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16.おお勇者よ、汝の願いを叶えよう

お待たせしました。

複数更新していますので14話からどうぞ

 彼はずっと不満だった。


「砕けろ!」


 そう叫んで己が振るうのは聖剣≪無名の判定者(ホワイト・ジャッジ)≫。ただその一振りで敵である魔族たちは剣から放たれた光撃に飲まれ消滅していく。それだけには飽き足らず、光は大地を割り、大気を切り裂き周囲一帯を破壊しつくしていく。


「勇者殿が道を開いたぞ! 進めえええ!」


 光が止んだ後に続くのは味方の進撃だ。魔王討伐軍――そんな名前の付いたその軍は一斉に攻勢を強めそれにより敵軍は一気に瓦解していく。


「やったわねジェイル!」

「よっしゃー俺達も行くぜ!」

「やってやりますよ!」


 それに続くように飛び出したのは3人。今代の『勇者』、つまり自分の仲間でもある。彼らはそれぞれの武器を持って敵を蹴散らすべく進んで行く。


「何やってるのジェイル! 早く!」

「ああ、今行くよ」


 杖を持った金髪の少女の声に、新たな勇者として選ばれた少年、ジェイルも前に出ていく。だがその顔にはどこか不満が混じっていた。


「なんて、弱いんだ」


 己が剣を振るう。それだけで敵は滅ぼされていく。それは仲間たちの攻撃でもそうだ。先ほどジェイルを呼んだ少女の持つ杖が光ると、天から雨の様に雷が降り注ぎ敵を消し炭にしていく。斧を持った髭を生やした大柄な男が斧を地面に突き立てると大地が割れていき敵を飲み込んでいく。それから逃れようと空へと飛んだ敵を今度は弓を持った緑の髪の少女が撃ち落としていく。

 圧倒的。そう言うに相応しい光景。だがこれは当然だ。自分の仲間である彼彼女らにはこの聖剣≪無名の判定者≫から力が与えられているのだから。

 持ち主である勇者が認めた相手に己の力を分ける。仲間達は皆、この聖剣を模したアクセサリーを身に着けており、それを媒介に力は供給される。しかもそのアクセサリーは単体でも周囲から魔力を集めてくる。そうして得た力は魔族達を葬るには十分すぎた。しかしだからこそジェイルは思う。弱すぎる、と。

 彼が聖剣に選ばれた理由は分からない。ある日突然国に呼び出されたと思ったら奇妙な森へ連れて行かれた。そして見たのは鎖で縛られていたこの聖剣。その姿を見た瞬間、感じた。


『これは僕の物だ』


 そう感じた瞬間鎖は弾け、気がつけば剣は己の手にあった。そして自分をそこまで連れてきた者達は歓喜しこう言ったのだ。『君が新たな勇者だ』と。その言葉を聞いた時感じたのは喜びに他ならない。

 元々彼は国に使える一兵士に過ぎなかった。出身は田舎だったが、幼少の頃から聞かされていたおとぎ話の英雄譚に憧れ、そして自分の生きる世界には『倒すべき悪』である魔王が存在した。幼い頃から自分がいつか魔王を倒すと彼は意気込んでいた。成長し、子供じみた英雄譚ばかりを語っていられなくなっても、想いまでは消えた訳では無かった。むしろ、世間を知っていくうちに魔王という存在が自分達の敵であるという意識は強くなり、そのまま彼は兵士となった。

 訓練漬けの日々の生活の中でめきめき力を付けていった自分。そんな自分に回ってきた『勇者』という大役。喜ばない訳が無い。己こそが、この世界を救うと彼は興奮した。


 だが実際はどうだ? 敵である魔王は空に消えた。そして自分はその隙に敵軍を叩き魔王軍と魔族の領地を奪おうとしている。その事自体は別段構わない。魔族に与える大地など一つも無いのだから。だがその為に戦う相手はどれもこれもが弱すぎた。たった一振りで消えていく敵軍。初めてこの聖剣の力を使った時はその力に興奮もしたが慣れてしまえば単調の一言だ。だんだんとそれが退屈になってきていた。

 確かにこんな退屈な事でも救われる人は居るのだろう。それに敵の本拠地まで進めばもう少しましな敵も居るのかもしれない。不確かな情報だが、先代の魔王も存命という噂もある。

 だがもしそんな好敵手たる相手が居なかったら? それを想像するとジェイルは恐怖に駆られた。このままずっとこんな退屈な事が続くのか、と。


「お疲れ、ジェイル!」


 声をかけられてはっとする。いつの間にか敵の姿は無く、味方が雄叫びを上げている。どうやら考え事をしている間に勝っていたらしい。


「ああ、お疲れ」


 ジェイルもぎこちなく笑みを浮かべた。そんな彼の様子に声をかけた少女が頬を赤らめる。そして何かを決心したように何かを言おとした時だった、


「おいジェイル! 何か妙な話があるんだが」

「ギムさん、妙な話って?」


 声をかけてきたのは斧を持った大男、ギムだ。彼の登場に杖を持っていた少女、ニーナが不満そうに睨むがギムは気づかない。


「ここから先に山があるだろ? ここからでも見えるあそこだ。なんでもあっちに最近妙な連中が居るって噂だ」

「妙な連中?」

「何それ? どこかさの山岳民族とかじゃなくて?」


 ギムの言葉にジェイルとニーナが首を傾げる。


「わからん。だが捨て置くのも気味が悪くてな。今日はこのあたりで野営の筈だからちょっくら見てこようと思う」

「これから? ギムって体力馬鹿よねえ……」

「オイコラ年上を敬えニーナ。ま、体力自慢は否定しないけどな。まあそういう訳だからお前らは――」

「僕も行きますよ」


 ギムの声にかぶせる様に答えるとギムは驚いた様な顔になる。


「おいおい、お前だって疲れてるだろ。良いから休んでろよ」

「別に大丈夫ですよ。僕も気になりますし着いていきます」


 これは本当だ。疲れるどころか有り余っていて退屈していたのだから。


「……そうか。なら来るか」


 そんなこちらの様子に気づいたのだろう。ギムはニヤッと笑うと頷く。


「え? ジェイル行くの!? じゃ、じゃあ私も――」

「ニーナこそ休んでおいて。僕達で十分だよ」

「そういうこった。こういうのは俺らの仕事だからな」

「何よそれ……」


 ははは、と笑い、それでもついて来ようとするニーナを何とか宥めると二人は目的の山へと歩き出した。




「おかしい」


 白衣を着た男は己の研究室で呻くように言葉を漏らし、その原因となったデータをもう一度見直す。だが何度見直してもデータは同じであり、それは己の言葉を裏付ける事になった。


「お前もそう思うか」

「っ、帰っていたのかね」


 白衣の男の背中に声がかかる。振り向けばそこに居たのは背の高い男だ。この星(・・・)では一般的な旅行者の服装をした男は小さく頷くと己の背後を指さした。


「今日の収穫だ。人間型が2人」

「成程。それはご苦労だった」

「そして仲間は二人やられた」

「……死んだのかい?」

「いや、だが重症だ。これ以上の作戦続行は不可能だろう」


 そうか、と白衣の男は頷くと疲れたように近くの椅子に座った。背の高い男も同じように近くの椅子に座る。

 この二人はこの星の住人ではない。アズガード帝国に属し、この星、フェル・キーガの調査の為に派遣された軍人だ。


「それで、『お前も』という事は君も同じ考えなのかな?」

「ああ、そうだ。この星はおかしい」


 男は頷くと苦虫を噛み潰した様な顔になる。


「強すぎる。この星の住人は。確かにこれまでも強力な力を持つ星はあった。この星もその一つだという事ならそれもいい。だが問題は」

「何故、それは報告されなかったかという事だね」


 白衣の男は頷く。


「確かにこの星の調査の前任者は仕事熱心では無く適当な調査で終わらせた。だけどいくら適当だからってこれほどまでに強力な力を持つ星の人間をそのままスルーするとは考えにくいね」

「前任者とやらが残したデータは?」

「かなりが改ざん……まあ早い話彼が楽する為に偽装していた様だね。だがそれでもいくつかはそれなりに調べたデータはあったんだよ。彼も失敗はしたくなかっただろうしね。そして彼が調べた中ではこの星にはさしたる脅威も無かった為に、彼は安全と考え怠惰に耽った」

「そいつが底抜けの馬鹿だった可能性もあるのが頭が痛い。だがそれでも、だ。只の一般人のサンプルを捕える為に俺の部隊の2人戦闘不能に追い込まれた。そんなのがうようよしている星だぞ? それを前任者とやらは見過ごしたのか?」

「もしくは、偶々彼が調べた地域が特段弱い者しか住んでいなかったか、もしくは『そう思わされていたか』かな」

「どういう事だ?」


 白衣の男の言葉に、話を聞く男は眉を潜めた。


「色々調べてね。君も見ただろう? 僕たちがこの星に降下した時仲間を撃ち落とした光を」

「ああ。だがそれが何か関係あるのか?」

「確証はないよ。ただ対処が的確すぎるとも思ってね。まるで僕たちが来ることを予測していたみたいだった。それもああいった行為に慣れているとも」

「……敵に内通者が居ると?」

「いや。もしそうなら全部撃ち落とされててもおかしくない。この星の住人ならそれくらいやってのけそうだ。だけどそうはならなかった。恐らくだけど僕たちがこうして来ることは予想していたけど何時、どこにまでは分からなかったんじゃないかな」

「それでも二つ落とされたがな……」


 その言葉に白衣の男も肩をすくめる。


「まあね。とにかく話を戻そう。敵の対処が的確すぎる。そう思って色々調べてたら面白いデータがあったんだ」


 そう言って近くのコンソールを叩くと、この研究室のスクリーンにある報告書が浮かび上がる。


「これは?」

「今から10年くらい前かな。実験的に試された作戦の報告書さ。中々面白い内容でね、コールドスリープ状態の兵士を乗せた小型艦を宇宙に無造作いくつも放つ。小型艦は宇宙を彷徨い、付近に生物が住める様な惑星を発見するとそちらに向かう。無事惑星に辿り着けばコールドスリープは解け、兵士たちはその星で活動を始める。勿論、母星に連絡を入れてからね。

『我らが領土と成り得る星を見つけたり』と」

「随分と雑な計画だな」

「その通り。一応試しては見たけどそれから10年、何の音沙汰も無し。まあもとより実験というか対して期待はされて無かった様だよ。どちらかというと流刑的な意味合いが強くてその作戦に選ばれたのも訳あり連中さ。この計画自体ももう再開されていないしね」


 ただ、と白衣の男は続ける。


「この計画で放たれた小型艇の数は定かじゃないけどね、その内1つはこの星のある方向に放たれている」

「つまりお前はこう言いたいのか? その馬鹿げた計画の小型艇がこの星に辿り着いていたと。だが音沙汰は無いのだろう」

「そうだね。ただそれは故障とかトラブルで説明はできる。まあ僕が言いたいことはね、もしその小型艇がこの星に何らかのトラブルを持ってでも辿り着き、何者かがそれを回収していたらって事さ。本来ならこの星の住人に僕達の存在は知られていない。だけど空に、宇宙に、そういう者達が居る(、、、、、、、、、)事を知っていて、前任者が調査を開始した時に何らかの対処をされていたら、と」

「馬鹿げてる」


 つまり、前任者の調査の際、わざと虚偽の情報を掴ませたと。だがそれは全て想像でしかない。それも奇跡的な確率で導かれる想像だ。考えるのも馬鹿馬鹿しいと男は吐き捨てた。


「そうかなあ? 僕は中々ファンタジーな話で面白いと思うんだけど」

「言っている場合か。それよりも本隊の様子はどうした? 魔王軍とやらは倒したのか?」


 残念そうに呟く白衣を無視して男は問う。すると白衣の男は静かに首を振った。


「駄目だね。またやられたらしいよ。敵の力がやはり異常すぎる。そんな連中を相手にしていたんだからこの星の連中が強い理由も分かる気はするけどね」

「ちっ、なら早く調査を終わらせるぞ。今日持ち帰ったサンプルは好きに使え。何としてでも奴らの強さの秘密を暴け」

「勿論だとも。いやーしかし楽しみだなあ。彼らは強い。強いからこそ色んな実験に耐えてくれるから僕も楽しいよ。時たまこちらを殺そうとしてきて冷っとするけどね」

「楽しむのは勝手だが任務はしっかりとこなせ。あの魔王軍とやらを何としてでも潰す為に」

「勿論だとも。いやあ楽しいな。僕の研究で魔王とやらを倒せるかもしれないとは何とも感無――――」


「その話、僕にも聞かせてくれないかな」


 その声は突然響いた。


『っ!?』


 驚きに目を見張る二人の前で、研究室の壁が切り裂かれ弾け飛ぶ。その衝撃で吹き飛ばされる二人がよろめきながらも顔を上げた時見たのは一人の青年の姿だった。


「君たちが何者かなんてどうでもいい。けどね、魔王を倒すのはやっぱり勇者だと思うんだよね」


 そう言って笑う青年。その手にはきらりと輝く聖剣が握られていた。


勇者参戦


それと大変遅くなって申し訳ありませんでした。

ようやく四半期決算も終わったので多少は時間が取れるように……なったとは言い難いですが頑張ります

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