第六十五話 明けの明星(ヘンタイ)、再び
「あー! あんたは!」
「やあ、元気だったかい? お嬢ちゃん達」
扉を開けて出てきた人物。
それは過去にエミリアを連れ去り、あたしが悪魔へと生まれ変わるきっかけとなったヘンタイ天使だった!
相変わらず血色悪いし、へらへらとした笑顔から考えを読むことが出来ず。
そんな彼の態度に対するイライラと、またエミリアを狙ってきたと思い。
「君たちに素敵な情報をプレゼン……げふうっ」
「懲りもせずにエミリアを狙っても無駄だよ! もうあんたなんか敵じゃないんだから! ここでぼっこぼこにしてやる!」
ヘンタイ天使がなんやら話していたけれども、無視して振りかぶった己の拳を勢いよく相手の頬へと叩きつけた。
「今回は何かを教えてくれる目的で来てくれたから、そのくらいにね。シュウちゃん」
「へ、あ、そうだった。おうう……」
いきなりの行動に驚いたのか、ラプラタ様は半分笑顔半分困り顔のまま、あたしをなだめようとしてくる。
そ、そうだった。情報提供者だっけか。
思わずかっとなって殴っちゃったや。あはは……。
「いててて、相変わらずだね君は」
ヘンタイ天使はあたしに殴り倒されても笑顔を崩す事無く、頬を手で撫でながら重たそうに立ち上がる。
「何故魔界にいるあなたが、姫様の情報を持っているの?」
そんなお馬鹿なやりとりをいつもの笑顔で見ていたエミリアは、急に真剣な面持ちになるとヘンタイ天使へと問いかける。
「うーむ、相変わらず聡明だね。そこの手が早い魔族の娘とは大違いだ」
「むー!」
何だかすんごい馬鹿にされているよ!
またごーんってしちゃおうかな。むう。
「手短に言うと、私の城にここのお姫様が何度か来ていた」
「何度も!?」
行方不明の姫様が何故ヘンタイ天使がいるお城に何度も言ったんだろう。
一度だけならなんかの拍子で迷い込んだり……なわけないよね。
うーん、全然予想がつかないや。
「でも何をしているか全く理解出来ないのだよ」
「どういう事なの?」
何それ。じゃあただ何の理由もなく行ったって事なの?
どういう事だろ……。
「実は私も全ての記憶が戻ったわけではないのでね。多分、抜けている記憶と繋がっている場所なのだとは思うのだが」
今まで薄笑いだったヘンタイ天使の表情がゆっくりと曇っていく。
あいつがこんな顔をするなんて。
な、なんだかこっちまで不安になるじゃない!
「私の城内に、美しい灰紫色の水晶が置いてあるだけの部屋があるのだよ。その部屋が何の為にあるのかは解らないけれど、彼女はそこへ来ていた」
「それ以外の事は何かしたの?」
あたしがいろいろと考え込んでいる中も、エミリアは次々とヘンタイ天使へ質問を続けていく。
エミリアには何か思い当たる節があるのかな?
ヘンタイ天使のお城の中って事は、天使にしか解らない事なのかな?
ううーん、駄目だ。あたしにはさっぱりだ……。
「いいや、それ以外は何もしていないね。最初はラプラタの差し金かとも思ったけれど、様子が少しおかしかったから、こうやって言いにきたのさ」
その水晶がある部屋に何度も来て、他には何もせずに去っていく。
お姫様は相変わらず捜索中みたいだし。
あれ、ヘンタイ天使のお城って魔界にあったよね?
お姫様が行っても大丈夫なのかな。聞いてみよう。
「魔界って普通の人間が行ったら死んじゃうんだよね?」
「それも気になるけれど、その事よりも王女殿下が魔界へ自由に行き来出来るって事が気になってね」
確かにそうだよ!
何で悪魔のラプラタ様やヘンタイ天使やデウスマギア様のような魔術を極めた人にしか開く事の出来ない魔界への道を開けられるの!
お姫様って何者……?
「実は姫様って魔術の天才とか……?」
「それは十分にあり得るかもしれない。シュウちゃん冴えているわね」
やった、褒められてしまった。えへへ。
デウスマギア様も魔界で研究した事があるって言ってたし、人間でも行こうと思えばいけるんだね。
ずっと気にしていなかったけれど、案外魔界って近い存在なのかも?
「実は私の秘密の実験室は、誰にも入られないように結界を張ってるんだけれど、王女殿下はそれを容易に破ってしまったの」
あたしは、ふと昔にラプラタ様が何気なく言ったであろう言葉を思い出す。
ここへ来たのは、あなた達で三人目って。
あたしとエミリアの前に二人、たぶん一人は地上での協力者であるデウスマギア様で、もう一人はお姫様だったんだね。
「シルフィリア姫は魔術の中でも、特に封印を解除する力に長けていると見ていいわ」
確かに、ラプラタ様の魔術を破れるなんて相当な知識と才能が無いと駄目かもだねえ。
「じゃあ、私はこれにて戻らせて貰うよ。日の光は余り得意ではないのでね。また新しい情報が手に入ったら来るよ」
ヘンタイ天使は、自分が伝えたかったであろう事を伝え終えると、再びへらへらとしながらまるで霧のように消えてその場から居なくなってしまった。
「さてと、彼の話も気になるけれど……」
執務室の中がいつもの三人に戻った事を確認したラプラタ様が話を再開する。
「王女殿下は今、火竜の国にある魔法鉄が採掘される鉱山内で見たと言う情報があるの。まずはそこへ向かって欲しい」
火竜の国かあ。何だか前に行ったのが大分昔に感じるよ。
エミリアとまた二人っきりだね!
任務って不安だったり憂鬱だったりしてたけども、エミリアと一緒なら楽しい気がしてくるよ。
道中でイチャイチャ出来るかなあ。うふふふふ……。
「ああ、今回は私も行くわよ。デートの邪魔だったかしら? ふふ」
あたしは自身の不埒な考えを読まれてしまった事とエミリアとデート出来ない事の、二重の意味でショックを受けてしまう。
べ、別に邪魔じゃないですけども。ふぅ。
「明日の朝、日の出と共に出発するわ。二人とも準備をしておきなさい」
「はい」
「はいっ!」
でもラプラタ様も同行する程の任務なんだよね。さすがは超級って感じなのかな。
よーしっ、今回も頑張るぞー!




