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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第五部「神葬編」
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第六十九話 寛厚なエミリアは観光を敢行!

 あたしとエミリアは、中央精霊区にある観光地域へと足を踏み入れる。

 港同様に綺麗な街並み、今まで歩いてきた道もそうだけど地面には一切ゴミが落ちていない。

 ここまで徹底しているとあたしなんかが歩いていいのか解らなくなっちゃう。


「ここのお店に入ろう」

「うんー、でも何やさんだろ」

 真っ白な壁には金で出来たデフォルメ文字が掲げられたお店を見つける。

 何が売っているのかな。エミリアは知っているのかな。

 あたしの質問にエミリアは何も言わず笑顔で答えると、何の躊躇いも無く店内へ入っていく。


「うわあ、何ここ……」

 店内は外装と同様に白く、床はぴかぴかに磨かれている。

 何だかあたしのお給料ではとても買える気がしない、高級感漂うドレスが展示されており、魔術によるものなのか、心地よい音楽が流れている。

 

 余りにも場違いな場所にいると自覚している時、身なりのよい男の人がこちらへ爽やかな笑顔のまま近寄ってきた。

「いらっしゃいませ。今日は何をお求めでしょうか?」

 入ったすぐに正装姿の店員さんがエミリアに話しかけてくる。

 うーん、本当にこんなお店入っちゃっていいのかな。お店に飾られている服も高そうだし。


「この子に合うパーティ用の服をお願いします」

「かしこまりました。ではこちらへ」

 えええっ、どういう事なの。

 というか、絶対にここっていいお値段だよね、無理無理貯金とかしてないし買えるわけがない。

 しかもパーティって何、あたしそんなの生まれて一度も行った事ないよ?


「どういう事なのエミリア……?」

「金騎士になるって事は、国の祭事にも参加しないといけないからね。シュウの部屋を見た感じだと正装持って無さそうだったから、いい機会だし買いに行こうと思ったの」

 金騎士のさらにランク一って事は、貴族の人達とも付き合っていかないと駄目だし、王族の人らとも直接関わる機会が多くなるって事なんだね。

 今までみたいに任務だけやっていればよい、なんてわけにはいかないみたい。

 だ、大丈夫かなあたし。テーブルマナーとか、ダンスとか全然解らないよ。ううう。


 これから遠くない未来で恐らくおこる出来事に、不安と焦りを感じながらもあたしは、エミリアと店員さんの後ろをついて行く。



「とてもお似合いですよ。お嬢様」

「おおお……」

 店の奥へと通され、何が何だかわからないまま一着の衣装を渡された後にこの状況を理解する暇も無く着替えさせられた結果、ふわふわでフリフリがいっぱいついた、スカートが円形に大きく広がっている綺麗なドレスを身に纏った自分自身の姿が鏡にうつっている。

 悪魔に戻った時は確かにドレス姿だけども、人間の時にこんな格好したの初めてかも。

 うーん、何だか別人みたいだ。

 というか、本当に服選びするんだね。


「シュウすっごくかあいいね、やっぱりフリフリ似合うね」

 何だかすっごい喜ばれている気がする。

 ほ、本当に似合ってるのかなあ?


「こっちも着てみて、いろいろ試着しないと解らないからね」

「う、うん」

 あたしはエミリアと店員さんの着せ替え人形となってしまい、様々な衣装を着せられてしまう。

 これでいいのかなとも思ったけれども、次々目新しい服に袖を通すあたしを見てエミリアはすごい楽しんでいる。いい事にしておこう……。

 でもこんなに試着しちゃっていいのかな、あたし買えないのに。

 ううう、きっとお金無いって解ったら怒られるよ。いつぞやの入学の時みたいにお説教かな?


 そう思いながら、次々と新しい服を持ってきては着替える事を十回以上繰り返した後。


「これが一番似合うね。シュウはどうかな?」

「ちょ、ちょっと可愛いすぎるかも?」

 いろいろと実際に着せられた結果、フリルとリボンを惜しみなくあしらった、二段になったパフスリーブとふわりと大きく広がったロングスカートが印象的な可愛らしいドレスに決まった。

 普段は絶対に着ないような衣装に戸惑うあたしを無視し、店員さんとエミリアが妙に満足そう。

 エミリアが喜んでくれたならいいかな……と思うことにしよう。

 そんな事よりも!


「あ、あのエミリア」

「うん? 何かな?」

「あたし、お金ないよ?」

 そうだよ、お金がないんだよ。

 きっとこういうお店ってすんごく高くって、払えないようわーんってなるオチじゃん。

 お給料の前借なんて出来ないし。これだけ煽って試着してたから物凄い怒られるよ。


「え? ああ、心配ないよ。ランクアップのお祝いでラプラタ様からお金預かってるからね」

 エミリアは笑顔のままお金がある事をあたしに告げると、店員さんがどこからともなく持ってきた伝票に軽くサインをする。


「このドレスは先程の場所へ送ってください」

「かしこまりましたお嬢様。お買い上げありがとうございます」

 見た目魔術師と騎士だから、貴族の令嬢って勘違いは無さそうだけども、よくあたし達がお金持ってるって見抜いたようなあ。

 さすがはプロって奴だね。ウンウン。

 妙にエミリアと親しく話しているから、実はここのお店を過去に利用したとかありえるかも。

 そういえば、あのドレスっていくらだったんだろ。


 あたしはふと、今買ったドレスを脱ぎつつ店員さんが持っている伝票をこっそり覗いてみる。

 むむ、なんだかゼロがいっぱいあるぞ?

 いち、じゅう、ひゃく、せん……。

 へ?


「ろ、ろくじゅうまんゴールド!? うそでしょおお!」

 脱ぎかけのドレスを持つ手が急に震えだす。

 確かに良いものなんだなーって漠然とは感じていたけれど、六十万って!

 高いってレベルじゃないよ!

 服にそんなにお金かけられないいいい!

 というか、エミリアいくら持ってるの。


「大丈夫だよ? ラプラタ様から多めに貰ってるもの。シュウのドレス代と、今日の宿を少し豪勢にするくらいはあるよ」

「そ、そんな。悪いよ!」

「ううん、これからの為だから。ちゃんと必要な物だし、一度しっかりしたもの買って長く使えば大丈夫だよ?」

 確かにそうなんだけども、六十万ゴールドだよ?

 大金なんだよ?

 あ、もしかしてゴールドクラスになるとそれくらい貰える……なわけないよね。

 うーん。


「た、大切にします。ありがとう」

「ふふ、帰ったらラプラタ様にお礼言わなきゃね」

 大事に着よう。絶対に汚さないようにしないと。

 そう心に誓い、終始笑顔だった店員さんを背にあたしたちはお店を出た。


「ねえエミリア」

「うん? 何かな?」

 高級な服屋さんから出たあたしは、歩きながらずっと気になっている事を聞いてみる。


「お姫様のところへすぐに行かなくていいの? また居なくなっちゃうかも?」

 こんな事している場合じゃないと思うんだよね。

 そりゃあ、あたしの事を考えてくれるのは嬉しいんだけども、肝心の任務の方は大丈夫なのかな。

 妙にのんびりしてるけれども、早く行かないとすれ違っちゃうような?


「うーん、多分急いでも間に合わないし、転移魔術が使えるから連れ帰るのは難しいだろうね」

 そっか、そうだよね。

 鉱山の時も一瞬でここまで来ちゃうほどだから、出会ってもすぐに逃げちゃうねえ。

 じゃあどうやって国へ帰らせるんだろ?


「でも次にどこへ行ったかは私でも解るし、そこで何をしてたか知る事が出来れば、何故シルフィリア姫が家出をしたのか解るかもしれないと思ってね」

 家出の理由って本当になんだろう?

 お姫様って綺麗なお洋服着れて、みんなからも注目されてるし、おいしいものもたっくさん食べられて羨ましいなーとは思うけども。


「あと、お姫様の言っていた事も気になっててね」

「確か、あなた達には解らないとか言ってたねえ」

 あたしやエミリアやラプラタ様では解らない悩み事。

 やっぱり王族ならではの理由なのかな。

 うーん、考えても解んないや……。


「何だか思いつめてたみたいだし、魔界へ行ったって情報もあるし、具体的には解らないけれども大変な事を考えてそうだなって思ったの」

 エミリアは一通り自分の考えをあたしに言うと、今までの笑顔だった表情が曇り、遠い空を見つめる。

 魔界へ行って、鉱山へ行って、そして図書館へ。

 何をしようとしているんだろうねえ。


「さあ、今はシュウと楽しくデートだよ。次はあっちのお店へ行ってみよう」

「う、うん」

 気持ちを切り替えたエミリアは、再びいつもの穏やかな笑顔に戻ると考えていたあたしの手を引く。

 あっちのお店って、また高級なところかな?

 も、もうお金ないんじゃないかな!

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