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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第一部「成長編」
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第四話 焦心、小心、そして傷心

「絶対にエミリアを守るんだー!」

 あたしは一か八かで腰に下げていた剣を抜き、ならず者達の群れへと切り込む。

 こうなったら後は野となれ山となれだ。

 まぐれでも偶然でも幸運でも何でもいいから剣を振り回してやる。あったれー!


「なんだそのヘナチョコな剣は?」

 しかし、攻撃が当たることは無く。ならず者達に難なく避けられてしまう。その時のならず者の呆れ顔が妙に腹立たしく感じる。

 むう、何で当たらないの。こんなに剣を振ってるのにいいい!


「これじゃあ剣に振られているって感じだな! ハハハハ!」

「笑うなー!」

 あたしは怒りにまかせて再度剣を振るうが、やっぱりそれも手ごたえが無く、代わりにならず者達の、お世辞でも上品と言えない笑い声が帰ってくる。


「いい加減にしやがれ、自分の得物も碌に使えない雑魚騎士がッ!」

 再び剣を振るおうとした瞬間、ならず者の一人が怒声と共に自身の武器であたしの攻撃を容易に防ぐと、耳を打つ金属音と共にあたしの手から今までならず者をやっつける為に振るってた剣が手の中にない事に気づく。


 痺れを感じる手を気にしつつ辺りを見ると、自分の手から離れた剣は遠くの方へと飛んで行き、やがて地面と垂直に突き刺さってしまう。


「さて、今度はその綺麗なてって(・・・)で俺様たちをたおちゅ(・・・)のでちゅか~?」

「ギャハハハハハ!」

 うう、そこまで馬鹿にしたくなっていいじゃない。

 もう武器も無いし、これじゃあ戦えないよ。


 こ、このままだと二人とも殺されてしまう!?

 どうしようどうしよう。


「さて、お遊びはここまでにしようや嬢ちゃん。こいつらの首を風精の国へ送れば、いい見せしめになるやろ。ワシらをナメた罪、命で償って貰おうや」

 駄目!

 それだけは絶対にさせたらいけない!

 エミリアだけは、何としてでも助けるんだ!


「お、お願いです。せめてエミリアだけでも、許してください……」

 あたしが咄嗟に思いついた、エミリアを唯一救う方法は、自分を犠牲にする事だった。

 ひざまずき、震えている手をついて頭を下げる。

 武器は失った。もう戦えないよ。どうせこのままじゃ二人ともタダじゃすまないから、だったらあたしはもうどうなってもいい!


「なんだこいつ。命乞いかよ」

「なっさけねえ奴だな」

 そうだ、あたしは情けないんだ。でも今は自分のちっぽけな自尊心を守る時じゃないんだ、あたしの事を必要と言ってくれた、エミリアを守るんだ。


「あたしはどうなってもいいから! エミリアだけは、お願い……」

「そこまで頼まれちゃあな。ブロンズ様の願いを叶えてやれんほど、俺らの心は狭くないんでな。解った。安心しろ、命まではとらねえよ。約束してやる」


 もしかして、た、助かる!?

 よかった、何とか作戦は成功しそうだ。これでエミリアは無事に戻って、新たなパートナーを見つけて、たくさん活躍して、明るい未来が待っている。

 あたしはもう、どうでもいいんだ。どうせ生きていたって誰かの役に立てるわけでもないんだ。ここで死んだら、優しいエミリアは泣いてくれるかもしれない、でもすぐに忘れてしまう。それでいいんだ。


「俺達がしっかり可愛がってやるからなあ! その後は奴隷として、別のご主人様に可愛がられるんだな! ハハハ!」


 ……やっぱりそうなっちゃうよね。もう、駄目だよ。誰も救う事が出来なかった。エミリアも、あたしももうこれでおしまい。

 あたしの無力が原因で、エミリアをこんな事に巻き込んでしまった。

 団長やブロンズハンターの言うとおりだった、あたしはさっさと騎士を辞めるべきだったんだ。それがやめずにいたせいでこんな事になっちゃうなんて!

 考えれば考えるほど、自分の無力さが嫌で、酷い事をされる事もそうだけど、それ以上に悔しくって、どんなに我慢しても目から勝手に涙は出てくるし、最悪だ。


「ま、まだ諦めちゃ、駄目だよ?」

 目の前がぼやけてよく見えないけれども、あたしを心配させないように笑顔をつくろうとしてくれている事は解る。けども息づかい荒いし、無理させているのばればれだよ?

 もう頑張らなくてもいいんだよ、ごめんねエミリア、あたしがパートナーで。

 あたし以外の騎士だったらどうにかなったかもしれないけども、あたしじゃあもう……。


「あまり使いたくは無かったけども、仕方ないよね。シュウ、渡したあれを投げて!」

 渡したあれって?

 そうだ、エミリアに渡されたあれをここで使えばいいんだ!


 涙を拭い、腰に下げていたバッグの中から、乱雑に入れたナイフやら治療薬、携帯食料をかきわけつつ、過去にエミリアに渡された小粒の珠を取り出し、勢いよく振りかぶって地面へと叩き付ける。


 小粒の珠は粉々に砕け、破片が散り散りになった瞬間、あたしとエミリアがいる場所以外に無数の落雷が発生し、ならず者や集落の家屋を焼き払っていく。

 あたしは強烈な音と衝撃に怖くてすかさず頭を抱え、目を閉じて地面に伏せる。その間も、ならず者の痛々しい悲鳴や奇声、雷が落ちる音、それによって物が破壊される音、様々な音が入り混じって耳へと入り、怖くて気がつかないうちに体が震えだしてしまう。



 しばらくたち、音がおさまってから顔をそっとあげると、あれだけ大量にいたならず者が全員か細いうめき声をあげながら苦しみ、のたうち回り、建物や藪は燃えて崩れてしまっていた。

 まさかあの珠にこんな力があったなんて、そしてこんな凄い魔術が使えるなんて、流石は最高ランクの魔術師なんだなあ。


 って感心している場合じゃない、それよりもエミリアはどこなの!


 ふらふらになりながらも何とか立ち上がり、周囲を見回すと、三歩ほど離れた先にエミリアがぐったりと仰向けになったまま倒れていた。


「しっかりして、エミリア! しんじゃいやだよ!」

 頬を触った時、嫌な冷たさを感じる……。

 顔色もなんか悪い気がする。

 も、もしかして血がいっぱいでて死んじゃったの?

 嘘だよね?

 こ、こんなの嘘だよ!


 体の力が抜けていく、あたしの何もかもが崩れてなくなっていくような、深く暗い底へと落ちていくような感覚が全身を支配していく。

 ついにやってしまった、今まで失敗続きでパートナーの足ばかり引っ張ってたけれども、最もやってはいけない事、つまり相方の魔術師を死なせてしまう事をやろうとしている。

 あたしは何も出来なかったし、今も出来ないままで、ただ苦しむエミリアの側で絶望する事しかしてない、駄目すぎる、最悪だ。


「どけえ!」

「うわあ!」

 突然、聞きなれた声がすると同時にエミリアとの距離が離れていく。あたしは勢い余ってお尻からこけてしまった後、エミリアの方を再び向くと目の前には別の騎士と魔術師がいた。

 その騎士は、いつもあたしや他の銅騎士達を虐めているシャロンであった。

 二人はとても慌てており、失意の底にあるあたしには目もくれず、エミリアの介抱をし始める。


「ちっ、やっぱり俺の予想通りになりやがった。……治せそうか?」

「とりあえず応急処置だけはしたわ、早めに王都へ戻り治療しないと危ないかも」

「俺が担いでいく、すぐに戻るぞ」

 瞬く間に魔術で治療し傷口を塞ぐと、シャロンはエミリアをおぶさり、駆け足で来た道を戻っていった。

 もしかして、あたしでは駄目だと思って増援を送ったのかな?

 何が何だか訳が解らないまま、ここにいても仕方が無い事を察し、あたしも帰還する事にした。



 行き以上に重い足取りで都へ戻り、城へ帰還すると、エントランスは妙な人だかりが出来ていた。あたしの歓迎や激励で無いのは決まっているけれども、何があったのだろう?

 これだけ盛り上がっているって事は、余程難しい任務をこなしたのかな?


「流石は白金騎士! 凄いです!」

「あんな難しい任務をここまで早く遂行するなんて!」

「いや、彼女が頑張ってくれたお陰だよ。実に良い働きをしてくれた」

「わーい! 白金騎士様にほめられた!」


 そこには、あたしと恐らく同時期に任務へ出かけ、成功し無事帰還したであろう騎士ランク一とリトリアのペアだった。

 周りがはなしているのを盗み聞きした感じでは、任務を完了させて無傷でここまで戻ってきたみたい。

 事態の真相が解ると、あたしの気持ちはさらに重くなっていく。

 リトリアは頑張って結果を出してきたというのにあたしは満足な結果を得るどころか逆に足をひっぱってしまった。

 同じランクのはずなのに、今おかれている立場はまるで正反対。

 何が悪かったの?

 ……あたしだよね。やっぱりあたしがどうしようも無いからだよね。


「――さん、――ウさん」

 目の前が真っ暗になって、人はたくさんいるはずなのに孤独になっているあたしに呼びかける声が聞こえる。あたしはその声に気づき、なんとか振り向く。


「騎士のシュウさんですね? ラプラタ様がお呼びです。至急執務室の方へお向かい下さい」

「はい……」

 ラプラタ様が呼んでいる。いかなきゃ。

 まだ報告も終わってないや。 


 エミリアが傷ついた事、リトリアが成功した事、あたしが駄目すぎる事。

 いろんな事が起きすぎてて、でも全部ショックなことで、胸も苦しいし。

 また泣きそうになっちゃうし。

 もう、頭の中ぐしゃぐしゃで何が何だか訳が解らないよ。


「フンッ、足手まといの人殺しのどん色騎士」

 あたしの気のせいかもしれない、実際は言われていないのかもしれない。口は動いていなかった。けれども、目がそう語っていた。そんな気がしてならなかった。


「……入ります」

 執務室に行くまで、下しか向いていなかった。

 何度も何度も、あの惨めな光景しか思い出せない。そして周りの目がここまで冷たいなんて。

 みんなあたしの事を、人殺し、足手まといと罵っている。


 今までもそうだったし、今更なんだけれども、リトリアが一緒に居てくれた。二人だったら耐えれた。

 けれども、今はひとり。


 あたしは、もうひとり……。


「任務お疲れ様。帰ってきたばかりで申し訳ないけれど、新たな任務を与えるわ」

 ラプラタ様は何か辞書のような物を開いて見せてきている。

 なにをいまさら?

 あたしなんて、何の役にもたたないし、あたしがいるからエミリアが傷ついてしまった。あたしなんて居ないほうがいいに決まっている。


「エミリアは一命を取り留めたけれど、非常に危険な状態である事に変わりは無いわ。治療するためにはこの本に書かれたこの薬草が必要だから取ってきて欲しいの」

 まだ生きている、よかった。

 でも危険な状態ってどういうことだろう、この薬草ってなんだろう?

 見た事ない植物かも、記憶にないや。


「本当なら臨時のパートナーを充てるのだけれど、今は人がいないから、あなた一人で行って来て貰うわ」

 でも、本当にあたしひとりで大丈夫なのかな。

 あんまり考えたくはないけれども、わざとひとりで生かせて任務に失敗、命を落とせば何の憂いも無く、後味も悪くなく、あたしを処分できるとか?

 そう思われてもしかたないんだけどね。

 意固地になって辞めずにいるから、どうしても辞めさせたくいろいろ考えて……。


「他の人がどう思っているかなんて、私はどうでもいいし、あなたにとってもどうでもいいの。自分のしたい事をしなさい。そして私はあなたを必要としている。それを忘れないで」

 なんでそんなに期待しているの?

 あたしは取り返しのつかない失敗をしてしまった、あたしなんて見捨ててしまえばいいのに!


「どうしてあたしとエミリアがペアになったのです? あたしなんてダメダメなのに。何を期待しているのです?」

 ずっと気になっていた。なんでランク最高と最低が組む事になったのだろうって。

 別に同じランク同士で組んでいれば、こんな失敗も無かったはずなのに。


「詳しい事は国家機密だから言えないけれども、誰でもいいってわけじゃない。あなただから選ばれたのよ。だからもっと自信を持ちなさい」


「……はい」

 そうだよね、まだ期待してくれているんだよね。

 あたしがこうやっている間にも、あたしを守ってくれたエミリアは苦しんでいる。

 今度こそ助けるんだ。たとえ命にかえてでも、絶対に助けるんだ!

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