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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第一部「成長編」
21/107

番外編 最高最低コンビの初デートinきらきら星亭

「エミリアー」

「こんにちは、今日はどうしたのかな?」

 今日は任務も無く、いつもならごろごろ……もとい剣の素振りをして体を鍛えるんだけれども、あたしはずっとこの時を待っていたのだ。

 あたしの鎧は破壊されてしまった為、本来鎧の下に着る、自分で縫ったらちょっと失敗しちゃったワンピース姿でエミリアの自室を訪ねる。

 椅子に座って本を読んでいたみたいだから、エミリアも暇を持て余していたのかな?


「エミリアと一度、一緒に行きたかった場所があるの。 だから今日は任務もなさそうだし、どうかなって思って」

 大丈夫かな、本読むのが忙しくって駄目って言われないかな?

 たぶんきっと大丈夫だよね、頑張れあたし、何も心配する事は無いんだ。


「ほおほお、ちょうど手空いてたし行こうかな」

 よかった。これであたしの念願が叶う、わくわく。

 エミリアは立ち上がり本を片付け、壁にかけてあったマントを羽織ると、あたしの手をぎゅっと強く握ってくる。


「騎士様、私をエスコートしてね」

 エミリアが笑顔でこちらを見つめている。握られている手からは心地よい暖かさが伝わっていく。

 か、かわいい……。

 いやあん、どきどきしちゃうよ!

 確かに初めてのデートだからね、よし、頑張ろう。騎士として、パートナーとして。


 目的地までの道中。

「さっき何の本読んでたの?」

 あたしが来る前に読んでた本の内容が少し気になり、さり気なく聞いてみる。

 あれだけ賢いエミリアだから、難しい本とか読んでいたのかも。


「魔法少女ユメリアの奮闘日記だね、お友達が貸してくれたから読んでるけど、主人公のユメリアがかあいいんだよ」

 意外と軽いお話の本だった。

 普段本読まないあたしでもあらすじと題名くらいは聞いた事がある。スラム街出身のユメリアが不慮の事故によって命を失った後に魔法少女へと転生し、悪徳貴族をやっつけるって話らしいけど、騎士の間でも男女問わず人気があるみたい。


「国立図書館にあった本は百科事典も含めてほぼ全部読んじゃったからね」

 う、うそでしょ!

 国立図書館の所蔵数は百万冊以上って聞いた事あるよ!

 それを全部読んだって、流石にちょっと信じられないかも……。

 う、うーん。本好きそうではあるけども。


 あたしは自分自身を納得させられないまま、歩いていく。その時もずっと手は繋いだままで、あたしの事を大切にしてくれている思いがぬくもりとして伝わってくるような気がした。


「ここがそうなんだよー」

 ついに到着。目の前にずっとエミリアと一緒に行きたかった場所がある。

 丸太を組み合わせて作られた店は柔らかい印象を与える、軒先には流れ星を背景に”きらきら星亭”と文字が書かれた看板がかけてある。連日、中からは女の子の話し声が絶えず聞こえており、店外まで人が並ぶ事もあるくらい人気のお店だ。


「エミリアは行った事あるよね。最高ランクだし、顔も広そうだからなあ」

「ううん、初めてだよ?」

 あれ、意外かも。

 てっきりエミリアの事だから、他の高ランクな人との付き合いで何度も行ってると思ってた。またエミリアの意外な一面を知れた気がする。


「デザート食べたかったら自分で作るからね」

 ひええ、料理も出来るんだ。

 エミリアって本当に何でも出来るんだね。万能超人すぎる。

 夜に原因不明の痛みが無かったら弱点全くないよね。間違いない。

 でも、エミリアの作る料理ってどんなんだろ。きっとおいしいんだろうなあ。


「じゃあ今度、あたしにも作って欲しいかも」

「うんうん、作って持っていくね」

 やった!

 エミリアのデザートが食べられる、楽しみー。何を作ってもらおうかなあ、わくわく。

 おっと、今は余計な事を考えず、エスコートエスコートっと。


「中に入ろう。ここのお勧めはイチゴパフェなんだよ」

「イチゴは私も好きだよ。楽しみだね」

 お店の扉を開けると、扉に取り付けられていた鈴が鳴り出す。それと同時に中に居た店員さんが元気な声で挨拶をしてくれる。


「あ、フロ姉。あそこにエミリアがいるよー」

「ん? エミリアがここにいるわけ無いじゃないか」

「多分、百パーセントの確率でエミリアだと思う」

 げ、この声は……。

 店員さんの声の後に聞こえた、どこかで聞いた事がある三人の声。まさか。


「あー! 毒々姉妹!」

 少し前にエミリアと決闘して、負けたフロレンス率いる金魔術師達が居た。既にパフェが机の上にあるって事は、あたし達よりも早く来てたのかな。

 ってそんな事考えている場合じゃない、エミリアと仲が悪いこの三人と出会うなんて何て不運なの。

 気分良くデザート二人で食べようって思ってたのに。


「何その呼び方! ブロンズごときが出張ってるんじゃないよ。フロ姉、言い返さないとー」

「底辺の戯言を気にするなんてシャーリン、大人気ないわ」

「うぐぐ……」

 うん、基本はこうなんだよね。

 上位ランクに対するあたしの対応は基本この様に、そもそも相手にしないというか眼中に無いというか。そういう一点においてもエミリアがいかにいい意味で他の人と違うという事が解る。


「あははは、何その呼び方。おもしろっ」

 毒々姉妹とあたしがにらみ合っていた時、奥にいた女の子が店内の隅々まで聞こえてしまうほどの通る声で笑い話しかけてきた後、エミリアと同じ色の肩ほどの長さで毛先はゆるくウェーブがかかっている髪を揺らせ、ルビーのような真っ赤な瞳に興味と好奇心の輝きを宿しながら、笑顔であたし達の方へ向かってくる。


「あれー? エミリアが来るなんて珍しいじゃん。どうしたの?」

「今日はデートなんだよ。いいでしょ? ふふ」

「ほほお、キミが噂のお化け魔術師の相方だね。初めまして、あたしはエルネスティーヌ。長ったらしいからエルって読んでね。一応魔術師ランク二なんだ」

 うひゃあ、エミリアの次にランクの高い人だ。

 なんだか皆高ランクばっかりで、あたし居づらいと思うのは、きっと気のせいじゃないのね。

 折角のデートなのに、なんてこったい。


「エルちゃん、私はお化けじゃないよ?」

「そんな事言ったって、私は騙されないんだからね?」

 あたしは頬を二度ほどつつかれて、何だろうと思いながらそちらを振り向くと、エルさんはエミリアと同じ意地悪な笑顔をしながら、あたしに耳打ちをしてくる。しかし声はエミリアにも聞こえるほど大声だ。


「知ってるシュウちゃん? 詠唱と集中に時間のかかる事で有名な上位火炎魔術があるんだけど、同時詠唱が出来る二枚舌のエルなんて言われてる私ですら十二秒かかるのに、エミリアは何秒だと思う?」

 何秒だろう?

 うーん、半分くらいかな?


「たった三秒。ホントあり得ないよね。何だろう、呼吸をするように魔術が使えるみたいな?」

「まぐれまぐれ、私はエルちゃんみたいに同時詠唱出来ないからね」

 ランク二の人が十二秒かかるのに、たった三秒!?

 確かにお化けって言われてもおかしくない気がする。ひえー。

 本当、魔術も出来るし、それ以外の事も出来るし、凄いんだなあ……。

 なんか、あたしがパートナーでいいのかなこれ。

 でもここまで何でもこなせちゃう人だと、逆に凄すぎてとっつきにくいとかあるんかも?

 それにしては、エルさんと仲良さそうだし、ううん。


「エミリアって完璧すぎるから近寄りがたいのかなって思ってたけれども……」

「いや? むしろ同じ魔術師の間でも人気はある方だね。ほら」

 エルさんが指を指した方向を振り向くと、銀色の勲章を下げた魔術師っぽい女の子二人組みが頬を赤らめ、なんだかもじもじしながら恐る恐るこちらへと近寄っていく。


「あ、あの……、エミリアさんですよね? 握手して貰ってもいいですか?」

「はい」

 エミリアはいつもの笑顔のまま、二人組みの女の子が差し出してきた手をそっと優しく握る。


「きゃー! エミリアさんに手握ってもらえた!」

「やばいよやばいよー、すっごく綺麗ですらっとしてたね!」

 女の子達は黄色い声をあげながら、自分たちが座っていた席へ戻っていく。それからずっと、エミリアについての話を盛り上げている事が、ここからでも聞こえるほどだ。


「完璧超人すぎて近寄りがたいって思うのは解るけれども、そこはエミリアの人となりかな、こうやって他の魔術師からの憧れの存在になっているんだよ。人気なら二番目にあるね」

 人気もあるとか、エミリアって一体何者なの。

 あたしって、本当に雲の上の人とペア組んでるんだなあ……。

 あれ、二番目?


「エミリアよりも人気な人がいるの?」

「あー……。一番は、まああの子は例外だから気にしなくていいかも」

「リーネちゃんは、かあいいよね。ふふ」

 エミリアはにこにこと笑顔のまま答え、エルさんは多少遠い場所を見ながら、呆れた表情をしながら教えてくれた。

 リーネちゃん……?

 エミリアよりも人気もある魔術師っていたっけ?

 そういえば、エミリア以外はリトリアくらいしかまともにペア組んだ事無かったから、他の魔術師の事、あんまし良く解ってないや。

 でも金魔術師でリーネって名前の人聞いたこと無いし、誰なんだろう。


「ふう、今日も暑かった~。あーーーーーー!」

 ひいっ。

 いきなり入り口から甲高い声が聞こえてきた、耳がきんきんするう……。


「エミリアお姉様! お姉様と出会えるなんてなんて幸せなの! 御機嫌よう~」

 異様なまでの高音ボイスを放っていた正体は、大きく膨らんだパフスリーブと円形に広がるふわっとしたスカートのワンピースを着た、まるで絵本の中から飛び出してきたような感じの女の子だった。

 女の子は、エミリアの名前を叫ぶと両手で握手した後、スカートの裾を持って礼儀正しくお辞儀をする。


「エルお姉様も御機嫌よう~」

「やあ、リーネちゃん今日も元気だね」

「はいっ、リーネはいつも元気いっぱいであります!」

 今度はエルさんに向かって同じ様に挨拶をしている。本当に元気いっぱいだ、めっちゃ声大きい。


「フロレンスお姉様、シャーリンお姉様、ジェリーお姉様も御機嫌よう~」

「やほー、リーネちゃんー」

「御機嫌よう」

 フロレンス率いる毒々姉妹達にも挨拶をしている。フロレンスは無言のままスプーンをふりふりさせて返事をしているけども、他の二人はちゃんと言葉で返してるよ。

 エミリアよりも人気があるってのは本当なんだね。あれだけ元気で明るかったら誰にでも好かれるかも。あたしもうじうじしてないで少しは見習わないと。


「あなたは……」

 おや、あたしの方に来た。まさかあたしにも挨拶してくれるのかな?

 た、確かにエミリアと任務こなしてるし、エルさんも知ってたくらいだから、名前知られててもおかしくないよね!

 わくわく。


「ごめんなさい、新しい方ですか? 覚えていなくって」

 がーん。やっぱりそうなるの。

 はぁ、そうだよね。ブロンズごときいちいち覚えていないよね。


「ぷぷ、底辺だから覚えられていないでやんの」

「むー! 酷いよう!」

 あたしががっかりしていると、毒々姉妹の一人、シャーリンが笑いながらあたしに悪態をついてくる。やっぱり性格悪いよこの人達。気にしてるのにいいいいい!

 きーーーー!


「この子は、私のパートナーのシュウちゃんだよ」

「あなたが噂のどん色騎士さんだったのですね。はじめまして! みんなを照らす笑顔の伝道師、スターウィザードのリーネです☆」

 リーネちゃんはその場でくるっと回転する、スカートと明るい金髪がふわりと揺れ、最後に決めポーズをとりながらウィンクをして名乗る。

 目を閉じた瞬間、なんかお星さまが出たのは目の錯覚なのかな?

 うーん、いまいちこの子のペースについていけない自分がいる。

「どんしょくじゃないよ? にびいろ(・・・・)だよ? って前にも言った気がする」

 一応訂正しておこう。けども、やっぱりドン臭いから間違われるんだよね。あはは……、はぁ。


「皆おそろい見たいね」

「ラプラタ様! 御機嫌よう~」

 何だかラプラタ様まで来ちゃったよ!

 あれ、もしかしてラプラタ様もきらきら星亭のファンなのかな?

 それにしても、なんだか全員集合って感じだ。


「ラプラタ様も、パフェ食べに来たのですか?」

「ええ、私は甘いもの好きだし、それ以上に可愛い子が多く来ているもの」

 な、なるほど。女の子目当てだった。

 あれかな、前にリトリアとからんだ時みたいなのを、他の魔術師にもしてるのかな。

 うーん……。

 ソッチに興味がある人なのかな……?


 いろんな人が来て一挙に賑やかになったきらきら星亭で、あたしは高ランカーに囲まれながらも注文したパフェを食べながら、エミリアや他の魔術師の人達との親睦を深める。

 なんだかみんなきらきらしてて、眩しくって、普段は日陰でうじうじする事しか出来ないあたしなんかが入れるような雰囲気じゃなくって。

 これも全部エミリアのお陰なんだよね。ありがとうね、エミリア。



 デートの帰り道。

「シュウ、今日はありがとうね。楽しかったよ」

 隣で歩いていたエミリアは急に走り出してあたしの目の前へ行くと、いつもの優しい笑顔でお礼を言ってくれた。夕日に照らされたエミリアの笑顔もまた可愛い。


「ううん、あたしこそ付き合ってくれてありがとう」

 この人の前だとなんでだろう。こんなに心から素直にありがとうって言える。

 あたしは過去の任務での事をふと思い出し始める。

 ならず者やっつけに行くときや火竜の国へ行ったとき、いつもピンチだった。その度にあたしは諦めようと何度もくじけそうになったけれども。


「ふふ、またデートしようね」

 守ってよかった。エミリアのパートナーでよかった。

 これからも、あなたの隣に居たいな。

 なんだろうこの気持ち。変だなあ、照れちゃってるや。ちょうど夕方でよかったかも。

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