第三十九話 どん色騎士の評判
プレッシャーをかけられたままバカンスの時間は終わり、そして翌日。
あたしが所属している騎士団とエミリアに率いられてきた魔術師団の一行は、地霊の国の保守派であるルナティックの軍幹部とその関係者と思わしき人達と合流する。エミリアはそんな偉い人の前でも、怖気づく事無く堂々と接しており、相手もまるで慣れ親しんだ友人のようにエミリアと会話している。
あたしをほったらかしにしての二者の他愛も無いであろう会話の後、エミリアとあたしのペアのみ別室へと通される。そこは軍幹部の作戦室らしく、地霊の国の地図が壁にかけてある以外にも、偉そうな人達の写真や、大きな牙を持った動物の剥製が置いてあった。
「それでは早速ですが作戦の内容を伝えます。我々魔術師と騎士の混合部隊は、ここで布陣して敵を迎撃します」
部屋に入って軽く挨拶をした後、エミリアはなんやら壁にかけてある地図を指差して説明しはじめる。
もしかして、既に作戦とか全部練ってあるのかな?
「妙に中央が薄いですな。敢えて突破させるのですかな?」
「ええ。この付近は峡谷になっていて、左右から兵を進軍される事が困難な地形になっています。敵をここへおびき寄せ中央に集めた後、周囲に隠れている別働隊で包囲します」
うーん、なんだか難しい話になってきちゃったなあ。
エミリアの真剣に説明している姿、かっこいいね。これぞ出来る人って感じがする。
「これだけばればれでは、敵にも悟られるでしょう」
「ですが、この中央に私が居たらどうします?」
だ、だめ。眠くなってきちゃった。
うう、寝ちゃ駄目だ寝ちゃ駄目だ寝ちゃだめだねちゃ……zzz。
「なんと、自ら囮になると!」
遠くから声が聞こえるや。うーん、なんだかふわふわしてるう。
「はい。魔術師部隊の統括を、私がしているのは事前に解っているでしょうから。自分で言うのもなんですが、風精の国魔術師最高ランクを倒せば名誉になるだろうし、士気も上がるでしょう」
「それは危険ですぞ! いくらエミリア殿でも負担が大きすぎます、無理はなさるな! 囮部隊は我々ルナティックの者でやりますゆえに、どうかここはご自重を」
「大丈夫です。私には頼もしい騎士がいます」
「へ?」
はっ。しまった、ぜんっぜん話聞いてなかったや……。
難しい事になると頭が拒否ってなっちゃって眠くてぐーになっちゃうからなあ。
それで、何の事だろう。呼ばれたような気はするけども。
「エミリア殿、失礼な物言いになってしまいますが、彼女は見たところ銅騎士。風精の国では金銀銅と言う順番で強弱を表していると聞きます」
「はい。よくご存知で」
ランク制度の事、他の国でも知られているんだ。
なんだか地霊の国の人らも、嫌そうな顔してるし。ひょっとしてあたしの事なのかな?
「エミリア殿は金魔術師で、ここへも幾度と無く来られており、多くの戦果をあげてきました。ですが彼女は見たところ前線に出るのは初めてなのでは?」
「ええ、そうですね」
確かに騎士団に入ってからエミリアとペア組むまでは、真正面きって敵と戦うって事無かった。
もしもそういうとこに行ってたら、たぶんあたしはとっくの昔に死んじゃってるかも。
「しかも銅騎士という事は、戦場では自身の力が振るえていないご様子」
「昔はそうでしたが、私のパートナーになってからは立派に戦果をあげております。火竜の国の王サラマンドラとも戦い、そして生還してきました」
「ふむ、にわかに信じ難いですな。あの有名な三傭兵の一人、極剣と呼ばれる者が、仕留めそこねるとは」
あの時は本当に死にそうだったよ。
エミリアと師匠が助けにきてくれなかったら、絶対に負けてた。
というか、そんな凄い人だったの?
ひー、よく生きて帰ってこれたなあ。
「それに、どのような思惑があるのかは存じませんが、何故魔術師最高ランクであるエミリア殿が、最も低いランクの騎士とペアなのが理解出来ないのです」
「その辺りの事情は、宮廷魔術師や各兵団の長によって決められております。よって私も解らないのです」
まさかラプラタ様の思惑で大いなる厄災と立ち向かうためだなんて、他の人が気づくわけもないよね。
あれ?
エミリアは天使だからエミリアじゃないと駄目として、悪魔に転生させるんだったらあたしじゃなくてもよかったような?
何であたしが選ばれたんだろ。
悪魔の力が必要だったらラプラタ様本人でもいいと思うのに。
「銅騎士に、その様な重要な役目を任せるのは聡明なエミリア殿らしからぬ決断と思われます。彼女には彼女に相応しい仕事もあります。エミリア殿の護衛には、もっと優秀な騎士や我々の中から選りすぐりの戦士を――」
「いい加減して! あなた達にシュウの何が解るの?」
あたしが作戦とは全然関係ない事を考えている時、エミリアが怒声の後に壁をばちんと叩く。
な、なにが起こってるの。そしてなんでエミリア怒ってるの。
駄目だ、また話聞いてなかったよ。
「彼女は必ずやります。実力は私が保証します!」
「ふむ。そこまで言われるならば、エミリア殿の作戦でいきましょう。では作戦決行の日程については後日またという事で」
友軍の人らは渋い表情をしつつ、作戦室を出て行く。何だかすごい嫌そうな感じだったし、やっぱりあたしの事を話していたみたいだし。
そう思いながら、ふとエミリアの表情を見てみる。
うーん、怖い顔のままだ。よほど酷い事でも言われたのかな?
もしもあたしの事だったらさっき前線に出るとか言ってたし、どうせこいつ大丈夫なのかとか、そんな感じの内容なんだろうなー。
「絶対に、任務成功させようね」
「う、うん」
エミリアはいつもよりも真剣な眼差しで見つつ、あたしの手を強く握ってくる。
な、なんだか昨日といい、今回の任務も責任重大だ……。




