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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第三部「反逆編」
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番外編 罰ゲームは両手に花

 今エミリアの部屋には、あたしとシャーリンがいる。

 地霊の国のリゾート地にて、シャーリンがエミリアに恐らく恥をかかせようと持ちかけてきた約束は、あたしの活躍によって見事エミリアが勝利した。


「こ、これでいいのね……」

 その結果、シャーリンはエミリアの一日付き人として何でもいう事を聞くってなってしまい、リーネちゃんから借りてきたらしい、フリルをふんだんに使った可愛らしい衣装を着る羽目になってしまったのである。


「ねえ、エミリア」

「うん? 何かな?」

 そんなシャーリンの恥ずかしい姿を見せて貰う為にお呼ばれしたのかと思ったけれど、何故かあたしも昔の建国記念祭でエミリアが着ていたであろう、妙にフリフリがついているメイド服を渡され、何が何だかわけが解らないうちに着て欲しいとお願いされて袖を通してしまい今に至る。


「どうしてあたしまでこの格好なの……?」

「だって、シュウがそういう衣装着たらきっとかあいいと思ったもの。船の上でそういう格好したそうだったからね、実際見たらかあいいよ」

 可愛くないよ!

 めっちゃ恥ずかしいじゃん!

 た、確かにそういう姿をちょこっとは想像したけども。

 しかもエミリアが着ていたってだけあって、何だか胸の部分がすかすかするし。


「底辺にはお似合いだね。ご主人様ーって言わなきゃね。ぷぷー」

 むう。物凄い馬鹿にされている。

 でも、シャーリンの可愛らしい格好を見てたら何だか腹も立たないというか、妙な連帯感というか。変な気分。


「シャーリンちゃんもかあいいよ、ふふ」

「わ、私に恥かかせるなんて! 絶対に許さないんだから!」

「でも、勝負には勝ったよ?」

「うぐぐ……」

 ああ、エミリアが意地悪な笑顔になっている。

 実はエミリアっていじめっこだよね。きっとそうだよね。

 妙に勝気だし、おっとりしてるけど頑固な部分あるし。


「じゃあ二人ともいこっか」

「ええ、どこに?」

「デザート食べに行きたいから、うーんそうだなー。きらきら星亭へ行こう」

 嘘でしょ!

 こんな格好で外出歩くなんて駄目だよ!

 絶対すれ違う人達が、何であんなおかしな格好しているの?とか、変な衣装着ちゃって最近暑かったからねえとか、そういう事思われたり言われたりするに違いない。


「ちょっと! こんな格好で外出歩くとか何の罰ゲームよ! ね、ねえエミリア……さん? このくらいでおしまいって事には……」

 今だけはシャーリンと同じ考えだったらしい。

 あたしが思っていた言葉をそのままエミリアに伝えてくれてるけれども。


「ふふ、だーめ」

 エミリアは意地悪な表情のまま、軽く微笑みシャーリンの懇願を拒否する。

 ですよね。一度決めたことはそう簡単には折れないよね。

 は、はぁー。あたしどうなっちゃうんだろう。



「お、おい。あれって金魔術師のシャーリンじゃないか」

「どん色騎士もいるぞ、二人揃って変な格好してるぞ」

「その二人を引き連れているエミリアさんが、なんか凄い誇らしそうなのは気のせいなのか?」

「やーねえ、ああやって気を引こうとしている」

 城下町へと出ると、通り過ぎる同僚や他の兵団の人達、全然関係ない街の人らがあたし達と視線をあわさない様にこちらを見つつ、小声でよからぬ事を話している。


 もー、やめてー!

 やっぱりあたしの予想通りだよ!

 周りの視線が痛い、皆そんなにあたしを見ないで……。

 というか、エミリアもなんだか言われてるけど気にならないのかな。


「デート楽しいね」

 可愛い?女の子たちを引き連れているからなのか、他の人が何を言おうともエミリアの機嫌は良さそうだ。にこにこと明るい笑顔でこちらに話しかけてくる。


「恥ずかしいよ!」

「恥ずかしいよ!」

「あっ……」

「ううっ……」

 そんなエミリアにファンシーな格好をしたあたしとシャーリンは全身を使い、全力で同時に返事をする。

 今ならシャーリンとはいいお友達になれそうかもしれない。

 シャーリンは顔を真っ赤にしながらあたしから目を逸らし、再び歩みを進める。

 

「あれ? 何でどん色騎士がいるんだ? シャロンさん、しかもこいつ変な格好してますぜ!」

 少し歩いた時、右側面から聞き覚えがある嫌な声が聞こえる。あたしはそちらを振り向くと……。

 げげ!

 ブロンズハンター!

 い、一番最悪な相手で出会っちゃった。しかもこの格好で。


「お前……」

 あたしとブロンズハンターを率いるシャロンの目が合い、お互いの無言な時間が続く。

 な、なんで何も言わないの、お前ってなにがいいたいの。

 

「ついに頭がどうにかなってしまったのか?」

「どうにもなってないよ! うわあん!」

 もー!

 やっぱりそうなるじゃん!

 おかしくないし、どうにもなってないし、何だか真面目かつ真剣に心配されてるし。

 うううー。


「シャロン君。シュウかあいいでしょ?」

「へ? あ、ああはい。そ、そうっすね。ははは……」

 立場が上の人には滅法弱いシャロンなだけに、エミリアの問いかけに凄い困ってる。

 いいんだよ?

 別に変とか似合ってないとか言っても……。

 あたしだって解ってるからね。ふう。


「あれ? てかシャーリンさんまで何してるんですか!」

「……私の事は放っておいて、お願いだから」

 エミリアの無茶振りから逃げようとシャーリンの格好を見て、少しわざとらしく驚く。

 シャーリンも無理にふれられて、折角無視させてやりすごせると思ってたのかな、地面へと視線を落とし半笑いでシャロンに返答した。



「む? エミリアちゃんじゃないか、今日はお出かけか?」

 ブロンズハンターと別れて少し歩くと、再び聞き覚えがある声が後ろからしてくる。あたしは振り向くと、そこにはあたしに剣を教えてくれた人が何やら買い物の帰りらしく、食べ物がたくさん入った紙袋を担いでこちらを見ている。


「し、師匠!」

「って我が弟子よ、なんて格好してるんだ」

 普段絶対にありえない姿をしているあたしを見ると師匠は怪訝そうな顔でこちらを見ながら問いかけてきた。

 どうしよう、どう答えたらいいんだろ。うーん。

 

「ご、ごきげんようマスター♪」

 何言ってるんだろうあたし。

 自分の師匠へ向けた言葉がまさかその一言なんて。

 何が何だかわけわかんないし、もうやけくそとその場のノリで思わず言ってしまったけれども、雰囲気は重いような詰まってるような、なんとも言えない閉塞感だけが漂う。

 ますます気まずくなってしまった、うう。


「……騎士クビになって家政婦へ転職したのか?」

「転職してないよ! そもそもクビになってません! むううう」

 なんでそうなるの!

 はあああ、あたしもいろいろ間違っていた。おかしかった。

 何であんな事言っちゃったんだろ。なにさマスターって。はぁ。


「お師匠さん、実はですね――」

 あたしと師匠のやりとりを後ろから笑顔で見ていたエミリアは、今ここに至るまでの経緯を簡単に話した。


「はっはっは、そりゃあ面白い。まあ、せいぜいエミリアちゃんのかあいい(・・・・)メイドさんをしっかり務め上げる事だな!」

 面白くないよ!

 可愛くないし、何で今日に限ってこんなに知り合いと出会うわけ?

 おかしいよ、絶対に間違ってるよ。


 こうして師匠は笑いながら自分の家へと帰っていく。エミリアとあたし含む付き人二人はそれを見送ると、再び目的地であるきらきら星亭へと向かう。

 物凄い被害妄想なのかもしれないけれど、何だかいつもより歩く速度が遅い気がする。

 ま、まさかわざと!

 そこまでしてるなんて思いたくない、きっとあたしの勘違いだ。


「ついたよ、意外と短かったね」

「よ、ようやくついた。室内なら少しは……」

 今まででいろんな人に出会ってきた。

 で、でも、外に入っちゃえばもうこれ以上は誰にも出会わないはず。

 強い願いをこめて、あたしはお店の扉をゆっくりと開けた。


「あれ、フロ姉。シャーリンが百パーセント変な格好でいる」

「ジェリー、シャーリンは別の用事だからここには……」

 あれ、あの二人って毒々姉妹だよね?

 あたしタイミング悪すぎ、なんでこんなに人に出会うの。

 そしてあたしよりも二人の存在にいち早く気がついたであろうシャーリンは、エミリアの体の影へと隠れようとしている。


「あんた、何やってるのさ」

 ジェリーの一言が気になったフロレンスは、ジェリーの指差している方向を振り向くと、無表情のまま奇抜な格好をしたシャーリンに問いかけた。


「フロ姉! なんでいるの。そして私を見ないで!」

 今ならシャーリンの気持ちが凄い解る。

 あたしが師匠やブロンズハンターに出会ったときと同じだよ。知り合いには見られなくないのに、こうして見つかってしまうこの恥ずかしさと何とも言えない気まずさ。


「フロレンスちゃん、シャーリンちゃんを今日だけ借りてるよ」

「シャーリン、手伝いってエミリアの事だったのかい。なんでまた……」

「実はかくかくしかじか――」

 シャーリンは、決して自分はこういう趣味では無いという事を何度も念入りに強調しながら、ここまでの経緯をフロレンスとジェリーに話す。


「あんたも馬鹿だねえ、そんな賭けを持ちかけるなんて」

「だって、絶対に勝てると思ってたもん」

「気に入らないけども、約束を破るのはよろしくないから、今日は諦めるんだね」

「はあああ……」

 助けると思ったら意外と冷たかった。

 もしかして、他の二人もシャーリンがこの格好をしている事に楽しみを覚えてたり?

 うーん、性格悪いから案外そうかもしれない。


「可愛い格好をした女の子がいるって聞いてきたわ。あなた達だったのね」

 毒々姉妹達のやりとりに気をとられていると、後ろから声が聞こえてきたので振り向く。


「ラプラタ様!」

 そこには笑顔で着慣れない衣装を身に纏うあたしを見ているラプラタ様が居た。

 な、なんでどうしてこんなに知ってる人に会うの?

 まさか、エミリアがこっそり教えている……なんてないよね。あたしのタイミングが悪いだけだよね。


「う、噂になってるなんて。わ、私の築きあげてきたものが……。あはは、あははははっ!」

 ってうわあ、いきなり笑い始めた。

 どどど、どうしたの。

 というか、噂になってるってどんだけ広がるの速いの!

 ひええ、あたしも絶対に変な噂でまくってるよ。

 うん?

 元々悪い噂しかないから大丈夫のような気がしてきたかも。って納得しちゃ駄目だ!


「私はシャーリンだよっ! よろしくね! てへっ☆」

 さっきまで気が狂ったように笑っていて、今まで気だるそうで物事を達観してる印象の強かったシャーリンが、別人になったかのように口調を変えて決めポーズをとる。

 意外な言動にあたしも含め、その場にいる全員が思わず呆然としてしまう。


「吹っ切れたわね」

「たぶん、間違いなく」

 そのシャーリンを毒々姉妹の二人は冷静に分析する。


 何だか、あたしも正直この格好に慣れてきたというか、どうせ悪評しかないから何をしても怖くない事に気がついたというか。

 二人がさっきシャーリンに言ったとおり、何だか吹っ切れてきたような気がしてくる。

 そうなると、この可愛い服装もありかもしれないなんて思えてきて……。


 こうしてあたしとシャーリンの忘れられない一日は終わっていく。

 デザートを食べ終わり、エミリアの部屋へと戻ったあたしとエミリア、シャーリンは、早々に元々着ていた服に着替えなおす。シャーリンは今まで着ていたフリフリ衣装を投げ捨てると、腹を立てながら自室へと帰ってしまった。


「ねえ、エミリア」

「うん?」

「あ、案外さっきの格好もありかも……?」

 今思えば、あの服装もひょっとしたらいけるかもなんて?

 エミリアも喜んでくれてたし、は、恥ずかしいのは変わらないけどもたまにはいいかも、なんて。

 あああああ!

 何考えてるの!

 何だか洗脳されてそうでいやだ!


「……私も少しだけ着てみようかな」

「え、エミリアも!?」

 エミリアは少し照れながら服を脱ぎ始め、今まであたしが着ていたメイド服に袖を通す。

 過去に着た事があるせいか、妙に着慣れているのは気のせいなのかな。


「似合うかな? ご主人様♪」

「か、可愛い……! にあうにあう!」

 メイドの衣装に着替えたエミリアは、いつもの穏やかな笑顔のままスカートの裾を軽くたくし上げる。

 あたしが着るよりも全然似合ってるよ!

 ああ、想像通りだ。何だか可愛いすぎてくらくらしちゃうよ。

 しかもご主人様だなんて、きゃー!


「シュウも着なきゃ駄目だよ? 私だけじゃ恥ずかしいもの」

「は、はいいい」

 あたしは、再び普段着を脱いでシャーリンが投げ捨てたフリフリの衣装を着なおす。

 うん。なんだかこっちのほうがぴったりするのは気のせいかな。

 シャーリンとあたしと、ついでリーネちゃんって似たような体型だったんだね。


「ねね、この格好でイチャイチャしない?」

「えええ!?」

 な、なんだかエミリアが積極的だ。目も妙にきらきらしている。

 でもでも、そんな可愛い格好で迫られちゃったら……!

 うう、何だかドキドキしてきたかも。


「ご主人様、メイドのエミリアに何なりとお申し付けくださいませ」

 エミリアは急に抱きつき、軽く口にキスをすると頬を赤らめながら上目遣いで言った。

 その言動であたしの理性は消し飛んでしまい、何も言わずにエミリアをベッドへと押し倒してしまう。


 ここで何もしなきゃ女じゃないよね?

 こんなに可愛いメイドさんを襲わない手はないよね?

 やるしかない。ううん違うそうじゃない、あたしがえっちな事したい。

 可愛いエミリアとたくさんしたいんだー!


 こうして、あたしとメイドの幸福かつとても甘い時間が始まっていく。

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