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8.魔王様、バリアです

「あれが例の戦艦だねえ」


 アズガード帝国第17機動艦隊所属。ビースティア級高速戦闘艦≪ハイエンナ≫。その艦長であるシラスパス・ガーゴはスクリーンに浮かぶ敵艦に感慨深く頷いた。その隣に立っていた副官が彼を補足する。


「正確には我が軍の艦ですよ、大将。ドミトル級強襲特号艦≪ブラキオン≫。第92号対象惑星制圧の為に派遣された先遣隊。その中心であった艦だって話でっせ」

「知ってるとも。しかしでかいねえ」


 シラスパスの手元のスクリーンにデータが映し出される。その情報によれば敵艦はこちらの倍はある。


「搭載機もヴェルリオ30機分。待機状態のヴェルリオの数も含んでいるとはいえその大きさは確かに脅威ですなあ」


 人型機甲兵器ヴェルリオ。その大きさは通常時は20メートル程だが、格納する際はその両手両足を畳み、取るスペースを少なくしている。だがそれでも30機というのは結構な数だ。


「それで、敵の様子はどうだい?」

「こちらを警戒しているのかまだ動きないっすね。もしくは慌てて何をすればいいのか困っているか。所詮は未開惑星の者達でっせ?」

「そんな連中にこちらは戦艦6隻をやられているんだ。油断はできないよねえ。とりあえず当初の目的通り敵戦力の分析だ。ヴェルリオ前進」

「了解了解。ヴェルリオ隊前へ! 続いて本艦からも攻撃をしかける!」


 副官の命令でオペレーターたちが一斉に動き始める。シラスパスはそんな部下達の行動に満足し頷いた。


「さあ、お手並み拝見だ」





「敵に動きあり! ヴェルリオ部隊が動き出しました!」


 外である作業(・・・・・・)を終えて一度司令室に戻ってきたヴィクトルは司令席に座るとふむ、と頷いた。

 彼の両隣にはセラとゼティリアがおり、その後ろからはサキュラが抱きつく様に寄りかかっている。ゼクトとネルソンは既にここには居ない。


「こちらも動くところだがその前に……セラ」

「な、なんだ。というか私は何故ここに呼ばれたのだ……?」


 ヴィクトルの隣で所在なさげに立っていたセラは困惑気味だ。本来なら独房に居るはずの彼女だが、敵発見の報の後、態々ヴィクトルに連れてこられたが理由はまだ聞いていなかったのだ。


「その前に答えろ。敵の戦力をお前はどう見る?」

「戦力だと?」

「そうだ。お前だって死ぬ気は無いんだろう? ならば少しでも情報を寄越せ」


 その言葉にセラは眉を顰めた。そのまま少し悩む様な素振りを見せたが、この場では協力するしかないと悟ったのだろう。諦め気味に口を開く。


「ビースティア級が2隻。ヴェルリオは良くてそれぞれ10機程度だろう。艦自体の戦闘力も高いが何よりも速度がある。厄介だな」

「ビースティア級? なんだそれは」

「艦の種類の様な物です。因みに魔王様が奪われた本艦はドミトル級と呼ばれております」

「む、待て。ならばこの艦にも名前がついているという事か」

「はい。≪ブラキオン≫という名のようです」


 セラの説明にゼティリアが補足し、その答えにヴィクトルは頷く。今まで考えても居なかったが良く考えれば当然の事だ。


「ブラキオンか。意味は知らんがつまらん名だな。もっとこの俺にふさわしい名を付けたいところだ」

「そうだねえ。なーんか安っぽいしおねーさんも嫌かなあ」


 ヴィクトルの言葉にサキュラも同意した。二人の意見にゼティリアも頷く。


「考えておきましょう」

「呑気に言っている場合か! 敵が来ているのだぞ!」


 緊張感のない3人にセラが思わず怒鳴るのと同時、オペ子2号が悲鳴を上げた。


「て、敵艦よりDATE反応増大! なんかよくわからないけどヤバそうです!?」

「不味い!? 砲撃がくるぞ! シールドの無いこの艦では――!?」


 スクリーン上に浮かぶ敵艦データ。それがDATE反応の増大を示している。その姿にセラが焦るが、


「問題ない」


 特に気にした様子も無くヴィクトルは返答する。それとほぼ同時、光りが放たれた。


「っ!」


 着弾までは一瞬だろう。その衝撃を予測して身構えたセラだがそこで信じられない物を見た。直撃コースで放たれた光が突如艦の前方で霧散したのだ。

 唖然とするセラの隣でヴィクトルは笑った。


「完璧だな」


 その言葉にゼティリアも頷く。


「はい。大元帥お仕置きバリア。予想通りの効果です」

「……は?」


 ゼティリアの言った言葉が分からずセラが聞き返そうとした時だ。


『魔王ゥゥゥゥゥゥゥ!?』


 司令室にしわがれた老人の声が響き渡り、同時にスクリーンに老人の姿が浮かんだ。

 白髪を伸ばし、髭を生やした老人だ。その額には宝玉が埋まっており、服装は黒を基調としたローブの様な物だ。皺が深く老獪な光を放つ瞳とその姿も相まって、どこか威厳のある風格の老人である…………その両手両足が拘束され、艦首に十字架の如く張り付けられていなければ。


「おおゼクト。いい仕事っぷりだな。次も頼むぞ」

『ふざけるなああああああああ!? この儂を誰だと思っておる!? 何なのだこの仕打ちは!?』

「何ってさっきそこに括り付けた時言っただろ。お前はこの艦の盾だと。壁とも言っていいが」

『壁!? 今お前、儂の事を肉壁代わりと申したか!?』

「直撃が嫌なら気張って結界を張れ。ほれ、また来たぞ」

『なにぃ!? って何か目の前が光っておるぅぅぅぅぅぅ!? ぬううううう、大元帥バリアァァァぁ!』


 再度敵艦から放たれた砲撃だが、やはり艦の前方で弾かれていく。その光景を唖然と見ていたセラが思わずゼティリアに問う。


「……お、おい。これは一体」

「はい。この艦のシールドは展開不可能ですので敵艦の砲撃には弱いです。なので対策としてゼクト様を磔にしました」

「ちょっと待て!? 今、説明途中で重要な部分が抜け落ちてたぞ!?」

「失礼……。つまりは前回の戦闘の際しょうもない理由で参戦できなかった罰としてお仕置きがてらゼクト様にはシールドの代わりになってもらう事となりました」

「さっきまで魔王が居なかったのはそういう事か!? お前らは悪魔か!?」

「魔族です」


 しれっとゼティリアが答えている間にも次々と敵艦から放たれる砲撃をゼクトが弾き続けている。


『ふぉわ!? まだ来るのか!? 大元帥超バリア――――!』

「お見事です。ゼクト様」

『ゼティリア!? お、お主何とか魔王にいってやらぬか!? 先代の魔王と共にフェル・キーガを駆け、お主と魔王――ヴィクトルの小僧を鍛えてやったのはこの儂じゃぞ!?』

「承知しておりますバリア様。ですが必要な事なので」

『さらっと流しおったな!? というか今バリア様と言っていなかったか!? 老人をいたわる心は無いの――ぬぅぅぅ大元帥ウルトラバリア―――っ!』


 再び砲撃が霧散していく。その光景を眺めていたヴィクトルだがふむ、と頷く。


「確かにゼクト爺には世話になったな。ゼティリア、声援の一つくらい送ってやれ」

『声援じゃと!? それだけで儂に対するこの仕打ちが――』

「おじいちゃんがんばって。―――――――これでよろしかったでしょうか?」

『み・な・ぎっ・て・き・た・わぁぁぁぁぁ。大おじいちゃんハイパーバリアぁあぁぁっぁぁ!』


 一際巨大な光の砲撃が来たが例の如く弾いていくゼクトの姿にセラは思わず焦る。


「お、おい大丈夫なのかアレは!? なんか色々まずい気がするぞ!?」

「安心しろ。ああ見えてゼクトはゼティリアの事を孫の様に溺愛している。だから使い易い」

「声援一つでバリアが張れるのですから安いものです」

「お前ら本当に仲間なのか!?」

「適材適所という奴だ。それよりお前は良く見ていろ。色々遅くなったが今度こそ、本当の我らが魔王軍の力を見せてやる。その為に連れてきたのだからな!」


 ふははははは! と笑い始めたヴィクトルのその言葉にようやくセラも自分がここに呼ばれた理由を理解した。


「さあ、これで防御は完璧だ! 行け、ガルバザル! ネルソン! 四天王の力を見せてやれ! この俺も直ぐに行くぞ!」


 満足したのかヴィクトルは自らも出撃する為に立ち上がる。その背後では女性人3人がひそひそと、


「つまり私に力を誇示したいと。しかもその為だけに一度戻ってきたのか……そしてまた出撃すると」

「ヴぃっくん、結構負けず嫌いだからね~」

「先日のリベンジという事でしょう。少々子供っぽいですが、まあ若いので」

「そこ! やかましいぞ!」


 びしっ、とヴィクトルが指さすと三人はさっ、と離れた。そしてゼティリアだけがヴィクトルに近づいてくる。


「魔王様。態々貴方まで出撃されるのですか?」

「当然だ。この俺自らの力を見せねばならないからな」

「……承知いたしました。ではこれを」


 諦めた様にゼティリアは頷くとヴィクトルにあるものを渡す。それは靴の様な形をしているがどこかがおかしい。底の部分には何かに接続するようなフックがついており、しかもやたら頑丈な鋼鉄製である。


「おいゼティリア、これはなんだ?」

「出撃の際はこちらの方が雰囲気がでるかと」

「何?」





『リニアボルテージ上昇。魔導ライン構築。全進路オールクリア。魔王様――発射』

「またこれかあああああああああああああああああああああああ!?」

「ガルバザル様とネルソン様も出撃済みですので合流してくださいませ。―――ご武運を」


 ゼティリアに渡された靴をカタパルトにいつの間に作られた魔王サイズの射出機に接続したヴィクトルは、紫電と絶叫をまき散らしながら宇宙へと放たれていった。





 味方の戦艦からの砲撃がことごとく弾かれている。

 その光景を見ていたヴェルリオ部隊は困惑しながらも職務を全うすべく敵艦へと近づいて行った。

 自分たちの目的は戦力調査。詳細不明な敵の戦力を引き出しデータを集める事にある。故に慎重かつ大胆な動きが必要だ。一定の距離まで近づき次第、一気に速度を上げ敵艦へ迫る。

 だがそんな彼らの眼にとんでもないものが映った。


「ふはははははははははは!」


 頭に突然響く謎の声。それと同時に現れたのは龍――ガルバザルだった。それが一直線に突っ込んでくる。


『な、なんだこいつは!?』

『散開、全機散開だ!?』


 慌てて散開するヴェルリオ部隊。しかし一機が少し遅れた。そしてその一機をガルバザルは見逃さない。


『う、うわああああああああああ―――!?』


 そしてヴェルリオ部隊達は見た。自分達の仲間が。帝国の誇る人型機甲兵器が。おとぎ話の中に出てくる様な巨大な龍の咢に捕えられ、そして噛み砕かれるのを。噛み砕かれたヴェルリオは龍の咢の中で爆散する。そしてその龍はその爆発をものともせず咢に残った残骸を吐き捨てた。


「むううう!? 弾ける様な味だがあまり美味くは無いな」

『う、撃て! 撃て撃て撃てぇぇぇぇぇ!』


 頭に響く声も君が悪いがそんな事を気にしている場合では無い。ヴェルリオ部隊は一斉にDATEライフルをガルバザル目掛けて放つ。直撃したガルバザルが爆発に包まれる。だが、


「おおう、結構痛いな! 魔王はよくピンピンしているものだ。だがこの程度では倒れぬがな!」


 不敵に笑いそしてその咢に光が集まり始める。その光景にヴェルリオ部隊達が唖然とするのも束の間、


「今度はこちらが行くぞ! 我の龍砲、受けて見よ」


 雄叫びをと共に放たれた赤い光の龍砲。薙ぎ払うように放たれたそれが一瞬にしてヴェルリオ部隊達を溶かしていく。


「ふはははははは! む?」


 そんなガルバザルはあるものを見つけた。ヴェルリオとは違い、人型では無く鳥の様な形をした機械の兵器。ガルバザルは知る由も無いが、それは戦闘機と飛ばれるものだ。それが高速で飛んでいる。その姿を見てガルバザルは目を輝かせた。


「おお! 早いではないか! どれ、我と競争と行こうではないか!」


 巨大な翼をはためかせ、ガルバザルはその戦闘機を追う。だが追われた方はたまったものでは無い。何せ真後ろから頭に声を響かせてくる巨大な龍が馬鹿みたいに笑いながら追いかけてくるのだ。


『な、なんだこいつは!?』

「ふはははははは、まだ早くなるのか! だが我も負けんぞぉぉ!」

『ひ、ひいいいいいい!?』


 他のヴェルリオ部隊には目もくれず戦闘機をひたすら追いかけるガルバザルと必死に逃げる戦闘機。両者はだんだんと戦域を離れていく。

 やがてガルバザルが戦闘機に追いつき、そして遂に抜かした。


「ふははははは、抜いたぞ! 一等賞である! やはり我こそが最速――」

『ガルバザル様』

「む? ゼティリアか! 見ていたかこの我の雄姿を――」

『おすわり』

「ふおおおおお!?」


 耳元につけられた通信機からゼティリアからの声が聞こえると同時、首元の首輪が光りを放ちガルバザルは突然その場で潰れた様な態勢を崩した。その隙に戦闘機は逃げていく。


「な、何をするゼティリア!? 一等賞である我に向かって!」

『何をふざけた事を言っているのですか。一等賞の前に四天王として職務を果たして下さい。戦域から離れすぎです』

「む? いつの間に……。敵の策略か! 侮りがたしアズガード帝国!」

『前から思っていたのですがそんなんで良く大帝なんて名乗れましたね』

「ふはははは! 簡単な事だ! 邪龍は強さこそが正義! 子供だろうが妻に三下り半されていようが、強ければそいつの方が上なのだ!」

『邪龍達も気の毒に……。それよりも戻ってきてください。敵はまだいくらでもいるのですよ』

「むう、仕方ないな」


 戦闘機が逃げて行った後を名残惜しそうに見ていたガルバザルだが諦めると戦場に戻っていった。




 ガルバザルが勝手に戦線離脱しかけた為に再び前進し始めたヴェルリオ部隊。しかし彼らは新たな脅威に晒されていた。


「ふふふふふ。中々溶かし甲斐のありそうな敵だね。わくわくしてきたよ。 中身が女性なら私のやる気もMAXハートなものだ。期待、しているよ?」


 邪霊将軍ネルソン。前回の失敗に学んでしっかり障壁を張った彼が、ヴェルリオ部隊の前に立ちはだかっていた。

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