表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/29

15.魔王様、命名です

複数更新しておりますので14話からどうぞ

 横たわっていた少女の瞳がゆっくりと開いていく。その姿にセラは思わず叫んだ。


「リール!」

「……あれ……? 姉さん?」


 意識がはっきりしていないのだろう。どこがぼんやりとした様子の妹をセラは抱きしめた。


「良かった……無事だな? どこも怪我してないな!?」

「い、痛いよ姉さん……」


 力が籠りすぎているのだろう。抱きしめられていた少女――リール・トレイターが思わず悲鳴を漏らすと姉であるセラが『しまった』という顔をして慌てて離れた。


「痛たたた、相変わらず姉さんは力が強いよ……」

「そうは言うがな、心配だったのだ。少しくらい許せ」

「許せって……って、姉さん? ここって一体……?」


 姉の強すぎる抱擁で意識が漸く覚醒してきたリールが周囲を見回す。彼女の眼に映るのは見たことない格納庫の景色だ。その光景に困惑する彼女に答えたのは男の声だった。


「俺の新たな城、新生魔王城だ」

「魔王……? ってうぇええええ!?」


 声の内容に首を傾げつつ振り返ったリールはいつの間にか自分を見下ろすように立つ男の姿に素っ頓狂な声を上げる。成人男性より一回りは高い身長と漆黒の髪。そこから生えた角と深紅の瞳。年齢は若く見えるがにじみ出る威圧感。その男――魔王ヴィクトルはふふん、口元を吊り上げた。


「ようこそだ妹。これでお前も魔王軍の一員だな」

「は? へ? うぇえ!? ね、姉さん、一体どういう事!?」

「……まあ、なんだ。色々あったんだ。色々と」

「色々って何!? なんで遠い目をしているの!? というか魔王軍ってモロ敵じゃないですかー!? しかもいつの間にか配下認定って過程をすっ飛ばしすぎて意味わからないよ!?」

「では私が説明しましょう」

「あ、これはどうもご親切に……ってお姉さん誰!?」


 いつの間にか、リールを介抱するセラの隣に現れていたメイド服のゼティリアの姿にリールは再度声を上げる。それに対してゼティリアはちょこん、と一礼。


「魔王様の副官、ゼティリアと申します。色々聞きたいことはあると思いますがまずは貴方の説明を」

「え、あ……うん。お願いします?」

「はい。面倒なので色々過程を省いてぶっちゃけさせて頂きますと、魔王様があなたの姉を気に入り、妹を助ける代わりに仲間になれゲヘヘヘへ、という成り行きの元あなたを救出致しました」

「げ、ゲヘヘヘへ……?」

「オイなんだその眼は。というかゼティリア、お前も何を言っている」


 ドン引きして後ずさるリールの姿に顔を引き攣らせたヴィクトルが原因たるゼティリアに半眼を向ける。


「ウェットなジョークというものです。彼女は緊張している様でしたので」

「もっとマシなものを選べ!」


 特に悪びれもせず答える部下にため息を付く。そんなヴィクトルには構わずゼティリアはリールに視線を戻した。


「冗談はさておき、あなたの姉がこちらの仲間になったのは事実です。そしてその願いから私達はあなたを救出致しました。覚えていらっしゃいますか?」

「救出……えーと確か……いきなり小型艇に押し込められたと思ったら閉じ込められて。それで放り出されて何の虐待なのかなぁとみんなで怯えてたら、いきなりその小型艇が爆発して―――ってなんで私生きてるんだろう? なんか最後に緑色の何かを見た気はするけど……」

「ふむ、それはつまり私が助けたからだよ?」

『ひぃぃ!?』


 ねちょり、といきなりセラとリールの目の前に天井からネルソンが降ってきた。その光景に思わず姉妹二人が悲鳴を上げた。


「はははは良い反応だね。流石セラ殿の妹君。驚かし甲斐があるね!」

「おおおお、お前……っ!」


 ギリギリっと顔を真っ赤にしてセラが悔しそうに拳を握るが、妹の恩人であることは確かなので何とか堪えた。


「まあつまりだね? ひっそり隠れていた私の分身体が爆発の寸前リール殿や他の麗しき人間達をこの大らかで抱擁感あふれる体で優しく包み込んで助けた訳だね」

「まあ元をただせば彼女達が危険に会うような原因を作ったのは我々ですが」

「別にいいだろう。結果が全てだ」


 ゼティリアのツッコミにヴィクトルはたいして気にせず答える。


「細かい話は後で良いだろう。とにかくこれでセラとその妹は正式に魔王軍の一員と言う訳だ。この新生魔王城でしっかり働くがいい」

「……先ほどから思っていたのだがその新生魔王城とはなんだ?」


 セラが不思議そうに首を傾げる。魔王軍の配下云々に関してはそういう約束であったし今更拒否しようとは思っていないらしい。


「この戦艦の名前だ。まだ決まっていなかったからな。よくよく考えたら魔王たるこの俺の新たな本拠地となるのだから魔王城でいいだろう」

「データにあったアズガード帝国の娯楽映像風に言うのなら機動戦艦魔王城といった所ですね」

「あ、安易すぎる……というか戦艦で城って一体……」

「劇場版とか出そうだね……」


 満足そうに解説するヴィクトルと淡々と告げるゼティリアに姉妹は顔を引き攣らせていた。


「ふふふ。まあそんな訳でこれでセラ殿は正式に。そしてリール殿も魔王軍の仲間入りと言う訳だね。嗚呼、美女二人の追加に興奮しそうだね……もちろんエロい意味で!」

「お、お前は……」


 うねうねグネグネと動くネルソンの動きは誰が見ても気味が悪いものであり思わずセラの顔が引きつる。妹の恩人であるし、その性癖以外は別に嫌っては居ないのだがやはり女性として若干引く所はあるのだ。思わず介抱していたリールごと後ずさろうとするが、それより早くリールが動いた。


「…………素敵」

「え?」

「ん?」

「まあ」

「おや?」


 蠢くネルソンの緑色の体。突如その中に手を突っ込んだリールの行動にセラ、ヴィクトル、ゼティリア。そして当の本人であるネルソンまでもが思わず困惑する。だがリールは構うことなく、どこか恍惚とした眼で笑い、ネルソンの中に突っ込んだ己の手を動かす。


「お、おおう? リール殿? その動きは……おおおぅ!?」

「何て不思議な生物なの……。さっきまでこの中に居たなんて……っ。なんでその時の事覚えてないかな私っ! 勿体無い!」

「お、おいリール?」

「一体どんな組織で出来てるのかな? というか小型艇の中に潜んでたのに私達全員を包み込んだって事は膨張したって事かな!? 何それ凄い! ねえ、ねえネルソンさん! あなたの体を私にもっと魅せて!」

「む、むむむむ!? リール殿? 何やら怪しげな輝きを持った眼を……ってその動きは!? あふん!?」

「ふふふふふ暖かーい、柔らかーい。大丈夫ですよ、命の恩人に変な事はしませんよ? ただちょっと、ちょっとだけ! 先っぽだけでいいですから私に色々見させて下さい!」

「ふおおおおおおお!? こ、これはいかんね!?」

「あ!? 待って下さい!」


 思わず逃げ出すネルソン。そしてそれを追い掛ける為にがばっ、と立ち上がり駆け出すリール。その後ろ姿を姉であるセラが呆然と見つめていた。


「なんとも珍しい光景だな」

「ええ、ネルソン様が女性から逃げるとは」


 ヴィクトルが感心したように頷き、ゼティリアでさえ目を丸くしていた。


「あいつ、いつも自分から変態性滲み出しているがああいうタイプには弱いのか?」

「これはある意味貴重な人材ですね」


 成程、と頷いたヴィクトルは傍らのセラに視線を向け、


「で、姉としてどう思う、あれを」

「リールは…………昔から好奇心旺盛だったんだっ…………!」


 嘆くように頭を抱えるセラ。それは妹の滲み出す変態を上回る何か故か。流石に少々哀れに感じたので『そうか』とだけ答える事にした。


「待ってください! 逃げないで、私と一緒に未知の解明をしましょう! ネルソンさんの肉体には無限大の可能性が!」

「攻めるのも受けるのも好きだがねっ、君から何か危険な匂いがするのだよ!?」


 逃げる四天王とそれを追う妹。そして妹を見て嘆く姉。そんな混沌した光景はしばらく続いた。


本当なら前の話か、この後の話とつなげようと思いましたがキリが良いので分けた形です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ