番外編 風精の国・建国記念祭
「立ち直ったとは言ってたけども……」
あたしは自室でごろごろしながらイライラしつつ、自分の感情を持て余している。
「なんでエミリアは、最近あたしの相手をしてくれないの!」
最近どういう理由か、エミリアとデートは勿論、会話も無い。
あたしがきらきら星亭に行こうとか、一緒に遊ぼうとか誘っても、ずっと忙しいと言われて拒否されている!
たまった鬱憤を晴らすべく足をじたばたさせるけども、おんぼろベッドがぎしぎしときしみだして、今にも壊れそうなのでやめておく事にする。
はぁ、何か用事でもあるのかな。
そ、それとも、嫌われちゃった!?
そんなわけは無い、絶対に無いんだ。ウンウン。落ち着け……。
「退屈だし、お散歩しにいこう」
ごろごろするのにも飽きたあたしは、エミリアに教えて貰った髪型にした後、鼻歌まじりに城下町へと繰り出す事にする。
「何だろう、いつもより人が多いような?」
風精の国城下町だから、いつも人がいっぱいいるんだけれども。
なんだか今日はそれに輪をかけて人の往来が激しい気がする。しかも、見慣れない格好をした人もたくさん歩いているから、何かあるのかな?
「あれー? キミはお化け魔術師のパートナーのシュウちゃんじゃない」
どこかで聞いた声が横から聞こえてくると、あたしはその声に反応しそちらを向く。
するとそこには、ウェーブのかかった黒髪と真っ赤な瞳が印象的な女の子が笑顔で手を振ってくれていた。
うーんと、確か……。
何だか名前が複雑で、魔術師ランクがエミリアの次な人だったっけかな?
「あ、えっと……。名前の長い人ですね! こんにちは!」
あんまり待たせるのも悪いかなと思って、とりあえずよく解らないけど挨拶しておいた。
でも本当に名前なんだっけかなあ。うーん。
「ぐぐっ。エルネスティーヌね。エルでいいよ」
そうだそうだ、エルさんだ。
前にきらきら星亭であった人だね、エミリアのお友達で感じよかったのに、名前が長すぎて覚えられなかったんだっけか。
「今日はエミリアと一緒じゃないかな?」
「はい、実は……」
あたしはエルさんに、最近エミリアが相手をしてくれない事を愚痴ってしまう。
エルさんはふむふむと相槌をうちながらもあたしの話を聞いた後、何か納得したらしく大きく頷いた後、喋り始める。
「あー。それは時期が悪いね。三日後に建国記念祭あるじゃん? 多分それの手伝いだと思うよ。前年度はメイドの格好した店員さんが居る喫茶店の手伝いしてたっけかな、可愛らしい格好してるエミリアが目当てだったのか、凄い繁盛してたんだよ」
ほおほお、メイドの格好をしたエミリアかあ……。
あたしはふと、そんな姿のパートナーを頭の中で想像してみる。
「ふふ、お帰りなさいませ。ご主人様」
か、かわいい!
いやあんご主人様だなんて!
メイド服も似合ってるかも。やばい、今度お願いして着て貰おうかな。
「何か楽しそうな想像をしてるね?」
「そ、そそそんなことないですよ! でも確かに人気でるかもですね。うんうん……」
あたしの頭の中がまるで透けて見えたのだろうか、多少エルさんの顔がにやにやと意地悪そうな感じがしたのは気のせいだよね?
そっかあ、建国記念祭かあ。
あたしなんて、出店の手伝いや運営のお誘いなんて全然無かったねえ。
こられても何も出来ないけども。
前回はリトリアと一緒に見に行ったんだっけかな。
そういえば、リトリアとも最近あわないけれど、あの子どうしてるんだろう?
白金騎士と順調に任務遂行してたみたいだから、もう既に最低ランクじゃなくなっているかもしれない。
それにひきかえ、あたしは相変わらずだし……。
ま、まあいいや。ランクは諦めよう。エミリアのパートナーになれただけで良しとしよう!
「折角だし、きらきら星亭付き合わないかい? 今日はおごってあげる」
「いきます! わーい」
それからあたしとエルさんはきらきら星亭へ行き、大好きなイチゴパフェを食べながらエミリアの話で盛り上がった。
それからも特別変わった事も無く、相変わらずエミリアは忙しいらしくて構って貰えず、のんびりとした日々を過ごす。
お手伝いの事を聞いても、当日まで内緒って言われちゃったし。
何をやってるんだろう?
うーん。
エミリアが何の手伝いをしているのか気になりつつ時間は経ち、そして建国記念祭当日の夜。
「うわあ、今年は凝ってるなあ」
城内は最低限見回りの兵士しか居なかった、城下町へと出ると魔術で生成されたであろう明かりが煌びやかに辺りを飾り、陽気な楽器の音が聞こえ、綺麗な格好をした人々が楽しく歌っている。
「お祭りどこいこうかな? でもお小遣いそんなにないし……」
今までエミリアを救出したり、ヘンタイ天使をやっつけたりしてきたけれども、どうやらそれら全てはエミリアの功績で、あたしは何もしていないとラプラタ様以外の軍幹部の人達は思っているらしく、あたしのまとめ下手な報告書も相まって、エミリアは勲章貰ったり昇給とかされているっぽいけど、あたしは相変わらず底辺だしお給金も増える兆しも無い。
だから使えるお金も少なくってあまり好き勝手に飲み食いできず、結局楽しくしている人達や風景を見るだけしか出来ずに居た。
うーん、どうしよ。
結局エミリアが何を手伝ってたかも解らなかったし、このまま一人だから何だか虚しくなってきたし、部屋に帰って寝ていようかな。はぁ。
あれ、これなんだろ。
あたしは今まで人ごみによって見えなかった看板へと何気なく視線を向ける。
”風精の国魔術師団所属、リーネ・ウィズスターライトによる屋外リサイタル開催! 入場料無料!”
リーネちゃんって確か、前にきらきら星亭であった人気がすごいある人だっけかな?
む、入場料無料!
これなら楽しめそうだ、やっぱりお祭りは楽しまないとだよね。寝るなんてもったいないよね。野外リサイタルって事はリーネちゃん何か楽器をひいたり歌ったりするのかな?
どんなのを披露するんだろう、わくわく。
あたしはリーネちゃんが何を見せてくれるのか想像しつつ、会場である城下町外れの広場へと向かった。
「ひええ、こりゃすごいなあ」
会場へと到着すると、まず観客の多さに驚く。
城下町も人いっぱいだったけれども、ここの広場って修練場の倍以上の広さはあるはずなのに、人で埋めつくされている。
中には騎士団で見た事がある人もいるし、ナンバーワンの人気って凄い。
それでも何とか先の方にある舞台が見える場所を確保し、リサイタルの開始に備えると、周囲の照明が消えると同時に観客席が静まり返っていく。
あれ、消えたや。どうしたんだろ。
「みんなおまたせっ! これからリーネのオンステージがはっじまるよ!」
甲高い声のすぐ後に舞台が眩く照らされると、前回であった時とは同じくフリフリで大きく膨らんだパフスリーブとリボンをふんだんに使った、絵本の中から出てきたような格好をしたリーネちゃんが決めポーズをしながら立っていた。
「リーネちゃん! ラブリー!」
「うおおお! リーネちゃん可愛い!」
ポーズと共に、舞台の上にいるリーネちゃんへ向けたであろう野太い声が、同じ声量で聞こえてくる。
凄い人気なんだねえ、こりゃ確かにエミリアよりもあるよ。
「ありがとー☆ では早速一曲目、開戦点火、聞いてください!」
リーネちゃんが笑顔のまま、観客席に手を振った後、アップテンポな曲を歌い始める。
何か演奏するのかなって思ってたけど、自分で歌うんだね!
うわあ、凄い上手い。しかも踊りもうまい。これは聞いてて楽しくなっちゃうかも。
遠くからでも全然聞こえるし、これは楽しい。ファンになっちゃう気持ちが解るかもしれないね。
そう思いながら、先ほど前列で声をあげていた人達をふと見てみる。
なんだかぴかぴか光る棒振り回してて、遠くからでも解るくらい大きく体動かしながら踊ってるし……。ああいうのが流行りなのかな、よくわかんないや。
こうしてリーネちゃんのオンステージは始まり、会場は大きく盛り上がっていく。あたしも楽しくなって、全然知らない曲だったけれども周りの様子を窺いながら合いの手を入れたりした。
エミリアも誘えばよかったなあ、一緒に楽しめないのが残念。
リサイタルは順調に進んでいき、激しい曲の他にもバラードとか、いろんなジャンルの歌を披露し続ける。
あんだけ歌ってるのに、全然疲れた様子もないし、声も枯れていない。
すごいなあ。やっぱりいつも練習したりしているんだろうなあ。
何だがきらきら星亭であったときよりもぴかぴかしてて、すんごい可愛い気がする。
こうして楽しいひと時は過ぎていき……。
「あれ? また暗くなっちゃったや。もう終わりなのかな」
今まで賑やかで煌びやかだった会場は、再び真っ暗になってしまう。
観客も予想していなかったのか、ざわざわとし始めてきたその時。
「これで最後の曲になりますっ。最後はスペシャルゲストと共に、大切な人へ向けて歌います。みんなも自分の大切な人の事を思いながら聞いてください」
スペシャルゲストと一緒に歌うって、ゲストは誰だろ。
こうやって舞台に出るって事は、それだけ歌が上手いって事なんだろうし。
あたしは騎士団や魔術師団、他の兵団で歌が上手そうな人を考えようとした時、今まで暗かった舞台の一点だけ光が灯される。
そこには、今までのフリフリだった格好とは違い、体の線が解るほどぴちぴちで少しえっちい黒色の服装を着た、背中には悪魔の翼を真似たであろう飾りを背中につけたリーネちゃんが現れる。
ああいう格好も似合うかも、なんだか小悪魔っぽくて素敵~。
そのすぐ後に、もう一点灯されると今度は白い服装をして、天使の翼を真似たであろう飾りを背負った人が現れる。
あの人がスペシャルゲストなのかな、うーん、しゃがんで顔伏せっているから見えないけれども、綺麗な人だなあ……。
ってあの人は!?
うそでしょ!
『私はとても臆病で、何も出来ないけれど、それでもあなたの側に居たい思いを募らせて――』
白い格好をした人が顔をあげ、ゆっくりと立ち上がると歌い始める。その人はなんと、天使に変身しているエミリアだった。
な、なんでエミリアがいるの!?
もしかして、スペシャルゲストってエミリアの事なの?
あ、建国記念祭の準備ってもしかして、これ!?
『どんなに辛い事があったとしても、挫けそうでも、この気持ちに嘘はつけずに』
『ただ、あなたの優しい笑顔だけを――』
でも、あの姿ってどうみても天使に変身してるよね……?
ば、ばれないのかな。大丈夫かな。
『このまま隣に居たいと願うけれど、無情にも引き離されてしまい』
『私とあなたは、運命の女神の悪戯にもてあそばれる』
あたしはふと観客の方を見てみる。
「リーネちゃんの悪魔姿も可愛いが、エミリアさんの天使、すっげえ綺麗だな」
「ああ、仮装にしては出来がいいよな。今年の記念祭は気合が入ってるよな」
ああ、なるほど。
仮装しているってみんな思っているんだ。だから何もおかしくないってわけだね。
『それでもずっと』
『私はあなたの事を思い続けよう。そして――』
それにしても、エミリアも歌上手いなあ。
本当に何でも出来るんだね、うーん。凄い。
舞台の照明のせいなのかな、いつもよりもエミリアがきらきらしてて綺麗だね。
『これからもずっと一緒に居よう』
『そして共に歩もう』
もしかして、あたしに向けて歌っているのかな?
ま、まさかそんな事はないよね。いくらなんでも考えすぎだよね。
『この思い、永遠に続きますように』
でも、もしもそうだったら。
えへへ、何だか照れちゃうね。
永遠に続きますようにってかな。ふふ。
リーネちゃんとエミリアのデュオが終わり、見ていた人から惜しみない拍手で会場は包まれて行く。あたしも同じように、手が痛くなるほど何度も叩いて感動を表現した。
「さてっ、ここからはお待ちかね! 建国記念祭恒例、仮装コンテストのはじまりだよっ☆」
会場はゆっくりと明るさを取り戻していくと、いつものメルヘンな格好をしたリーネちゃんと、いつのまにか普段の魔術師姿に戻ったエミリアが舞台に立っている。
「本日参加してくれたのは、全部で十名! ……あれ?」
十名?
あれ、九人しかいないけども一人はどうしたんだろ。
舞台の上でリーネちゃんや他の運営の兵士さんもざわざわしてるし、何かあったのかな。
「会場の誰かー! 飛び入り参加希望だよっ! 早い者勝ちだよー。我こそはって人は是非来てね!」
ありゃ、欠員が出ちゃったのかな。
飛び入り参加希望って言われても、仮装コンテストなのに衣装も準備できていないだろうし、多分人集まらないだろうねえ。
ん、仮装?
じゃあもしかしていけるかも!
あたしはいったん会場を離れ、町外れの木陰で誰もいない事を確認する。
「深淵なる力の解放!」
そうだよ。仮装コンテストって事は、あたしが悪魔になってても仮装してると思われるから大丈夫なんだよ!
ふっふん、このナイスバディーを披露する時がきた!
わくわく。急いで会場へ戻らなきゃ。
「私が参加するわ!」
あたしは変身した後、すぐに会場へと戻り大声で参加を宣言する。
間違ってもいつもの口調を出しちゃいけない。自分を呼ぶ時も私って事を意識しといてっと。同じ悪魔のラプラタ様っぽく振舞えばいいかな?
ともかく、絶対にばれちゃ駄目だ。
「おい、すっげえ美人じゃないか」
「マジであの胸と格好、やばいよな。エロ過ぎる」
ふふ、観客の人達にも評判がいいね。
「なあ、あれってどん色騎士に似てないか?」
ぎくりっ!
な、なななんで解っちゃうの!?
「んなわけねーだろ、あいつがあんな綺麗でスタイルいいと思うか? 今頃部屋で寝ているんじゃね?」
「そうだな、違いない。あいつがあんな美人なわけねえよな」
ほっ、どうやらばれてなさそうだけども。
でもなんか凄い酷い言われよう。
あたしっていつもそういう風に思われているんだね。くすん。
「おお、これはすんごい美人でグラマーな人が参加だぞー! 優勝最有力候補かも?」
参加表明すると運営の人があたしをエスコートし、舞台へと連れて行かれる。
リーネちゃんが凄い喜んでいる。でもどうして飛び入り参加をお願いしたんだろ?
欠員しても残った人でやればいいのに。
まあいいや、他の参加者は……。
みんな綺麗な人ばかりだなあ。
あれ?
あの人って。
「……何を見ているの? 顔になにかついている?」
遠くからでは解らなかったけれども、そこには毒々しい色の蝶の羽を背負ったフロレンスがいた。
この人も参加するんだ、何の仮装だろ。蝶……なのかな?
確かにスタイルは良さそうだけれども。
仮装しててもやっぱり毒々しい気がする。でもこれはこれで似合ってるかもしれない。
それから、各々アピールタイムと言われて意気込みや、している仮装についてや、特技を披露していく。
そして、あたしの番となったわけだけども。
何しよう。まさか刻印術見せるわけにもいかないし、うーん。
「すごい綺麗でお似合いですね。お名前を教えてくれませんかっ!」
あ、そうだった。名前を名乗ってなかった。
本来はたぶんこういうのって事前に自分の名前とかを登録しないと駄目なんだろうけども、飛び入りだったからねえ。
うーん、どうしよう。
まさか本名をいう訳にもいかないし、うーんうーん。
「……さすらいの旅芸人、そう呼ぶといいわ」
「本名を敢えて明かさないところが、きっと本業の人ならではなのですねっ! ありがとうございます!」
思いつきで思わず旅芸人言っちゃったけれども、上手くごまかせたのかな……?
「旅芸人さんって事は、何か芸が出来るのですか? よろしければぜひっ」
ひ、ひええ。リーネちゃん突っ込みすぎだよ。
なんて言おうかな。やってくださいとかいわれたら困るし。うーんうーん。
「こ、ここでは危険だから見せる事が出来ないの」
「ありゃりゃあ、そうだったのですか。ではまたの機会にお願いしたいですね!」
な、なんとか乗り切った。
心臓どきどきしてるよ。で、でも平然を装わないと。
こうして全員のアピールタイムが終了し、投票時間へと移っていく。
投票は観客の人に一枚ずつ紙を渡され、気に入った人の名前を書いて箱にいれていくって事なんだけども。
あたしそこまでアピールできていなかったし、他の人なんか魔術ですんごい綺麗な明かり出してたりしてたから流石に優勝は無理かもなあ。
「それでは、集計が終わったので結果を発表しますっ!」
どうやら集計が終わったらしい。意外と早かったね。
リーネちゃんは、このコンテストの運営をしている兵士の人から一枚の紙を手渡される。渡された紙を見て、少し間をおいた後に目を一瞬輝かせ、大きく息を吸った。
いよいよ宣言するのかな、わくわく。
「優勝は……」
うひょー、リーネちゃんがにやにやしながら結果言うのを躊躇っているよ。
は、はやく言って欲しいかも、どきどきしちゃう。
意外と評判よかったし、まさかひょっとしてひょっとするかも?
「悪魔コスチュームで参加された、さすらいの旅芸人さんに決まりました! 飛び入りで優勝しちゃうとかさすがですね~」
うそおおおおおお!
本当に優勝しちゃったよ、やったあ!
流石は悪魔の力だね、凄いね。ウンウン。
「さすらいの旅芸人さんっ、今の気持ちをお願いしますっ!」
「ありがとう。凄く嬉しいわ」
あたしは、さも当然のように冷静を装いながらお礼を一言観客へと告げると、観客からは歓声が帰ってきた。
今あたしはみんなに注目されているんだ。
みんながあたしを見てくれている。今まで眼中にも無かったのに。
な、なんだか気分いいかも!
「それでは、賞金の五十万ゴールドと記念トロフィーの授与をしますっ!」
え、賞金?
そんなのあったんだ!
やったあ、まさかそんな大金が貰えるなんて!
五十万ゴールドかあ、何に使おう。
あ、そうだ。毎日きらきら星亭に行けるじゃん。やったね、楽しみだなあ。
あたしは嬉しさを胸にいっぱいにしながら賞金とトロフィーをリーネちゃんから受けとろうとした時、ふとエミリアの方を見る。
しまった、駄目じゃん。受け取っちゃいけないよ!
だって、これ貰ったらあたしが悪魔だって事ばれちゃううううう。
ご、ごじゅうまん……。うぐぐ、でもばれたら大変な事になっちゃうし。
「おっと、私はもう旅立たなければならない。それでは皆様、御機嫌よう~、では!」
急いでここから逃げないと。
ああ、あたしの五十万ゴールド……。さよならあたしの毎日イチゴパフェ生活……。
あたしは会場を振り返りながら、逃げるようにその場から去っていく。
突然の出来事に、リーネちゃんや他の参加者の人達、観客の人達もただ呆然としていた。
建国記念祭の翌日。
あたしは相変わらず部屋でごろごろしている。そして昨日の事で、ちょっとだけ後悔もしている。
「はぁ~、イチゴパフェ食べたいなあ……」
正直、まだ諦め切れていないんだよね。
だって五十万ゴールドだよ!
あたしのお給金の何年分になるの!
はぁ……。
「こんにちは、シュウはいるかな?」
「え、エミリア!」
あたしが昨日の取り逃した賞金の事を考えながらうだうだごろごろしていると、二回ほどノックしてきた後にエミリアがいつもの優しい笑顔のまま部屋に入ってくる。
い、いきなり来られても!
やっぱり今日も片付いてないし、絶対にだらしないとか思われてるよトホホ。
ま、まあ部屋の事はおいといて、昨日の事言わなきゃ。
「エミリア、歌すごい良かったよ。とっても上手かったし、感動しちゃった」
「ふふ、ありがとう」
うんうん、これが言いたかったんだ。
リーネちゃんとのデュオも凄いしっかり出来てたからね。
あたしもああやって舞台に立ってエミリアと一緒に……、駄目だ、あたし音痴だった。がっかり。
はぁ、一緒に歌えたら気分いいだろうなあ。
「イチゴパフェ、食べに行こっか」
「うん!」
まるであたしの心中を察しているかのように、エミリアがあたしの手を取りデートに誘ってくれる。
毎日は無理だったけれども、こうやってデート出来るだけで満足かもしれないね。
エミリア、ありがとう。




