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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
最終部「暁天編」
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第九十六話 明けない夜の夜明け

「エミリア! よかったあ……、戻ってきてくれたんだね。ぐすん」

 正直もう駄目かなって諦めかけていた。

 だってずっと目覚まさないし、リリスに取り込まれちゃったらもう戻らないってヘンタイ天使がしつこく言ってくるし。思いっきりエミリア殴っちゃったし……。

 でも間違いない、ちゃんとエミリアのまま帰ってきた!

 嬉しくって、涙が止まらないよう……。


「ごめんね、心配かけちゃったね」

 そんな泣きじゃくるあたしを、エミリアはいつもの優しい笑顔で見つめてくれている。

 涙で目の前がぼやけちゃってよく見えないから、何度も手で拭うけれども止まらないや。あはは……。


「ねえエミリア、本当にエミリアだよね?」

「うん。そうだよ」

 感覚で解っているはずなのに、思わず聞いてしまった。

 そうなんだよね、あたしの大好きな人なんだよね。


「アハァ、本当に信じられないよ。まったくキミらは非常識で規格外だよ」

 今まで散々諦めていたヘンタイ天使も、まさかエミリアが生還してくるなんて思ってもいなかったらしく、いつものちゃらけた雰囲気を装っているが、驚きは隠しきれていない。


「二人ともお疲れ様、本当によくやってくれたわ」

「ラプラタ様……」

 感動の再会をしている中、ラプラタ様がぼろぼろのまま明るい表情であたし達に話しかけてくる。

 ラプラタ様の目的、破滅の女神と一緒に封印されたお母様を救出して、その女神を討伐する事。

 ついにやったんだ。

 あたし達の力でやり遂げたんだ!


「あらら、また泣いちゃって。ふふ、シュウは泣き虫さんだね」

「そ、そんな事言っても嬉しくって涙が止まらないもん……」

 あたしの頑張りが報われて、他の誰にも出来ない事。世界を救うって言うとーーーーってもすんごい事をやり遂げて、もう何が何だか訳がわかんない。

 良かった、やったよあたし。うるる……。


「……ラプラタよ。お前の処分は追って通達する」

「はい、お父様。覚悟は出来ております」

 ラプラタ様のお父様の一言によって、あたしの心に冷たく波紋が広がる。

 それと同時に今まで止まらなかった涙はおさまり、泣いたお陰か頭は妙に冴えていた。

 そうだよね、ラプラタ様は自分のお父様の計画を無視して自分の思いを貫いた。

 何とか勝てたから良かったけれども、もしもあたしが負けていたら今頃世界は無くなっていたんだよね。


「なんだそれは? 折角の感動の場面なのに水を差しおって、息子はここまで空気が読めなかったのか?」

「お父上は黙っていただきたい。これは私と娘、王と姫の問題だ」

 ラプラタ様のお爺様が、物凄い不満そうな顔をしながら反論するが、お父様である魔王はそれすらも冷たくあしらい、余程力を使ったのか、少しよろめきながら自身の居城がある場所へと戻っていく。


「イチゴパフェ、いつかきっと食べに参りますわ」

「はい! いつでも待っています!」

 魔王の最愛の人であり、ラプラタ様のお母様でもある人は私の片手をぎゅっと握り、もう片方の手で頭を優しく撫でてくれる。

 ラプラタ様もすんごい綺麗な人だけども、お母様もとっても綺麗だね。

 前に魔王が若い頃に似ているって言ったのも納得かも。

 こんだけ綺麗な人だったら、種族を超えた愛ってのもありえるね。

 あれ?

 でも封印されている時に悪魔とか言ってたから、魔王のお嫁さんとして嫁いだ時にあたしと同じ様に悪魔になっちゃったのかな?


「息子が変なことを言ってすまんねえ。よく頑張った。困った事があったらいつでも訪ねて来なさい。力になろう」

「はいっ!」

 ラプラタ様のお母様に入れ替わり、今度は同様に封印されていたお爺様があたしへと笑みを見せながら話しかけてくる。

 ヘンタイ天使が大悪魔って言ってたから、この人も凄いんだろうなあ。

 何だか掴めない感じだったけれども。

 あれ、じゃあこのお爺様っておいくつなの……?


「それじゃあ、二人を風精の国まで送るわね」

「ラプラタ様は、どうなっちゃうのです?」

「私はこの魔界を統治する国の姫として、やってはいけない事をやってしまったのは事実よ。処罰を受ける覚悟はあったもの」

 あたしはその言葉を聞き、これからのラプラタ様について少し考え込んでしまう。

 王の命令に逆らったって事だから、もう地上にも行けないだろうし、もしかして死ぬまでどこかに閉じこめられるか!

 ううう……、折角全部解決したのに!

 なんだかんだでラプラタ様が一番頑張ってたのに!

 何か納得いかない。むう。


「そんな顔しないで、必ず地上へ戻るから。折角可愛い子ばかりを集めて魔術師団作りなおしたもの。もっと楽しまないとね。うふふ」

「は、はい……」

 あたしの心配を気にしてくれたのか、ラプラタ様はあたしの頭に優しく手をおいて話しかけてくれる。

 いつみても吸い込まれそうな瞳だ。間近だとやっぱりどきどきしちゃうかも……。


 というか今さらっと言ったけどすんごい事実だよそれ!

 そういわれれば、魔術師団って女の子しか(・・)見なかったような?

 今まで全然意識していなくって、たまたまなのかなって思ってたけれども。

 いつの間に……。


 こうして私とエミリアは、風精の国へと送り届けられた。

 何だかいろいろ有りすぎて、お互いにぼろぼろだったから、あたしはエミリアと一旦別れると自室へ戻り、そのままベッドへ飛び込み深い眠りについた。



 それからの数日間、風精の国は大忙しだった。

 エミリアの報告書により、シルフィリア姫の最期を知った国の偉い人達は、もう隠しきれない事を悟ったのか、姫様の死因を原因不明の感染症として、今まで影武者を使っていたのは他の健康な民衆に不治の病がうつらない事を配慮したからと発表した。

 上手い理由を考えたなあって思う。

 姫様の国葬やら、貴族の挨拶やら、国外のビップな人達の相手とかもろもろで、ばたばたとした日々が目まぐるしく過ぎていき、遂にお待ちかねのイベントがやってきた!

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