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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第五部「神葬編」
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第六十八話 世界の中心、中央精霊区

 一度風精の国へ戻り、特級地域への立ち入り許可を貰ったあたしとエミリアは、中央精霊区セントラル・エレメンツへと向かう船へと乗り込む。

 乗り込んで間も無く、船はゆっくりと港から離れてあたし達の目的地へと運ぶ。

 エミリアは船に乗るとすぐに自身がかぶっていた帽子を抱えて眠りについてしまう。そういえば乗り物に乗っている時は寝ている事が多いし、実は酔いやすいのかな?


「今回、私は同行する事が出来ないから二人だけで行ってきてね」

 火竜の国の鉱山へ行く時、一緒に来てくれたラプラタ様は今回来れないようだ。

 やっぱり宮廷魔術師長だから、自分の仕事とかもあっていろいろ忙しいんだろうなあと思いつつ、規則的に波立つ海面をぼうっと見つめている。


 今から行く中央精霊区は世界の中心と呼ばれているだけあって、風精の国、火竜の国、地霊の国、水神の国の四大大国のほぼ真ん中にあるらしい。

 周囲の海域が入り組んでいるせいか、丸一日かかるみたい。

 どんなところだろう、世界有数のリゾート地でもあるらしいから綺麗な場所なんだろうね。


 リゾート地と言えば、地霊の国でも何だか来た瞬間おもてなしを受けたような。

 下着みたいな格好になって海泳いだっけかな、あたしはエミリアにつかまってただけだったけども。

 あの薄着のエミリアも素敵だったなあ。


 あたしはふと、隣で寝ているエミリアの顔を見る。

 規則正しい寝息を立てている。熟睡しているのか、前みたいにあたしが見ている事を気づく様子も無い。

 とっても無防備だね。今ならなにやっても……。

 って何考えてるのバカ!

 はあああ、どうしちゃったんだろあたし。

 絶対最近おかしいよ。

 こんなにえっちくなかったもん。たぶん。

 ちょっと頭冷やしてこよう。


 変な気持ちになりそうだったあたしは、退屈な時間とこの悶々とした気持ちを潰すべく客室から出て甲板へと向かった。



「んー。風が気持ちいいなあ」

 甲板に出ると、心地よい潮風があたしを出迎えてくれる。

 あたしは体を伸ばし、思い切り深呼吸をして新鮮な空気を体内へと取り込んだ。

 今日は船酔いしないし何だか気分がいいね。うふふ。


 どんな人が中央精霊区へ向かっているのかなーと、あたしは景色を見ながら他の船客の顔を横目で見る。

 らぶらぶしているカップルさん、新婚旅行なのかな。とても仲良さそうだね。

 半裸で目を閉じたままじっとその場で立っているおじさん。格好から火竜の国の人かな。修行の旅真っ最中って感じかも。


 おや、あの人は……。

 あたしの目がその人の方向でふと止まる。

 全体的に青い鎧を身に纏った、すらっとして凄く美形で爽やかそうだしかっこいいんだけれども、何だか表情に影があるというかなんと言うか。腰に剣を下げているからどこかの国の兵士さんかな?

 うわ、しまった。目があってしまった!

 ひええ、しかもこっちに来るよう。


「失礼、君は風精の国の騎士かな?」

「え、あ、はいい」

 ずっと見てたから、怒られるのかなと思いきやいきなり身元を尋ねられてしまう。

 予想外の質問にあたしは、どきまぎしながら答える。


「女騎士か……」

 男の人は、あたしが騎士である事を知ると顔の影がさらに濃くなっていく。

 確かにあたしってそういう風には見えないけども、そんなに残念がらなくてもいいじゃん。ううっ。


「すまない、昔を思い出してしまった。気分を悪くさせたみたいだ。すまない」

 あたしのしょんぼりした姿に察したのか、男の人は申し訳無さそうに頭を下げる。

 あまりにかしこまった態度に、こっちが悪くなってしまうよ。


「じゃあ、旅の無事を祈ってるよ」

 そう言うと男の人は手を二度ほど軽く振り、あたしの前から去っていく。

 うーん、あの人は一体なんだったんだろう?

 結局暗い表情のままだったし、良く解らないや。

 うう、風に当たりすぎてちょっと冷えたかも、客室に戻ろ……。



 客室に戻るとここを出る時は寝ていたエミリアは起きており、ぼうっと窓から景色を眺めている。エミリアは帰ってきたあたしの存在に気がつき、いつもの笑顔を見せてくれた。


「あ、エミリアおはよう。ちょっと甲板に行ってたんだ」

「おはよう。一人で寝ちゃって退屈だったよね。ごめんね」

 優しい表情のまま、穏やかな声であたしに謝ってくるエミリアが、とても可愛くて逆にこっちが申し訳なくなってしまい。


「ううん! そんな事ないよ!」

 我ながら多少大振りな動作でエミリアに返答をした。

「あんまり乗り物は得意じゃないから、いつもこうやって寝ているの」

 やっぱり酔いやすいんだなあ。

 あたしもそんなに得意な方では無いけれど、それ以上なのかもしれない。

「天使も酔う事ってあるんだね。ふふ」

 そう言われれば、あたしも悪魔になったけれども船酔いが改善されたわけじゃないし、人間のままって部分がたくさんあるんだろうなあ。折角だからなおしてくれればよかったのに。



 こうしてエミリアは酔いと、あたしは暇と戦いながら、1日目の船上生活が終わろうとする。

 簡素な食事を済ませ、ベッドの上でごろごろと暇を持て余す。


「ねえ、エミリア」

「うん? 何かな」

「初めて二人で火竜の国へ行く時は乗り物酔い大丈夫だったの? 後、天使になってから背中痛いのは相からずなのかな?」

 あたしは少し気になっていた事を直接聞いてみる事にする。

 なんとなくだけども、実はどっちも天使化が影響しているのかもしれないと思ったのだけども。


「実は頑張って我慢してたの。シュウの前で情けない姿見せられないからと思ったからね」

 やっぱり強いなあ。

 というか、それが当たり前なんだよねきっと。

 誰の前でお構い無しにべそかいちゃうあたしが情けないって事を、改めて確認させられてしまい、少し恥ずかしくなってしまう。


「背中痛いのは、そう言われれば天使として目覚めてからは無いね。無理に封じていた力の影響だったのかも? 心配してくれてありがとう」

 あたしの予想通りだった。

 やっぱりあれって天使の力が原因だったんだなあ。

 まあでも毎晩痛いの無くなったみたいだし、よかったよかった。


「うーん、やっぱり気持ち悪いから無理に魔術で眠る事にするよー。いつもはこんなに酷くないんだけどね。お話してくれてるのにごめんね」

「こっちこそ何だかごめんよう。 しっかり休んで任務がんばろー」

「ふふ、頑張ろうね。じゃあおやすみ」

 窓から差し込む月明かりに照らされているせいなのか、本気で具合が悪いのか、青白い顔であたしに笑顔を見せた後、エミリアはまるで死んだように眠りについてしまう。


「……退屈だし、船内探検でもしよう」

 結局一人取り残されたあたしは、暇つぶしの為に狭い客船の中を散策する事にした。



 翌朝。

「おはよう。眠れたかな?」

 あたしは目をこすりながらベッドから起き上がり、声がする方を見ると、エミリアは自身の綺麗な黒髪を櫛でときながら微笑みかけていた。


 うーん、まだ眠いかも。

 結局、夜遅くまで寝付けなかったからなあ……。

 もうちょっとだけ寝ても大丈夫だよね。おやすみなさい、ぐー。


「二度寝しちゃだめだよ。もうすぐ到着だからね」

「う、うん」

 再び深い眠りへとつこうしたあたしを、多少困り顔をしながら声をかける。

 いけないいけない、おきなきゃ。


「髪といであげるから、こっちにおいで」

 聞き手で櫛を持ったまま、もう片方の開いている手招きする。どうやら自分の髪のお手入れは終わったらしく、さらさらつやつや素敵ロングヘアーには窓の光が反射して天使の輪が出来ていた。

 寝ぼけながら、歩く途中にある家具に足の指をぶつけつつエミリアの方へと向かう。



「ねえエミリア」

「うん?」

 何だかこうやってエミリアに手入れして貰ってると幸せな気分になるね。

 そういえば、具合悪いの大丈夫なのかな。顔色は良さそうだけども。


「船酔いはどうー?」

「今日は割りと調子いいかも。魔術に頼り続けていると耐性が出来ちゃうから、あんまり使わないようにはしているんだけどね」

 元気みたいだ、よかった!

 うーん、いろいろと考えているんだねえ。流石はエミリアだね、あたしの自慢のパートナーだね、ウンウン。


 何だかしっかりしている自身のパートナーが誇らしくなって、自己満足しているとエミリアがあたしの両肩にぽんと手を置く。


「髪型出来たよ。ほら、シュウもさらさらだよ」

 あたしは出来上がった髪型を崩さないようにそっと指で触れる。

 おおおおおっ!

 凄いさらさらだ、まるでお人形さんみたい!

 あんだけぼっさぼさだったのに、自分でやるよりも綺麗ー。うひょー。


「髪伸びてたから、前よりも結びやすくなってたね。他の髪型も出来るかも?」

「ううんー、これでいい。エミリアのくれたリボンつけれるし、折角教えてくれた髪型だからね」

「ふふ、喜んでくれて嬉しいよ」

 騎士団に入ってお洒落を諦めたあたしに教えてくれたハーフアップ。

 そして親愛なる騎士様へって刺繍がされたリボン。確かに他の髪型だって出来なくはないけれども、自分にとってはこの組み合わせが特別なのだ。

 エミリアってこのリボンの刺繍の事言ってないから、こっそり入れたのかも。


「到着したね、船から降りよう」

「うん!」

 大事にされているんだねあたし、何だか嬉しいね。

 荷物をまとめ、あたしとエミリアは下船する。



「うわあ、何ここ凄い……」

「私も初めてだけど、とても綺麗な場所ね」

 船から降りてあたしを待っていたのは、まるで自らが輝いているような白磁の建物の郡れだった。

 一部の例外も無い同色の建造物は等間隔に立てられ、石畳で綺麗に舗装された道はチリ一つ落ちていない。

 高貴とか高級とか、清楚とか気品とかエレガントとか!

 そんなお淑やかな言葉がとっても似合う街だ。


「さてと。特級地域への立ち入りは明日しか出来ないから、今日はのんびり観光でもする?」

「うんうん」

 わーい。こんな素敵な場所でエミリアとデートなんて!

 うふふ、楽しいね。何だかわくわくしちゃうね。

 あたしはエミリアの手をぎゅっと握ると、中央精霊区の観光地域へと向かう。

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