第四十九話 悪魔が語るプレリュード。聞き手は鈍色騎士
あたしとエミリアはラプラタ様から召集がかかり、執務室を尋ねる。
室内に入ると、ラプラタ様は手を組んで真剣な眼差しをしたままあたし達を待っており、二人が揃った事を確認した後に口を開く。
「私が呼んだ理由は解るわね?」
「はい」
この真剣な面持ち、緊迫した雰囲気。
間違いない、ちょっと前に言いかけていた、大いなる厄災とかについてだよね。
何だか緊張してきたよ。どきどき……。
「結論から言うわ。大いなる厄災、それは太古の時に天使達が目覚めさせた破滅の女神よ」
「破滅の女神……?」
「ええ、命ある者の死、形ある者の無を与える。絶対的な力を持つ冷酷無比なる存在。つまり、簡単に言うと放っておいたらかなり危ない神様って事ね」
ひええ、そんな神様いるの?
何だかすんごい言われようだし、怖すぎる。
でもどうしてそんなのが、魔界にいるんだろ?
しかも天使達が目覚めさせたって言ってたけども、何の目的でそんな恐ろしい神様を呼び寄せたのかな?
あたしはふと、天使であるエミリアの方を向く。
エミリアは視線を少し下に落としつつ、何か考えているような心当たりがあるような感じがするけれども、本人は何も言わないのでそれ以上の事が解らなかった。
「察しているとは思うけれど、私の本当の目的は、その破滅の女神を倒す力の素質を持つ人間を見つける事なの」
「そしてその人間として、シュウと私が選ばれたのですね」
今までずっと何かを考えていたエミリアがようやく喋る。
とても話しかけにくいくらい真剣な表情だったし、何考えてたのかな。
「ええ。人間にはエレメントって言う、個人によって性質が違うモノを生まれた時から持っているけれど、私は強い闇のエレメントを持った人間と、強い光のエレメントを持った人間を探していたのよ」
「光は天使であるエミリアで、じゃああたしが闇……?」
「そうね。シュウちゃんが風精の国の兵士内で最も強い闇のエレメントを持っているわ」
あたしにそんな隠された能力があったなんて!
じ、実はあたしって凄いのかな?
「別にエレメントが強いからって、魔術が出来るとか身体能力が高いとか賢いとか、そういうのは関係ないからね」
ちょっと自分の才能に期待した時、それを見透かすかのようにラプラタ様が笑顔で答える。
そうだよね、そんな力があったら底辺なんかに甘んじていないよね。
「封印が解けて破滅の女神が再び動き出すのは、地上の暦換算で三年後となの。それまでに私は女神に対抗する為の力を、何としてでも手に入れなければならない」
後三年。
三年後には、その全てを破壊しつくす女神の封印が解けて地上は終わってしまう。
天使や悪魔ときて、世界の存亡まで話が広がっちゃうとか。
エミリアと出会う前は自分の立場だけ気をつけていればよかったけれども、何だか凄い大事になってきたなあ。
あれ?
あたしとエミリアが居れば、もうラプラタ様の目的は達成されたんじゃないのかな?
光と闇のエレメントの持ち主を見つけたわけだし。
「でも、悪魔になったあたしと天使になったエミリアがいるわけですし、もう大丈夫ですよね?」
「確かに最低条件は満たせたわ。けれどももっと万全の状態で挑みたいの」
そうだよね。
究極とか言われているくらいの女神の力だものね。
でも、もしもあたしとエミリアでも無理だったらどうするんだろう?
うーん、考えないでおこう。二人で生き残るんだ。負けないんだ!
「そこでシュウとエミリアに新しい任務を与えるわ」
ラプラタ様はそう言いながら、机の引き出しを開けて一通の筒状になった手紙をエミリアへと手渡す。
「前宮廷魔術師長、地上では風と時の賢者と呼ばれているデウスマギアにその書簡を渡して欲しいの」
何だかこの状況って前にもあったような。
まさか、またエミリアが取られそうになるから奪還するために修行する流れとか……?
何を考えているんだろう。同じ国の人だし、そんな事あるわけがないのに。
「多分、書簡を渡してからいろいろと言われるかもしれない。その時は、デウスマギアの指示に従いなさい」
まあいいや、あたしが考えたってどうにかなるわけでもない。
エミリアと一緒に頑張るぞ!
絶対に任務を成功させるんだ。




