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2.魔王様、説明です

 雲がかかり薄暗い夜空。次節雷鳴が轟き、雷の光は大地を照らす。

 その大地で二つの光がぶつかり合った。


 一つは全身を甲冑で包んだ人間。その見た眼とは裏腹に身軽な動きで己が手にする白銀の大剣を振るう。

 もう一つも人間。いや、人間の様なと何かと言うべきか。甲冑の人間よりも二回りは大きいそれは漆黒の衣服と同じ漆黒のマント。真紅の瞳を光らせ、頭部には角が生えた男だ。

 甲冑が剣を振るうと男はそれを腕で受け止める。受け止めた途端そこから光が舞い、甲冑が後ずさる。それを好機と見た男が鋭利な爪を振るうが、それを甲冑も剣で防ぐ。

 両者がぶつかり合うたびに光が、衝撃が、そして轟音が響くが、お互いに一歩も引かないため決着は遥か先に思えた。

 やがて数十に渡るぶつかり合いの後、両者は距離を取った。そして甲冑が剣を掲げるとその剣を中心に光が集まっていく。対して男も、構えた両腕に力を集めていき、その周囲の空間が揺らいでいく。

 お互いに埒が明かないと悟り、一撃必殺の大技で仕留める気なのだ。周囲の大気が震え、紫電が舞っていく。お互いの圧力が極限まで高まり、そしてぶつかり合おうというまさにその瞬間。

 そらから突然光が降り注ぎ二人を飲み込んでいった。





「と、これが我々とこの空船を所有する者達とのファーストコンタクトです」

「それは判ったがゼティリア、この映像はなんなのだ?」


 小さくうす暗い部屋に並んで備え付けられた椅子。その一つに足を組んで腰かけていた男、魔王ヴィクトルは目の前に映し出された映像を見ながら、部下の行動がいまいちわからずに思わず問いかけていた。


「これはこの空船(戦艦)の中にあった道具の一つです。頭の中で思い描いた光景をそのまま映し出す事が出来る道具の様でしたので、おさらいの為に私の記憶を投影してみました」


 しれっ、と答えているのは側近でもあり付き合いの長い部下であるゼティリアだ。相変わらずのメイド服に無表情を張り付けて、淡々と手元の紙をめくりながら事実だけを伝えてくる。


「我々の魔力でも似たような事は出来ますがこの道具の利点は魔力を必要としない、つまり誰でも使えるという事です。お蔭で男型魔族の利用が絶えません。何に使っているかは知りたくもありませんが」

「……まあ、娯楽は大事だろう」


 何せ慣れない宇宙だ。ストレスのはけ口位必要だろう。

 そんなヴィクトルの言葉にゼティリアは相変わらずの無表情で頷くと画面を切り替えた。


「さて、ヴィクトル様と今代の勇者の戦闘中へ割り込み攻撃を加えた連中ですが≪アズガード帝国≫と呼称する様です。そしてこの空船は宇宙戦艦と呼ばれ、星の空を航行する船の様ですね」

「随分なスケールだな」


 映し出された映像には空から雲を割って緩やかにおりてくる3隻の戦艦の姿があった。その戦艦は各所から光を放ち大地を焼いている。その光景にヴィクトルは眉を顰めた。


「状況整理です。幸いな事にあの程度では魔王様は滅ぶわけも無く、逆に反撃されましたね」

「当然だ」


 映像の中、光りが降り注いだ爆心地と呼べる場所から突如黒い光は湧き上がり、そして戦艦の一つを貫いた。貫かれた戦艦は炎を上げてゆっくりと墜落していく。だがその最中、墜落していく戦艦。それに残りの2隻から影が飛び立った。


「これがアズガード帝国の主力兵器。人型機甲兵器、通称≪ヴェルディオ≫です」


 その影の正体は人型の兵器。大きさにして人の十倍程か。その手には銃と光る剣を持っている。機体色は燃えるような赤色をしており全体的に丸みを帯びている印象である。


「この兵器は非常に厄介です。数が多いうえに強力な威力の破壊の光……彼らはDATE(デイト)ライフルと呼んでいるようですが、それを駆使してきます。このヴェルディオ相手ですとわが軍で対抗できるのは限られています」


「デイトライフル?」


 先ほどの戦闘を思い出しヴィクトルは唸る。自分からすればあんなものたいした脅威では無いのだが、仲間のゴーレムはいとも容易く敗北していたのを思い出したのだ。


「正確には次元活性変圧機関型ライフルと呼ぶようです。この名称については捕えたアズガード帝国の者から聞き取りましたが、簡単に言いますと空間そのものをエネルギーにしているようです」

「随分と簡単すぎないかそれは」

「申し訳ありません。本来はもっと詳しく専門的な説明があったのですが、何分言葉の意味が分からない部分が多いので」

「成程」


 この宇宙戦艦とやらがそもそも未知の塊なのだ。そういう事もあるのだろう、とヴィクトルも納得する。


「話を進めます。アズガード帝国の寄越した戦力はこの宇宙戦艦3隻。内、一隻はヴィクトル様のブチ切れ一撃で轟沈致しました。そしてもう一隻も」


 画面の中、空に飛んだヴィクトルが今度は巨大な赤い光を刃の様に形成してもう一隻の戦艦を両断する。それを見てヴィクトルは満足げに頷いた。

 

「ふむ、我ながら清々しい程綺麗にキレたと自負しているぞ?」

「キレたと斬れたをかけている様な極めて程度の低くしょうも無いダジャレをまさかヴィクトル様が言う訳ないと思いますので今のは聞かなかった事にしておきます」

「待て! ここは逆にツッコミが無いと俺としても非常に困るのだが!?」

「続けます」

「聞いちゃいねえ」


 もう慣れたと言えばなれた部下の鉄面皮に思わず唸ってしまう。だがゼティリアは全く気にした様子も無く、その美しい顔の無表情で続ける。


「残った最後の1隻。こちらは散々痛めつけた後、ヴィクトル様が直々に内部に侵入し奪い取って下さいましたね」

「この俺に喧嘩を売った馬鹿どもの顔が見たかったからな。まさか別の星から来たとは思わんかったが。最初は人間どもの秘密兵器と思っていたからな」


 うんうん、と頷くヴィクトルの前では、画面に映った自分が手から次々と光を放ち巨大な戦艦を痛めつけている姿が映っている。うむ、我ながらよくやったとヴィクトルは頷くが、


「でしたら最初からそうして頂ければ武装も破壊されること無く、奪った後が大分楽だったのですが」

「…………」


 そうなのだ。今ヴィクトルやゼティリアが乗るこの戦艦。実は残った最後の1隻を奪い取った物なのである。だが奪い取ったと言っても、当然ながらヴィクトルやゼティリア。他の部下達にもこんなものを運用できる筈が無い。


「まあいいでしょう。そして反抗する者は容赦なく痛めつけ、反抗する気力の無いもの達を奴隷化し艦を運用。そしてこの星の空……宇宙に出てきたわけです。ここまででご質問は?」

「質問も何もつい最近の出来事だ。わざわざ振り返る必要があったのか?」

「これは記録の意味も含めておりますので。我々にとっては未知の世界です。情報の整理は大事です」


 まあ尤もな話であるのでヴィクトルも静かに頷く。


「では以上を踏まえた上で現状整理です。まず捕えたアズガード帝国の奴隷達ですが、全員に≪首輪≫を付けました。彼らには殆ど魔力がありませんので破る事はほぼ不可能でしょう。故に反乱の可能性は極めて低いかと」


 首輪。それは文字通りの意味でなく、魔術によってつけられる刻印の事だ。その印を刻まれた者は術者に逆らう事が出来ず、逃げる事も出来ない。いや、正確には逆らったり逃げようとしても首輪がそれを阻止するのだ。主にヴィクトル率いる魔王軍が人間を捉えたり、反抗的な魔族を従わせる為に使う手段である。だがこの首輪は相手の魔力が高ければ高い程効力が薄いので、相手の力が高ければ高い程、首輪の刻印を刻む者の力も高くなければならない。逆に言うならば、相手に魔力が無いのならその心配は無いという事だ。


「まあ彼らもヴィクトル様のお力に逆らうほど命知らずでは無いようです。殆どは今は大人しく艦の運行、修理、雑用を行っています」

「殆どだと? 例外が居るのか?」

「はい。首輪は反抗する意思を挫く物であり、意識を奪うものではありませんので。気の強いものはいちいち反抗しては首輪の強制力に悶えています。ですが今は時間が惜しく、そんな連中の相手をいちいちしていられませんので纏めて独房に入れております」

「ほう? もしや俺がこの艦に乗り込んできたとき攻撃してきた連中もそこにいるのか?」

「はい。ヴィクトル様に反抗した者達が殆どです。彼らは必要な情報が聞き取れましたら不要です。処遇は如何なさいますか?」

「ふむ」


 今ゼティリアが態々そんな連中を残しているのは敵の情報を得るためだろう。だが反抗的なそいつらでなくても聞く相手はまだまだ居る。今は一応念の為に残しているが、その必要がなくなればそいつらは最早邪魔でしかない。

 だがヴィクトルとしては異星人の戦士と言うものに興味があった。


「後程見に行くとしよう。案外面白いかもしれん。それより現状説明を」

「……わかりました」


 どこか呆れた様にゼティリアがため息を付き、続ける。


「ヴィクトル様を攻撃した3隻は先発隊の様でした。何でも我らが世界……いえ、星と言うのが正しいのでしょう。我らが星フェル・キーガを侵略する為にまず、その星で最も強力な国家に攻撃を仕掛け、殲滅。そうすることで己が力を見せつけ反抗する気力を無くすのが目的だったようです」

「ほう? つまり我が軍が最も強力と思われた訳か。異星人共も見る目はあるな」

「誇っている場合ではありません。彼らは事前に調査を行い、そして目標を決めると先遣隊が圧倒的火力で殲滅。その後本隊が合流し一気に征服にかかるようです。つまりフェル・キーガに先遣隊が来たという事はこの後本隊が来るという事です」

「わかっている。だからこそ俺達も星空……宇宙に出たのだろう」


 ヴィクトルは小さく笑うと立ち上がる。画面に映るアズガード帝国の戦艦を睨み、嗤う。


「この俺が征服する予定の世界……いや、星を横から掻っ攫おう等あってはならない。あの星はこの俺の物だ。邪魔する者は潰す」


 手を伸ばし、そして握りしめる。その顔は新たな敵を見据え獰猛な笑みを浮かべていた。浮かべていたのだが、


「いきなりテンションを上げないで下さい。暑苦しいので」


 容赦ないゼティリアの一言でヴィクトルは思わずがくっ、と姿勢を崩した。


「おいゼティリア。ここは臣下としてもっとこう、士気を上げる言葉をかけるところだろう?」

「頑張れヴィクトル様。……これで満足でしょうか?」

「…………ちょっと冷たすぎないか?」

「早く話を進めたいのです」

「……」


 渋々と、若干しょんぼりしつつヴィクトルが席に座るのを確認するとゼティリアは続けた。


「現在、我らの目的はこれから来るであろうアズガード帝国フェル・キーガ侵略艦隊の本隊を叩くことにあります。ですが先ほども申した通り、こちらの戦力は現在大変心許ありません。まず艦の武装は修理中であり稼働率は3割程。更にはこの艦にはヴェルディオも27機残っておりますが、そもそもこれを動かせる者がおりません。そんな状況での先ほどの遭遇戦でしたが、やはりゴーレムが宇宙に慣れるのは時間がかかるようです」

「そうだ! その事でお前に言いたいことがあったのだ!」


 がばっ、と立ち上がったヴィクトルにゼティリアは首を傾げた。


「何か問題がありましたか?」

「大有りだ!? 何故よりにもよってこの俺が生身で宇宙に放り出されなければならなかったんだ!? 俺は魔王だぞ!? 一番偉い筈だよな!?」

「はい。そして一番お強いのもヴィクトル様です。艦がこの状態でしたのでヴィクトル様には一肌脱いで頂いた訳です」

「さらっと言ったな!? お前今さらっと言ったな!? というか何故俺だけなのだ! 確かに下級魔族にはしんどいだろう。ゴーレムの様子も見てきたから納得しよう。だがアイツらはどうした! 魔王軍四天王は!」


 魔王軍にも序列はある。まずトップは当然ながら魔王であるヴィクトル。そしてその下には軍を束ねる四天王がいた筈なのだ。

 魔王のもっともな質問にゼティリアは小さく頷くと手元の紙をめくった。


「はい。まず四天王が一人、邪竜大帝ガルバザル様ですが」

「おお、そうだ! ガルバザル! あの戦狂いの破壊竜はどうした!?」


 邪竜大帝ガルバザル。元は敵対していた文字通り邪竜の王だったが、戦いの末軍門に下った、凄まじい力を持つ竜である。


「三日ほど前、『あの光る星に強者の匂いがする』とおっしゃって飛び出したまま帰って来ておりません。……おそらく迷子かと」

「あんの馬鹿竜がぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ガンッ、とヴィクトルが近くにある椅子を蹴り飛ばすと椅子が粉々に砕け散った。その破片を軽くかわしつつゼティリアは続ける。


「次に魔導大元帥ゼクト様ですが」

「そうだ! あの爺の魔術があれば敵艦位軽く吹っ飛ばせるだろう!」


 魔導大元帥ゼクト。ヴィクトルやゼティリアと同じく人型の魔族のその男はヴィクトルが生まれる遥か昔より魔導を極め続けた老獪な魔術師。そしてヴィクトルやゼティリアを先代魔王と共に育てた親の様な存在でもある偉大な男だ。


「冒険して自室に備え付けられた『でんしろっく』と言う名の未知の鍵の扱いに失敗して部屋から出れなくなりました。現在部下が救出中です」

「壊せよ!? 開けられないのなら壊せ!?」

「私もそれは進言したのですが、閉じ込められて一人じゃまともに出れない老人、という状況に大元帥としてのアイデンティティが傷ついた様で。部下からの報告ですと扉の向こうからすすり泣く声が聞こえたとか。そんな状況なので下手に助けると傷が深くなりかねないので、今は部下が扉越しに必死に励ましています」

「アイデンティティを確立したいのなら魔王軍四天王らしく敵と戦わんか!?」


 ガンガンガンガン、とヴィクトルが壁に拳を打ち付ける度に穴が開いていく。それを冷静に眺めつつゼティリアは続けた。


「次に魔霊将軍ネルソン様ですが、実は出撃しておりました」

「何……? だが姿が見えなかったが……」


 魔霊将軍ネルソン。それは人型ではなくスライム型の魔族だ。だがその見た眼とは裏腹に真面目であり、そして強い。ある意味もっとも四天王らしい男なのだが……。


「出撃した途端、ネルソン様の身体が突如蒸発し始め、更には凍りはじめましたので部下が慌てて回収致しました。水性生命体のネルソン様にとってどうやら宇宙空間は鬼門の様でした」

「最強がっ……! 異星人にも認められた程の最強の我が軍がっ!?」

「因みに現在湯煎で解凍中です」

「だあああああああああああああああああああああ!?」


 遂に拳では無く頭を壁に叩き付けはじめたヴィクトルをしり目にゼティリアは最後に、と続けた。


「郡魔指揮官サキュラ様ですが」

「……今度は何だ」


 群魔指揮官サキュラ。女型魔族サキュバスのトップにして絶世の美女。虜にされた男は彼女の思うがままとなり、その様から群魔指揮官と呼ばれているのだが――


「産休です」

「もうそんな季節か…………」


 全てを諦めたような遠い目で虚空を見上げるヴィクトル。その隣ではゼティリアが冷静にこの部屋の修理にかかる時間を計算しているのだった。


難しい部分は魔力と謎システムで片づける

そんな偽SFです

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