第十話 どき☆わくがとまらない
「そういえば、シュウがお昼にここへ来るの初めてだよね」
エミリアがいつもの笑顔で尋ねてくる。あたしは何も言わずに何回か首を縦に振ると、彼女も満足げな表情を返してくれる。
言われてみれば、前回来たのは真夜中だったからね。
明るい時間帯に来るのは初めてかも。
あたしはどんなものがあるのだろうかと興味本位であたりを見回す。
レースのカーテンとか、至るところにリボンとかふりふりとかぬいぐるみが飾ってある。エミリアってそういうのがすきなのかな?
夜に来た時も思ったけれど、床に敷いてあるカーペットが凄いふかふかだ、あたしのいつも寝ているお布団の方がぺっちゃんこな気がする……。
家具とかもそうだけど、ドアノブとか、さり気ないところもなんか銀だったり金だったりしてるし、ランクの違いでここまで生活に差があるなんて!
「ぬいぐるみがすきなのー?」
「うん、好きだよ。変かな?」
いつも落ち着いているから、部屋ももっと大人っぽいというか、シンプルで飾り気が無いかと思ってたけれども、意外と女の子なんだね。また一つ、エミリアの事が解ったような気がしなくもない。
「ううん、なんか可愛いなあって」
「ありがとう。ふふ」
か、かわいい。どきどき。
なんだろう、この笑顔を見ると凄い幸せな気分になったような気がするよ。こんなに胸の中がほっこりとしたのはいつごろぶりだろう。
出来れば、ずっとエミリアのパートナーでいたいな。
頑張ろう。これからもずっと側に居れるように、立派な騎士になるんだ。
「じゃあ、上着を脱いでシャツだけになってね」
え?
脱ぐってどういうことなの?
うーん、何をするんだろ。まあいいや、脱ごう。
あたしは多少戸惑いながらも、着ていた上着を脱いでシャツ姿となる。
こういう時、真下を見るとすごい残念な気分になるから絶対に見ちゃ駄目だ、みちゃだめなんだ。
……見ちゃった。足先までしっかり見えるや、あいあむひんにゅう。はぁ。
あたしが一人でへこんでいた時、エミリアが突然抱きつき、あたしの背中へと手を回してきた。
「じっとしててね、痛い事はしないから安心して」
ちょっと、な、なにいったい!
急にエミリアが抱きついてきたよ!
そ、そんなあ、ラプラタ様だって見ているのに、これってどういうことなの!?
「シュウのこと、もっと知りたいの」
えええええええ!
こ、これって、もしかしてアレが始まるの!?
エミリアってそういう趣味だったんだ、って感心している場合じゃない!
そんないきなり言われても、う、うわああ!
背中にあった手を、今度は首に移動させて下へとゆっくり撫で回してくる。白くて綺麗な手はあたしの胸、おへその上を通っていき、最後はおまたの部分へたどり着く。
「ここはこうなっているんだね。ふうん」
だ、だめだあ、もうここから逃げられない。エミリアは本気だ、間違いない!
こうなったら、あたしも覚悟を決めるしかない。
こういうの、は、はじめてだけども、ええいっ、あたしはやるんだ!
「はい、おしまい。装備は二日もあれば出来るからね」
「へ?」
あ、あれ。これで終わり?
これからじゃないの?
「戦闘用の装備、体にあってなさそうだから、私が作るのを待っててね」
一度きりの任務と、修練場での訓練であたしの装備が体に合っていない事を看破するなんて、さすがはエミリア。
やっぱり、出来る人は目の付け所が違うのかもしれないんだねえ。
という事は、触ってたのは……。
「あれ? じゃあさっき触ってたのは?」
「見ただけじゃ解らなかったから、実際にふれて体つき確認したかったの」
や、やっぱりそうだよね。
あたしったら何を考えていたの、もうやらしいったらありゃしない!
でも、何だろうこの胸のもやもやは。うーん。
「何か、変な事したかな……?」
「ううん、なんでもないよー、装備楽しみにしているね。ふぅ」
あたしは着替えつつ、正真正銘の馬鹿だという事を改めて確認する。その後、エミリアに軽く手を振り、ラプラタ様にお辞儀をして部屋を出た。
そして二日が経った。
もちろん、あたしはその間ただ待っていたわけじゃあない。
決してなまける事無く、たぶん今まで以上に真面目に修練場で剣の訓練をしてきた。今もこうやって素振りをしている。最初は回数を数えていたけど、手にちまめが出来たあたりからはもう数えていない。それくらい頑張ってみたけれども。剣を振るというよりは、剣に振り回されている事実が変わる事は無かった。
その影響で何度もこけ、全然関係ないところにあおあざが出来てたりしている。
はぁ、情けない。まるで成長できてないや。
こんなのも振れないんじゃエミリアを守るなんて到底無理だよ。
「いつも頑張っているみたいだね。えらいね」
自分自身の駄目さにいい加減うんざりし落胆していた時、エミリアがいつもの笑顔で現れる。
「装備、出来たからとりに来てね」
どんな物が出来たんだろう?
とっても強い剣かな?
頑丈な鎧かな?
あのエミリアが作った装備だから、きっとすんごい装備なんだろう間違いない。
「うん! 今すぐいくー」
あたしは修練を中断して彼女の部屋へ行く事にすると、今まで修練が上手くいかなくって悶々としていたり、全身痛かったりしてた事が自然と気にならなくなっていた。
「はい、これだよ。似合うかな?」
「おお……」
部屋に着くと、エミリアがあたしのために作ってくれたであろう装備が飾られていた。あたしは感動しつつも、早速今の装備を脱ぎ、エミリア特製の装備を着る事にする。
下着だけになったあたしは、飾ってある装備をばらして順次着ていく。
鎧の下はこのワンピースを着るのかな。どれどれ。
すごい涼しい、前きてたシャツとズボンはごわごわしてて動きにくかったし暑かったんだよね。おおう、スカートがフリフリでしかも短い、足太いって事ばれちゃう。
「そのワンピース、色違いだけど形は私の着ている服とおそろいにしたの。私はフリフリ似合わないから、シュウのだけつけたけどね」
確かによく見たら同じだ。
ってかあたしもフリフリにあわないとおもうよ!
と、とりあえず着替えの続きをしよう。
次は鎧を着るのかな、ここを外して、うーんと、えっとお。頭からかぶればいいかな。
後はわき腹のところにベルトがあるからそこで止めて、手甲はめて、長靴下をはいて、ブーツもはいてっと。
着替えはあたしが思ってたよりも時間がかからずに終わり、ハンドメイドの装備を身に纏った姿をその場でゆっくりと一回まわってエミリアとラプラタ様に見せる。
「着替えやすいように簡単なつくりにしたよ。色も似合ってるし、大きさも丁度よさそうね。どうかな?」
「すごいかるい! 大きさもぴったりだし、動きにくくない!」
同じ金属製なはずなのに、今まで着ていた鎧とはまるで比べものにならない程軽く、見た目以上に動きやすい。
次にあたしは、立て掛けてあった剣を持ち、鞘から抜いて青白い刀身を窓から差す日光に反射させて切れ味の確認をしてみる。
「うわあ、剣も重くないし、なんか物凄い切れ味よさそう!」
鎧とは別の素材で出来ているのかな。剣は光が当たると不思議な七色の輝きを見せている。
「ありがとうエミリア! 大事にするから!」
「そんなに喜んで貰えると、作ったかいがあったよ」
エミリアや、一緒に居たラプラタ様も暖かい笑顔を見せる。
みんなあたしなんかの為に、こんないいもの作ってくれるなんて!
なんだが嬉しくって涙出てきちゃいそうだよ。
「じゃあ、そんな二人に早速だけど任務を渡すわ。ここから北西の方角に、火竜の国サラマンドラがあるんだけども、そこの国王へこの親書を渡して欲しいの」
ラプラタ様は、前の任務を言い渡した時と同様に真剣な表情をすると、袖から一通の手紙を取り出してエミリアに渡した。
「ここの国王、相当の曲者らしいから気をつけてね。船は明後日の朝出発の便を予約してあるから、それで行きなさい。あと、親書はなるべく早めに届けてね」
「はいラプラタ様、必ず遂行してきます」
「はい! がんまりばす!」
がーん、張り切りすぎてまた噛んじゃったよう。




