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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
最終部「暁天編」
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第九十七話 祭事の主役はどん色騎士 ~初めてのランクアップ~

 周りはお引越しをする為に綺麗に掃除し、荷物ももう無い。

 残されたのは、びっくりする程ぺらぺらな掛け布団が畳まれて乗った、寝るだけでみしみしと嫌な音がするおんぼろベッドに、そこらじゅうヒビだらけで何だか全体的に傾いている化粧台と本棚。

 そしてその化粧台に取り付けられた鏡に映るあたしとエミリア。

 エミリアのハンディメイドの装備で身を包み、髪型はいつものハーフアップの横髪が編みこみになったおめかしバージョン!

 胸には、今日でお別れとなる銅色の記章が鈍く光っている。


「何だかどきどきしてきたかも……」

 今日はいよいよ待っていた。金騎士で、しかも騎士団のトップであるランク一と称号の授与式の日!

 過去の活躍とか、主に地霊の国での戦果で正式にあたしのランクアップが決まったみたい。

 まさかあたしが一番だなんて、今でも想像つかないや。

 称号ってどんなのが貰えるんだろう?


「似合うね。髪の毛長くなったから他の髪型も出来るけれど、本当にいいの?」

「うん! むしろこれじゃないと駄目だもん」

 最初は綺麗でよそよそしさもあったこの髪型も、今じゃすっかり馴染んでしまっている。

 だからもうこれ以外想像がつかないというか、ハーフアップだって十分可愛いからね。

 でももうちょっと長くなったら、エミリアみたいにストレートのさらさらロングヘアーにするのもいいかなあ。


 そう思いつつ、ロングへアー姿の自分を想像してみる。

 ……うーん、ぼさぼさ。ばくはつ。

 あたしじゃ無理だ、あんなさらさら維持出来ない。ずぼらだから絶対にさぼる自信ある。

 何だか悲しい。ふう。


「じゃあいこっか。いつも通りにしていればいいんだよ。リラックスね」

「う、うん」

 他事を考えている最中、エミリアは背中からぎゅっとあたしを抱きしめてくれた。

 そうそうこの感覚だよ。とってもあったかくて優しい。

 根拠はないけれども、なんか安心しちゃうね。


 こうしてあたしは、背中に大好きな人の温もりと優しい言葉を受け、王様が待っている祭事の間へと向かう。

 なんと今回は王様から直々に新しい記章が貰えるらしい!

 ひー、王様となんて話した事ないよ……。

 ど、どんな人だっけかな。

 ヘンタイ天使の襲撃された時、近くに居たような気がしたけれども、あの時は会話している余裕なんて無かったからなあ。

 うーん、失礼な事が無いようにしないと。

 どきどき。


 そんな感じであれやこれやと考え事をしながら歩いていき、気がつくと部屋の前に到着していた。

 い、いつのまに。

 全然解らなかったや。あはは……。


「名前が呼ばれたら扉を開けます。扉が完全に開き切ったら先へお進み下さい」

「は、はい。おかまいなく……」

 祭事の間を守っている兵士の人からの丁寧な質問に、緊張していたせいか変な受け答えをしてしまい、くすっと思わず笑われてしまった。

 早速失敗しちゃったよあたし、とほほ。


「ランク一金騎士シュウ殿のご来場!」

 兵士の人達を和やか?にした時、あたしの名前を呼ぶ声が部屋の中から聞こえてくる。

 きゃーっ、ランク一金騎士だって!

 どうしようどうしよう、本当に最高ランクだよ。うひょー!


「呼ばれましたよ。さあ、中へお入り下さい」

「へ? あ、はい」

 おおっと、舞い上がっている場合じゃない。

 扉開きっているし!

 いかなきゃ、いかないと……。


 あたしは、多少出遅れながらもなるべく自分が慌てている事がばれないように、可能な限り悠然とした態度で前へ進んでいく。


 祭事の間の中心を歩いていく。

 両サイドには、あたしの仲間である騎士団の人達がいる。

 扉の方に銅騎士が配置され、王様がいる玉座へ近づくほどランクが高いんだっけか。

 あたしはいっつも扉側かつ部屋の隅っこだった。

 自分で言うのもあれだけど、そんな人が部屋の中心のこの豪華な赤絨毯の上を歩いているなんて!

 しかもみんなあたしに注目している!

 視線が何だか痛いけども、こんなに見られているの悪魔姿で建国記念祭に乱入した時以来だ。


 そうだよ、悪魔なあたしじゃなくって人間のあたしを見てくれているんだよ!

 どきどきするけども、何だかカ・イ・カ・ン♪

 はっ、いけないけない。浮かれちゃだめだ。しっかりしないと……。


 自分をしっかりと持ちつつ、踊ってしまいそうな心を必死で押さえつけながら歩いていく。

 そして王様が座っている椅子の前へと何とか到着したあたしは、事前にエミリアが教えてくれたように、片膝をついて頭を下げた。

 よし、ここまでは問題無いはずだ。

 大丈夫、あたしは出来る。きっとやり遂げられる……。


「騎士シュウよ。そなたの活躍、見事であった」

「はい、ありがとうござます!」

 げ。し、しまった。噛んでしまったああああ!

 しかも声も裏返っちゃった!

 う、うわあああああああああ……。

 こんな大事な時に、どうしようどうしよう。


「そなたの活躍により、風精の国ウィンディア第二十八代国王ヘンリー・ブリーズティアラの名においてランク一への昇格を認め、刻印騎士(ルーンナイト)の称号を与える」

 しかし王様はそんな事をお構いもせず、淡々と話を進めていく。

 も、もしかしてばれていない?

 ってそんな馬鹿な事あるわけないじゃん!

 でも全く気にしていない。どうしてだろ?

 ござますって言っちゃったし、声いつもよりも高かったし、早口だったし。


 それにしてもどんな称号がもらえるのかなって考えていたけれど、刻印騎士だって!

 鈍色騎士とは大違いだよね。何だか強そうだしかっこいい。

 でも破滅の女神を倒してから、悪魔に変身出来なくって本当に簡単な刻印術しか使えなくなっちゃったけれども、いいのかなあ?


「……面を上げよ。騎士シュウよ」

「へ? あ、はいっ」

 他事を考えて意識が逸れていた時、王様があたしの名前を呼んでいる事に気づく。

 いけない、あれだけ集中しとこうと思ったのに。

 こんな時でも脱線しちゃうなんて、あたしって……。


「ランクアップ、おめでとう。これからも期待しているよ」

 あたしが自責の念に駆られていた時、王様は今までの硬い表情から一変し、明るい笑顔で私の記章を付け替えてくれる。

 その時、この国で一番偉い人に認められて、そう思ったら嬉しすぎて我慢できなくなって、たぶん今のあたしの顔はにやついて相当凄いものになっているかもしれない。


 こうしてあたしのランクアップと称号授与式は終わった。

 後々振り返って、いろいろとまずかったところはあったけれども、無事に終わったし良しとしておこう。ウン。


「授与式お疲れさま。ふふ」

「あ、エミリア待っててくれたんだね。ありがとー」

 祭事の間を抜けると、式が終わるのを待っててくれたであろうエミリアが、笑顔であたしを労ってくれた。


「式どうだったかな? 魔術師は参加できないから私は見れなかったけれども、上手く行ったかな?」

「うーん、最初だしあんなもんかな? あはは……」

「ふふ」

 上手く行ったかと言われたら、失敗したとこもいっぱいあったけれども。

 でも無事に記章交換してもらったし、問題ないって事だよね?

 でもどうしてだろう、確かにエミリアは直接見ていないはずなのに、何だか全部見透かされたように静かに微笑んでいる。

 ラプラタ様もそうだし、あたしってやっぱり解りやすいんだよね。はぁ。


「新しい部屋に案内するね」

「うん!」

 おんぼろ部屋から、ついに高級ホテル並の生活に!

 そういえば、金騎士の宿舎って行った事無いけれども、きっとエミリアと同じできらっきらで広いんだろうなあ。

 たのしみたのしみ~。



「あ、あれ? ここって……?」

 あたしが意気揚々と案内されて到着した場所は、エミリアの自室だった。

 使っていた部屋から持ち出された荷物一式も、部屋の隅においてある。

 金騎士の部屋って、まさかここなの?


「プラチニアは自分の家から出向いていたし、彼がランク一になってから今までその地位が揺らぐ事がなかった。だから寮内にランク一騎士の部屋というのは存在しないの。でも銅騎士の寮にはいられないから、今回は特例で私の部屋と一緒にする事になったんだよ」

 様々な事を考慮してか、ランクに問わず女の子は個室へと優先的に振り分けされるのが決まりだった。

 だから最もランクの低いあたしでも一人部屋だったわけだけども。

 確かに白金騎士って王都内にある、お城みたいに立派な豪邸に住んでいたみたいだし、寮なんて必要ないよねえ。

 というか、えええええええ!?

 じゃ、じゃあエミリアとずっと一緒!?

 しかも二人きりなの!?


「一緒は……、嫌かな?」

「ううん! そんな事ないよ!」

 だからどうして、そんな申し訳なさそうな顔をするの!

 あたしが悪いみたいな感じになっちゃうじゃん。

 でもそんな顔も可愛いなあ、もう何やっても可愛いよもう。


「こ、今後ともよろしくお願いします……」

「いえいえこちらこそよろしくね。いつでもイチャイチャ出来るね。ふふ」

 あたしは照れつつも、少しわざとよそよそしく頭を下げた。

 大好きなエミリアと同じ部屋なら、まあいいかな!

 ……散らかさないようにしないと。だらしない格好も出来ないや。

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