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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第一部「成長編」
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第二話 輝色魔術師のパートナー

「どういう事ですか! あ、あたしが魔術師ランク一とペアなんて!」


 新しいパートナーが記された張り紙を見たあたしは、少し前に早足で執務室へ向かったシャロンと同様に、むしろそれ以上の速さで執務室へ向かい、ノックもせず勢いよく扉を開け、その場にいたブロンズハンター達を無視して騎士団長へ詰め寄った。


「やれやれ。君たち落ち着きたまえ、これは軍最高会議で決まった事なのだよ。本日からエミリアのパートナーとして君の働きに期待している」

 しかし団長はいつも通り焦らず騒がず、多少困り顔の気がしなくもないが丁寧な対応をする。


「は、はい」

 冷静かつ、真っ当な対応で返されてしまった。いつも冷静沈着で決して取り乱さない人だ。こんなに慌てていたあたしがまるで馬鹿みたいじゃない。事実、馬鹿なんだけども。

 団長の態度ですっかり頭が冷えたあたしは軽くおじぎをした後、執務室から出ようと扉に手をかけようとするが、その扉は不意に勢いよく開きだす。


「きゃああっ! い、いったああいい」

 当たった瞬間は目を閉じていたから解らなかったけれど、木製の扉は見事にあたしの顔面をとらえたらしい。

 きっと真っ赤に腫れてる、すっごい痛いもん!

 あまりの激痛に声をあげて泣きそうになったけれども、今ここはどこなのか、誰がいるのかを思い出し、歯を食いしばり、痛みの発生源を両手でおさえて何とかこらえる。


「だんちょー! 僕の相手が白金騎士さまってどういう事ですか!」

 あたしが痛くてどうしようもなかった時、すぐさま聞きなれた声が執務室中を響かせる。扉を開けたのはリトリアだったんだね。


「……君は私よりも、宮廷魔術師長へ聞いて見てはどうだい?」

 普段から落ち着いている団長の声のトーンが多少低くなった気がする。リトリアの甲高い声と場違いな質問と招かれざる客達の応酬に、あまりいい気分では無いのかもしれない。一応回答をするが、これ以上自分の執務を邪魔されたくないんだよね、きっとたぶん。

 じんじんと痛む顔をおさえながら、何度か頭を大きく下げつつ執務室を去った。ふと後ろを振り向くと、ブロンズハンター達は呆然としており、リトリアも大きく一つだけ頭を下げていた。



「シュウもランク一とペアなんて、どうしたんだろ?」

「うーん、結局理由聞けなかったなあ」

 リトリアもどうやらランク一のペアを組まされる事みたいだ。きっと張り紙を見て、あたしと同じ様に慌てて執務室へ向かったのかもしれない。

 でも、なんで魔術師率いる宮廷魔術師長の執務室じゃなく、騎士団長の方へ来たのだろ?


「なんで騎士団長に聞こうと思ったの?」

「はぁー、白金騎士さまの足引っ張るのかなぁ……」

 駄目だ、全然聞いていないや。

 基本的にマイペースと言うか、自分のしたい事を率直にしているというか。

 確かにリトリアが今悩んでいる気持ちは解る、あたしとランク一のエミリアさんがペアなんて上手くいく訳がないし、きっと絶対必ずあたしが足を引っ張る。自信を持っていえるところが悲しい。


「ふふ。あなた達は今、きっと自分が足を引っ張るって思っているでしょう?」

 背後からまるで今の心中を見透かされたような言葉が聞こえ、あたしはびくりと大きく体を一回だけ震わせた後に振り向く。

 動作の最中にリトリアと一瞬目があったから、きっと同じ様にどきっとしていたのかもしれない。

 そこには、ヴィクトリア調ドレスの様に布を何重にも折り重なって出来た深緑色のローブで体の線が全く見えないほど全身を包んだ、濃い口紅が色っぽく印象的な女性が笑顔で立っている。


 なんとその女性は、魔術師達を統べる宮廷魔術師のさらにその長であるラプラタ様だった。


「ラプラタ様ぁ~」

 リトリアはラプラタ様の胸元へかけより、ぎゅっと強く抱きつき顔を摺り寄せている。なんかまるでペットが飼い主の下へ喜んで駆け寄ってるみたいだなあ。


「リトリア、元気そうね。三日前に教えた火の魔術出来る様になったかしら?」

「うんうん」

「偉いわね、今度ご褒美あげるから私の部屋に来なさい」

 体は密着しているし、二人の顔の距離がすごく近い気がする。リトリアは頬を赤らめ、目が妙にきらきらとしているのは気のせいじゃないかも。上司と部下って事を知らなければ、きっと危ない関係と思われてもおかしくない雰囲気だよね。そしてあたしは二人の世界へ入る事も出来ず、この場から去る事も出来ず、ただ傍観する事しか出来ない。どうしよう。


「ところで、シュウって騎士の子を呼んできてってお願いはどうなったかしら?」

 なんか凄く入りづらいけれども、明らかに話題があたしになったし、エミリアさんの事もあるから名乗っておかないと思いつつ、遠慮しながらも手を挙げ答える。


「あの、あたしです」

「いやあん! 女の子だったのね、てっきり男の子かと思ってたのよー、もー! こんな可愛い()が騎士団にいたなんてー」


 うわああ!

 いきなり抱きついてきたよ!

 うぐぐ、おむねとカーテンみたいなローブのせいでちょっと息苦しい……。

 ローブのせいでぱっと見た感じ解らなかったけれども、胸やらかいし大きいなあ、あたしとはまるで山脈と平原くらいの差があるよ、トホホ。


 なんとか呼吸できる隙間を開けようとして顔をあげると、ラプラタ様の目とあたしの目があってしまう。

 今まで遠目でしか見た事なかったけれども、色っぽくて綺麗な人だ。濃い青色のショートボブが凄いさらさらで、紫色の透き通った目がまるで宝石みたい。なんだか見つめられていると吸い込まれちゃいそう。

 あれ、なんだろうこの気持ち。


「少し、髪が痛んでいるわね。今度私の部屋に来なさい。お手入れしてあげる」

 や、やだ。何で髪触られただけでドキドキしてるの!

 いけない、これ以上この人の近くに居てはいけない!

 どうにかなっちゃいそうだ。きっと今のあたしはさっきのリトリアみたいになってるはず!

 離れないと、うううー。


「ご、ごめんなさいっ!」

「あら、可愛いからずっと近くに居てもいいのよ? それとも恥ずかしがりやさんなのかしら、ふふ」

 ラプラタ様の世界へ危うく引きこまれそうだったけれども、多少強引に離れる事で何とか回避する。この人は危険だ、虜にするってのはきっとこういう事なのだろう、しっかりしないと。ふー。


「さてと、早速で申し訳ないけれども、今すぐに執務室へおいでなさい。これは私個人としてではなく、宮廷魔術師長としての命令よ」

「は、はい」

 今までとはまるで違う、びしっとした態度で命令を下され、思わず返事をしてしまう。さっきは危うく誘惑されそうだったし、今だけ見れば厳しい上官ってイメージだし、うーん、解らないや……。


「リトリア、シュウちゃん借りていくわね」

「はぁーい! ふちゅちゅかものですがっ!」

 言っている意味が解っているのかな?

 盛大に噛んでるけれども一切気にせず、全身をつかって別れを表現しているリトリアを何度か振り返って確認しつつ、ラプラタ様について行く。



 そういえば、宮廷魔術師の執務室って入るの初めてかもしれない。


「さあ、お入りなさい」

 折角だし何があるかみてみよう。うーん、歴代の宮廷魔術師の写真とか、難しそうな本とか、たいして騎士団長の部屋と変わないんだなあ。

 ん?

 あそこに立ってるひとって……。


「紹介するわ、あなたのこれからのパートナーになるエミリアよ」

「こんにちは、よろしくね」

 ラプラタ様が手を差し出している方向には笑顔のままあたしを見つめて立つ女の子がいる。

 それはエントランスの張り紙に書かれていた、あたしがこれからペアを組む相手。最高ランクの魔術師、エミリアさんだ。

 今まで遠目でしか見た事なくって間近で見るの初めてだけども、エミリアさん可愛いなあ。

 お肌は透き通るように色白くて、さらさらつやつやな黒髪ロングヘアーで、顔立ちも整ってるし、凄い落ち着きがあるというか、しっかりしているというか、ううーん。

 紺色のマントに、同じ色のワンピースもよく似合ってる。でもここまで綺麗な人だと何着ても似合うかも。

 やっぱりあたしよりも全然胸大きい。

 ひやあ、スカート短いなあ。足もほっそいなあ。すらっとしてるなあ。

 それに比べてあたしって髪はばさばさだし、無駄に筋肉質だし、まな板お胸だし、大根足だし。


「私に何かついてるのかな?」

「へ?」

「ずっと私の事見てるから、何かあったのかなって」

 しまった、あまりにも美女すぎるからじろじろ見すぎたんだ。

 うわあやっちゃったよ、絶対にこいつ変な奴だぜとか思われてるよ。

 はぁぁー、初対面からこんなんとかもうやだ。


「ああああああごめんなさいごめんなさいっ、あんまりに綺麗だから見とれちゃってもう馬鹿馬鹿!」

 今更手遅れかもしれないけれども、あたしは命一杯頭を下げて謝り続けた。もう駄目だ、絶対に変だと思われたよ、はぁ。


「綺麗じゃないけども、ありがとね」

 笑顔も素敵だ、なんだろう。例えるなら女神様とか天使様とかだよね!

 あまり怒ってなさそうだしよかった。


「そんな事ないです! エミリアさんは凄い綺麗です! まるで神話の中に出てきた天使様みたい!」

 その一言を言い終わった瞬間、まるで背中に氷をあてられたようにひやっと寒気が走る。


 しまった、調子に乗って煽て過ぎてしまった。あたしったら何を言ってるの!

 うわあ、凄い困った顔してるし。折角悪い雰囲気じゃなかったのに。なんてこったい。


「エミリアでいいんだよ? あと、そんなに褒めても何も出ないよ? ふふ」

 よ、よかった。笑ってくれている。もう余計な事を言わないでおこう……。


「ラプラタ様。この子、かあいいですね」

「でしょ? いっその事魔術師団に入れちゃおうかしら?」

「それじゃあ私とペア組めなくなりますよ?」

 エミリアの恐らく何気ない一言を聞いて、今まで寒かったあたしの体は火がともった様にかっと熱くなっていく。

 そうだ、エミリアはあたしの事を必要としてくれている。

 今までだったらあたしより上のランクの人は一部の例外も無く、穀潰しと罵るか、そもそも眼中に無い感じだったのに。


 頑張らなきゃ、今までのような失敗は許されないんだ。

 頑張って、エミリアの足を引っ張らないようにするんだ!


「さてと自己紹介も終わったみたいだし、早速二人に任務を言い渡すわね。ここから南方にある元々集落だった場所に、ならず者がたむろしているみたいだから捕らえるかやっつけるかしてきてね。細かい作戦は二人に任せるわ。明日までには出発してね」

「解りました。ラプラタ様、必ず遂行してきます」


 へ?

 ちょ、ちょっと展開はやいよ!

 まだ心の準備が出来ていないのに!

 どうしよう、どうしよう。


「は、はい。頑張るます」

 噛んじゃったし。はぁ、うまくいくかなあ……。

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