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22.魔王様、親玉です

大変お待たせしました

「死んでしまいたい……」

「何言ってんだ。それより早く進むぞ」


 奥に進むにつれ電気系統の破損が酷く、電灯が殆ど消えたうす暗い艦内。そこをセラはとぼとぼと憔悴した様子で歩く。その前方ではヴィクトルが呆れた様に見つめていた。


「何って……人として色々とダメージを与えた張本人が言うのか……?」

「必要だからそうした。現にお前も動けるようになっただろ?」

「それはそうなのだが……というか体の中に妙な感覚があるのはやはり?」

「俺の魔力だろ。従者にした時点で俺から供給される様になったからな」


 ぬう、と唸りつつ居心地が悪そうにセラが己の胸に手を当てた。慣れない感覚に体が戸惑っているのだろう。


「妙な感覚だ……。無理やり力を引き上げられている様な、支えられている様な」

「その内慣れるだろ。それに上手く扱えればお前はもっと強くなれる」

「強く……?」


 良くわからないと言った顔のセラにヴィクトルは頷いた。


「魔王たる俺の力を与えてるんだぞ? 強くならなきゃ俺が困る。それにお前は元々それなりに力があったし……そう言えばあの光るやつ。あれもあったな」

「≪エクライルの雷光≫の事か」


 ヴィクトルが思い出したのはセラが時折使う身体能力を上げる術の事だ。どうやらエクライルの雷光というのが正式名称らしい事を今更知った。


「雷ね……どちらかというと火のイメージなんだが」


 発動時のセラは赤く、火の粉の様な光を帯びていた。そのイメージからすると雷よりも火を思い起こすのも無理は無い。そんなヴィクトルに対しセラは苦笑した。


「それは血筋によるものだな。エクライル人と言っても全員が全く同じという訳ではない。同じ星に住む、違う種族はいくらでも居る。≪エクライルの雷光≫自体は誰でもという訳ではないが多くの種族が使える。だが、その力はやはり種族ごとに分かれていく」


 成程、とヴィクトルは頷いた。そもそも自分達フェル・キーガ人だって、様々な種族が居てそして魔力を持っているがその使い方はそれぞれだ。つまりエクライルの雷光と言うのは自分達で言う魔力の様な物なのだろう。


「それでも昔はそんなに種類は分かれていなかったらしい。それこそ文字通り雷の如く雷光と瞬絶を持ってして敵を殲滅する力だった。だが長い歴史の中で様々な種族が交わり、力も変質していったという事だ」

「つまり力は変わってきたが、元の名前は失われずにいたって事か」

「そんな所だ。尤も、変わりすぎた上に種類が増えすぎた関係で二つ名を付ける事もあるが」


 同じ名前で違う力と言うのは中々にややこしい。敵を混乱させるのには良いかもしれないが、仲間内でも面倒になる。加えて趣味や見栄と言うのも関係しているがな、とセラは苦笑した。しかしそうなると気になるのはセラの二つ名だ。それを問うとセラは首を振った。


「私は特に名付けていない。力は力としてあれば良いと思っていたからな」


 実にセラらしい回答である。こういう実用性重視な所はゼティリアに似てるなとヴィクトルは密かに思った。そしてふと思いつき提案してみる。


「なら俺が名づけてやろう」

「断る!」


 即答だった。不満そうなヴィクトルだがセラは顔を引き攣らせて首を振る。


「お前のネーミングセンスに任せたら一生後悔する気がする」

「酷い言い草だなオイ」


 何せヴィクトルには宇宙生物ボブという前科がある。同じ系統で妙な名前を付けられた日には堪らないとセラは必死に拒否する。その反応が面白く少し強めに押して見ようかとヴィクトルがセラに声をかけようとした時だ。二人の進む先の通路からあの金属を擦れた様な不快な音が響いてきた。


「お出ましか」

「みたいだな」


 セラがDATEブレードを構え、ヴィクトルは悠然と通路の先を見つめる。因みにセラが構えているDATEブレードはヴィクトルが持っていたものだ。セラ自身の物は先ほどの戦闘で破壊されたのでヴィクトルから渡されたのである。

 館内の電灯は殆どが壊れ、明かりは辛うじて生き残った少数の電灯のみ。その電灯も今にも消えそうにチカチカト点滅している。そんなうす暗い通路の先から、例の金属音をならしボブが現れた。その数は4体。

 今までの事を考えればそれほど脅威とは思えない。故にヴィクトルは前に出ようとしたが、それを遮るようにセラが前に出た。


「私にやらせてくれないか?」

「セラ?」

「大丈夫だ。先ほどの様な焦りは無い。ただお前から渡されたこの力を早めに試しておきたい。いざという時に全力で戦えるように」


 それに、とセラはヴィクトルへと振り向く。


「先ほどはああは行ってくれたが、やはり自分の武を示したいという欲求もある。魔王に……ヴィクトルに気に入れられる為じゃない。私自身、戦士として強者であるお前にいつかは認められたい。例え今は借り物の力でも」


 真剣なセラの眼差しにヴィクトルは少し考えたが、やがて頷くと一歩下がった。


「なら魅せて見ろ。さっきまでのらしくない姿じゃくなく。本物のセラ・トレイターを」

「……了解した!」


 ヴィクトルの言葉に力強く頷くとセラが敵へと振り返る。同時に彼女の紅の長髪が揺らめき、赤い燐光が舞う。だがそこに以前とは違うものが混じった。煌めく赤い燐光とは別に、黒い光が混じりまるで放電するかのようにバチバチと音を鳴らし始めた。


「これは……そうか。これがヴィクトルの」


 セラ自身も驚くが、その黒い放電こそヴィクトルの魔力だと気づき納得した。同時に今まで以上に強烈な力が湧きあがっていくのを感じる。


「行くぞ」


 宣言は一瞬。その言葉を皮切りにセラは敵の中へと飛び込んだ。

 初手はDATEブレードによる一閃。振られた刃はボブの巨大な前脚によって防がれる。だが今までとは異なり、弾かれるのではなくその表皮に刃が食い込んでいた。≪エクライルの雷光≫とヴィクトルの魔力によって上乗せされた膂力が、ボブの表皮の硬度を僅かに上回ったのだ。


「――――――――ッ!」


 予想外の事態にボブが耳障りな叫びを発する。対してセラはあえて小細工はせず、逆に刃を押し込む力を強めた。燐光と黒い放電が増していく。放電そのものはボブの表皮に触れると吸収される様に消えていくが、それはたいした意味を持たなかった。


「はぁぁぁっ!」


 裂帛の気合と共に力強く踏み込んだセラの刃が遂に前脚を斬り飛ばす。そして返す刃でもう一本の脚も斬り飛ばした。ボブが悲鳴を上げて後退する。だがそれを逃すセラではない。刃を振りぬいた動きをそのままに半回転すると、勢いを乗せた回し蹴りを叩き込んだ。

 ベキィッ、と人間が繰り出したとは思えない程の衝撃と轟音をまき散らしてボブが飛んでいく。そして背後に控えていた仲間達へと突っ込むとそれを巻き込んで転がっていった。

 そしてそれを追うようにしてセラは走り出す。その間に自らが切り落とした前脚の先を拾うと、仲間同士で揉みくちゃにされて倒れているボブの顔面目掛けてその前脚を投げつけた。

 ぶしゅっ、と嫌な音を立てて前脚がボブの眼に突き刺さる。悲鳴を上げて蠢くそれ目掛けて、セラは跳躍すると突き刺さった前脚に踵落しを叩き込んだ。

 ずどんっ、と重い振動が響く。前脚はボブの体を突き破り、床に縫い付ける様にして突き刺さっていた。これで2匹。


「――――――――――ィッ!」


 仲間を良い様に蹂躙するセラに残る2匹が怒ったのだろう。その咢に緑色の光を灯らせセラへと向ける。セラはそれを確認すると引くことなく逆に前に出た。

 一匹がそれに驚いた様に動きを止める。その頭部目掛けてセラは容赦なく、薙ぐように蹴りを叩き込んだ。強化された力で繰り出されたその蹴りはボブの体の向きを変え、同じように緑色の光を灯していた同類の方へと向ける。驚く2匹に構うことなくセラは今しがた蹴ったボブの頭部を背後から掴みあげると、その光を灯す咢をもう一匹へと叩きこんだ。形容し難い悲鳴を2匹が上げる。同時にぶつかり合った2匹の頭部からじゅわ、と音がしてお互いの咢を溶かしあっていた。どうやらあの物を溶かすような光は同族にも有効らしい。そんな状態でのたうちまわる2匹の上に乗ると、セラはまず一匹の頭部へ躊躇なくDATEブレードを叩き込んだ。ビクンッ、と刺されたボブが跳ね、そして徐々に力を失っていく。


「悪いな」


 一言だけ、そう呟くとブレードを引き抜き、残るもう一匹へと突き刺した。そうして最後の一匹も動きを止め、通路には静寂戻った。


「…………」


 圧倒的。先ほどまでの様子が嘘の様なセラの動きに文字通り感心したヴィクトルは『うーむ』と呻く。見ていて思ったが、≪エクライルの雷光≫と魔力は相性が良いのか、セラの力をうまい具合に引き上げている様だった。

 確かに魔力供給で身体能力は上がる。だがセラはそれが顕著だ。最初は切り裂くのに苦労していたボブの前脚を、2振り目にはいともたやすく切り裂いていた。ブレードの力もあるだろうが、それ以上にセラの力が増したせいだろう。これほどの力。自分や四天王には及ばないにしても、魔王軍の中でも彼女に敵う相手は早々居ない。本人はまだ力が足りないと思っているようだがとんでもない。そんな事を言っていたら他の連中はどうなる事か。


「一度鍛えなおすかねえ」


 強者が増えるのが嬉しいが、元の配下達も役に立ってもらわねば困る。というか良く考えたら宇宙に出てから一部を除いてまともに役に立っていない気も。

 そんな事実に今更気づいたヴィクトルはこの件が終わったら配下達を一度鍛えなおそうと心に誓ったのだった。




 それからしばらくの間、二人はたいした障害も無く艦内を進んでいた。セラは大分力に慣れてきたのか、ボブが現れても一瞬で切り捨てるまでに成長している。お蔭でヴィクトルは暇であったが、これでセラの自信が付くのなら別に良いだろう、と思ったのでとくには止めなかった。

 そして更に進む事少し。漸く二人は武器庫へとたどり着いた。


「ロックは……やはり壊れているか。まあ今更だな。入るぞ」

「おう」


 扉を調べていたセラが先に入り、ヴィクトルも続く。


「……ん、武器は無事な様だ」


 室内はいくつかのパーテンションで区切られては居るが中々に広い。その室内の各所にこの艦に元々搭載されていた兵器の数々が保管されていた。それらを確かめながらセラが問う。


「小型の武器なら多くを持ち帰れるが、数で攻めるあの生物を殲滅するにはやはり足りないな」

「小型ならな。他のはどうだ?」

「一応あるにはあるが……」


 セラが目配せしたのは台座に固定されている大筒の武器。ガトリングガンや機関銃だ。だが機関銃ならまだしも、ガトリングガンを持ち運ぶのは中々に骨だろう。故に聞いたのだがヴィクトルは気にした様子は無かった。


「なら持ち帰ろう」

「だがどうやっ―――」


 パチン、とヴィクトルが指を鳴らすとガトリングガンや機関銃。その他諸々の武器たちが消えていく。何事かと目を見張るセラにヴィクトルが説明する。


「そういう術だ。最初にお前と戦った時も見ただろ?」

「そうえいば……」


 以前も虚空から武器をパラパラと落としていた事を思い出し、最早驚きを通り越して呆れた顔でセラが頷く。


「なんでもアリなんだな……」

「それくらいじゃなきゃ魔王になれん」


 ドヤ顔で宣言するヴィクトルに、今度こそセラは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「そんな事より早く戻るぞ。とっととこの艦内に居る害虫共を駆除しなきゃな」

「同感だっ―――っ!?」


 二人がゼティリア達の下へ戻ろうとした時だ。突如艦内が大きく揺れた。思わずバランスを崩して倒れそうになるセラをヴィクトルが支える。


「っ、すまない」

「気にするな。それより何だ?」


 衝撃は今の一回のみだったが、続くようにして重い重低音が艦内に響いている。この音は知っている。艦の砲撃音だ。


「何かと戦っている? まさかアズガードか!?」

「わからん。だが嬉しい事態ではないのは確かだな。早く戻るぞ」

「あ、ああ。だが戻るとしても時間がかかるな……」


 ここまで来るのにかかった時間を考えてセラが苦い顔をする。行きよりは早く帰れるだろうが、その間にボブの反撃が有ればその分時間はロスする。

 ヴィクトルも同じことを考えたのだろう。少し思案すると来た道とは別方向へと進み始めた。


「魔王!? どこへ行く気だ!?」

「簡単だ。外の様子を知りつつ、とっととゼティリア達の所へ戻る。手っ取り早く外から行くぞ」

「外って……成程」


 セラもヴィクトルの意図に気づく。この武器庫はブリッジよりも格納庫の方が近い。ならばそこから外に出れば良いという事だろう。それにあそこにならヴェルディオもある。


「走るぞ!」

「ああ!」


 二人は頷きあうと格納庫へ向け走り出す。だがそれを邪魔するようにボブたちが再度現れては道を塞ぐ。


「いい加減うぜえ!」

「全くだ!」


 ヴィクトルが苛立ち気に蹴り飛ばし、セラが武器庫で手に入れた新たなDATEブレードを両手で振るい切り刻んでいく。最早、≪エクライルの雷光≫とヴィクトルの魔力を纏ったセラの斬撃を受け止める術は無く、ボブたちは一瞬で殲滅されていった。

 そうして走る事少し。漸く格納庫へ辿り着くとセラは直ぐにヴェルディオへと向かった。梯子もキャットウォークも無視して床を蹴り、胸部装甲へ移るとハッチを解放。直ぐに搭乗する。


「システムチェック…………やはり通信機能は無理か。だが、動ける!」


 所々エラーを吐いているのは、やはりボブの発する謎の電波のせいだろう。だが動けないレベルではない。


『なら行くぞ』


 いつの間にかヴェルディの肩に仁王立ちしていたヴィクトルの言葉に頷き、機体を起動させる。機体内部のDATEが力を帯び、鋼鉄の巨人がゆっくりと動き出した。


「ハッチ解放……ちっ、そこも壊れているのか!」

『なら壊す』


 信号を送っても微動だにしないハッチにセラが歯噛みするが、ならばとばかりにヴィクトルがハッチに向け手を振るう。同時に放たれた無造作な光の奔流がハッチを破壊した。途端、急激な気圧の変化で格納庫内部が荒れ始める。


「無茶するな!?」

『気にしている場合か。それにフォロー位はする!』


 破壊されたハッチからヴェルディオが飛びだす。同時にヴィクトルが空いた穴に向け光を放つと、その光はまるで布の様に広がり穴を塞いだ。

 

『簡易の結界みたいなもんだ。後でゼクトあたりに補強させる』

「本当に何でもありなんだな…………所で聞きたいのだが先ほどからお前の声が頭に響いてくるんだがこれは?」

『通信機とやらが壊れてるからその代わりだ。お前との間に出来た回線(パス)を使って会話してる。いちいち驚いてたらキリがねえぞ』

「そうか……ってちょっと待て。それがあるなら連絡が取れたんじゃないか? 確かあの術を使うのは二度目と」

『ん? ああ言ったなそんな事。もちろん試したが船の中じゃ通じなかったぜ? 多分あのボブ共の魔力吸収の影響だろう』


 成程、とセラは頷いた。理屈は不明だが要はこれもヴィクトルの魔力供給を受ける事の恩恵なのだろう。だが魔力を使っているが為に、あの生物が何匹もうろついている艦内では妨害されていたという事か。そう納得するとセラは本来の目的に移る。


「とりあえず、まずは先ほどの衝撃の正体……を………」

『あん…………? オイオイオイ』

 気を取り直したセラだが、モニターに映ったあるモノの姿に思わず呆然とした。ヴィクトルも流石に驚いたのか声を失っている。だがそれも無理もない。

 何故なら、二人の視界の先では20メートルはあるガルバザルと、その倍の大きさの生物が居たからだった。


『…………おい、アレ、何だと思う?』


 ヴィクトルの問いにセラは少し考え、もう一度その生物を見て、そして頭を抱えつつ答えた。


「私の眼が正しければ、先ほどまで艦内で見かけたあの生物に酷似しているんだが」

『だよなあ』


 ヴィクトルも同意する。そう、その巨大生物はどう見ても艦内で散々見た生物――つまりは魔王命名ボブと同じ形をしていたのだ。


「つまり、あれは親玉ということ……なのか?」

『宇宙は広いなあ』


 色々と驚きを通り越して感心したようなヴィクトルだが、その先ではガルバザルが巨大ボブに噛みつき、その途端突然力が抜けた様に態勢を崩したところを巨大ボブの前脚で蹴り飛ばされている所だった。


「お、おい、良いのか? 苦戦しているみたいだが」

『奴があのボブの親玉だったら当然の如く魔力吸収してるだろうからな。そうなると必然的に接近戦になるが、流石のあの馬鹿竜もあの巨体に力を吸われたら苦戦もするか』


 感心したようにヴィクトルが頷いた時、新生魔王城の砲台が光りを放った。艦の砲撃だ。だが巨大ボブはその巨体に似合わない俊敏さでその場を離脱し砲撃を躱す。それを追うように今度はミサイルが幾重にも放たれるが、巨大ボブがその咢から発した光を放つと全てが撃ち落とされてしまった。


『ガルバザルがひきつけ城の砲撃で倒そうとしてるって所か。だが苦戦してるな』

「意外に早い……動きを止める必要がある。なら――」

『まあ待て』


 加勢するべくセラは動き出す。だがそれをヴィクトルが止めた。何故? と問うとヴィクトルが皮肉気に笑う。


『お前が行ってもいいけどな、ここはあいつらにやらせとけ』

「い、いやしかし! あの生物はお前達の魔力を」

『それでもだ。この先、あのボブがまた出てこないとも限らねえだろ? その度にお前任せにする訳にもいかない。それに魔王軍の四天王張ってる奴らだぞ? 天敵だろうが何だろうが、倒してくれなきゃ困る』

「それは……」


 確かに尤もでもある。現状、あの生物には最新兵器による攻撃が最も効率が良い。だがそうなると使える者は限られているのだ。少しでも多く、対処できる者が居た方が良いに決まっている。


『まあそんなに心配するな。魔王たる俺の部下だぞ? そんなに軟じゃあない。ほれ見ろ。出てきたぞ』


 そうヴィクトルが指し示す先では、新生魔王城の艦首に3つの影が現れていた。





「ご無事でしたか」


 新生魔王城艦首。空気も何も無いその場所で平然と立つゼティリアは、遠目に見える主の姿に小さく安堵した。自らの主があんな奇天烈な生物に敗北するとは思っていない。だがそれでも長い間連絡が取れない状態と言うのは不安になるものだ。これはヴィクトルの事を不安に思うと言うよりは、


(私の甘えでしょうね)


 弱い心だと嘆息する。そんなこちらの気持ちは知ってか知らずか、主であるヴィクトルはどうやらこちらを静観することにしたようだ。つまり自分達で何とかしろという事だろう。


「上等です」


 望むところだ。それが主の望みなら、天敵だろうが何だろうか蹴散らすまで。……まああの主の場合、本当にこちらがピンチになれば加勢してきそうだが。だからこそそんな醜態は見せられない。


「やる気だねえ。ふふ、私もイカせて貰うよ?」


 ゼティリアの隣でうねうねと動くのはネルソンだ。言葉のニュアンスが微妙に不安の残るところだが彼にもやる気はある様である。


「儂……役に立つ?」


 その隣で暗い目で呟くのはゼクト。どうやらまだ立ち直っていないらしい。そんなゼクトを励ますべく、ゼティリアは思考を巡らせやがて言葉を捻りだす。


「ご安心くださいゼクト様。例え魔力が通じない相手でも、囮・餌・肉壁と様々な場面できっとゼクト様は役に立ちます。ゼクト様は必要とされているのです」

「どんな必要性!? 儂の扱いやっぱり酷過ぎない!?」

「そう思うのでしたらいい加減立ち直って下さい」


 えー!? と未だに喚くゼクトを捨て置き前方に迫る巨大ボブを見据えるゼティリアにネルソンが問う。


「で、ゼティリア。君はどうするつもりだい?」

「確かにあの生物には魔力が通じません。ならばこの艦の武装で倒せば良いでしょう。小型ならまだしもあれだけ大きければ十分に的です」

「しかし意外にあの怪物は俊敏だよ? 今もガルバザル殿が苦労しているね?」

「はい。ですのでまずは動きを止めます。……実は私、魔王様の母君から昔からある心構えを教わっております」


 ほう? と興味深げなネルソンに対しゼティリアは続ける。


「困ったらとにかく物理で殴れ」

「…………」

「この言葉は無駄に耐久力の高い魔王様をお叱りなるときに母君がよく実戦した手法です。今こそその教えを守る時」

「…………そうかい」


 若干引き気味のネルソンを無視しゼティリアは両手を上げた。


「オペ子2号、手筈通りに」

『了解しました!』


 耳に付けた通信機から声が響くと同時、新生魔王城のミサイル発射管が起動。次々に発射されたそれは巨大ボブへと迫る。それを見てネルソンが怪訝そうに尋ねた。


「ミサイルとやらは先ほども効果無かったと思うよ?」

「はい。簡単に撃ち落とされてしまいました。―――ならば私が当てます」


 ゼティリアの指から魔力の糸が伸びる。それは一瞬で放たれたミサイルに突き刺さり、そしてゼティリアの制御下に入った。


「行きなさい」


 ゼティリアが腕を振るう。糸によって強引に進路を変えられたミサイルが、巨大ボブへと複雑な軌道を描き直撃し爆発を上げた。

 それを見てネルソンも成程、と頷く。


「ならば私も行くとしよう。済まないが私をあの巨大な彼の下へ飛ばしてくれるかね?」

「畏まりました」


 何故、とは言わない。四天王たるネルソンがそういうのなら、何か手段があるのだろう。ゼティリアは頷くとネルソンにも一本糸を伸ばす。ネルソンがその糸をその体で受け止めたのを確認すると腕を振るった。


「ふおおおおおおおおおおおこれも中々、快・感!」


 何やら訳の分からない事を叫びつつ、超高速で放り出されたネルソンが、ゼティリアのミサイル攻撃によって動きが鈍くなった巨大ボブへと取りついた。その途端、彼の体がボブへと吸収されていく。


「ふふふふ、やはりこれも中々快感だねえ。しかし残念だが敵である以上、私も役目を果たさなければね?」


 刹那、吸収されつつあったネルソンが輝き、そしてその身が爆発した。その爆発はネルソンを吸収していた巨大ボブをも巻き込む。

 ネルソンは見た目通りスライム型の魔族だ。その能力は相手を溶かし、己の肉体の一部へと取り込む事と、その体の中の魔力を爆弾の如く爆発させる事。そしてその爆発に使われるのは当然ながらネルソンの魔力だ。そんなネルソンを取り込もうとしてた巨大ボブの表皮は、取り込み中の魔力ごと爆発したために内部から破裂したような惨状となっていた。


「ははははは。どうやら、ガワはともかく、中身は魔力性の爆発でも通じる様だね? それ、ガルバザル殿、ここが狙い目の様だよ?」

「フハハハハハハ! 了解したぞネルソン!」


 爆発の瞬間、一部を切り離して退避していたネルソンが、宙を漂いながらガルバザルへ伝えると、ガルバザルはその獰猛な牙を煌めかせ、一気にボブへと迫ると、その傷口へと噛みついた。巨大ボブがその巨体を軋め、暴れまわる。ここが空気のある地上ならさぞ大きな悲鳴を上げていた所だろう。  それを確認し、ゼティリアは小さく嘆息する。


「態々噛みついては他の部分から魔力を吸われるでしょうに……ですが動きは止まりました」


 噛みつかれた巨大ボブは何とか抜け出そうともがいている。だがそれを許してやる道理は無い。


「魔王城、主砲発射準備」


 ゼティリアの合図と共に魔王城が動き始める。三つ又の槍の様な形状をしているこの戦艦の中心、艦首の下部が変形を始め、巨大な砲口が姿を見せる。


「DATE出力上昇。基準値をクリア。回線は全て良好、照準を」

『オッケーです!』

「よろしい。ではゼクト様、出番です」

「儂? ここまで来て何をしろと?」

「これより艦の主砲をあの化物へブチ当てます。タイミングを計ってガルバザル様を引き離して下さい。…………噛みつくのに夢中でこちらに気づいておりませんので」

「そんなバカみたいな理由で儂は呼ばれたのか……」


 がくり、と肩を落としつつも納得はしたのかゼクトが杖を翳す。その間にも砲撃準備は進み、周囲の空間が光りを帯びて帯電し始めた。空間をエネルギーに変えるDATE。その出力が上がってきた影響だ。

 全ての準備が整ったことを確認すると、ゼティリアは抑揚なくただ純然に敵を殲滅するためだけにその一言を放つ。


「発射」

「と、いう事でいい加減離れんか馬鹿竜がぁ!」

「おおおお!?」


 艦首の砲口から凄まじい光が放たれるより一瞬早く、大魔導師の名に恥じない巨大な魔力の砲撃がガルバザルへ直撃し、ガルバザルが巨大ボブの下から弾かれた。

 そして一瞬遅れて、魔力でもなんでもない。最先端技術の塊から放たれた破壊の光が、一匹残された巨大生物を文字通り跡形も無く吹き飛ばしていった。





『な? 大丈夫だっただろ』


 その光景を少し離れた場所で見ていたヴィクトルとセラ。セラはヴィクトルの言葉に頷くしかなかった。


「やはり、出鱈目だ……」

『んな事いったらこの魔王城の主砲の威力も俺たちからすると中々出鱈目だぞ? まあ俺には通じんが』

「それが出鱈目と言っているんだが……まあいいさ。お前達の行動に驚いてたらキリが無いのはもう重々承知してる」


 苦笑して投げやり気味に堪えるセラ。ヴィクトルも『ま、そういうもんか』と適当に頷いた。


『よっしゃ、なら戻るぞ。持ち帰った武器で魔王城内の残りの害虫共を掃除しなけりゃならんからな』

「分かっている」


 セラも頷きヴェルディオの進路を艦首へ向ける。だが変える前に、どうしてももう一度確認したく、セラは問いかける。


「なあ、魔王……私は、私達はここに居ていいんだよな?」

『何を今更。その話はさっき終わっただろうが。居ていいじゃなくて、居なきゃいけないんだよ』


 呆れた様にヴィクトルが答える。その答えにセラは『そうか』と少し嬉しそうに頷く。


「ありがとう……ヴィクトル(・・・・)

『何度も謝るな。それより急げ急げ』


 ひらひらと手を振り気にした様子の無いヴィクトルの姿にセラはもう一度笑うと、ヴェルディオのスピードを上げ艦首に向かっていくのだった。





 アズガード帝国第17機動艦隊旗艦≪エレパス≫。その戦艦内のとある一室。そこは異様な空気に包まれていた。

 室内に居るのは4人の男。内、二人はテーブルを挟みソファーに座り、残る二人はそれぞれの背後に立っている。


「本気かね?」


 問うのはソファーに座る男。この17機動艦隊の提督であるバル・ダトスだ。彼は目の前に座る青年の真意を探るべく、その鋭い眼光で睨む。

 それに対して、バルの前に座る青年は笑顔で応じた。


「勿論です。その為に僕はここに来た」

「……君の行動力は認めよう。私も最初に話を聞いた時は耳を疑った。まさかあの星の住人が自らここに乗り込んでくるとは」

「それだけ本気という事ですよ」


 ふむ、と唸りバルは腕を組む。横目で斜め後方に立つ副官、ドラ・ハーベスに視線を向けるが、優秀な彼もこの事態には困惑しているらしい。それもそうだろう。何故なら今自分の目の前に居る青年はあの忌まわしい星≪フェル・キーガ≫の住人であり、そしてそこではこう呼ばれている存在だからだ。


「勇者、か」

「魔王が居るのだから勇者も居たっていいでしょう?」


 そう笑う青年こそ、フェル・キーガ調査隊の下へ乗り込み、そして半ば強引にここまでやってきた男。≪勇者≫ジェイル・ハクシーボである。

 彼が本来ならば敵であるここまで来て、そしてこうして話す理由はただ一つだ。その為だけに、彼は自らの星から出てここまでやってきた。


「貴方達の技術を見て僕は確信した。僕と、そして貴方達の技術さえあれば僕たちの望みが叶うと」

「その為に敵である我々に協力すると?」

「貴方達だって苦しめられているんでしょう、ヤツに。僕たちの星も同じさ。なら協力するのはおかしくないだろう?」

「敵の敵は、という事か? だがそうならば我々なんかより、ヤツと君らが結託してこちらに挑んでくる方がよほど納得できる」


 その言葉にジェイルの顔が変わった。それは昏く、そしてどこか侮蔑を込めた……笑み。


「何を言っているんですか。そんな事は絶対にありえないんですよ」


 何故なら、ジェイルは笑みを強くし宣言する。


「勇者と魔王は敵でなければならない。そして、魔王は勇者によって倒されなければならないんだから」


 『勇者』の笑みじゃあ無いな。

 目の前の青年の顔に、バルは一人心の中で評価を下すのだった。


正直、この宇宙生物辺はgdgdしすぎてしまいました。いい加減話を進めなくていけないので後半は少し駆け足です。要反省です


次回から再び魔王様が戦艦とドツきあいます

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