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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第二部「覚醒編」
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第二十八話 どきっ☆貧乳女子だらけの水浴び場。ポロリは無い。

――遠征まで、残り十一日。


 今日も師匠からの一方的な叩かれあい、もとい剣の稽古が終わり、あたしはぼろぼろの体を引きずりながら自分の宿舎へと帰る。

 今は遠征の準備で任務は無く、自由に自分の時間を使えるのだけれども。


「はぁ……、今日も駄目だったなあ」

 最近全然上手く行かない気がする。というか上手くいってない。

 上達する気配が無いし、師匠は相変わらずやれば出来るとか気合が足らないとか根性論だし。駄目なのかな、やっぱりあたしじゃあ……。

 手枷と足枷は水浴びする時以外外すなって言われてるから、ずっと手足が重いし気持ちも重い。汗臭いけども疲れたし、もう今日はこのまま寝よお。


 あたしは自分の部屋の扉をゆっくり開け、何も考えずにベッドへ行こうとしていた時だった。


「お疲れ様。いつも頑張ってるね、えらいね」

「え、エミリア!」

 乱雑に物が置かれた、所謂片付けられていないあたしの部屋にエミリアが笑顔で待っているじゃない!

 なんでいるの!

 お部屋全然掃除してないよ、やばいよ、絶対にだらしないとか思われているよー。

 あたしはあたふたしながらも何とか笑顔をつくってエミリアに答える。


「なんだか、元気なさそうだけども。お師匠さんに絞られてるのかな?」

「うーん、それもあるんだけどね。剣の腕がなかなか上達しなくってどうしようかなって思ってたの」

 流石のエミリアも剣術の事は解らないだろうなあ。でも心配してくれてるし誰かに打ち明けたかったから言っちゃった。

 余計な心配かけちゃったかな、エミリアだって大変なのに。


「ふむふむ。明日、シュウの特訓見に行ってもいいかな?」

「おおー! いいけれど何もないよ? いつもぼこぼこにされるし……」

 エミリアは頷き真剣な表情で少し考えた後、再びいつもの優しい笑顔に戻り話した。

 あたしの稽古なんて見てても面白くないけれども、ひょっとしたら何かいいヒントくれるかもなんて期待してみる。

 散々しごかれる風景見てドン引きされたらどうしよう。


 あれ、どうしてエミリアはあたしの部屋にいるんだろう?

「そういえば、エミリアは今日どうしたの?」

「次の遠征に備えて装備を新しく作るから、また体形を調べさせて欲しいなって思ってね」

 エミリアの装備!

 そういえば最初のは火竜の国王に破壊されて、すぐに同じ奴を作ってもらったけども、それももうぼろぼろだからなあ。


「う、うーん。ちょっと水浴びしてきてもいいかな?」

「うんうん」

 このままじゃ汗かいててベタベタしてるし、多分におってるだろうし、これ以上エミリアに近づいたらきっと嫌われちゃう。ささっと体洗ってこよう。


「私も一緒に水浴びしにいってもいいかな?」

「へ?」

「一緒に行こう。ね」

 一緒にいこうって、えええええ!?

 何それエミリアと一緒に水浴びなんて!

 ど、どうしよう。乳無いのが目立っちゃう。

 でもでも、折角エミリアから誘ってくれてるし……。


「丁度、裸になれれば体形も解るからいいなーって思ったけれども、一人の方がいいかな?」

 なんでそんな残念そうな顔をするの!

 物凄い申し訳ない感じになっちゃう。

 しかも残念そうな顔も可愛い……。うーん、今更貧乳なんて解りきってるしいいかな。


「ううん!? そんな事ないよ! 一緒に行こう!」

「ふふ、じゃあいこっか」

 こうして何故かエミリアとあたしで水浴びをする事となった。



「うわあ……、すごい」

 エミリアに誘われて、ゴールド専用の水浴び場に初めて入ったけれども……。

 床が鏡みたいにぴっかぴかだし、丁寧に掃除してあるのかな、歩くときゅっきゅする!

 おおーっ、金色のライオン像の口から水が出てる。何これおもしろい!

 あたしがいつも使ってるブロンズ専用のぼろぼろでぬるぬるで所々カビてる水浴び場とは、まるで天国と地獄くらい差があるよこれ。


「どうしたの? 何かあるのかな?」

 後ろから聞こえたエミリアの声に反応し、あたしは振り返る

 そこには柔らかい布で体を隠し、普段さらさらつやつらなロングヘアーは後ろ

でおだんご状にしているエミリアの姿があった。

 色白で綺麗ですべすべしてそうな肌、もちろんお胸もある。スタイルも抜群に良い。

 それに比べてあたしときたら、最近特訓のせいでますます筋肉質になっちゃったし、お胸も無いし……。

 駄目だ、人と比べちゃ駄目なんだ、自分を卑下するな。そもそもエミリアが綺麗過ぎるんだ。ウンウン。


「何か変かな?」

「ううんそんな事ないよ! 初めてあった時も思ったけども綺麗な肌だし、スタイルも凄いいいなあって!」

「ふふ」

 凄い可愛い。もうそれ以外言葉が思いつかないや。

 やっぱりこれくらい可愛かったら男の子とかにもモテるんだろうなあ。


「エミリアって、やっぱり騎士の男の人とかにも人気あるのかな?」

「うーん、私は男の人嫌いだからあまり興味無いかも。やっぱりかあいい女の子が好きだよ」

 意外とそうでもなかった。確かに男の子と一緒にいたのって、あたしの前のパートナーだった最高ランクの騎士と一緒に、なんだかよく解らないけど難しい任務をこなしてみんなの前で勲章貰ってた時くらいだったなあ。

 そういえば、ラプラタ様も女の子好きって言ってたし、ラプラタ様も影響なのかな?


「じゃあ体形見つつ背中流してあげるから、巻いてある布とってもらってもいいかな?」

「うーん……」

 あたしはしぶしぶと、体を隠していた布を取り、生まれたままの姿になる。


「傷だらけじゃない! すぐに治さないと。じっとしてて」

「う、うん」

 貧乳とか残念体形とかよりも、修行でつけられた生傷を見てエミリアは急いで手当てしようとする。余りにも強く言われてしまったから驚いちゃったよ。

 またぼこぼこにされるだろうから、放っておいてもいいのに。


「何でこんなになるまで黙ってたの?」

「え、だってどうせ修行していれば、またボロボロになっちゃうし……」

「駄目! 今度からは怪我したら私の部屋に来てね。約束だよ?」

 そ、そんなに強く言わなくても。

 ちょっとどきっとした拍子に、思わず頷いちゃったよ。


「私の大事な騎士様なんだから、もっと自分の体を大事にして。心配なんだからね」

 エミリアの一言はあたしの疲れた体と心にじんわりと響く。それはどんなおいしい食べ物よりも、どんなに強力な回復魔術よりも、効き目があるような気がする。


 大切にしてくれる事がなんだかとても嬉しくって、思わずあたしはエミリアを強く抱きしめてしまう。

 抱きついた時にエミリアの体を包んでいた布は外れて、二人は素肌のまま触れ合い、あたしはエミリアをじっと見つめていた。


「近いから、照れるね」

 すごい胸がどきどきしている。

 あたしの大切な人が、こんなに近くにいるなんて。

 今、あたしの腕の中にいる人は、あたしの事を大切だと思ってくれている。

 この人となら……って、何考えてるの!?

 でも、でも!


 あたしの心の中の様々な気持ち、愛情とか、遠慮とか、葛藤とか、欲望とかもう何が何だか訳が解らなくなってどうしようかいろいろ考えている時。


「あーーーー! 何でブロンズがこんなところにいるの!」

「げげっ、その声は……」

 あたしはとっさにエミリアから離れ、声がした水浴び場の入り口を方を向く。

 するとそこには毒々三姉妹の一人、シャーリンが幼い体つきを一枚の布で隠した状態で立っていた。

 確かに金魔術師の水浴び場だから来てもおかしくはないけれども、このタイミングで出会うなんて!


「二人でなに抱き合ってるの? さてはいやらしい事ね! 不潔よふけつ! 皆にいいふらしてやるんだから!」

 しまった、見られていたのかな。

 これは絶対にめんどくさい事になっちゃうよ。どうしよう。

 で、でも、エミリアだけは守らなきゃ。

 あたしの評判はもう既にどん底だからいいとして、エミリアの人気を落とすような事だけは何とか食い止めなきゃ。


「うっさい! このひんにゅーの幼児体形め!」

 あたしはシャーリンの体形を見ながら言い返す。

 我ながら自分の事を棚にあげて何を言っているんだろう。

 でもエミリアを守らなきゃ、へんな気持ちになってた事から逸らさせないと。


「なっ、人が気にしている事を……! うきいいい! 何よ、底辺の癖に!」

 意外と効果があった。正直自分でも驚いているよ。

 シャーリンは顔を真っ赤にさせて、足じたばたさせながら悔しがっている。

 でも、何だかあたしも悲しい気持ちになるのは、きっと気のせいじゃないんだよね。


 あたしとエミリアは、地団駄を踏んで罵声怒声を発し続けているシャーリンを無視しつつ、さっさと水浴びをすませる事にした。

 何とか誤魔化せて良かった。ウンウン。



――遠征まで、残り十日。


 昨日のあたしとの約束を守ってくれたらしく、あたしがいつも修行をしている場所へエミリアが来てくれた。あたしはいつも通り、修行で使っている木刀を振り、構えとか型を師匠とエミリアに見てもらう事にしたわけだけども。

 二人とも怪訝そうな顔をしている。うう、やっぱり駄目なのね。


「何でしょう? 言い表せないけれど、何かがおかしいですね」

「だよな。だが漠然としてて何が悪いか解らん」

 エミリアは魔術師なのに、剣の事解らないはずなのに変な事解っちゃうなんて!

 うーん、どこが変なんだろう……。


「やっぱり、才能が無いからかな。はぁ」

「才能? お前そんなもん信じてたのか?」

「うん、だってちっとも上手くならないもの! 才能があったらこんな苦労しないと思うよ。頑張っても報われないの辛いよ!」

 師匠に八つ当たりしちゃった。出来が悪いのはあたしのせいなのに、ちょっとイライラしたから当り散らすなんて、もう嫌だよ。


「お師匠さん、もっと短い木刀ってあります?」

「ん? 家の中にあるぞ。おい弟子よ、俺の家の中からもっと短い木刀をとってこい」

「何であたしが使いパシリみたいな事しなきゃいけないの」

「うるせい、さっき八つ当たりした罰だ。つべこべ言わずにとってこい!」

「さてはエミリアに何かする気だね? えっち! 許さないんだから!」

「はぁ? いいからさっさと行って来い。何もしねえで待ってるからな」

 何だか無性に腹立つけれども、これ以上当たってもいい事なさそうだし、大きく息を吸って落ち着かせつつ、木刀とってこようっと……。



 あたしは今まで使っていた物よりも小振りな、刀身があたしの手首から肘くらいの長さしか無い木刀二本、しぶしぶ師匠の家から持ってきた。

 あれだけ家の中はぐちゃぐちゃで片付けられていないのに、武器だけは念入りに手入れされており、保管されていた場所も綺麗だったのが意外だね。


「持ってきた木刀を振ってみてもらってもいいかな?」

「うん」

 あたしはエミリアに言われるまま、いつもと同じ様に剣を振ってみる。

 短くなって軽くなったのかな?

 確かに前つかってたのよりかは扱いやすい気がするけれども、そんなに変わってるのかなあ。

 そう思いつつも、素振りを続ける。


「お師匠さん、剣の流派は順手ですが? 逆手ですか?」

「ん? いや、特に決まってないが。俺も俺の師匠も順手だな」

「決まりは無いみたいですね。じゃあ、逆手に持って素振りをしてみて」

 あたしは言われたまま木刀の刀身が腕の方へ来るように、逆手で持ってみた。


「……これってどうやって振るの?」

 持ち方は知っていた。騎士団の中にも剣を逆手で使う人は少ないけれども居る。

 けれども、あたしはこんな持ち方したの初めてだし、何これどうすればいいの?


「んーっと、パンチする時みたいに手を振ってみたらどうかな」

 ほおほお。どれどれやってみよう。

 逆手で持った小ぶりな木刀を握った状態で、見えない相手めがけて拳を突き出してみた。


「うーん、これって強いの? なんとなく使いやすい気はしなくもないけれども」

「実戦で試してみたほうがいいかな。お師匠さん、相手お願いしてもいいです?」

 ええ!?

 いきなり師匠と戦うのとか無理だよ!

 全然何が何だかわけわかんないのに、エミリアって意外と厳しい……?


「よーし、じゃあいくぞ」

 師匠がにやにやしながら木刀を持って構えてるし。

 あたしの事ぼこぼこにする気まんまんじゃん!

 酷い、いじめ良くない。


 まあいいや、ぼこぼこにされてもエミリアが治してくれると思うし。痛いのは嫌だけども仕方ない。

 よし、いくぞー!


 あたしは大きく踏み込み、師匠の懐へ入ろうとする。

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