番外編 成長への願い。ラプラタ思いの片鱗
第二十話後半部の執務室内でのやり取りが舞台です。
会話のみとなります。
「来ると思っていたわ。そして、あなたが今から言おうとする事も知っている」
「……さすがです。ではお答え下さい。火竜の国王への親書、あれはラプラタ様が書かれた物ですよね」
「ええ、そうよ」
「何故こんな事をするのです?」
「それは愚問よ、あなたは既に解っている筈だもの」
「シュウの成長、ですか?」
「ええ」
「いくらなんでも無茶がすぎる思います。結果としてシュウは、騎士としても人間としても成長しました。ですが、こんな危険な事をしなくても良いのでは?」
「あまり時間の猶予が無くってね」
「あなた様は何をお考えなのです?」
「それよりも、珍しいお茶が手に入ったの。一服していくといいわ」
「はぐらかさないで下さい」
「私が何者かを聞いた時も、あなたはそうでした。あなたは恐らく全てを知っている。けれども、それを誰にも打ち明けようとしない」
「エミリア……。私は――」
「今回もそうやって私を煙にまこうとするのですね。私だけだったらそれでもいいでしょう。ですが、今は私以外の誰かも巻き込んでいる」
「詳しい事は言えないわ。今はまだ、誰にも明かす事は出来ない」
「そんな顔をしないでエミリア。別に悪いようにはしないわ」
「良い悪いの問題を今話しているのではありません。私は、あなた様の思いが知りたいのです。何をしたくて、それが何になって、結果としてどうしたいのか」
「ごめんなさい。やっぱりまだ話せない。けれどシュウちゃんにも同じ事を言ったけれど、誰でもいいって訳ではないのよ? あなたとシュウちゃんだからこそ出来る事だと信じている」
「信じているって事は、出来る確証が無いって事ですよね」
「ええ、その通りよ。でも私の考えに間違いが無ければ、あなたとシュウちゃんが一番成功する見込みがあるの」
「もしも、失敗したらどうなるのです? 命を落としてしまうのです?」
「そうね。最悪、死んでしまうかもしれない」
「そんな重要な事なのに、何の詳細も教えてくれないのですね」
「私は、あなた達を信じている。あなたがシュウの事を大切に思い、信じているのと同じ様にね」
「シュウは頑張り屋さんです。今は未熟でもきっと大成してくれる。……いいえ、大成します」
「素直に頑張っている子を見ていると、応援したくなるよね。私も同じ考えよ。あなた達の成長を願い、そして応援している」
「私は……、頑張ってないです。適度に手を抜いて、自分のペースで物事を進めているだけなのです」
「あら、そうかしら?」
「約束を守って迎えに来る人だけって言って、自分の身が危険であってもそれをかえりみずに相方をつき返したって事を知らないと思ってたのかしら?」
「あの時、あなただったら脱出出来たはずなのに、敢えてそうしたのは、何故かしら?」
「……シュウに、成長して欲しかったから」
「シュウは、自分は何も出来ないって思い込んでいる。本当はそんな事無いのに、そういうネガティブな考えがシュウ自身を縛っているのです」
「だから、きっかけを与えたかった。あなたは出来るってね」
「それでも、私は狂毒竜の棲家へ行かせるほど酷くは無いですよ」
「そこまで知っていたのね」
「当然です。私の傷はラプラタ様の魔術だけで十分治療出来たのに、薬草と伝えて無意味な植物の採取をさせるなんて」
「無意味な植物ではないわ、最高級のお茶の葉が手に入り、あなたと私はこれからそれを堪能出来るもの」
「狂毒竜ヴィルレンティス、ゴールドクラスの騎士や魔術師を討伐に向かわせても、結局倒せなかった。現在風精の国では、特定危険生物に分類し監視下においているドラゴン」
「相変わらず冴えるわね、エミリア」
「解らないのです。正直、シュウでは太刀打ち出来ない相手だったのに、あの子は無事に帰ってきている」
「あなたの願いを私が出来る範囲で一つ叶えてあげるから、私の願いも聞いて欲しいって言ったの」
「それが、シュウを試すって事だったのですね」
「その通り」
「どんな願いを叶えたのです?」
「それは言わない約束になっているからここで明かす事は出来ないの。でも私たちに危害を加えるような事ではないし、近い内に解るわ」
「では別の疑問だった事を聞きます。ならず者の隠れ家へ行く任務の時は何が目的だったのです?」
「あの任務の目的は、シュウちゃんの実力を計りたかった。だからシャロン君が自ら増援をお願いした時に、承諾したの。正直、あなたが怪我をするのは想定外だったわ」
「そうですか。……結局、核心となる部分は教えてくれないのですね」
「さっきも言ったけれど、いつか必ず話す。それは約束する」
「では、その時まで待っています。絶対に話してくださいね。後お茶、貰います」
「………」
「………」
「変わった味ですねこれ……」
「え、ええ。そうね……」




