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5.魔王様、ファイトです

「本当に、働いているのだな……」

「だから何度もそう言ってるだろう」


 あれからヴィクトルを先頭にして三人は艦の中を進んでいた。これはセラに今のこの艦の状況を見せる為でもあるが、ヴィクトル自身も様子を見る為でもある。

 セラは最初は疑わしげだったが、実際に配下の魔族に従い艦の修理や説明を行っている者達の姿を見て、漸く信じる気になったらしい。複雑な眼で魔族とそれに従う乗組員達を見ている。


「あれが魔族……。お前たちの星の種族か」

「そうだ。珍しいのか?」

「確かに今までも特異種族はいくつか見たことがあるが、ここまで数や種類が多いのは初めてだな」

「そういうものか。それで、俺に従う気にはなったか?」


 肩越しにセラを見るが無言。その様子に『ふむ』と唸る。そしてずっと気になっていた事を問う事にした。


「お前、アズガード帝国人ではないな?」

「…………何故気づいた」


 セラは少し驚いた様だった。その様子にやはりな、とヴィクトルは頷く。


「匂いが違うからだ」

「匂いだと」


 若干嫌そうな顔をするセラは気にせずヴィクトルは続ける。


「お前だけじゃない。この艦には時折違う匂いを持った奴らが居る。最初は階級による違いかと思ったがそれにしては違い過ぎた。ならば種族の違いかと思ったが、こちらが知っている限り、アズガード帝国は魔力を持たない人型のみの種族の筈だ。そうだな、ゼティリア?」

「はい。まだ全てを確認したわけではありませんが、アズガード帝国は小さな違いはあれど基本は単一種族。フェル・キーガで言うところの人間種族のみです」

「そういう事だ。そしてお前はただの人間種族では無いな? 出なければ先ほどの動きに説明がつかん」


 先ほどの動き――紅の髪を火の粉の様な光で煌めかせながらの尋常ではない動き。更には手を抜いていたとはいえ、一瞬でも魔王たるヴィクトルを宙に浮かせた力。只者ではない。

それを指摘するとセラは少し迷うような様子を見せたが、観念したのか話し始めた。


「そうだ。私はアズガード帝国人ではない。エクライル人だ」

「エクライル人? それはつまり何なんのだ?」

「簡単に言えば、アズガード帝国によって征服された星の住人という事だ。アズガードとの戦争に敗北した私達の星は奴らの領土となった」

「ふむ、そしてお前達エクライル人はアズガード帝国に従っていると」

「そんな所だ。理由はそれぞれだがな。人質を取られた者も居れば、アズガードに恭順した者も居る。金の為という者もな。優秀な者はアズガード帝国人として迎え入れられるからそれを狙っている者も居る。そしてそれはエクライル人に限った話ではない」


 つまりこの艦にはアズガード帝国人の他にも、そう言った者達が居るという事か。まあそれは珍しい話ではない。ヴィクトルとて、力で屈服させた相手を配下に加えているのだから。


「それで、お前のあの力はエクライル人の物という事か。実際に体感したところだと、肉体強化の様だがたいしたものだ。俺に喧嘩を売ってくる自称勇者連中に近いものがあったぞ」


 そうなのだ。事実、ヴィクトルも少し驚いた。あのときのセラの力は今まで散々喧嘩を売っては返り討ちにしてきた勇者に、届くほどではないが近い物を感じた。


「勇者というのがどういうものかよくわからんがそういう事だ。尤も、いくら肉体を強化してもアズガードの戦艦には敵わなかったがな。それで、そこまで私に訊いて何のつもりだ?」

「言っただろう、お前を戦力にしたいと」


 疑いと警戒の籠った眼でこちらを見てくるセラを見返す。


「今の話を聞いた所だとお前はアズガード帝国に母国を奪われ兵士となった。ならその従う相手が変わるだけだ。別にそうそう悩むことは無いだろう」

「そう簡単に行くものか。従った所で破滅は目に見えている。第一私はお前を信用していない」

「ほう? ならアズガード帝国は信用していたという事か」

「……っ」


 苦虫を噛み潰した様な顔をするセラを見てふと疑問に思う。今までの話や様子を見る限り、セラはアズガード帝国に恭順しているとは思えない。ならば何か別の目的があってアズガード帝国に従っている様に見える。ならばそれは何か? 人質か、金か。それとも他の何かか。ちらり、と目配せをするとゼティリアも同じ考えなのか小さく頷いた。


『調査しておきます』

『頼む』


 魔力を使った沈黙会話(サイレント)での言葉にヴィクトルも頷くと、会話に戻る。


「まあいい。今すぐ決められないというのなら、決めるだけの材料を見せてやる」

「どういう意味だ?」


 訝しげに眉を潜めるセラににやり、と笑い、


「お前は言ったな? 破滅は見えていると。だがそれはあり得ない。それを証明するためにも我が最強の魔王軍の姿を見せてやるという事だ」


 その言葉と同時、まるで狙っていたかの様に轟音が響き艦が震えた。






「ふはははははは! 漸く、漸く戻ってきたぞ! いやはや宇宙というのは中々曲者なのだなあ!」

「だ、大丈夫なのですか!? お顔が、お顔が青いです!?」

「ふはははははは! いやなに、中々あの光る星に着かないものでな! 試しにそちらの方角へ我が最強を誇る竜砲を放ってみたのだが中々手ごわくてなあ! ずっとやってるうちに力尽きて危うく冬眠するところだったわ! ふははははは!」

「だから言ったじゃないですかガルバザル様! あんなものに向かうのなんて無理だって!」

「ふはははははは! いや、我は諦めんぞ! 次の挑戦時には必ずやあの光る星に辿り着いて見せる! あそこから燃える様に熱い力の塊を感じるのでな! ふはははは――」

「ふははははは! じゃねええええええええええええええええ!?」

「ふごぉっ!?」


 高笑いを上げ続ける巨大な蜥蜴―――ではなく竜目掛けて、ヴィクトルは力の限りの踵落しを叩き込んだ。叩き込まれた竜――ガルバザルが呻きを上げて床に倒れ付す。その眼前に降り立ったヴィクトルは、肩でぜえはあと息を荒らげながら倒れた巨竜の鼻先を蹴り飛ばした。


「何をやっているか馬鹿竜が!? しかも懲りずに再挑戦だと!? お前に四天王としての自覚はあるのか!?」

「ぬ、ぬうう!? 痛いぞ魔王! 何をする!?」

「お・ま・え・が、何をしていたんだボケがああああああああああああ!?」


 なおも鼻先を蹴り続けるヴィクトルに巨竜ハルバざるはよろよろと起き上った。

 ここはヴェルディオの格納庫。その中でも特別にガルバザルの為に用意された場所である。何せこの巨竜ガルバザル。その大きさはヴェルディオよりもデカいのだ。格納庫に入れるサイズではあるものも、それでも窮屈なのは否めない。

 鋼よりも硬い鱗と漆黒の体躯。紅くギラツク瞳に頭部には二本の角。全てをかみ砕く顎と切り裂く爪。刺々しく伸ばされた二本の尾。そんな巨竜が格納庫の中で窮屈そうにしている光景に、様子を見ていたアズガード帝国人達が一様に引いていた。


「しかしだな魔王、我としてもこんな窮屈な所に居ては気が滅入るのだ」

「だからと言って肝心な時に居ないのはどういう事だ!? しかも居ないと思ったら盛大に帰ってきたなぁおい!? 敵の襲撃かと思ったぞ!」


 そう、実は先ほどの衝撃はこのガルハザルが帰還の際、思いっきり突っ込んできたときの衝撃だったらしい。急ぎここに駆け付けたヴィクトルとしてはそれが腹立たしい。


「なんと!? 敵が来ていたのか!? おのれ……我の不在を狙うとはなんと狡猾な……っ!」

「お前がアホなだけだろうか!? 次にやったら卸すぞ貴様!?」

「し、しかしだな! この船は我には狭すぎて……時たま周囲を飛ぶくらいよかろう!?」

「お前の場合はそのままどこかに飛んでいくだろうが……っ!」


 もうこの竜は本当に卸した方が良いのではないか? いよいよヴィクトルがそう思い始めた矢先、ゼティリアが前に出た。


「魔王様」

「……なんだ」


 ぶすっ、とした様子で腕を組むヴィクトルと、その前に居るガルバザル。両者の間に来るとゼティリアは腕を振る。すると僅かな光と共に鈍く煌めく輪っかの様な物が現れた。


「首輪はここに」

「よくやったゼティリア!」

「何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 ヴィクトルはゼティリアからそれを受け取るとガルバザルに向き直る。ガルバザルはその凶悪な顔に若干の焦りを含ませて後ずさった。


「待て、待つのだ魔王よ! 我は邪竜だぞ? 邪竜の王たる邪竜大帝だぞ!? そんな我に首を付けろと言うのか!?」

「お前の場合魔力が高すぎて刻印の首輪じゃ効果が薄いからな。だがこいつなら」

「はい、ガルバザル様専用に特別に拵えた超硬質反魔力の首輪です。ちょっとやそっとでは壊れません」

「ゼティリアアアアアアア!? 貴様なんという物を作っておる!?」

「頑張りました」

「そういう問題ではない!? こうなればここから逃げて――」


 いよいよ焦って後ずさっていくガルバザルだが、その両手両足が突如として黒い光に包まれ拘束された。


「逃がすと思うか……。だが安心しろ、お前がちゃんと迷子を克服したらこれは外してやる。だから帰省本能鍛えるまでコイツを付けてろ馬鹿竜がああああああああああああ!?」

「ぬううううううううううううう!?」


 首輪を手にガルバザルにとびかかるヴィクトルと、必死に抵抗する巨竜(邪竜大帝)。その様子を、ヴィクトル達と共に格納庫に来ていたセラは呆然と見つめていた。

 




「ふう、少し取り乱した」

「…………そうか」

「魔王様、お飲物を」


 あれから少しして、無事に首輪をつけ終えたヴィクトルは再びゼティリアとセラを連れて艦内を進んでいた。若干疲れた様子のヴィクトルはゼティリアから受け取ったカップに口を付けている。


「そういえばずっと気になっていて、先ほどの竜を見てもやはり疑問に思ったのだが。何故言葉が通じるのだ?」


 そんな中、セラが発した質問は尤もなものであり、それにゼティリアが答える。


「最初にアズガード帝国人にであった際、言語を読み取りました。それを魔王様のお力で艦の全員に認識させただけです」

「だけ、といっても相当無茶苦茶な事を言っている気がするのだが」

「魔術のお蔭です。意思の伝達という手段においては他に相手の精神に直接言葉を叩き込む術もありますので、それほど難しい事でもありません。詳しい理由が聞きたければお話しますが?」

「……いや、やめておこう。どうせ聞いてもわからない気がする」

「賢明な判断です。私達が貴方達の使う技術を理解できない様に、貴方達も私達の力を理解するのは困難な事でしょう」

「だろうな」


 考える事はやめたらしいセラが小さく首を振る。そうして進む一行だが、前方に妙な人だかりが見えた。


「なんだアレは?」

「わかりません。あそこは……」

「あそこは食堂だな」


 ヴィクトルはいつも自室にゼティリアが食事を持ってくるので知らなかったが、どうやら食堂らしい。セラは元々この艦に乗っていたから知っていたのだろう。

だが食堂の前で出来ている人だかりは食事を待つ列には到底見えない。困惑気味の三人の元にふらふらと近寄ってくる者が居た。その姿を見てセラが思わず悲鳴を上げる。


「なっ!?」

「これはこれは、魔王様にゼティリア様」


 やってきたのは巨大な一つ目の球体だった。球体には羽と尻尾が生えており色は黄土色。手足は無いが、その浮遊する一つ目の上には白いコック帽を被っている。


「何の騒ぎだ」

「いやはや、騒ぎというほどでは。出撃された後に見事に凍り付いて帰還されたネルソン様を元に戻している最中でして」

「ネルソンをか?」


 魔霊将軍ネルソン。スライムでもあるそいつは確か先の出撃で凍りついたと確かに聞いていた。それを思い出しヴィクトルは頭を抱える。


「そうだった……そうだったな。それで戻ったのか?」

「いえ、まだ途中です。しかし一部は戻りましたので会話は出来ますよ」


 どうぞ、と案内されてヴィクトルとゼティリアは食堂へ入ろうとするが、セラは何故か青い顔で動こうとしなかった。それを見てヴィクトルは首を傾げる。


「どうした」

「い、いや、少々驚いただけだ……。そうか、こういう種族も居るのか……」

「私の事ですかな?」


 パタパタと羽ばたきながら近づくと、一つ目は一礼する。


「初めまして人間の様なお嬢さん。私、アイ・レギオン(一つ目郡魔)で名をスエルと申します。魔王軍ではコックを担当しておりますのでお見知りおきを」

「こ、コック……?」


 その言葉にセラは疑わしげにスエルを見つめる。それも当然だろう。何せスエルには羽と尻尾はあっても手は無い。その視線に気づいたスエルが笑う。


「ははは、手足無くても料理は出来るのですよ」

「い、いやしかしどうやって――」

「何事も気合です」

「いや気合って……」


 ははは、と笑うスエルに対してセラは納得のいかないといった顔をしていたが、これ以上聞いてもきっと解決しないと思ったのだろう。それ以上は何も言わずヴィクトル達に続いた。

 食堂の中は大層な騒ぎだった。あちこちに鍋が置かれ、その中に凍りついた緑色の何かが放り込まれている。そしてその鍋の横では魔族が何名かおり、口から火を噴いたり、手から炎出したりして温めている姿があった。


「…………で、どういう状況だこれは」

「はい。凍りついたネルソン様ですがそのままでは解凍するのも大変でした。しかし艦内で大規模な魔術を使う訳にもいかず、仕方ないので一度砕かせていただき個別に解凍しております」


 スエルのその説明と同時、近くからチンッ、と音がした。嫌な予感を感じつつそちらを見ると、機械仕掛けの箱の蓋が開き、そこから緑色のドロリとしたものが湯気を立てながら出てきたところだった。それを見てスエルが笑う。


「この『でんしれんじ』というものは便利ですね。料理……ではなくてネルソン様の解凍が早く済みます」

「今料理と言ったか貴様」

「というか、そんな旧式の電子レンジがまだある事に私は驚きだ」


 遠い目をするヴィクトルと、その電子レンジを見て驚くセラ。因みにゼティリアは相変わらずの無表情だ。


「しかしこれは……」


 最強たる魔王軍四天王の一角が粉々に砕かれて鍋で解凍されている。その状況にヴィクトルは頭を抱えた。何なのだこれは? 最強何だよな自分達は? と。


「解凍済みのネルソン様でしたら会話は可能でございます。こちらに」


 そう言ってスエルが目配せした先には水槽があり、そこに緑色の何かが居た。どうやら先ほどの様に解凍した緑色の物体、まあつまりはネルソンをそこに入れているらしい。


「ネルソンか?」

「……ふ、これは魔王様ではないですか。いつ見ても感じるその力強い魔力、感服いたします」

「そ、そうか」

「ええ。それにゼティリア殿は今日も美しい。本日も顔色は良く健康体ですね」

「ありがとうございます。ネルソン様は今日も緑色ですね」

「ふふふ。たまには赤くなるのですよ? それとそこに居るのは……」

「ひっ!?」


 みょん、とその水槽の中の緑色――つまりはスライムのネルソンが体を水槽から伸ばしセラに向ける。その異様さにセラは顔を青くして一歩引いた。


「これは美しい人間の女性ではないですか。思わず服を溶かしたくなってしまいます。魔王様、この女性はどうしたのですか? 遂に側室を?」

「違う。というかそもそも側室どころか本妻すら居ないぞ俺は」

「はははご冗談を。それはゼティリア殿がふごぉっ!?」


 突然水槽に炎が上がる。水槽の中のネルソンが悶える様にうねうねと蠢く。


「氷漬けにされさぞ寒かった事でしょう。温めて差し上げます。序に綺麗に焼いて余計な事を考えるその邪な思考を浄化して差し上げます」


 無表情のゼティリアが水槽に手を向け、その紅の瞳で睨んでいた。どうやらゼティリアの仕業らしい。


「ふは、ふふふふふふ! 熱い、熱いけれどこれしき……っ! あの時宇宙に出た時感じたあの感触とはまだ遠い……っ! うっかり障壁を張り忘れて飛び出したあの時、体が煮えたぎり、そして凍り付いていく感覚には敵わない! 乙女の羞恥心等恐れるに足らず! そして照れ隠しに口封じをするゼティリア殿のその冷徹な無表情。紳士としてこれほど見ていて楽しいものは無い! ああ、服を溶かしたい……っ!」

「火力を上げましょう」

「ふふふふふふふふほわ!? ゼティリア殿……!? これ以上やられると私蒸発しそうな勢いなのだが……!?」

「成程、頑張ります」

「ほわわあわあわあわわわっ!? 頭がフット―してしまうぅぅ!?」

「MAXです」

「ほわああああああああああああああああ!?」


「…………」


 何やらエキサイトしている二人を横目に、セラが問う。


「何故だか、先ほどから最強の魔王軍とやらの恥部を見せつけられている感覚なのだが」

「そ、そんな事は無い!」


 そう答えるヴィクトルの視線は泳いでいた。





「大丈夫だ。俺は落ち着いている。そうだ、何故なら魔王だから」

「魔王様、熱くなってはいけません」

「一番熱かったのは間違いなくお前らだけどな!」


 ゼティリアのネルソンへの仕置きが一通り済んだ所で一行は再び進む。そのヴィクトルの顔はどこか疲れていた。そしてセラも。


「なあ、まだ行くのか? これ以上やってもなんだかまた何かが起こりそうな気がするのだが」

「だ、黙れ! このままで引き下がれるか!?」

「いや、まああれだ。お前が強いのは良くわかった。だから、こう、あれだ。元気を出せ?」

「何故俺が憐れまれているのだ!?」


 そうだ、このままでは終われない。これでは本当に魔王軍の恥部を見せつけているだけではないか。もはや半分意地で進むヴィクトルだが、疲れていたのだろうか。気が付けば居住区に来てしまっていた。


「魔王様、流石にここで我らの力を見せつけるのは無理があるかと」

「…………分かってる」


 どうやら自分は相当疲れているらしい。己の行動に呆れつつ踵を返そうとした時だった。通路の先、曲がり角の向こうから声が聞こえた。


「なんだ?」


 なんとなく気になりそちらに行く。その後ろでゼティリアが小さく『あ……』と呟き、何かを言おうとしたそれより早くヴィクトルは角を曲がり、そして見てしまった。


「ゼクト様! もう少しです! この説明書によればあと一ケタの数字を思い出せば扉を開ける事が出来ます!」

「そうですよゼクト様! 貴方様はご自分のお力でこの牢獄から脱出できるのです!」

「頑張れ! 頑張れゼクト様!」

『お、おおう……。なんと優しい部下の言葉じゃ。この老いぼれにもまだそんな声をかけてくれるのだな……』

「当然です。ですから頑張って下さいゼクト様! この『でんしろっく』と言う名の強敵を、貴方様の力で打ち破る姿を見せて下さい!」

『ふ、そうじゃな……儂はまだ終われん。この魔導大元帥ゼクト、このままでは終われんぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 それは扉の前で必死に励ましながら説明書らしき紙を捲る配下の者達であり、その扉の向こうから聞こえるのはどこかで聞いた覚えのある声で、


「お、おい魔王!? 急に床に手を付いてどうした!?」


 ヴィクトルは何も言わず、ただ打ちひしがれるしか無かった。


Q.巨大蜥蜴、そもそもその巨体で何故ついてきた

A.強者がいる予感がした。

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