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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第四部「過去編」
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第六十ニ話 ラプラタの過去 ~賢者との交渉~

 試験官の一人で、ただならぬ雰囲気を出していた老人は椅子から立ち上がり終えると、その場で大きく跳躍し私がいる場所へと降りてくる。

 直後、老人は両手を開くと手の平から黒い霧を噴出させ、周囲はあっという間に包み込まれてしまった。


「二人きりにしたのね」

 この霧の主成分はエーテルであり、外から中を見る事は出来ず、内側にいる者は自由に外へ出る事が出来ない。所謂結界と同じ意味である事を私は瞬時に理解する。


「手短に言おう。魔族よ、何をしに地上へ来た?」

 やはり私の正体に感づいていたのね。

 ローブは探知の力も遮断するから、気づかれないと思っていたのに。

 この人間、かなり魔術に精通している。


「上手く隠していると思ってたのに、ばれているなんてね」

 私は正体が解ってしまった事の僅かな動揺を、鼻で笑う事でごまかす。

 仕方ないわね、どうしたものかしら。

 このままこの老人と戦ってもいいけれど、試験どころじゃなくなりそうだし。

 むしろこの魔術師にも協力をお願いしてみるのも、いいかもしれないわね。


「魔界には、大いなる厄災が封印されている。その封印が近い内に解けてしまうの。封印が解けてしまえば魔界もこの地上も全て終わりなの。だから私は厄災に対抗する為の力を探しに来た」

「この地上は我々人が統治している。私は悪魔に国家の重役たる宮廷魔術師の地位を渡したくは無い」

 私はその返答を聞いて、思わずため息をついてしまう。

 世界が滅びようとしているのに、何故そこまで一国家に拘るのか?

 思慮の深い、もっと賢い人だと思っていたのに残念だわ。

 所詮は体制に飼いならされた犬ってところかしら。


「そもそも本当にその話は正しいのか? ぬしの何を信じればよいのだ?」

 確かに老人の言うとおりね。

 見ず知らずの私の言葉をすぐに信じてくれるほどのお人よしが、国家の重役であるわけもない。

 出来れば穏便に済ませたかったけれど……。


「話しても駄目なら、実力で解って貰うしかないわね」

 私は内に秘めた力の全てを解放しようと大きく息を吸いこみ、意識を集中しようとする。

 一切の証拠を残さないようにしつつ、この老人を亡き者にするくらいの覚悟はあったし、それを実行をした後に逃げ切れる自信もあった。


「私は魔界で魔術の研究を行った事がある。もしもその話が本当ならば、実物を見せて欲しい」

「いいわ。見せてあげる。ついて来なさい」

 実力行使しかないと思っていたが、まだ話せる余地はあるのかもしれない。

 見世物じゃないけども、仕方ない状況だしお父様も許してくれるでしょう。


 再び力を封じ、赤く禍々しく輝く魔界へと通じる道を開く道を作ると、私と老人はそこを潜り大いなる厄災が封じられた場所へ向かう。


「さあ、覚悟を決めたらこの中へ入りなさい。あなたが望んでいるモノに会えるわ」

 老人を連れて、私は赤く光る輪を潜る。


 潜った先にあるモノを見た時、老人は何も話さずただ呆然としていた。

 まさに、言葉を失うと言う表現が相応しい状態だ。


 私と老人は大いなる厄災の姿を見た後に神妙な面持ちのまま、試験場へと帰還する。


「……よかろう。ぬしに協力する」

「解ってくれて助かるわ」

 彼はここへ戻ってきた時、顔色はとても悪くなっており、まるで悪夢を見たかのようだった。

 普通の人間が、あれを直視すればそうなってしまうのも無理はないわね。

 むしろ発狂して精神崩壊したり、魅了して狂信したりせずに正常な意識を保っているのは、さすが宮廷魔術師と言われるだけの事はあるのかもしれない。


「地位以外に何が必要だ? 遠慮なく言うといい」

「光のエレメンタルを持つものを環、闇のエレメンタルを持つものを柱と私たちは呼んでいる。環と柱が本当の力に目覚めるように手助けして欲しい」

 仮に探し者が見つかったとしても、それだけでは足らない。

 大いなる厄災から世界を確実に救って貰わなければならない。

 だから、生半可な力では駄目。誰にも、何者にも負けない力でなければ。


「手助けと言うと、儀式的な何かか?」

「詳しい事は、この試験が合格した後に話すわ」

 今まで真顔で話していた私は、表情を笑顔に戻すと日を改めて伝える事を約束する。

 それと同時に今まで周囲を覆っていた結界が解けていき、慌てふためく他の宮廷魔術師の姿が見えてくる。


「デウスマギア様! お怪我はありませんか?」

「よくぞご無事で」

「少しお顔の色が悪いようで、あまりご無理をなされるな」

 宮廷魔術師たちは老人の周りへと集う。


「ああ、私は無事だ。心配する事は無い。実技試験は終了だ。次の受験者を呼べ」

「はっ」

 他の宮廷魔術師は私が何かしたものだと思いこちらに険しい眼差しを投げかけているが、私はそんな事を気にせず、実技試験が終わった事を確認すると一礼し部屋から出て行った。


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