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7.魔王様、敵艦です

 湿気のある土と岩。そして鉄クズなどのガラクタが積まれた山。その正面にメイド服を着た薄蒼色の美しい長髪の少女が静かに佇んでいた。

少女はしばらくの間その山を見つめていたが、やがて小さく頷くと片手をその山へと向ける。


「構成開始」


 その瞬間だ。その手の先から蒼い光の糸が放たれ山へと突き刺さる。するとその山に変化が起きた。


「判別開始――完了。脚部構成開始」


 土と岩。そして鉄クズの瓦礫の山が動き出す。まるで意思を持っているかのように一か所に集まっていき形を形成していく。


「脚部完了。続いてコアへ―――障害確認。素材の魔力伝達に乱れ有り。該当素材を排除し、岩石で代用。排除素材は外部装甲へ転用」


 山はやがて巨大な人型へとなっていく。所々に歪に凸凹したそれはゴーレムと呼ばれる人形兵器だ。


「頭部構成完了。魔導ラインチェック」


 ぴん、と少女が自らが伸ばした光の糸を弾くと、ゴーレムの表面に光が走った。そして今しがた完成した頭部の眼に当たる部分に光が灯る。


「―――工程完了」


 その一言で作業は終えたのか、少女の手から伸びた光が消える。そして無表情にそのゴーレムを眺める少女の背に声がかかる。


「ゼティリア」

「…………ヴィクトル様」


 その声の主は少女の主、魔王ヴィクトルだった。ヴィクトルは今しがた少女が作り出したゴーレムを見上げて唸る。


「凸凹だな」

「はい。それにやはり魔導ライン――魔力の伝達が悪いです。アズガード帝国の使用している物質はあまり相性が良くないようです」


 ゼティリアも静かに頷いた。


「ですが材料が少ないのでこればかりは仕方ありません」

「うーむ」


 元々、ゴーレムとはフェル・キーガの土と岩石で作るものだった。確かに時には木々や、鉄を使う事もあったが、その時はもっと綺麗に作り出すことができた。

 しかし宇宙に来て少し。戦闘に出たゴーレムは敵に歯が立たず、あっさち返り討ちにされた上に貴重な土や岩石までも失ってしまっている。その代用として、破壊した敵機の残骸を使用してみたのだがあまりうまくいっていない様だった。


「となると時たま宇宙に浮いている『でぶり』という奴を使うしかないか」

「しかしそちらも数が限られております」


 時たま宇宙を漂っている岩石の様な物。それらでもゼティリアは実験を行っており、そちらでは上手くいったらしい。だがそう都合よく転がっている物でも無い。


「そういう宙域もあるようですので、余裕があれば寄りたいところです。ですがまずは現状の材料で可能な限り戦力増強を図ります」

「それは良いがゼティリア、お前少し休め。ずっと働きづめだろう」


 先日の戦闘から既に3日経過していた。その間も艦の修理は進んでおり、また艦のシステムや技術なども元々の乗組員から聞き出している。そしてその殆どを指揮しているのがゼティリアなのだ。


「しかしいつ敵の襲撃がくるかわかりません。ヴィクトル様や四天王の皆様の事は信頼しておりますが、油断はできません」

「だからと言ってお前一人が働き過ぎだと言っている。俺の仕事まで取っているだろう? 良いからお前は少し休んで寝てろ」

「多少寝なくても問題ありません」

「ああそうだな。俺達魔族は(・・・・・)確かにそうだ。だがお前は(・・・)少し違うだろ?」

「…………」


 ぴく、とゼティリアの眉が揺れた。そしてどこか抗議するような眼で見つめてくるがヴィクトルは苦笑で返す。


「怒るなよ。別に嫌味を言った訳でも馬鹿にしている訳でもない。お前をアテにしていない訳でも無い。むしろ必要だと思っている。だからこそ倒れられては敵わん。雑務位俺でもできる」

「ですが何かあってからでは遅いのです。それに魔王たるヴィクトル様に雑務をさせる訳には行きません。ヴィクトル様は本来、後ろでどっしり構えていて下されば良いのです」


 まだいう事を聞かないゼティリアをヴィクトルも見つめ返す。お互いに一歩も引かない構えだ。そんな部下の強情さに呆れると、奥の手を出すことにした。


「お前の気持ちはありがたい。あの大馬鹿四天王にも見習って欲しい位だ。だがこればっかりは譲れんな。言っただろう? 倒れられては困ると。だからこれは命令だ、ゼティ(・・・)


一瞬、無表情だったゼティリアが目を見開く。その隙を狙ってヴィクトルは小さな魔術を発動した。


「っ、きゃっ」


 ひゅん、と突然ゼティリアの両手両足を光が包み、そして拘束する。可愛らしい悲鳴を上げてゼティリアが倒れかけるが何とか踏みとどまった。


「…………なんの真似ですか。それに卑怯ですよ」

「お前ずっと警戒してたからな。油断したところを狙うのは定石だ。それにこれくらいはしないとお前は休みそうにないからな」


 普段の無表情に凍えるような雰囲気をプラスさせて睨みつけてくるゼティリア。だがヴィクトルは気にせず近づく。


「このままお前の部屋まで連行してやる。扉に封印かけて意地でも休ませてやる」

「そこまでしますか……。しかも女性を拘束して部屋に行くなんてとんだ変態思考ですね」

「やかましい。それより行くぞ」

「ちょ、ちょっと待って下さ――」


 連行するという事は身動きの取れないゼティリアをヴィクトルが運ぶという事だ。その事を想像したのか珍しく焦るゼティリアにヴィクトルは手を伸ばし、


「よし、これでいいだろう」

「………………」


 まるで荷物を運ぶように、己の肩にゼティリアを乗っけた。


「…………ヴィクトル様?」

「な、なんだゼティリア。さっきよりも視線が怖いんだが」


 まるで天日に干される布団の如く肩に乗っけられたゼティリアが凄まじく鋭い眼差しで睨んでくる。その視線を浴びたヴィクトルの背に冷や汗が走った。


「…………もう構いません。ちゃんと休みますので降ろして下さいますか」

「駄目だ。お前の場合そう言ってまた働きそうだからな。このまま連れて行く」

「ヴィクトル様、乙女心というものをご存知ですか?」

「知らん」


 構わずずんずん進んで行くヴィクトル。すれ違った配下の魔族やアズガード帝国人はその光景に唖然とし、そして慌てて道を譲ってはその背中を呆然と見つめていく。


「屈辱です……ヴィクトル様にこの様な仕打ちを受けるとは」

「ははは、大人しくいう事を聞かないお前が悪い。お前は昔から頑固な所は変わらんからな」

「そういうヴィクトル様もです。魔王を継いだのですからもう少し魔王らしくしたらどうですか?」

「言っただろう? あんな古臭い喋りは苦手だと。俺は俺のやり方で行くから良いんだよ」

「やり方……これ(・・)もそうですか?」

「そういう事だ」


 そうしてしばし二人は無言になる。ゼティリアも諦めたのか、特に何も言わず運ばれるがままだ。


「ヴィクトル様」

「なんだ?」


 不意にゼティリアが声をかける。


「アズガード帝国は次にどう出るとお思いですか?」


 ふむ、とゼティリアの問いにヴィクトルは考える。


「散々派手に潰してやったんだ。流石にそろそろ慎重になるかもしれんな。まずは偵察でもしてくるのではないか?」

「同感です。恐らく次に来るとしたらこちらの様子見の可能性が高いでしょう。ならばこちらも様子見でゴーレムの性能試験を行いたいのですが。今後の為にも役に立つかと」

「ふむ、確かにこちらのゴーレムがヴェルディオを倒すところを見てみたい所ではあるが」

「承知いたしました。では今すぐ格納庫に戻りゴーレムの調整を」

「だからそれはさせないと言ってるだろうが。試験は後だ、後」


 まったく、とヴィクトルは呆れかえる。どうやらまだ諦めて無かったらしい。


「おい知っているか? アズガードではそうやって潰れるまで働かされる場所をブラック部署と言うそうだぞ? 俺はそこまで強制してないが……一部を除いて」

「ご安心ください。ブラックどころか我らが魔王軍は人間基準でダークネスです。最後の一言で見事それを証明しております」

「何を言うか。いつも笑顔が絶えない職場だぞ。――基本、高笑いだが」


 とりとめのない会話。だがそれをどこか楽しみつつヴィクトルは進んで行く。


「よし、着いたぞ」


 そうして話している内にゼティリアの私室に辿り着くと、ヴィクトルはその扉を開けようとし、そして固まった。


「……おいゼティリア。開かないぞ、どうなっているんだ」

「電子ロックをかけていますので。因みに以前ゼクト様が閉じ込められた物よりも強固なものです。対象者の声と暗証番号が無ければ開きません。『解除・ゼティリア』」


 ゼティリアが己の名を扉の横の装置に向かって発すると、その装置の画面にコンソールが浮かび上がった。続いて暗証番号をヴィクトルに伝え、その番号をヴィクトルが叩くと扉が開く。


「もう良いでしょう、流石に降ろしてください」

「まあ、な」


 ここまでくれば逃げる事は無いだろうと判断するとヴィクトルもゼティリアを降ろし拘束を解く。漸く自由になったゼティリアは拘束されていた手首を軽く振るうと小さくお辞儀した。


「色々言いたいことはありますし、強引過ぎて納得も行きませんが運んで頂きありがとうございます。宜しければお茶をお出ししますが?」

「怒るな怒るな。それに茶はいいからお前はゆっくり休め。いいな、逃げるなよ」

「……わかっております。ここまでさせたのですから大人しく休ませて頂きます」

「ならいい」


 ヴィクトルはゼティリアの答えに満足すると踵を返す。


「じゃ、また後でな」

「はい、ヴィクトル様。お休みなさいませ」


 そんなヴィクトルの背に、ゼティリアは深くお辞儀をするのだった。





「…………」


 そして一人になった自室でゼティリアはため息を付く。


「全く」


 昔から変わらぬ強引な主人の行動に呆れてしまう。だが疲労が溜まっていたのも事実だ。ここまでされたからには存分に休ませてもらうとしよう。そしてまた働けばいい。

 決断すればゼティリアの行動は早い。メイド服を脱ぎ皺にならない様に畳む。どちらにしろ後で洗濯するがこういうのは習慣が大事なのだ。同じように下着も脱いで畳むと、湯浴みをしようかと考える。この艦には便利なシャワーという物があり、簡単に汗を流せるのは密かなお気に入りだ。だが今回は疲労が勝った。休むと決めた途端、一気に体が休息へとシフトしてきているのだ。


不便な物ですね(・・・・・・・)


 湯浴みを諦めると部屋の引き出しから髪の色と同じ、薄蒼色のネグリジェを取り出し着る。その頃にはもう眠気が意識の半分を覆っていた。それに抗うことなくゼティリアはベッドへと倒れ込んだ。

 清潔なシーツの香りが鼻を擽る。そしてそれとは別の香り――つい先ほどまで密着していていたヴィクトルの香りにゼティリアは小さく、ほんの小さく頬を緩めた。


「本当に、ヴィル様は変わらない……」


 小さくそう呟いたのを最後に、ゼティリアは深い眠りに落ちていった。





 それからどれくらいの時間が経っただろうか。


『ゼティリア様! ゼティリア様聞こえますか!?』


 突如響いたその声にゼティリアはゆっくりと意識を覚醒させていく。

 音の発信源はベッドのすぐ隣にあるコンソールだ。そこに赤いランプが点灯し、声が響いてきている。


『ゼティリア様~!』

「聞こえています。どうしましたか」


 起き上りコンソールを叩くと正面のスクリーンにオペ子2号の姿が映る。


『わ、ゼティリア様大胆なお姿……』

「だからなんですか。要件を言いなさい」


 こちらの姿が見えたのだろう。何故か頬を赤らめるオペ子2号だが、先を急かすと直ぐにあたふたと慌てはじめた。


『大変、大変なんです!』

「だからなんですか」

『て、敵、敵ですよ! 敵の姿を捕えました!』

「――――すぐ行きます」


 ゼティリアは即座に準備を整えると部屋を飛びだした。




 司令室はちょっとした騒ぎだった。まだ戦闘になれていないオペ子や魔族達が敵の発見に慌てているのだ。だがそれでも覚えたての知識を総動員して敵の戦力、規模、状況を把握しようと努めている。

 その後ろ姿を司令席に座り見つめるヴィクトル。その横には魔導大元帥ゼクト。魔霊将軍ネルソン。群魔指揮官サキュラ。そしてヴィクトルに連れてこられたセラの姿もある。因みにガルバザルは相変わらず格納庫だが、正面スクリーンにその姿は映し出されている。


「遅くなりました」


 やがて司令室の扉が開くとゼティリアもやってきた。その姿を確認してヴィクトルは小さく頷く。


「これで揃ったな。さて、知っての通りアズガード帝国の連中が懲りずに喧嘩を売りに来たようだ。愚かしい限りだ。大人しくしていればもう少し長生きできたものを」


 スクリーンに浮かぶ敵艦の数は2。そしてその2隻からヴェルディオが発進している。だが直ぐには攻め込まず、隊列を整えてこちらを観察しているようだ。


「流石に慎重にはなってきたか。だが―――まだ甘い」


 くっくっくっ、と笑みを零すとヴィクトルは立ち上がり、マントを翻した。


「奴らはまだ自分達が何を相手にしているかわかっていないらしい。ならば教えてやろうではないか! 様子見? 偵察? はっ、何でもするが良い。そんなものが役に立たない程の、圧倒的な力の差を見せつけてやる!」


 ヴィクトルの言葉は艦内にそのまま放送されている。そしてその言葉にゼクトが頷き、サキュラが笑う。ネルソンがうねり、ガルバザルは格納庫で吠えだした。だが煩いので音声は途中でカットされた。


「未知の兵器など恐れるに足らず! 我が魔王軍の力を見せつけてやれ!」


 おおおおおおおっ、と艦のあちこちから雄叫びあがある。闘争本能に火が付いた魔族たちが戦いに向けて動き出す。


次回、ようやく戦闘回です

それと皆様のご支援に感謝を。


仕事始まったので連続はしんどくなってきました

ちょくちょく更新していきますのでよろしくお願いします

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