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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第二部「覚醒編」
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第三十四話 明星(ヘンタイ)を討伐(ぼこぼこに)せよ

 エミリアを救う決意をラプラタ様に告げると、ラプラタ様は一度あたしを見て微笑んだ後、目を閉じて詠唱をし始める。

 詠唱は僅かな時間で完了し、何もない所から真っ赤に輝く光の輪が現れた。

 そうだ。このわっかを通れば、あいつのところへ行けるんだ。


「さあ、魔界への道は開いたわ、ここを潜ればあの不審者の居城は目と鼻の先よ」

「はい、行ってきます」

 あたしは一度大きく深呼吸をすると、意を決して魔界へ通じる道へ飛び込んだ。



 気がつくと、少し昔にあたしの大切な人を守る為にその場所の主を倒そうとしたが、失敗してしまった場所がある。

 あたしはその場所を下から上へと眺めた後、拳を強く握り入り口へと駆ける。

 昔の様にはならない。必ず生きて帰ってくる、そして……。

「待っててね、エミリア。必ずあなたを助けるから」



 正直、今度こそ何らかの妨害があると思っていた。

 だからあたしは変身を解かずに城内へと入ったけれども、ふと大事な事に気づいてしまう。

 あれ、変身の解き方教えて貰ってないよ!

 どうしよう、困った。

 う、うーん。とりあえずはいいかな……、まだ風精の国に戻らないし、念願の巨乳だし……。


 そうなんだよね、今は巨乳なんだよね。

 うーん。

 あたしは立ち止まって自身の豊満な胸をじっと見た後、周りに誰も居ない事を確認すると自分の胸を軽く揉んでみる。

 う、うわあ、やらかい……!

 なにこれすごい。ふわふわでぷにぷにだね。うひょー。

 今まで体感した事無い感覚に、胸がわくわくしちゃう。


 って、そんな事してる場合じゃないよう、急がないと。

 自分が何をしてたのか振り返った後に胸を触る手を下ろすと、少し恥ずかしくなりながらも扉が開いている方へと再び走って向かう。


 そういえば、考え方とかは悪魔になっても変わらなさげなのかな?

 ラプラタ様に悪魔になったって言われてから、もっと知的になってたりとか、逆にグヘヘニンゲンクイタイとか、そんな風になるのかなって思ってたけれども、実は人間とそんなに変わりはないのかもしれない。

 じゃあやっぱりお腹空くのかな。ご飯とかどうするんだろ。あたしはイチゴパフェがいいなあ。

 イチゴの悪魔とか可愛いじゃん!

 ……いけない、また思考が脱線ぎみだった。やっぱり何も変わらないみたいだね。ふぅ。


 しかし、ラプラタ様は凄いよね。

 死んだ人間を悪魔に転生させちゃうなんて、どんな魔術使ったんだろう?

 戻ってきたらいろいろと聞かなきゃ。


 それにしても、大分奥まで行ったはずなのに誰もいないや。

 扉も開きっぱなしだから簡単にあのヘンタイの場所までいけそうだし、警戒しなさすぎでしょ。

 もしかして!

 あのヘンタイ、一人でここに住んでいるとか!

 一人ぼっちなんだね、かわいそー。まあ、いきなりエミリアをよこせとか言ってくるくらいだし、あんな怪しい風貌じゃあ、仲間とか友達とかいなさそうだよね。うふふ。

 だから妨害も何も、あいつしかいないからそもそもこれないんだよね。ナットク。


 あたしはいろいろと考えながらも、薄暗い城内を扉が開いている方へと進んでいく。

 そして意外とあっけなく目的地についてしまった。

 この女神か天使かわかんないけれども、翼の生えた女性のレリーフが施された門を開ければ……。


 目の前の門を手でゆっくり押すと、門は音を立てながらゆっくりと開いていく。

 部屋の中へと入り最初に見たのは紺色のドレスを身に纏い、背中に生えた翼はまるで羽化したばかりの蝶の羽のように濡れて糸を引いており、青白い唇に虚ろな眼差しでこちらを見つめる金髪ロングヘアーの天使の姿だ。

 雰囲気や見た目は大分変わってしまったけれども、間違いない。エミリアだ。


「エミリア! 迎えに来たよ!」

 こちらに視線を向けているような気はするけれども、やっぱりあたしが呼びかけても眉一つ動かさない。まるで聞こえていないみたい。

 あたしの声に反応したのか、奥の部屋からエミリアをこんな目にあわせた張本人であるヘンタイ天使が現れる。


「また君かね。おや、その姿は……」

「そうよ、あたしは生まれ変わった。エミリアを取り返すために地獄から戻ってきた!」

 決まった。我ながら初めてぴしっといえた気がする。嬉しい……、うるる。

 しかしそんなあたしの気持ちとは裏腹に、ヘンタイは鼻で大きくため息をつく。


「いい加減諦めたまえ。何の理由があって、私とセラフィムの永遠の時を邪魔しようと言うのかい?」

「ん……」

 ヘンタイは、あたしに見せ付けるかのようにエミリアを抱きしめ、深く唇と唇を合わせる。片方の手で背中を撫で回し、もう片方の手で胸を揉んでいるよ。なんていやらしいの!

 やっぱりヘンタイだ……。


「これで解っただろう? 私はセラフィムを求め、セラフィムは私を求めているのだよ。君が入る余地がどこにあると言うのかい?」

「うっさいヘンタイ! エミリアにえっちな事ばっかして最低よ! 今度こそ覚悟なさい、あたしがあんたなんてぼっこぼこにしてやるから!」

 もしかして、あたしが居ない間もこういうイヤラシイ事してたのかな……?

 なんて不潔なの!

 あたしのエミリアが、こんな奴の手で汚されるなんて絶対に許さない!


「今回もあの煩いメスを追い払ってくれないかい? セラフィム」

「はい、仰せのままに」

 エミリアは虚ろな光を目に宿したまま、笑顔でヘンタイの言葉に答えた後、何もない所から前にあたしをやっつけた薄紫色の鈍器を出す。


「私とルシフェル様の間を邪魔をする薄汚い人間のメスよ。再び私がこの手であなたを葬ってあげる」

 なんでここまで操られているの?

 何だか悲しさを通り越して、腹立たしくなってきたよ。


「いつまでもそんなヘンタイとくっついてないで、あたしの側に戻ってきてよエミリア!」

「なんて口を利くの? 人間風情が、私の光の力で跡形も残さない」

 エミリアは表情を変えず、鈍器を持たない手を天へかざす。すると手の平にゆっくりと光が集まっていき、みるみるうちにそれは人一人を飲み込む程の大きさとなる。


「この解らず屋! ちょっと大人しくしてなさい! 束縛と大地のルーンを組み合わせ、刻印術(ルーンフォース)、アースバインドを発動!」

「ぐぐ……」

 あたしが怒りでかっとなった時、両手を地面にかざしながら思いついた言葉を発すると、エミリアの足下から蛇のような岩が伸びていきエミリアを拘束してしまった。

 エミリアは何とか解こうとするが、まるでびくともせず、先ほどまで溜めていた光の力も霧状になって蒸発してしまう。


 あれ、何であたしこんな術発動出来ちゃったんだろう?

 もしかして!


「あなたの新たな力、簡単に言えば魔王の力といったところかしら。その力でエミリアを取り返してきなさい。使い方は実戦で覚える事」

 あの時のラプラタ様の言葉を、頭の中でもう一度蘇らせる。

 ひょっとして、これが魔王の力……?

 えっと、えっとお、刻印術っていったよねあたし。

 思い出せ、思い出すんだ。うーんと、えっと。


 ”ルーンを組み合わせて、様々な事象を引き起こす。ルーンには火・水・風・地などから成る『元素』のルーンや、束縛・解放・変質・再生・破壊などから成る『事象』のルーンがある”


 な、なんのこっちゃ……。

 自分から覚えたつもりはなかった。だって魔術とか難しすぎてさっぱりだもの。けども思い出そうとすれば確かにその事について思い浮かぶのは……。ど、どういう意味なの。

 うーん。大地と束縛がどうとかって自分でも言ってたし、つまり組み合わせればああやって不思議な事が出来るんだね!

 どうしてそうなったかは、まとめてラプラタ様に聞くから今はおいといてっと。

 よし、理解した。たぶん!


「ほう、セラフィムの力を封じるとは。やれやれ私が相手をしなきゃ駄目みたいだね」

 ヘンタイ天使は束縛されているエミリアの近くへ行くと、そのままエミリアと再び熱く深いキスをし始める。

 エミリアはその度に身をびくりと震わせ、悶えているようにも見えなくは無いけれども……。

 一体何なの!

 また胸揉んでるし、エミリアもエミリアだよ。何でそんな奴のいいなりになってるわけ!?

 しかもされて嬉しそうだし。

 ほんともう、ちゅっちゅばかりして、二人ともばっかじゃないの!


「あたしから目を離すほど余裕があるなんて……、もーあったまきた! 火と破壊のルーンを組み合わせ、刻印術、バーストインパクト発動!」

 あまりのイチャイチャぶりに怒りが頂点へと達したあたしは、再び刻印術を発動させると燃え盛る火炎が現れ、炎はヘンタイ天使に襲い掛かり飲み込もうとする。


「心地よい時を邪魔しないでくれないか? 冷却の聖光、クールダウンスプラッシュ」

 ヘンタイ天使が、エミリアから離れ天空術を発動させると、あたしが呼び寄せた火炎は瞬く間に消えていき、代わりに周りを瞬時に凍らせてしまうほどの冷気で満たされていく。


「そのまま氷付けにしてあげるよ。そして私とセラフィムの愛を永遠に見守り続けるといい」

 部屋をこごえさせた冷気はあたしへと襲い掛かる。

 吐く息が白くなっていき、目を開けるのもやっとな程の寒さが身を包み、全身に霜がついていく。

 でも負けない!

 絶対に取り返すんだ!


「涼しい涼しい、こんなの全然へっちゃらなんだから! 風と地のルーンを組み合わせ、刻印術、サンドストーム発動!」

 あたしは刻印術を再び発動させると、ヘンタイ天使の放った冷気を砂嵐で吹き飛ばす事に成功する。しかし力の加減が出来なかったせいか、砂嵐はあっという間に部屋中に広がり、あたしは視界を奪われヘンタイ天使を見失ってしまう。


 しまった。冷気を吹き飛ばす事ばかり考えて、周りがみえなくなっちゃった!

 ど、どうしよう、困った。

 うーん、発動させちゃったのどうやって止めるんだろう……。


「アハァ、君は実に愉快だよ。君は私の姿がわからないだろう。けれど私には君の姿が手に取るように解るのさ」

 な、なんでどうして!

 天使だからって、目で物事を見ているはずだよね?

 悪魔だから気配とか、殺気とかそういうのが強く出ちゃってるのかな?


「グッバイ、愚かな魔族のメスよ」

 どこからか声が聞こえた直後、後ろから妙な気配が迫ってくるのを感じたあたしは、とっさに腰に下げていた剣を抜いて体を気配の方へと向ける。

 次の瞬間、ヘンタイ天使がニヤニヤと勝ち誇ったような笑みを見せながらあたしに斬りかかって来るのを、何とかぎりぎりのところで受け止める事に成功した。


「力比べなら、……負けないさ」

 ヘンタイ天使はじりじりと前のめりになっていき力を加えていく。悪魔の力を得たはずなのに、力で押されるなんて!

 こ、このままじゃ負けちゃう……。

 でも、あたしは決めたんだ!


「あたしは絶対にエミリアを取り返すんだ。あんたなんかに負けない!」

「いい加減にしたまえ、私とセラフィムの仲は太古の時より決まっていた事なのだよ」

 エミリアがたとえ天使の生まれ変わりであったとしても、こいつが過去の恋人であったとしても、そんなの関係ないんだ。エミリアはエミリアなんだ!

 あたしは歯を食いしばり、何とかヘンタイ天使の剣を力で押し返そうとするが、まるでびくりともしない。


「実に馬鹿だよ。セラフィムを追わなければ、君は人間として幸福に過ごせただろう。それを放棄し、そんな姿になり果ててまでここに来るなんて、私には理解出来ないね」

「エミリアが居ない世界なんて幸せなもんか! あたしにとって大切で必要な人なんだ!」

 本当にイライラする。なんとかしたい。でも支えているだけで精一杯だし、このままだと……。

 む、でもこの状態って!

 あれをやってみよう。今なら人間の時よりもすんごいのが出来る気がする!


「くだらない、実にくだらないよ。アハァ、真っ二つにしてあげるよ!」

「火と破壊と変質のルーンを組み合わせ、あたしの剣に刻印術の力を加える! 奥義っ、爆裂剃刀斬りクリムゾン・リザー・デストロイ!」

「何だと!?」

 あたしは刻印術で自身の剣身が真っ赤になるほどの熱と炎を帯びさせると、力一杯勢いよく手前に引く。するとヘンタイ天使の持つ剣とあたしの持つ剣のこすれる部分に大爆発がおこり、ヘンタイ天使の持っていた剣を粉々に砕けると同時に、後ろへ大きく吹き飛ばされていく。


 あたしはヘンタイ天使が体勢を整える前に、急いで近寄り、見事彼の喉元に剣先を当てることに成功した。

 同時に視界を覆っていた砂嵐が収まり、再び薄暗い城内へと戻る。


「さあ、エミリアを解放しなさい! はやく!」

「セラフィムは僕のモノ……げふうっ」

 まだ解らない事言ってるから、あんまりにも腹立たしいし、おもいっきりお腹蹴ってやった!

 きいてるきいてる。

 本当ならエミリアにあんな事やこんな事してくれた報いを受けさせるためにも、もっとぼこぼこにしたいけれども、正直さっきの奥義使った後、頭がくらっときたからさっさと勝負つけないと。


「やれやれ、君の執念には恐れ入ったよ。……私も命が惜しいんでね、セラフィムは解放するとしよう」

 ヘンタイは片手で蹴られた腹部をなでながら、もう片方の手で指をぱちんと鳴らす。

 すると、エミリアの天使化が解けていつもの魔術師の姿に戻り、力なくぐったりとしてしまう。


「エミリア!」

 あたしはさっきエミリアを拘束する為に生成した岩を、無理矢理むしりとってエミリアを解放する。

 ようやく、やっとだよ。戻ってきた、あたしの大事な人が帰ってきた。

 自分の胸の中で気を失っているエミリアの顔を見て、ようやくそれが実感出来る気がした。


「なあ聞かせてくれないかい? 何故この少女が君をそこまでさせるのかい?」

 ヘンタイ天使はもはや抵抗するそぶりを見せず、座り込んだままいつものヘラヘラした口調で話しかけてくる。

 ぜんぜん反省していないと思うのは気のせいかな?


「駄目で何にも出来ないこんなあたしの事を、好きって言ってくれたのエミリアだけだよ。好きな人はどんな事をしてでも取り返す。たとえあたしがあたしじゃなくなったとしても……」

 あたしは一言、ヘンタイ天使の方を向き、彼の質問に答えた。

 あいつは何を感じたのか解らないけれども、鼻で大きくため息を一回ついた事を確認した後、あたしはここを出る事にした。


 去り際、ヘンタイ天使は何かをやりきったような、妙に満足そうな表情をしていたのは、あたしの気のせいかな? 

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