表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

14.魔王様、私の出番です

ようやく四半期決算も終わり多少余裕が出てきましたので再開いたします

お待たせしてすいません


複数更新しているので14話からどうぞ

 目の前で妹の乗っていた小型艇が突如として爆ぜる。その光景にセラは一瞬呆然とし、そして直ぐに顔を強張らせた。


「リール!?」


 炎は広がり己の乗るヴェルリオにも迫る。だがそんな事は気にしていられない。激しく乱れる心臓を押さえつつ炎――今しがた爆発した小型艇に機体を向けようとして、その機体の動きが突然止まった。


『落ち着け』


 通信機越しに聞こえてきたのはヴィクトルの声。モニターが捕えた彼の姿は宇宙空間に立っていた。そう、浮かんでいるのではなく足元に光の床を創りだし立っていたのだ。そしてヴェルリオの肩部装甲に手をかけている。まるで気軽に肩をかけているようにしか見えないのにそれだけでヴェルリオはその場から動けなくなる。だがそんな異常な光景も、今のセラには些細な事だった。


「離せ! リールがあそこにっ!」

『それについては問題ない。だから落ち着け』

「何を――」


 言っているのだ。そう言いかけたセラだがそこでモニターが捕えた映像に思わず静止した。


「なんだ……あれは」


 爆発した小型艇。その炎が晴れれば残るのは砕かれた小型艇の残骸だけの筈だった。だが本来あるべきはずのそれとは別に奇妙な物体が姿を現す。

 それは薄い緑色をした球体だった。小さなシャトルほどの大きさだった小型艇よりも更に小さいが、それでも人を5,6人は包めそうな緑色の球体。それが悠然と姿を現したのだ。


『ご苦労、ネルソン』


 その球体に向けてヴィクトルが放った言葉にセラも気づく。そうだ、あれはネルソンの色に良く似ている。つまりアレは先に聞いたネルソンの分裂体?

 そんなセラの疑問に答える様に球体がグネグネと動き出す。そして蠢くそのネルソンの中には数人の人影が見えた。


「リールっ!?」

『ふふふ、安心したまえセラ殿。皆無事だよ』


 やはりネルソンだ。声が聞こえるという事は小型艇にあった通信機でも使用しているのだろう。だがそれよりもセラには気になる事があった。


「一体どういう……」

『簡単だね。彼らのやることは判っていたから、ここぞというタイミングで私の中に妹君と他の麗しき人間達を保護したのさ』

『だから言っただろう。問題ないと』


 ネルソンとヴィクトルの言葉にセラは思わず肩の力が抜けた。あそこまで言うのなら本当に無事なのだろう。この期に及んであのヴィクトルやネルソンが冗談を言うとは思えないからだ。


『それよりネルソン。奴らどういった意図でこんな事をしでかした? ただの嫌がらせか? よもや、あの程度で俺が爆殺されるとでも思っていたのか?』

『いやいや、彼らも彼らなりに考えている様でしたよ魔王様。爆殺できればそれで良し。出来なくても女たちが重要ならそれを守るであろうし、そうなれば魔王様はそちらに気を取られるのでその隙に艦を狙うのも良し。逆に魔王様が何も反応せず直ちに反撃してくる様なら彼らが掴んでいた情報、魔王様が変態鬼畜ドエロ野郎だという情報は偽りであり今後はそういう方法は意味が無いとも知れる。彼らにとって、あの船に居た女性たちはそれほど重要ではないので、どちらに転んでも良かったのでしょう。こちらの分析ができますからね』

「なんだと……」


 その小型艇に妹が乗っていたセラとしては、帝国のその考えに怒りを隠せない。無論、帝国がそういう国だという事も理解はしていた。実力主義で極端な迫害は無いにしろ、やはり帝国民にとって、元他国の兵士等重要ではないという事を改めて思い知らされる。


『そうか……ふふふふ、ハハハハハッ!』


 怒りに操縦桿を握りしめていたセラの耳にヴィクトルの笑い声が響く。何事かとモニターを向けると、相変わらず宇宙空間に立っていたヴィクトルが面白そうに、腹を抱えて笑えっていたのだ。その異様な光景に思わず引いてしまう。


「な、何がおかしいのだ……?」

『おかしい? いや違う、嬉しいんだよこれは』


 ククク、と笑うその姿はまさに魔王そのもの。だがセラにはその意図が読めない。


『考えても見ろ。今まではアズガード帝国は力任せにこちらを潰す戦術を取ってきた。それは何故か? 簡単だ、それで十分だと思っていたからだ。だが今回は違う。奴らは策を用い、そしてそれを利用してこちらの分析を試みた。それは何故か? 必要だと気づいたからだ。前回の偵察でこの俺達魔王軍が脅威であると理解したからだ。だから知ろうとした。より詳しく、俺達の生態を、考えを』

「それの何が良いのだ……?」


 楽しそうに笑うヴィクトルの姿はどこか無邪気な子供を思わせる。

 セラには理解できない。敵に脅威と取られるという事は敵に油断は無く、全力で攻めてくるという事だ。なのにそれの何が愉しいのか?


『愉しいとも。それはつまりアズガード帝国が正しく俺達を敵として認識したという事だ。俺は魔王であり、我が軍は魔王軍。舐められるのは我慢ならなかったが、やうやくこれでといった所か。だが――』


 笑みを浮かべたままヴィクトルは腕を組み『ふむ』と頷く。


『まだ少し認識が足りない様だな。俺を艦から遠ざけるというのは正しい選択だ。だが俺の部下の事をまだ見誤っている様だ。なあ、ネルソン?』

『ははは。魔王様はハイテンションですねえ。して、ここで私に話題を振るという事は?』


 リールや他の女性たちを包んだ状態のネルソンがグネグネと動く。今気づいたが、中の人々は皆気を失っている様だった。その方が彼女達も幸せだろう。


『敵艦にはお前の分身は残してきたか?』

『当然ですとも。丁度前方に見えるあの艦ですよ』


 ネルソンの言葉にぎょっとする。慌ててレーダーを確認すればすぐそこまで敵艦が迫っていた。見れば機体のセンサー各種がそれを知らせていたのにも関わらず、妹の安否の為に気を取られそれに気付いていなかったのだ。更に機体のセンサーはこちらに迫る5機のヴェルリオを捉えていた。


「魔王!」

『わかっている。ネルソン、』


 ヴィクトルが鷹揚に手を上げ、嗤う。


『見せつけてやれ。奴らが相手をしているのは(魔王)ではなく魔王軍(俺達)だという事を』

『御意』


 通信機越しに聞こえたその声に、セラの背筋がぞくりと震えた。





 それは主の命令を受け静かに動き出した。まず手始めは自身が潜んでいた艦の小さなダクト。それを溶かし、そして己の一部として取り込んでいく。まるで熱湯をかけられた氷の様に溶けたダクトは己の一部となり、それがまた周囲を溶かしていく。徐々に範囲は広がっていき、それにより加速度的に溶かし、取り込む速度が上がっていく。やがてそれはダクトから壁へと滴り落ち、同じように溶かしつくしていく。そこに来て漸く、乗員達は異常に気付いた。


「な、なんだあれは!?」

「溶かして……いる!?」


 あまりにも突然に訪れた予想外の展開に彼らは硬直し、そしてそれが仇となる。凄まじい速度で周囲を溶かし取り込むそれは最早津波だ。一瞬にして飲み込まれた彼らはダクトや壁と同じように一瞬で溶かされていった。


「うわああああああ!?」

「なんだよ!? なんなんだよこれは!?」


 惨劇は止まらない。更に速度を上げたそれは艦内を蹂躙していく。警報が鳴り武器を持った兵士達が駆け付けるが銃弾を浴びせてもそれは怯みもせず津波の様に押し寄せては全てを溶かしつくしていく。そこに一切の慈悲は無い。何故なら、


「攻めるのも好きなのだよ私は。それに我が王たる魔王様の命令なのでね。惜しい人材も居るが等しく私の糧としてあげよう」


 艦内を溶かしつくしていく緑色の水性体――ネルソンの分身はどこか楽しげな声と共に蹂躙を開始した。





「なんだ……?」


 レーダーとセンサーが捕えた正面の敵艦。てっきり直ぐに攻撃が来ると思っていたセラは、一向にそれが訪れない事を訝しんでいた。このタイミングで攻撃を仕掛けないのは奇妙と言っていい。

 こちらから仕掛けるべきか? 一瞬考えが過るが直ぐに却下する。戦艦相手にヴェルリオ一機ではどうにもならない。それに敵のヴェルリオも近づいてきているのだ。戦力的にもあちらを相手にするのが正しい。


「魔王、戦艦は――」


 どうする、と聞きかけた時だ。突如前方の敵戦艦が火を噴いた。撃沈とまではいかないがかなり大きな爆発だ。更にはこちらに接近してきていたヴェルリオ達が慌てた様に母艦へととんぼ返りを始めた。


『ネルソン、首尾は?』


 そんな光景に唖然としているセラの耳にヴィクトルの声が響く。


『順調ですとも。いやあ、女性の服も良いですがああいう獲物を溶かすのもたまには良いものですねえ。こう、弾ける感じで!』

『馬鹿言ってないでそろそろ終わらせろ。仕込みは十分だろうが』

『承知いたしましたよ。では文字通り―――弾けましょう』


 刹那、炎を上げていた前方の敵艦が膨れ上がり、今度こそ巨大な炎と光をを伴って爆散した。その衝撃は凄まじく、母艦に戻ろうとしていたヴェルリオを吹き飛ばし、遠くに居たこちらの機体も激しく揺さぶっていく。


「くっ、な、何が……!?」

『簡単だよセラ殿。溶かして爆ぜた。ただそれだけ。そしてそれこそがこの私の力なのだよ』


 当然の疑問に答えたのはネルソン自身だ。彼はうねうねと、妹たちを取り込んだまま動き解説を続ける。


『私は溶かすことに至上の喜びを見出し、そしてそれを取り込む事こそ種としての力だ。だが溶かして取り込むだけでは無く、それをそのまま燃料として爆ぜる事も可能なのだよ』

「それはつまり自爆……ということか?」

『まあ似たようなものだね。少し違うのはそうしたところで私は痛くも痒くもない。何せ無限に生まれる分身だからね。そして種の在り方としてそれを許容しているが故に私は躊躇い無くそれを行うとも』


 溶かし、取り込み、そしてそれごと自爆する。それこそがネルソンの真髄。一見何の力も持っていなそうなスライムが秘めていた力が途轍もなく恐ろしいものだと気づく。

 だがそうなるとセラには別の心配も出てくる。


「お、おい。リールは大丈夫なのか……?」

『妹殿の事なら心配いらない。敵は滅ぼすがそれ以外は別だとも。よもやこの場で自爆などはしないよ』

『当然だ。何の為にこんな所まで出張っていたと思っている。それよりも、だ。おい、ガルバザル!』


 いつの間にかヴェルリオの肩に戻っていたヴィクトルが声を張り上げる。一拍置いて通信機がそれに応えた。


『なんだ魔王! 我は今楽しんでいる所だぞ!』

『ああ見えている。敵の機体を追いかけまわしているようだがいつまで遊び呆けているのだ。確かに貴様は速い。だが俺がお前を配下にしたのはもっと別の理由だろうが』

『む?』

『お前の咆哮を見せつけれやれ(・・・・・・・)


 その言葉にガルバザルは一瞬沈黙し、そして答えた。


『ふはははははははは! そうか、それも一興! ならばやってみせようぞ!』


 それは歓喜の叫びだ。轟音の様な声量でガルバザルが笑い、ヴィクトルが満足そうに頷いた。


『次は――ゼクト』

『ふむ、つまり儂も見せつければいいのじゃな?』


 呼びかけにゼクトは直ぐに答えた。まるで全てわかっているとでも言うように。


『そうだ。魔王軍(・・・)を見せつけてやれ』

『ふぉ、ふぉ、ふぉ。それはまた派手な事じゃな。だが艦の防御はどうする? 敵のあの……ヴぇるりおとやらはまだ飛んでいるぞ?』

『わかっている。だからこそ――ゼティリア』

『はい』

『艦のシールドとやらは修復しているのだろう?』

『はい。ですが出力は弱く完璧とは言えませんが』

『ならばその穴はお前が埋めろ』

『…………人使いが荒いですね』

『出来ないのか?』

『ご冗談を。直ぐに対応いたします』


 それだけを答えるとゼティリアが通信を切った。ヴィクトルも指示を終えたのか満足そうに腕を組んでいる。


「お、おい魔王。何をする気だ? というかゼティリアにまで」

『問題ない。それよりも良く見ておけよ』


 カメラ越し、こちらに振り返ったヴィクトルの顔には絶対の自信に満ちた笑みが浮かんでいた。


『これが魔王軍だ』





「さて」


 ハッチを開け外に出たゼティリアはメイド服を翻しいつも通りの無表情で周囲を見渡した。

 ここは三つ又の槍の様な形状をしたこの戦艦のもっとも前方に突き出した場所――艦首である。その外壁にゼティリアは何の気負いも無く佇んでいた。

 ふと上を見上げると艦の周囲を飛び回る敵のヴェルリオがDATEライフルを放つところだった。だがそれはゼクトが張っていた結界に阻まれ霧散していく。あの結界のせいで敵はこちらに取りつくことも出来ないのだ。


「ゼクト様、準備完了です」


 その艦首外壁にはもう一人居た。艦の防御を担当していたゼクトである。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。了解したよ。ならば儂も行くとしようかねえ」

「ゼクト様、一言良いでしょうか?」

「なんじゃね? ここで優しい言葉でも貰えるとおじいちゃんとっても頑張れるぞい?」

「『ふぉ、ふぉ、ふぉ』とかガチで言うと正直微妙なので控えた方がよろしいかと」

「……」

「何を突然蹲りメソメソ泣いておられるのですか? 辛いことがあるのでしたらご相談ください」

「儂の話に付き合ってくれるのか!?」

「はい。その際は先代様の奥様から伝授された秘伝の精神改革法を試してみようと思います。大事なのは火力と物理力なので私の力で足りるかが少々心配ですが」

「物理ってどういう事じゃ!?」

「天に石を投げても地面に落ちていくのが物理です。ご安心下さい」

「……何故こんなエキセントリックなメイドになってしまったのじゃ……もっと幼い頃は素直だった筈なのに……」


 何故か蹲りメソメソと鳴きはじめた老人を無視してゼティリアは両手を広げた。


「それよりもゼクト様」

「わかっておるよ……」


 ゼティリアの催促にゼクトは立ち上がるとその手に握った杖で軽く足元を叩いた。


「どれ、この鬱憤を晴らすとしようか」


 その言葉と同時ゼクトの雰囲気が変わる。先ほどまでの哀愁漂う老人から、異様な威圧感を生み出し、暴風の様な魔力の奔流を纏ったものへと。


「ヴィクトルの命だ。全力でいくので結界を消すぞい。任せたぞゼティリア」

「承知しております」


 ゼティリアが頷くと同時、艦を覆っていた結界が消える。それに費やしていた魔力も全てゼクトは己の攻撃へと転化していく。


「敵は?」

「前方の敵艦はネルソン様が落としました。残るは後方。それに上と下に一隻ずつです」

「ほほう、敵の戦力もかなりのものだな。一体いくつこの星の船を所有しているのじゃ?」

「不明です。ですがこの星の空を渡って侵略を続ける者共ですので、並大抵の戦力ではないでしょう」

「そうなるのかのぉ。まあそれも良い。何がこようと蹂躙するだけじゃ。さて、いくぞい」


 ゼクトが老人には似合わぬ獰猛な笑みを浮かべた。同時にゼクトの周囲に幾何学的な文様が浮かび上がっていき、合わせて光弾が幾重にも生み出された行く。


「≪魔弾よ、汝の使命に殉じろ≫」


 その言葉が合図。一気に膨れ上がった光は何千、何万にも分かれ解き放たれた。それはまるで意思を持っているかのように伸びゼクト達の直上――敵艦へと殺到していく。光弾の群れは敵艦のシールドに衝突すると小さな光と共に爆ぜて消えていく。だがそれは一撃ではない。何万と言ったその光弾の群れの前に敵のシールドは削られていき、やがて本体に届いた。後に待っているのは光による蹂躙だ。一度破られたシールドは再展開する間もなくその装置ごと光弾によって破壊されていく。それでも光弾の群れは止まらない。自らの役割――敵を滅ぼす事だけにその全てを注ぐ。

 やがて光弾の嵐に耐えきれなくなった敵艦は炎を上げて崩れ落ちていく。そしてその崩れた部品すらも光弾は撃ちぬき塵芥としていった。


 そんなゼクトの放った攻撃を見つめていたゼティリアの耳に声が届いた。


『ゼティリア様。敵のヴェルリオが接近しています。こちらの結界が無くなった事に気づいたみたいです』


 ゼクトから眼を離し周囲を見回すと成程。敵のヴェルリオがこちらに迫ってきているのが見えた。結界の消失に気づき、出力の弱った艦自体のシールド相手なら貫けると判断したか。


「オペ子。貴方たちに繋げます(・・・・)。情報収集を密に」

『了解しました』


 刹那、ゼティリアの頭に新たな情報が流れ込んできた。それは艦の状態から火器管制。敵の位置。味方の様子。そう、これらは全てオペ子達がモニターしている物と同じだ。


「対空砲制御。撃ちます」


 広げていた片腕を振るいこちらに迫っていたヴェルリオに向ける。それに従うように艦の対空砲が敵に照準を定め火を噴いた。


「続いて左舷三番砲台斉射」


 三つ又の形をした艦の左側。修復された砲台が稼働し、対空砲を避けようとしたヴェルリオの一機を貫いた。これで1機。


「順調です。オペ子達は適宜反撃と防御を。必要な際は介入します」

『はーい』


 これはゼティリアがオペ子達を司令室に配置した理由の一つ。自らが作りだした彼彼女達の持つ知識と得ている情報は主である自分がそのまま共用できる。普段は彼女達が得て、分析した情報をいち早く確認でき、戦闘時は必要に応じて命令を行う。これは魔王の副官として常に正確な情報を主に伝える為であり、そして戦闘の際はいち早く事態に対処できる彼女の魔術だ。無論、自分が制御しないときはオペ子達はそれぞれ艦の制御や攻撃を行っている。

 そして共有した情報から、攻撃を潜り抜けたヴェルリオが艦に取りつこうとしているのを知覚する。場所は左舷後方。艦首であるここからは遠い。だが自分なら間に合う。


 広げていたもう片方の手を艦の左舷後方へと伸ばす。すると指先から蒼い光の糸が放たれた。それは光の速さで伸び、今まさに艦に取りつこうとしてたヴェルリオを貫いた。


「行きます」


 だんっ、と外壁を踏み込むとゼティリアは飛び出す。同時に敵を貫いた糸を巻き上げていき敵を引き寄せる。高速で移動するゼティリアと引き寄せられてくるヴェルリオ。両者の距離はあっと言う前に縮まりやがてゼロになる。


「足場ご苦労です」


 衝突する寸前、糸を切り離すとゼティリアは迫りくるヴェルリオの頭部に手を添えそれを支点に回転。ヴェルリオの人間でいう後頭部に足をつけるとそれを足場に跳んだ。

 

「左舷七番砲台。撃て」


 残されたヴェルリオを制御した艦の砲台で撃ち貫く。これで2機。

 ゼティリアが跳んだ先は残る敵機の方角だ。数は3機。だが敵も馬鹿では無い。こちらの姿に気づくと艦への接近を一端中止し、砲口を向けてきた。対し、ゼティリアは再び指から蒼い光の糸を展開するとそれを編み込むようにして壁を作る。刹那、敵のDATEライフルが光りの糸で編んだ壁に直撃し崩れ落ちるが、一撃は防いだ。そしてそれで十分だった。


「失礼します」


 3機のうち1機の肩に取りつくと再度展開した光の糸をその機体へと飛ばす。びくん、と機体が震えやがてぎこちない動きで砲口を上げた。他でもない、味方であるヴェルリオに。そして躊躇うことなく発射。突然の味方の行動に対応できなかった1機がDATEライフルに貫かれ機能を停止した。コクピットを直撃なので搭乗者は即死だろう。更にもう1機と狙いを定めようとしたが、それより早く残るその1機が放ったライフルが味方殺しを行った機体を貫いた。


「良い判断です」


 機体が爆ぜる直前、ゼティリアは取りついていた機体から飛び退いた。


「色々練習はしましたがまだまだですね。制御しても動きが遅すぎます」


 自分の本質は人形使い。その力でゴーレムを創り、オペ子達を操っている。先ほどヴェルリオに行ったのはそれと似た事。つまりは乗っ取りである。だがやはり未知の素材とシステムで動くヴェルリオの制御は困難であり、その隙に破壊されてしまった。だがこれで敵は残る1機。

 どうしたものか、と考えていた矢先眩い光がゼティリアを照らした。光の下はネルソンがヴェルリオと戦っていた辺りだ。恐らく先ほど前方の戦艦をネルソンの分身が溶かし、爆破したようにヴェルリオ達を破壊したのだろう。更には艦首に立つゼクトが再度あの光弾の嵐を放った。今度は艦の下方にいる敵艦目掛けてだ。こちらも眩い光を放ちながら敵艦を襲っている。撃沈も時間の問題だろう。

 そして……前方の敵からは警戒を解かずにゼティリアはある方向に視線を移す。そちらはガルバザルが居る方向だ。

 そこには巨大な闇がいた。生き物のように蠢く闇が周囲に禍々しい気配をまき散らしている。何も抵抗を持たない人間ならば近づいただけで狂ってしまうであろう程の濃密な気配。事実、ガルバザルが追っていた筈のヴェルリオ達は動きを止めてその周囲に漂っている。恐らく搭乗者達は気を失ったのだろう。いや、死んでいるのかもしれないが。

 やがてその闇は少しずつ収束していく。収束先はガルバザルの咢だ。それに伴い闇の中心に居たガルバザルがその巨大な翼を広げ、まるでため込むように首を引く。そこから先は一瞬だった。


『――――――――――――――――――っ!』


 もしここが宇宙で無く地上なら、その雄叫びは地の果てまで届いたかもしれない。限界まで開かれたガルバザルの口から放たれたのは禍々しく、そして途方も無く強大な砲撃だ。巨大なガルバザルを数倍上回り、戦艦すらも容易く飲み込むほどの極太の、紫電の輝きを持った禍々しいその光は一直線にこちらの戦艦の後方――今まさに砲撃を加えようとしていた敵艦へと迫り一瞬にしてそれを飲み込んだ。

 やがて砲撃は徐々に細くなっていき終焉を迎える。光が飲み込んだ後には最早何も残っては居なかった。


「流石です」


 その光景にゼティリアは頷き、眼前のヴェルリオへと視線を戻す。敵機は今しがた起きた出来事を理解できなかったのか、それとも臆したのか、微動だにしない。そんな哀れな敵にゼティリアは告げる。


「魔王軍での最強はヴィクトル様です。それは変わりありません」


 ですが、と無表情で敵を見据えつつ再度指先から光の糸を伸ばす。


「魔術の種類、応用といった部分ではゼクト様が随一です。ネルソン様の様に敵を内部から切り崩すのもヴィクトル様は苦手でしょう。サキュラ様の様に精神攻撃系も調整が面倒なのでやりません。そして、純粋に破壊力だけを誇るなら先ほどのガルバザル様の砲撃≪竜咆≫が我が軍での最高峰です。そしてそれら全員を相手にしても勝利するからこそ、ヴィクトル様が魔王と呼ばれます」


 ヴィクトルを引き離し、その隙に母艦と四天王を狙うという今回の敵の作戦。考え方は悪くなかった。ただ問題だったのは、ヴィクトル以外の戦力の認識がまだ足りていなかった。ただそれだけだ。

 糸は伸ばしたまま、ゼティリアは両手でスカートの裾を摘まみ一礼する。


「如何でしたでしょうか? これが魔王軍です。それでは自分達の認識不足を悔いつつ、死世で我らが覇道をご鑑賞下さい」


 敵機が動き出す。だがそれは覚悟を決めて特攻するような動きでなく、恐怖と混乱に支配された拙い動きだ。両の手にDATEブレードを展開し襲い掛かってくる敵ヴェルリオ。それに対しゼティリアが行ったのは両手を交差するように振るだけだった。

 魔力の糸が翻り、そして敵ヴェルリオを捕える。雁字搦めに糸に絡み取られたヴェルリオが脱出しようともがくが最早遅い。


「……」


 掛け声も何も無い。ただゼティリアは交叉していた腕を再度左右に広げただけ。ただそれだけでヴェルリオは絡み取った糸によって切り裂かれ、半瞬遅れて爆散していった。


「そういえば」


 炎を上げ砕けていく敵を見つつゼティリアが思い出した様に呟く。


「以前、器用貧乏ですねと言った所ヴィクトル様が拗ねたりもしておりましたね」


 その光景を思い出したゼティリアはほんの少しだけ、頬を緩ませていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ