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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第二部「覚醒編」
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第二十九話 ついに会得!? 鈍色騎士の必殺剣

「いたいいいい!」

 踏み込んで懐には何とか入れたが、あたしの木刀による攻撃があともう少しのところで当たる時に師匠の武器を持っていない手が、あたしの頬へと直撃してしまう。

 あたしが防御を無視して全力で突進したせいもあって、当たりそうになったと気がついても自分の勢いを殺す事も出来ず、結果として師匠の拳をもろに受ける事となってしまったのだ。


「師匠。木刀以外で攻撃するなんて聞いてないよ!」

「アホかお前、戦場でそんな理屈が通じるかよ」

 涙目になりながらも、殴られてずきずきとしている頬を手で当てながら必死に抗議する。でも師匠は相変わらずそんなの無視してる、あたし一応女の子なのに。


「お師匠さん、今ちょっとどきっとしましたよね?」

「え?」

「エミリアちゃん! なんて事言うんだ!」

 今まで偉そうな態度をしていたのに、何だか焦っているような気がするけども、どきっとしたって、何に驚いたんだろう?

 エミリアには何か解ったのかな。


「シュウの予想以上に素早い攻撃に、刀身の長い木刀では攻撃できない懐へ一瞬にして入られた。だから空いてる手で応戦した」

「え、そうなの? じゃあ……」

「不肖の弟子よ、確かにエミリアちゃんの言うとおりだ。いい攻めだったと思うぞ。だがな、俺が敢えて言わなかったのは、お前が調子こいて特訓をサボるからと思ったからだ」

 あたしってどんだけ信用ないの。そりゃあ、剣の腕前はさっぱりだけどもサボろうとした事なんて……、そ、そりゃああるけどもさ!

 うう、酷い。

 でも褒められた!

 師匠が慌てるほどだから、実は結構成長してたり。うふふ。


「しかし逆手の方が向いているって、よく解ったな。流石はエミリアちゃんだ」

「シュウは力は無いけれども動きは速い方だと、今までの任務とか御前試合の時とかで何と無く気になってはいたのです」

 そ、そうなのかな?

 うーん、確かに力は無いよね。今まで剣に振り回されてばかりだったし、修行で何とか振れるくらいにはなったけども。


「お師匠さん、シュウの手枷と足枷っていつ外す予定なのです?」

「最後の三日間は休養させるつもりだったから、そうだな、五日後くらいだな」

「ほおほお」

 エミリアは何か納得しているようだけども、何を考えているのかな。

 それにしても、動きは速いのかな?

 あれだけ走らされて、足腰鍛えられたら誰だって速くなる様な気がしなくも無いけども。

 まあいいや。こっちの木刀の方が使いやすいし、これからこっちを使っていこう。ウンウン。



――遠征まで、残り五日。


 ついにこの日が来た。

 ようやくこの重い手枷と足枷が外れる!


「よし、外していいぞ」

 あたしはすぐさま、両腕両足についていた枷を外し、手足をぶらぶらさせてみる。

 何だろう、うーん。思ってたのよりも違う気がする。

 もっと軽いとか、風の様に速く動けるとか、そういうのを期待してたけれども、なんだかあんまり変わらないような?


「師匠、ちょっと着替えてきてもいいですか! エミリアが新しい装備作ってくれたので、それで相手をお願いしたいです」

「おう、着替えて来い」

 ふっふっふ。師匠の承諾も得た。完璧だ。

 あの意地悪師匠を、あっと驚かせる準備はこれで整った!

 あたしは師匠の家へ戻ると、稽古で着ていたぼろぼろの胴着を脱ぎ、あらかじめ持ってきたエミリアの装備に着替えなおす。

 

「お待たせしました!」

「ん? 意外と早いな。ほほお、それがエミリアちゃんの手製装備か、なかなか良く出来てるな」

 師匠も感心している。エミリアも上手く出来たって言ってたからね。

 新しい装備は動きやすさを重点に置いたつくりって聞いてたけども、すごい軽い。

 やっぱりスカートは短いしフリフリついてるけども、今まで鎧だった部分は胸当てになっている。

 そして今回は武器も新しく用意している。しかも二本。

 一本は昔の様に剣身は長くなく、あたしの肘から手首くらいの長さしかない。

 もう一本は……、こっちはとっておきなんだよね。


「ふふんー、あげないよ?」

「いるか! だいたい着れないし、女の子向けじゃないか……」

 着れたら欲しかったのかな?

 ま、まさかそっちの趣味が!?

 変なことは考えないでおこう。相変わらず何考えているんだろうあたし。


「よし、じゃあかかってこい」

「はいっ!」

 あたしは短い方の剣を鞘から抜くと逆手に持ち、師匠の僅かな動きを見逃さないように見続ける。

 こうして見ていると、師匠ってやっぱり凄い。どんな攻撃にも対応できるって言うのかな。今まで無闇に攻めてきた自分がどんだけ危ない事をしてきたかって事が解っちゃうね。

 でも、こうしてじっとしてても何も始まらない。師匠が隙を見せてくるとも思えないし、攻めるしか!


 あたしは今まで通り、地面を大きく踏み込み体の重心を前へ置き、師匠との間合いを一気に詰めようとする。

「また正面から突っ込んできたか。返り討ちにしてやる」

 師匠があたしを迎え撃とうと木刀を振り上げてきた。

 ここは事前に言われたとおりに……。


 あたしは剣身の角度を変えつつ横に振り、師匠の振り下ろされた木刀を地面へと流そうと試みる。作戦は上手くいき、師匠の攻撃は流され体が何も守られていない状態が出来た。


「ちっ、エミリアちゃんの作戦か? おらよ!」

 師匠は空いていた片手の拳を固く握り、過去と同じ様に自身の手で直接あたしを攻撃しようとしてきた。

 でも、もうひっかからないんだから!

 あたしはすぐさま利き足を軸にして地面を大きく蹴り、詰めていた師匠との距離を開けた。結果として、師匠の拳は虚しく宙を彷徨う事となる。


「なるほど、すばしっこさには自信があるからそれを活用しているってわけだな」

「ふふん、もう師匠には叩かれないよ!」

 あたしは、剣の持っていない手で師匠を挑発する。それに対し師匠は、大きく口を開けて大声で笑い出した。


「ハハっ、結構結構。不肖の弟子も成長したな、俺も教えた甲斐があるってもんよ。だがな、大人をなめちゃいかんぜ」

 その言葉を言い終えた直後、師匠の顔つきが今までとはまるで違う。何だか構えも今までと違うような?

 腰の落とし方が深くなってて、眼差しも物凄い鋭い。

 ここからが本気って奴なのかな。しっかり見ておかないと、なるべく他事は考えないようにしてと。


「奥義、虎影斬タイガー・シャドウ・バイト!」

 師匠がなにやら技の名前を言い放つと、師匠の居た場所に体の形をした影だけをうっすらと残し、それ以外はどこかへと消えてしまう。

 あたしは居なくなった師匠の姿を探すため、左右を見回すがまるで元々居ないかのように、気配を感じない。


「貰った!」

 声がした瞬間、いつの間にかあたしの目の前に師匠が現れ、師匠の木刀が腹部へ深々とめりこまもうとした瞬間、逆手で持っていた剣で攻撃を防御する。

 あ、危なかった。あと少し遅れていたらまたぼこぼこにされるところだったよ。


「ほう、これをかわすか。手枷足枷特訓はまんざら無駄ではなかったみたいだな」

「ま、まだまだっ!」

 またあんなのが来たら、今度こそ避けれないよ!

 本当にぎりぎりだったもの。

 でも確かに師匠が言ってるように、手枷してたのが役になってるのかも?


 けど危なかったのは事実だし、またさっきみたいに攻めても無意味そうだから……。

 こうなったら、あれをやってみるしかない。今こそエミリアと事前に考えた作戦を使うんだ!

 あたしは短剣を鞘に納めると、今度は剣身の長い方を鞘から抜き、順手で構える。


「逆手の次は順手か、……お前たった三十日で両方使えるのか?」

「や、やってみなきゃわかんないよ!」

 中々痛い所を言ってくれる。ぐぬぬ。

 確かにこの戦法を試すのはこれが初めてだったりする。エミリアから初めて聞いた時はあたしも正直信じられなかったし、今でも出来るなんて思えないのだけれども。


「師匠、いくよ!」

 やるしかない。いちかばちかやってみるんだ!


 あたしは、師匠へ真正面に向かいながら長剣を大きく振り上げ、距離が詰まった時その剣を振り下ろす。

「やっぱり使えてないじゃないか。ばればれの攻撃だな、こんなもの防がれるだけだぞ」

 師匠はその攻撃を難なく手で持っていた木刀で受け止め、あたしの攻撃を流そうと剣身の角度を変えようとした瞬間。

 そう、あたしはこの瞬間を待っていたんだ。今しかない、いっけえ!


「奥義っ、稲妻剃刀斬りサンダー・リザー・アタック!」

 あたしは防がれた自身の剣を力一杯、強く押し付けながら勢いよく引く。

 すると、剣と木刀がこすれた場所が激しく爆発を引き起こし、師匠が持っていた木刀は粉々に砕けると、師匠自身も後ろへ大きく吹っ飛んでしまった。


「やったー! 師匠を倒した!」

 や、やった。上手く出来た!

 エミリアの言ったとおりだった、すっごい威力だなあ……。



 実は師匠と出会う前、エミリア特製装備を受け取りに行った時にある戦法を教えて貰っていたのだ。



――今から二日前。


 師匠にみっちりしごかれた後にエミリアと合流したあたしは、水浴び場で女の裸の付き合い……もとい治療をして貰い、そのままエミリアの自室へと向かう。

 自分の部屋に到着して早々、エミリアがあたしの為に作ってくれた装備を渡してくれたんだけれども、なぜか今回はその装備の説明をエミリアがしてくれる事となり、あたしはなんとか寝ないようにしっかりと聞くようにした。

 前はそんな説明なかったのに、今回はどうしたんだろ。


「よく聞いてね。私の思ったとおりならきっと出来るから信じてやってみて。今まで使ってた剣を少し改良したんだけれども、何か固いところに擦る様に力一杯引いてみて」

 一体何を言っているんだろう?

 正直、初めて聞いた時は何が何だか訳が解らなかった。けれども、エミリアがでたらめな事を言うとも思えないので、あたしはエミリアから笑顔のまま剣を受け取る。

 確かに今まで使ってたものよりも軽いし、なんだかしっくりとするというか妙に手に慣れた感じがする。


「これで試してみてね」

 エミリアは指をパチっと鳴らすと、何も無い空間からふっと黒い金属のようなものが現れた。見た目からして固そう。

 あたしはエミリアに言われるとおり、金属の塊に剣を押し当てた後、勢いよく剣を引く。


「うわあ!」

 剣を引いた瞬間、金属と剣身の触れていた部分から激しい火花が発生し、強い衝撃と共に大きく爆発する。

 身構えていなかったあたしは情けない悲鳴と共に、その爆発に巻き込まれて後ろへこけてしまった。


「雷の力を宿した魔法の石で作った剣なんだけれど、今回の調整でシュウが昔使っていた刀身の長いほうの木刀と同じ大きさと重さにしたよ」

 どうりで使いやすいはずだ。修行の時に使ってた木刀と同じだったらしっくりきても当然だよね。


「その魔法の石は強い衝撃と摩擦によって、雷の力を発現するの」

「うーん、確かに凄いんだけれども、こんなの相手に当たるのかな……?」

 剣の凄さは解った。エミリアは本当にあたしの事を考えてくれている。あたしなんかにはもったいない装備だと思う。

 でも使いこなせるのかな。ああやって剣をこすり付けるような場面を作れるのかな?


「例えば、相手がシュウの剣を受けとめる。その時にシュウは、さっきと同じ事をしたらどうなると思う?」

「あ……!」

「自分自身の攻撃でさっきみたいに吹き飛ぶ事がない様に、防具を雷と衝撃に強くするね」

 エミリア凄い。すごいよ!

 あたし気づいちゃったよ。これやばい、めっちゃすごい技じゃん!


「やったー! あたしにもどーんってなってばりばりって敵を倒せる技が出来る様になった!」

「ふふ、よかったね」

 あたしはその場で思わず飛び跳ねてしまうほど喜んでしまう。そんなあたしの様子を見て、エミリアは終始にこにこと笑顔を絶やさなかった。



――そして現在。


 こうしてあたしは、こっそり技に名前をつけて師匠に初めて試してみたのだけれども、上手くいった!

 師匠も倒せたし、うれしー!


「いててえ、その技が自由に使えるなんて聞いてねえぞ、くそう」

「ふふん、戦場ではそんな言い訳は通じないよっ」

 やったね、師匠をようやく倒せたよ!

 いつも言われている事を言い返してやった、ふふー。

 あれ。自由に使えるって言ってるけども、今まであたしってこの技使ってたの……?

 うーん、心当たりが無い。まあいいや。


「本当、お前には驚かされるよ。もう不肖の弟子なんて言えねえな。よくここまで成長したな、我が自慢の弟子よ」

「し、師匠……」

 よ、ようやく認めてもらえた。

 騎士団に入ってからはずっと邪魔者扱いだった、何をしてもあたしに向けられる眼差しに暖かさは無かった。

 でも、でも、いっぱい頑張って、それが認められて。

 なんだろう、えへへ、涙がでてきちゃった。

 こんなに褒められて嬉しい事なんて初めてかもだよ。


「って言うと思うかバーカ! 隙あり!」

「うぎゃあ!?」

 あたしが感傷と感動に浸っている時、師匠は背中に隠していた木刀の切れ端を持ち、あたしの体を勢いよく突く。

 全く警戒していなかったあたしは、見事にその不意打ちを受けて背中から倒れてしまう。


「痛いいいい。ひ、酷いよう……、くすん」

「ふん、勝った時こそ気を引き締めろ。実際の戦場では相手が戦闘不能になるまでは絶対に油断するなよ」

 こんなのありなの!?

 師匠め、そんなにあたしに負けたのが悔しかったんだね。きっとそうだ、ぶーぶー。


「天使倒して来い、そしてエミリアちゃんを守ってやれ」

 師匠は仰向けになっているあたしを見ながら、満面の笑みで言う。

 その瞬間、あたしの胸の中に何かぐっとこみ上げて熱くなるものを感じる。


「は、はい!」

 こんなに頑張ったんだ。今までの任務だって無事こなして来た。

 今回だって成功する。ううん、成功させる!

 あのヘンタイをやっつけて、エミリアを救うんだ。

 絶対に負けない!


 あたしは仰向けのまま、拳を握り締めた後に空へ突き上げて、任務成功を心に誓った。

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