大きく体を伸ばし日光を全身に受ける。

 任務だからって早めに寝ていた事と、観光で歩き回って疲れてたせいかぐっすり眠れ、自分でもびっくりするほどあたまがすっきりだね。

 気分が良い。ウンウン。


 そしてあたしの隣には同じ様に心地よい寝息を立てているエミリアがいる。

 最初はベッド二つ用意するはずだったんだけれど、エミリアの希望によりダブルベッドに変更したのだ。

 何だか積極的だね。そんなにあたしを好きでいてくれてるって事なのかな?

 きゃー、嬉しい!

 疲れててえっちい事はしなかったけれども、大切な人と一緒に寝るのは素晴らしい事だなあと、彼女の顔を見ながら充実感に浸っている時。


「また寝顔見てた?」

 今まで寝ていたであろうエミリアは、急に目を開き意地悪そうな笑顔でこちらに問いかけてくる。


「ううん! そ、そんな事ないよ!」

「本当かな。あやしい……」

 ま、またほっぺのびのびされちゃう。

 見てたのは事実だけども、見てないふりをしなきゃ。


「準備して、朝ごはん食べたら行こう」

「うんー」

 エミリアは切り替えが早く、ベッドから出るといつもの魔術師姿に着替えて荷物を手早くまとめていく。

 あたしはそんなエミリアの行動についていけず、あたふたしながらも自分の荷物をくしゃくしゃにままカバンに押し込んだ。

 にこにこと、笑顔のままあたしの片付けが終わるのを確認したエミリアは、手を後ろで組みつつ朝食が用意されている場所へ向かう。



 朝食を食べ、中央書庫の一部王族しか入れない特級地域の入り口へと到着する。

 地位の高い人が来る事を想定されているのか、外からの日光を取り入れた照明によって、中は図書館とは思えないほど明るく開放感があり、外と同様に床にはチリ一つ落ちていない。

 一見、門番らしき兵士が二、三人しか居なく、意外と手薄な印象を受けたけれども。


「厳重な警備だね。さすがは王族専用って感じかもね」

 エミリアはあたしの受けた印象とはまるで正反対の感覚を受けたようだ。

 再び目を凝らしてあたしは特級地域の入り口を見つめるが、やっぱり手薄な印象しかない。


「えっと、まず下に模様があるよね?」

「うん」

 そういわれれば、床に何か模様が書かれている。

 何か特別な意味があるのかな?


「簡単に言うと、あらかじめ決められた人以外が通ると空間を捻じ曲げて、それ以上奥へは行かせないようにしてるの」

「す、すごいね」

「他にもいろいろあるけれども、今は奥へ入って調査が先だね」

 ここが凄い場所という事を再確認している時、エミリアが番兵へ一通の書類を渡す。番兵は受け取った書類に手をかざし僅かな時間魔術の詠唱をすると、書類は二つの指輪へと変化した。

 おお、何だか凄いことしてる!

 エミリアも確か帽子を杖に変えてたし、あれが出来たら便利だよねえ。


「ようこそ、中央書庫へ。風精の国騎士のシュウ様、魔術師のエミリア様ですね。お待ちしておりました」

 番兵は笑顔であたし達に話しかけると、書類から変わった指輪を渡してきた。

 あたしは指輪を受け取り、何か変わったものかなーと思いつつまじまじと見てみる。

 金ぴかで綺麗な指輪だね。でもそれ以外特別変わった様子はなさそうだねえ。


「では、こちらの指輪をつけてお通りください。尚、あなた方が行き来出来る区画はA区画のみとなりますのでご注意下さい」

 番兵のいう事に従い、あたしとエミリアは指輪を自身の指にはめた後、今まで固く閉ざされていた扉のノブに手をかける。

 扉はぎぎっときしむ音を立てながら、ゆっくりと開いていく。

 お姫様の手がかりが見つかるといいなと思いつつ、普段は絶対に入ることが出来ない領域へ恐る恐る足を踏み入れる。


 特級地域の奥も入り口と同様に明るい雰囲気がしたが、普段入場を制限しているだけあってかあたしとエミリア、二人分の足音しか聞こえない。

 ここまで静かだと、ちょっと不安になるかもと思いつつ、奥へ奥へと進んでいく。


「多分だけども、A地区ってのは特級地域でもまだ機密度が低くくて、許可さえ貰えれば誰でも行き来出来る場所だと思うの」

 そんな中、突然エミリアが真剣な表情のままあたしに話しかけてくる。

 い、いきなり話しかけないでよう。びくってなっちゃった。

 うーん、普段は王族しか入れない場所みたいだから、そう言われればそうなのかもねえ。


「一番入りやすい場所って事なのかな?」

「そうだね」

「じゃあ、王様の娘であるお姫様はもっと別の、許可を貰っても入れないような地区にいるって事?」

「うん」

 それって意味がないような?

 手がかりを得るにも、お姫様が居た場所へ行かなきゃ駄目なのに。

 許可貰っても王族以外だとここまでが限界なのかも?


「ねえシュウ。どうしてこの任務が超級任務に分類されていると思う?」

「うーん。中央書庫の王族専用地域へ入る為?」

「それなら、私達じゃなくてもいいんだよね。簡単なお使いだし、危険もないからね」

 まあ、確かに……。

 あっ、お使いなら得意だよ!

 ずっとやってきたからね。えっへん。

 って威張ってる場合じゃないや。他に理由って何があるんだろう?


「燦爛なる創造主の栄光」

 あたしがどうしてか考えている時、エミリアが本来の神々しい姿へと変化する。

 どうして変身するんだろう?


「私達の任務の真意、それは中央書庫の強固な警備を破り、なおかつ証拠を残さずに姫様の足跡を辿る事。生半可な力ではここを攻略することはできないから、天使と悪魔の力を持っている私達じゃないと駄目なの。さあ、シュウも変身して」

 ええええ!?

 そんな物騒な事しちゃうの?

 し、失敗したらどうなっちゃうんだろう。たぶんあたし達だけの問題じゃ済まなくなっちゃうよね?

 ひー、責任重大じゃん!

 これが超級任務……、恐るべし。

 ああいけない、考え事しないでさっさと姿を変えないと。


「黒檀なる悪夢の解禁」

 のんびりまったりお使い任務と思いきや、実は難易度も失敗した時のリスクも高い任務と知ったあたしは、多少戸惑いながらも悪魔の姿へ変身する。


「最近、こっちの姿の方がしっくり来る気がするよ」

 こっちの姿の方がなんていうんだろう?

 頭が冴えるし、体が軽いんだよね。

 胸大きくなっているのに動きやすい気がするし、これも悪魔の力なのかもしれない。


「私はどっちも変わらないかも?」

 あたしの言葉に対し、エミリアは自身の綺麗な銀髪をいじりながら何やら考える。


「いこっか、なるべく急ごう」

「うん!」

 変身が終わるとあたしとエミリアは、A地区から別地区へ通じるであろう通路に向かい走る。

 途中、許可された人以外侵入を拒む目的で床に刻まれた魔法陣は、飛んで回避したり、エミリアの力によって無力化したりして難なく攻略する事が出来た。


「エミリア、奥へ行くってこの道であってるの?」

 何の迷いも無く平然と中央書庫内を走っているけれど、何かあてがあるのかな。


「正直解らないよ? 初めて来たからね。でも魔法陣が描かれているって事は、それ以上許可無く入らせないようにしているって意味だからね」

「敢えて魔法陣がある場所に行けば、奥へ進めるって事?」

「うんうん」

 よく考えているような、アバウトなような?

 慎重で大胆なような?

 まあエミリアのいう事って基本正しいし、大丈夫かも。

 いざとなったらあたしがいるからね。ふふんー。


 そう思いながら、あたしは走り続ける。エミリアは道中にある中央書庫の守りを強引に突破し、ある程度奥へ行ったと思っていた時、その場で急に止まり、あたしの方を向き話しかける。


「ねえシュウ」

「うん?」

「確か、デウスマギア様の所で時のルーンを手に入れたよね?」

「うんうん」

 少し前、あたしはさらなる力を引き出す為に自分自身と見つめあった。

 もう一人の自分に負けそうになったけれども、エミリアの力もあって何とか乗り越え、その時にデウスマギア様に時のルーンを貰ったんだっけ。


「時間を止める事って出来るかな、このまま行ったらあの結界にひっかかるの」

 エミリアの向いている方向、今まで通った場所よりも若干薄暗く細い通路の床には、淡く輝く模様が敷き詰められている。

 さっき言ってた、空間を歪めて先へ進めなくするやつなのかな?

 何とかしなきゃいけないみたいだし、あたしが頑張らなきゃね!


「やってみるよー。時と停滞のルーンを組み合わせ、上級刻印術、タイムフリーズ発動!」

 あたしとエミリア以外は動かない世界を頭の中でイメージすると、刻印術の組み合わせと名前が浮かんでいく。

 したい事を思えば勝手に刻印術の組み合わせと術名が思い浮かぶ事に自分でもずっと不思議と感じている。便利だからいいんだけどね。

 術の詠唱が終わると同時に、周りの景色がまるで一枚の絵のように動かなくなってしまった。

 どうやら成功したらしいんだけれども、な、なにこれ。

 ぐぐう、苦しい……。

 そういえば、大量のエーテルを使うとか言ってたっけかな。でも、ここまで……、し、しんどいなんて。


「シュウ凄いね、本当に止まってる」

 え、エミリア……。

 感動してくれてたり、褒めてくれたりしてくれるのはう、嬉しいけれども。

 な、なかなかきついかも。

 例えると水の中で物凄い難しいパズルを組み立てているような、苦しいけれど集中しないと維持出来ない。うぐぐ。


「ああ、ごめんね感動している場合じゃないね。じゃあさっさと済ませるからそのままお願いね」

「う、うん……」

 エミリアはあたしが苦しい事に気がつくと、いそいそと通路の床に描かれた魔法陣に手をかざしてなにやら詠唱をしている。

 ううう、めまいがするよう。

 き、気分も悪くなってきたし。


「も、もももう限界っ」

 目の前の止まった風景がぐらぐらと揺れ始め、酷い吐き気と悪寒に襲われた時、今まで集中していた精神を解き放ち、刻印術の発動を解除する。

 術を解いた瞬間、景色が再び動き出す。


「ぎりぎりだった。ありがとうシュウ」

「はぁっ、はぁっ……。もっと練習しなきゃ駄目だね。これはきつい」

 その場で座り込み、悪魔化を解除して普段の人間の姿へと戻り、力の回復に努める。

 こんなにしんどいなんて思ってなかったよ……。

 でも本当に時間止まってたなあ。良く考えると凄い事だよねこれ!

 あれ、そういえばどうして人間の姿の方になったんだろ。

 本来の姿が悪魔になっちゃったはずなのに、力を使わないからかな。


 あたしの呼吸が整うと、エミリアは淡く輝く模様の上を平然と歩いていく。本来ならそれ以上先へ進めないはずが、先にある扉まで何事も無くたどり着くことに成功した。

 それを見て、恐る恐るあたしも足を踏み入れていき、同じ様に何もおきず扉の前に到着する。


「術式の一部を変えて無力化したの。破壊する事も出来たんだけれど、あまり大事にはしたくないからね」

 いつもの笑顔を見せたエミリアは扉の取っ手に手をかけ、ゆっくりと開けていく。

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