第六十四話 選ばれしもの、超級任務への誘い
「まさか君がここまでの成長を遂げるとは」
今あたしは、騎士団長の執務室にいる。
団長は腕を組みながら、片手で自分のあごを撫でつつあたしに驚きの眼差しを向けている。
以前にラプラタ様からフライングして聞いた、ランク四十一段階上昇の辞令を今まさに受けようとしていたのだ。
うう、どきどきする……。
気合入れてエミリアの特製装備で髪型も綺麗にしてきたけども、よく考えたら団長に会うだけだから、ここまでおめかししなくてもよかったような。
「過去に騎士団を抜けるよう勧めた事を謝りたい。すまなかった」
「い、いいえ!? 気にしてないですっ! 確かに任務失敗ばかりしてたし……」
なんだか妙に団長が優しいのも、これもあたしの活躍のおかげ……?
う、うーん。嬉しいんだけども複雑な気持ち。
「仮任命だが、銅騎士から金騎士へのランクアップは君が初めてだよ」
そうなんだよね。
実はあたしがランク一のゴールドになるのは仮なのだ。
どうやら、最下位だった者をいきなり一番にするのは異例中の異例で、まずは暫定で決めて今後の活躍次第で正式に決まるという話らしい。
まあそうだよね。今までどん色騎士って散々言われてた人が、ランク最上位とかみんな納得しないものね。
「さて、仮とはいえランク一金騎士になった君に、大事な話がある」
今まで驚きと笑顔が半々の表情だったが、いきなり曇り険しい顔になっていく。
なに言われるんだろう……。
「君たち騎士団に所属している者が受ける任務は、難易度や重要度に応じて五段階設けられている」
え、そんなのあったんだ。
全然聞いて無かったよ!
まあでも、エミリアと出会う前は妙に簡単な任務だったり雑用ばかりだったから、言われてみればそうかもだねえ。
「依頼を受けた任務の内容を把握し適正なレベルに振り分ける。分けた後、銅騎士はレベル四から五、銀騎士はレベル三前後、金騎士はレベル一あるいは二に区別された任務を与える事が、我々団長の職務としてあるのだが」
でもそんな話を、今更恐る恐る聞かされてもって感じなんだよね。
ゴールドに所属している出来る人が難しい任務をするってのは、当然なわけだし。あたしがいきなりそんな難しい任務与えられても絶対に失敗する自信があるわけだし。
けど今まで振り返ってみると、結構無茶振りされてた気がする……。
よ、よく頑張ったあたし。ううっ。
「稀にレベル一でも特に危険かつ、重要な内容と認定された場合、ランク一のペアにのみ与える任務がある」
なにそれ。また初めて聞くことだ。
レベル一でもさらに危険とか、ヘンタイ天使をやっつける以上に大変なのかな。
「我々はそれを、超級任務と呼んでいる」
なんだか凄いやばくて強そうな雰囲気。
あれ、人外をやっつける以上に危険な任務ってあるっけ。
もしかして、もう既に体験済みとかかも!
うっふふ。散々脅されたけども大丈夫そうだよね。うんうん。
「近い内に、超級任務がラプラタより与えられるだろう。心しておいて欲しい」
「はい!」
今ならどんな任務が来たって負けないし、大丈夫な気がする。
エミリアと一緒に過ごして辛い事や苦しい事もたくさんあったけど、何だろう。自信がついたって感じなのかも。
「話は以上だ、記章の交換式および、ゴールド専用寮への入寮手続きは追って後日話す。では解散したまえ」
「はい」
どうやらあたしの人事は急遽決まった事らしく、準備が出来ていないのか一応ランク最高だけども生活は銅騎士の頃と変わらずらしい。
折角高級ホテル並の贅沢が出来ると思ってたのに。この銅色の記章から簡単には逃れられないって事なのかな。うぐぐ。
「シュウ」
「はい? なんでしょう」
話が終わり、一礼した後にあたしは部屋から出ようとした時、団長に呼び止められてしまう。
何か忘れ物でもあったっけかな。
「いい顔になったな。これからも頑張りたまえ」
「あ、ありがとうございます!」
団長は今まで見せた事の無い満足そうな笑顔をあたしに見せながら激励してくれる。
それが凄い嬉しくって、自分が認められた気がして胸が張り裂けそうになった。
「あ、エミリア」
ほくほくとした気持ちのまま部屋から出ると、壁にもたれて待っているエミリアを見つける。
あたしの呼びかけに気がついたエミリアは、いつもの優しい笑顔をしながらこちらへ近づいて来た。
「もしかしてずっと待ってたの?」
「ううん、今来たところだよ」
自分がここまで頑張れたのは、この人のお陰なんだよね。
あたしは、暖かい気持ちのまま心の中でお礼を言う。
ありがとうね、エミリア。
「何だか嬉しそうだね」
やっぱりあたしって顔にすぐ出やすいのかな、気持ち読まれちゃったや。
うーん、照れくさいなあ。
「だって、エミリアが待っててくれたもん」
「ふふ、本当にかあいいんだから」
本当の気持ちを悟られたあたしは何だか照れくさくって、さらに照れくさい言葉で誤魔化そうとしてしまった。
何だかエミリアに馬鹿にされてるっぽいし。はああ。
「ラプラタ様が呼んでるよ。一緒に行こう」
「うん!」
団長に続いて、今度はラプラタ様から呼ばれるなんて。
さっき言ってた、超級任務の事かな。
そう思いつつ、あたしはエミリアのあったかい手を握り締めながら向かった。
「さてと、これでシュウちゃんにも心置きなく超級任務を与える事が出来る様になったわけね」
宮廷魔術師長の執務室へ到着した直後、ラプラタ様は机の引き出しから金縁のリボンで縛られた書類を取り出し、封を開けるとあたしとエミリアに見せる。
文書は暗号化されており、あたしには何が何だかさっぱりだったけれど、エミリアは頷きながら目線を動かしているって事はちゃんと読めているって事なんだよね。
うーん。悪魔の力を手に入れたけれども、やっぱダメダメだなあ。
「シュウちゃんは読めなさそうだから口頭で説明するわね。文書の中身は新しい任務についての概要よ。勿論任務レベルは超級ね」
あたしがさっぱりなのをちゃんと解ってくれてた……。
このまま取り残されるところだったよ。危ない危ない。
「このレベルの任務は国家機密にあたるから、内容は勿論だけど任務を受けている事も他の人に言わないようにね」
「は、はい」
ラプラタ様は怖い表情をして、あたしとエミリアに注意を促してくる。
気をつけないと、うっかり言っちゃわないようにしないと。
「風精の国には、現在王女殿下がおられるのは知ってるよね?」
「えっと、シルフィリア姫様でしたっけ?」
正直、過去に一度しか見たことが無かったけれど、その姿は今も忘れずにいる。
まるでそよ風のような淡いエメラルドグリーンの髪色に、気品さと清楚さ漂うおっとりとした表情。
淑女って言葉が最も似合う人だと思っている。
「そうね。そのお姫様がずっと行方不明なの。今回の任務は、その姫君を探して見つける事」
「あ、あれ? シルフィリア様っているような?」
「あれは影武者ね。民衆が混乱しないように、または対外的に国の王位継承権を持つ要人が居ないってのは相当まずいから似ている人で代用しているの」
なんかさらっと言っちゃってるけども、それってすんごい秘密だよね?
うわあ、早速言っちゃいけない事聞いちゃったよ……。
うう、言わないようにしないと。黙っておかないと。
「何か手がかりはあるのですか?」
「先日、ちょうどあなた達に私の過去の話をした時かしら、その時に今までで最も有力な情報が入ったの」
エミリアが暗号化された書類を読み終えると、ラプラタ様へと質問をする。
なんだ、探す為の情報がもうあるなら楽勝じゃん。
「今日はその情報提供者が来ているから、直接聞きましょう」
ラプラタ様が喋り終えると、普段は本棚になっている場所から扉が現れ、ゆっくりと開いていく。




