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どん色の女騎士と、輝色の女魔術師  作者: いのれん
第一部「成長編」
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第一話 女騎士は何も持たない

 あたしは今日の仕事がひと段落つくと食堂へ向かい、到着早々に食料を配っている白いエプロンをつけた補給部隊の人の前に立つと、補給部隊の人はあたしの制服の胸に鈍く光る銅色の記章を見た後、乱雑に積まれた箱の中からパンを一つ取り出してあたしに渡そうとする。


「銅騎士ですね。ではこちらをどうぞ」

 簡素な記章の確認を終えた後、あたしに配られたのは手の平サイズのパン。ちょこっとカサカサしてるけども、まあ気にしない。

 お腹が空いているあたしは、手渡された直後にその粗末な食べ物を口に運ぼうとするが――。


「おい! 邪魔だどけよ、どん色騎士!」

 聞きなれた声がすると、背中に強い衝撃が走ると同時に視界と体が大きくよろめく。何とかふんばってこける事は無かったが、その衝撃で貰ったパンを地面に落としてしまう。


「痛いっ、何するんだよう」

「ああ? なんだその反抗的な目は?」

「おい! 愚図なお前でも、シャロン様の事は知っているだろ!」

 あたしはパンも拾わずすぐさま振り向くと、胸に銀色の記章を下げた男達三人から見下されていた。


 あたしはこの男達を知っている。

 頑丈な金属製の鎧を身に纏っている銀騎士のシャロンとその付き人の銀騎士達。こいつらは格上には媚びるけども、格下の銅騎士が相手だと今のあたしの様に虐めてくるので、ブロンズハンターと呼ばれてる。


 風精の国は軽装歩兵団、投擲兵団とかいろいろあるんだけども、あたしが所属している騎士団はちょっと特殊で、自身の戦歴に応じてランクで分けられている。

 さらにランク上位十人は金騎士、そこから全体の人数の六十パーセントを銀騎士、それ以下は銅騎士という感じで区別する。


 騎士団は、戦場における白兵戦を行う目的で設立されたのだけれども、他国との友好条約や停戦協定を結んで平和になってきている今、戦争へ行く事も減り、たまにそういう事があってもランクの高い騎士にしかお呼びがかからず、あたしの様なランクの低い騎士は雑用ばかりやらされている。


 つまり、銀騎士に立場と実力の両方で圧倒的に劣るあたし達は、まず逆らっても勝ち目が無く、そもそも逆らう事自体、許されない行為とされており、今まで幾多の銅騎士達が彼らの酷い仕打ちを受けながらもひたすら耐え続け、反抗しようとする人は誰一人いなかった。


「風精の国騎士団の中でも最悪のお前が、日の当たる場所で昼食とはなぁ、皆優しいよな。俺だったらこんなどん色の騎士様、即刻クビにしたいよ。なあそう思うだろう?」

 昔はもっと人が居たんだけれども、平和になればなるほど別の公務を行う為や、全く別の仕事を始めたり、いろんな理由で自ら除団していって、現在騎士団には四十二人所属している。

 そしてランク四十二、つまり銅騎士の中でもさらに最弱、全騎士最低の実力で、鈍色騎士(にびいろきし)と呼ばれているあたしに、その理不尽な暴力と暴言が降りかかろうとしている。


「どんしょくじゃないよ? にびいろ(・・・・)だよ? 間違いは良くない」

「うるせえ! (ドン)くさいお前にはどん色の方がお似合いなんだよ!」

「痛い! もー、お馬鹿になるううう!」

 ナイスな返しと思ってたけれど、それも無意味。結果として腰ぎんちゃくによる側頭部への鉄拳制裁で粉砕されてしまった。

 なんで無意味に殴られなきゃいけないの?


 あたしを殴った腰ぎんちゃくの一人が、憎たらしい笑顔でその場にいた他の騎士や魔術師、城内で働いている者達に同意を求めようと大声で話しかけようとするが、食堂にいる全員は目を逸らしたり、下を向いたりして関わりあいを避けようとしている。

 もう一人は直接煽る事をしないが、シャロンに耳打ちをしている。何かよからぬ事を吹き込んでいるのかもしれない。


 あたしは場の空気の悪さと、この三人から逃げ出すため、落ちているパンを拾おうとするが。


「ろくに戦果も出せない穀潰しにやる飯はねえって言ってんだよ!」

 銀騎士のシャロンが、あたしが拾おうとしているパンを自身の足で踏み躙る。

 他の二人はげらげらと下品な笑いをたて、食べられなくなったパンを呆然と見るあたしを指さす。

 それはまるで、あたしの心の中に残された僅かな尊厳やプライドをも潰し、壊すかの様だった。


 間違っているのはこいつらという事はあたしも含め周り全員解っているはず。だから仮にあたしが反撃して、シャロンをぼこぼこの半殺しにしても誰も咎めはしないと思ってる。

 しかしそんな気概も根性もあるわけが無く、あたしはこれ以上殴られるのが嫌だったから顔を引きつらせながらも笑顔を見せ、三人に何度も頭を下げつつ、奴らに笑われながらその場から逃げるように去った。



「はぁ、ついてない」

 城内にある武器庫の裏庭、日も届かず昼間でも薄暗く、じめじめしており石壁にはコケが生えている。

 ここがあたしの定位置だ。基本的に誰も居ないし、誰かに見られる事も無い。いつもならここで食事を取るのだが、空腹に耐えられずに貰ったその場で食べようとしたのが運の尽きだった。


「おなか、すいたなあ」

 そうだ、あたしには何も無いんだ。

 剣の腕も無い。戦術戦略を考える頭脳も無い。後方支援が出来る程器用でも無い。とりわけ秀でた才能や技術もないと言うか、むしろ出来ない事ばかり、見た目も並……だと思うし、ついでに胸も無い。そして空腹も満たせない。

 ないないだらけ、何一つ誇れるものが無い。

 何だろう、この胸がきゅっとなる痛みは、ついでにすきっ腹もきゅっとなっているよ。


「さっきみてたよー、災難だったね」

 聞きなれた声が背後からする。あたしはゆっくり振り向くと、そこには明るい色のマッシュルームカットで、少しぬけた表情をしており、体つきが全体的にまるっこいせいか、年よりも大分幼く見える少女が笑顔で立っている。

 それはあたしの今まで過去とこれからの未来のパートナー、魔術師ランク四十二、リトリアだった。ちなみに、魔術師も現在四十二人所属している事から、彼女もまたあたしと同じランク最下位なのだ。


「しっかし、酷い事するよね。そんなにシルバーが偉いのかと! 本当にもう!」

 リトリアは鼻息荒く、頬を大きく膨らませている。あたしの代わりに怒ってくれているみたいだけれど、今は空腹で思考がぐるぐるで……ぐう。


「あ、ごはん食べてないよね? これあげるー」

「それは!」

 リトリアは着ているローブの懐から、ハンカチに包まれたパンをあたしに差し出してくれた。あたしは空腹だった事もあり、お礼も言わずにパンを鷲掴みにして奪い取り、急いで口の中へと入れる。


「あひらほふ~」

「うんうん、たんとおたべ~」

 まるで小動物に餌付けをしている様な感じの言動だが、そんな事よりも今はこの飢えを満たすため、舌を噛みそうになりながらお礼をいいつつ、放り込んだパンを急いで租借し体内へ流し込んだ。


「ねーえシュウ知ってる? 僕らなんて呼ばれていると思う?」

「なにかな? うーん」

 リトリアは好奇なる思いを瞳に宿しながら、首をかしげつつあたしに問いかけてきている。彼女の何気ない問いかけの答えを考えてみるが、きっとろくでもない呼び方をされているのは確定事項として、なんだろ?


「戦場の死神だって! ランク四十二のペアでしに(・・)だよ、自軍の足を引っ張って必ず負かす貧乏神って言ってたよ! ほんと失礼しちゃうよね!」

 再び頬を風船のように膨張させ、足をじたばたしながら怒りを表現している。

 こんな呼び方をされている事もそうだけど、それ以上にネーミングがちょっと上手いと思ってしまった自分が情けない。

 でも、リトリアは喜怒哀楽が激しいというか、なんか可愛いかも?

 事実、一部の間ではこっそりファンクラブがあるらしいし、好かれている点でランクは同じでもあたしより全然上なんだよなー、はぁ。


「ああそうだ、騎士団長が呼んでたよーって伝えるんだった。危うく忘れるところだった」

「なんだろ? 言ってみるー、伝言ありがとね」

 あたしはリトリアに向けて軽く手を振り、それに対してリトリアが体全体を使って私に別れを告げた事を確認すると、騎士団長がいる執務室へと向かった。



「シュウです」

「ああ、入りたまえ」

 軽くノックした後に名乗ると、凛々しい中年男性の声が聞こえる。あたしはその声に従い、扉をあけて中へ入った。


「皆とは上手くやっているかね?」

 白と青の布で織られた衣装を身に纏った、誠実さと堅実さが印象深い男性が、椅子にもたれつつ手を組みながら笑顔であたしを迎えてくれた。


「はい、何不自由なくやっております。これも団長の日々のご指導の賜物です」

 全部嘘だ、我ながら何を言っているんだろう。いっそここで銀騎士のいじめの件とか、あたしの待遇を全部言っちゃおうかな?


 だめ、そんな事しても無意味。


 ここはランクが全てで、底辺のあたしには何の権限も無い。そりゃあ悔しいし、何とかランクあげたいけれども、それが出来れば苦労は無い。


「さて、本題にうつるとしよう。こんな事を言うのも心苦しいのだが」

 今まで笑顔だった団長の顔が一気に険しくなる。あたしはこの表情が苦手だ、こういう時は戦場か、あるいは悪い事が伝えられると決まっている。

 何を言われるのだろう、働きが悪すぎて除団を命じられるのかな?


「君は騎士には向いていない。そう私は思っている。これ以上ここに居ても君の為にならないはずだ。勿論、私は君を評価しているし、この国の貴重な戦力の一人だ。だが人間には向き不向きがあるのも事実」

 団長の言葉は大分優しいが、実質、除団宣告と同じである事くらい、頭の悪いあたしでも理解できた。

 しかし団長は、さらに返答に困る言葉を投げかけてくる。


「敢えて問いたい。何故、君はこの道を選んだのかね? 平和になったとは言え、時には命も落としかねない危険な職業に変わりは無い。それでも何故騎士になったのか、聞かせて欲しい」

 ここで強い意志とか、誰にも譲れない目標とかあれば即答出来たのだろうけども、あたしは思わず、どう答えれば良いか考えてしまう。


 そういえば、何でなったのだろう?

 確かに騎士と言う存在に憧れて、なんとなくだけどかっこいいって思っていた事はあった。

 でも、一番の理由はお父さんなのかな。あの人、騎士になれってうるさかったし。

 うーん、でもそんなんじゃ理由にならないし……。


「何故すぐに答えられないか? それは簡単だ。君自身に信念が無いからだ。やがてこのままでは、君にとっても他の仲間にとっても、決して好ましくない状況が訪れるだろう」

 何でそこまで言われなきゃいけないの?

 やっぱり団長もブロンズハンターや他の騎士と同じで、あたしの事を穀潰しとか、役立たずとか思っているんだよね。

 事実そうなんだけども。はぁ。


「まあ、急いで結論を出す必要は無い。今一度、考えてみたまえ。では下がってよい」

「……はい、失礼します」


 用事が済むと、団長は机の上にあった書類に目を通しはじめた。あたしは、一つ大きく頭を下げた後に部屋を出て真っ先に自室へと向かい、到着するとすぐにベッドへと飛び込む。きっと今の自分の顔はとても他の人に見せられるものじゃない事は解っていたし、同時に悔しくって仕方なかったから無言のまま、自分の顔をまくらに押し当てた。



 騎士をやめるように勧められてから、日々の任務と言う名の雑用をこなしながらも辞めようか辞めないかうだうだと迷っている中、数日が経った。


「おい、新しいペアの組み合わせ発表だってなー」

「俺ランク上がったから、新しい相方になるかもな! 楽しみだぜ」


 今日は、定期的にある騎士と魔術師の組み合わせ発表の日だ。

 各団長から命じられる任務は、騎士と魔術師の二人組みで遂行する事がこの国では基本となっている。理由は戦場での生存率の増加、集団としての結束を強くするとか、騎士団長と魔術師団長がデキているとか、真意やら憶測やら含めていろいろあるけれども、あたしは漠然と前者なのだろうと考え、本当のところはいまいち理解していない。


 ちなみにこのイベント、あたしにとってはあまり関係が無いんだよね。

 先日、こっそりリトリア本人に聞いてみたのだが、リトリアもランクが変わることはなかった。ペアは同じランクで組む事になっている。


 つまり発表を見るまでも無く、あたしのパートナーはリトリアなのだ。


 それでも組み合わせ発表で一喜一憂している人たちを見に行こうという、意地の悪い誘惑に負け、あたしは城内のエントランスへと向かう事にした。


 あたしが利用している宿舎からエントランスまではちょっと距離がある。

 いつもは他の騎士とすれ違ったりするけれども、あたし以外にとっては特別な日だから、今日は誰とも合わずに目的地の入り口まで到着する。


 エントランスに入り、組み合わせが書かれている張り紙の前へつくと、あたしの予想通り、はしゃいで喜んだり、頭を抱えてうなだれている人が多く居た。


 しかし、何かいつもと違う気がする。


 基本ランクなんて簡単に変わるものでも無く、殆どは今までの相手と同じだけども、今日は妙にざわざわと騒がしい気がする。


「きやがった! てめえがなんでだよ! ふざけんな!」

 訳も解らず、いきなり銀騎士のシャロンがあたしの胸倉を掴んでくる。

 また無意味に殴られたりするのかな、痛いのやだなあ。


「な、なんだよ。何もしてないよ」

「何かの間違いだ! 俺は団長へ直接かけあってくるからな! 調子付くなよこのクソ鈍騎士!」

 悪態を散々ついた後、掴んだ手を突き出し、あたしは飛ばされて尻餅をつくと、シャロンは腰ぎんちゃく共を引きつれ、凄まじい剣幕のまま団長の執務室がある方へと早歩きで向かって行った。


 あたしは立ち上がり、じんじんと痛むお尻を気にしつつ、張り紙を見る。シャロンの恫喝により、ちょうど人ごみが割れていたお陰で、あたしはすんなりと新しいペアの名前を確認する事が出来たが。


「え、うそ……。えええええええええええええ!?」


 なんとあたしのペアは、ランク四十二のリトリアではなく。ランク一、金魔術師の中でもさらに最高の位にいる者、輝色魔術師(きいろまじゅつし)と呼ばれている存在、エミリアさんだった。

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