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13. 魔王様、罠です

リール・トレイターは鋼鉄の巨人を見上げて小さくため息を付いた。

小柄でほっそりとしており、身長もそれほど高くない少女だ。来ているのは油で薄汚れた作業着であり、申し訳程度に胸元が盛り上がっている。垂れ目がちの瞳は金。そして彼女の最大の特徴とも言える深紅の髪は今は作業帽の中に押し込められている。

周囲には人はおらず、少しうす暗い格納庫内には自分しか居ない。後に見えるのはずらりと並んだヴェルリオの姿だけだ。そのヴェルリオに話しかける様に彼女は小さく呟いた。


「姉さん、無事かな……」


 最愛にして唯一の家族、セラ・トレイターの事を考えリールは再びため息を付く。

 セラとリール。二人は最早お互いしか肉親は居ない。元々母はリールが幼い頃に亡くなり、そして父は戦争で死んだ。他でもない、アズガード帝国との戦争でだ。

 あれを戦争と言っても良いのかはリールにはわからない。ある日突然現れたアズガード帝国の艦隊が圧倒的な力で母星であるエクライルを侵略したのは3年前と割と最近だ。当然自分達エクライル人も反抗はしたが敵わず。故郷はアズガード帝国の植民地と化した。そして元々軍人だった自分達はそのままアズガード帝国に組み込まれる事になった……扱いは悪いが。

 何故侵略した敵国に、と思われるかもしれない。だが自分達の国がそういう方針を選ぶ事でエクライル人は同じように侵略された星の中でも多少はマシに扱われている。最後まで反抗し、その結果侵略後は奴隷当然の扱いを受けている星もあるのだ。それを考えればマシ、という程度でしかないが。 

 そうしてアズガード帝国に組み込まれた姉と自分。だがその役割は真逆とも言えた。

 姉であるセラは前線で戦う兵士として。そして妹である自分は技術屋としてだ。そしてこの格納庫こそが彼女の戦場であり、目の前のヴェルリオや多種多様な武器兵器こそが彼女の仕事相手である。だが今はその仕事にも身が入らない。原因は単純、姉の乗る艦が敵に強奪された件だ。

 当初はその情報は秘匿されていたがいつまでも進まないとある惑星の侵略に違和感を感じる者が増え始めたあたりでその事実が簡潔に伝えられた。そしてそれを聞いた者達の反応は二通りだった。

 純血アズガード帝国人は戦艦を奪われた者達の情けなさを罵り、そして奪った敵を罵倒し、

 リールの様な侵略され帝国に組み込まれた者達は驚き、そして馬鹿な事をと呆れた。

 帝国の強さと恐ろしさは良く知っているが故に、下手な反抗をした者達を憐みもしたのだ。だがその戦艦に姉が乗っていたとなれば別だ。その事実を知って以来、リールはずっと姉の事を考えている。


「姉さんっ…………」


 姉、最愛にして唯一の肉親。優しく、そして強い自分の憧れ。いつも私の事を心配してくれて、それが嬉しくて時たま困らせてしまう。そんな私を叱る事もあるけれどそれは全て私の事を考えていてくれるからこそ。そんな大好きな姉が……

 ぎゅ、と拳を握り、リールは不安げに俯き、


「姉さん……またどこかでドジしてないからしらっ!?」

「そっちなのかい!?」

「え?」


 妙にダンディーな声と同時、背後で何かがべちゃり、と落ちる音が聞こえた気がした。慌てて振り向くがそこには誰にも居ない。視界に移るのはうす暗い格納庫とそこに設置されたコンテナや機材の数々。そしてその傍らにたまっている緑色の液体……ってなんだアレは? 

 興味を惹かれその液体に近づく。広さにして小さな座布団ほどの緑色の液体が床に溜っている。いや、これは本当に液体なのだろうか? どちらかと言うとゼリー状に近いが。


「リール・トレイター!」

「っ、はい!」


 おそるおそる、液体に触れてみようとした矢先、突然名前を呼ばれて立ち上がると格納庫の入口に見たこと無い男が立っていた。来ている軍服とそこにある階級章は上官を示していたので直ぐに姿勢を正す。


「貴様に特命が下った。来い!」

「私ですか……?」


 返事をしつつも、何故突然自分を名指しなのかが分からない。だがだからと言って従わないわけにもいかない。しかしそうなると目の前の不審極まりない緑色の液体はどうするべきか……。


「何をしている! 早くこい!」

「は、はい!」


 苛立ち始めた上官の様子に危機感を感じ、リールは慌てて走り出す。そして背後を気にしながらも上官に連れられ格納庫を後にした。

 そして誰も居なくなった格納庫で、先ほどリールが見つけた緑色の液体は緩やかに動き出す。


「私にツッコミをさせるとは……恐れ入ったよ妹殿…………突っ込むのは好きだけどね!」


 意味不明な事を漏らしつつ、その液体はずるずると移動を開始するのだった。





「正気ですか?」

「どうだろうな」


アズガード帝国第17機動艦隊提督バル・ダトスは副官の呆れた声に頷いた。そんな上官の態度に副官のドラ・ハーベスは片手で頭を押さえていた。


「いくらなんでもこんな作戦は……いや、もうこれは作戦とも言えません」

「それに関しては同感だ。発想も下劣であることも認めよう。だが逆に言うならばそんな作戦が立案されてしまうほど、状況は芳しくないといった所か。分析官達もどうすればいいのか、見当がつかないのだろうよ」


 二人の会話の議題に上がっているのはバルの座るデスク上の投影スクリーンに映し出された作戦立案書だ。そこにはびっしりと文字が書き連ねられているが、要約すれば以下のとおりである。


「女を餌に敵をおびき寄せ罠に嵌める……提督、この作戦を立案した者はクビにした方が良いのでは?」

「そうかね? 発想は気に食わんが考え方自体は私はそれほど嫌いではないな。恥や侮蔑を受け入れてでも勝利の為に最善を尽くす、という意味でなら」

「これが最善と?」

「そこは流石に何とも言えんがな」


 事の起こりは数日前。救難信号をキャッチした哨戒機が信号の下へと向かうと一隻の小型艇を発見した。その小型艇に乗っていたのは敵に奪われたあの≪ブラキオン≫乗員達。そう、彼らは脱走してきたのだ。

 直ぐに保護された彼らは疲弊していた肉体、精神の回復を待たずにして直ぐに取り調べが行われた。何せアズガード帝国からすれば敵の力は異常の一言。少しでも情報が欲しかったのだ。そうして脱出した者達から色々と情報を聞き出した帝国だが有益な情報はほぼ無いに等しかった。しかしこれも当然だ。何せ彼らはずっと牢に囚われていたのだから。

 そんな彼らからの情報で多少なりとも役に立ちそうな事、それが敵――あの魔王軍の指揮官であり自らを魔王と名乗る男の捕虜の女性に対する扱いだった。


「提督、正直に申し上げますがいくらなんでも安易かと。確かに脱出した者達の話では魔王と名乗る輩は典型的な屑の行動を取っており、とりわけエクライル人を気に入っているとあります。しかしだからと言って――」

「別にただ色仕掛けという訳ではないとはこの立案書には書いてあるがな。実際に、魔王とやらが色狂いでこちらに魔王の興味を引くような相手が居れば利用できるのでは、という事らしい。丁度魔王がご執心のエクライル人には妹も居る様だしな」

「余計に酷い。つまりこういう事ですか? 栄光あるアズガード帝国は女を餌にして覇道を進めと?」


 優秀だが少々生真面目なとこともある部下の苦言にバルは苦笑した。どうやら適当な理由をつけて納得させるのは無理らしいと悟る。


「わかったわかった。ならば私の本心を言おう。私はな、試したいのだよ」

「試す……?」


 意味が分からないと言った様子のドラにバルはああ、と頷く。


「お前の言うとおり馬鹿げた作戦だ。だがな、もし本当にこれに乗る様な敵ならそれは馬鹿の証明になる。逆に乗らないなら多少なりと分別があるという事にもなる」

「たったその為だけに実行すると?」

「いいや違う。私はな、我が軍の艦を次々と撃破し、先日は挑発まがいの宣言までしてきた敵を過小評価していない。操作ミスで捕虜の脱獄? それを見過ごす? はっきり言おう、違和感しかない」

「ですがそれは敵が最新鋭のシステムを理解していないからでは――」

「そうだな。その可能性もある。だがこちらのそう言った思い込みを利用されている事だって考え得る。そしてそうなると、態々妙な情報を残した事にも何か理由がある」

「つまり……脱出した者達はわざと逃がされており、彼らが持っていた情報は意図的な物だと?」

「確信は無い。私のただの考えすぎで、魔王軍は本当にただの野蛮人の集まりで艦のシステムも碌に使いこなせていないだけで、魔王もただの色狂いなのかもしれない。だが既に我が軍の艦船を7隻撃墜し、1隻を奪った相手だ。楽観的には見ていられない」


 だからこそ、と一拍入れるとバルは手元のコンソールを叩く。すると先ほどまで映っていた作戦立案書とは別に、いくつかのデータが表示された。


「魔王軍が意図してあの情報を寄越したのなら、詳細な理由は分からずとも先ほどの馬鹿げた作戦も使い道がある。前回の作戦――≪ハイエンナ≫の調査によって敵の戦力もある程度見えてきた。残念な事に彼らは帰ってこれなかったが、データだけは見事に残したからな」


 映し出されたのは先日魔王軍を襲った≪ハイエンナ≫が撃墜寸前で寄越したデータだ。その中でも特記事項として挙げられているのが4つ。巨大な竜と謎の緑色の物体。戦艦の先端に括り付けられた老人と、最後に漆黒の髪と深紅の眼を滾らせ光を放つ男――魔王だ。


「なるほど、確かに恐ろしい連中だ。単騎で我が軍のヴェルリオを複数相手にし、戦艦の砲撃を防ぎ、そして撃墜させている。だがこれ以上の戦力として確認されているのはゴーレムとかいう兵器のみ」


 映し出された敵の姿を睨み、バルは続ける。


「まだ隠し玉が有る可能性も捨てきれんがひとまずはそこを突くしかあるまい。その為にも……どちらが間抜けか、試してみるのもいいだろうよ?」





 その報告は脱走者が出てから丁度一週間後の事だった。

 内容を聞いたヴィクトルが司令室に現れた時には他の面子は全て揃っており、皆正面スクリーンを見つめていた。


「状況は?」


 ヴィクトルの問いにゼティリアが一礼し答える。


「先ほどこの先の宙域から信号をキャッチしました。アズガード帝国の技術者に確認したところ救難信号との事です」

「救難信号だと?」

「はい。発信源はアズガード帝国の小型艇。先日の作戦で使用した小型艇とは別の型ですので、逃がした者達ではない事は確かです」

「しかしこのタイミングで現れたとなると……」

「はい。先日の作戦に対する何らかのアクションの可能性もあります。無論、関係ない可能性もありますが」

「ふむ、通信とやらは繋げられんのか?」

「少々お待ちください。オペ子2号、どうですか?」


 ゼティリアの問いにオペ子2号が『はーい』と答える。


「少々お待ちを……はい、出ましたよ!」


 そんな声と共にスクリーンに映し出される。映し出されたのはうす暗い部屋だ。そこには数名の女性の姿があり皆不安そうな表情を浮かべている。どうやらこちらと通信がつながっている事には気づいていないらしい。そしてその女性の中で、深紅の髪の少女を見た瞬間セラが叫んだ。


「リール!」


 身を乗り出してセラが叫ぶ。オペ子2号は音声だけでもつなげようとしている様だがどうもそれは上手くいかないらしく、映像を見る事しかできない。


「あれがセラの妹か」

「みたいだねえ、だけど」


 背後からふわっと漂う甘い香り。振り向く間もなく肩にしな垂れかかってきたのはサキュラだ。彼女は『ふふふ』と笑いつつスクリーンを指し、


「怪しさ抜群だよねえ」

「まあ、こちらが狙った事だからな」


 誘ったのは確かにこちら。ならばこの状況はむしろ予定通りと言える。恐らくあの小型艇に近づけば何らかのアクションが有るのだろう。だとすればこのまま艦を近づけるのは危険と見るべきか。


「なら俺が行くか」

「ヴぃっくんが~?」

「妹も助けてやると言ったのは俺だからな。ゼティリア、俺が近づいたら何らかの行動がある筈だ。準備しておけ。ゼクト、ネルソン、ガルバザルは出撃だ」

「承知致しました」

「儂の出番か……またバリアじゃないよね?」

「ふふ、了解したよ」

『ふははははは! 我の出番なのだな!』


 ゼティリアが頷き、ゼクトが頷きつつもどこか不安な顔をする。ネルソンはうねうねと動き、そして格納庫と通信を繋いでいたウィンドウからはガルバザルの大声が響く。


「それと……」


 ちらり、と隣を見るとセラはスクリーンに映る妹の姿に安堵と不安が入り混じった顔で見入っている。


「セラ、お前も来るか?」

「っ、良いのか……!?」


 がばっ、と身を乗り出してきたセラに頷いてやる。


「感動の対面という奴だな。それくらいは構わんさ。ゼティリア、あのヴェルリオとやらは使えるな?」

「問題ありません」

「だ、そうだ。先に行って準備していろ」

「……感謝するっ!」


 言うがいなや、セラは大急ぎで司令室で飛び出していった。その様子を見ていたサキュラがえへへ、と笑う。


「優しいねえヴぃっくん」

「別に。ここらで恩の上乗せしておけば後々使い易いだろう」

「そうだねえ。セっちゃんはお気に入りだもんねー。私もセっちゃんが素直に仲間になれば嬉しいなあ」

「その為の作戦だろうが。俺もそろそろ行くぞ」


 席から立ち上がり首をコキコキと鳴らす。楚々と近づいてきたゼティリアからマントを受け取りそれを羽織るとにやり、と笑う。


「さて、アズガード帝国はどんな策で来るか。見物だな」





≪DATE出力正常。待機状態から戦闘状態へ移行≫

≪システムチェック。――――――――全正常を確認。続いてテストへ移行≫


「テスト行程省略。緊急起動」


≪テストを省略。搭乗者との精神接続(サイ・コネクト)を開始―――良好。ヴェルリオ起動します≫


 機体が振動し鋼鉄の巨人が目覚めた事を知らせる。正面ディスプレイには格納庫が映し出され、サブディスプレイでは機体の状況を知らせている。どこにも問題は無く、いつでも発進可能だ。

 妙な感覚だ、とセラは思う。一度は破れ捕虜となった身であるのになぜかある程度の自由が有り、挙句は出撃まで許可された。無論、未だにあの≪首輪≫という枷はあるがそれでも破格の待遇だろう。そして自分がこうなったのも単に魔王に気に入られたからという理由だ。

 思うところがあって機体の首を横に動かす。メインカメラが格納庫を睥睨し、やがて機体の肩を移したところでセラは苦笑を浮かべた。

 セラが乗るヴェルリオ。その肩には今一人の男が座っている。他でもない、ヴィクトルだ。これから宇宙に出るというに宇宙服も着ず、何の気負いも無しに肩に腰かけている姿は異様だ。だがその異様に慣れつつある自分に苦笑いを禁じ得ない。

 この作戦が終わり、妹を救ったら自分はこの男の下に付くことになる。初めは戸惑っていたが今ではそれも悪くないのかもしれないと思い返していた。


「……これは籠絡されているというのだろうか」


 だがそれでも、妹が救えるならとセラは考える。どちらにしろ拒否したところでこれ以上は望めないのだ。ならば最善を尽くすべきだろう。


『セラ・トレイター。準備は良いですか?』


 物思いに浸っているとゼティリアから通信が入った。もう一度機体の状態を確認し、全て問題ないことを確認すると頷く。


「ああ、いつでも行ける」

『了解しました。ではカタパルトへ』


 機体が揺れ、カタパルトへ移動していく。横に滑るように移動したヴェルリオはカタパルトへ到着すると小さく腰を落とした。正面ハッチが開いていき、メインカメラがその先に広がる宇宙を捉える。その光景にどこか懐かしさと、ようやく妹に会えるという高揚に気が高まっていく中、ゼティリアの声が響く。


『リニアボルテージ上昇。魔導ライン構築。全進路オールクリア。ヴェルリオ発進、どうぞ』

「行くぞっ」


 操縦桿を握り、そしてペダルを踏み込む。カタパルトが起動し凄まじい勢いでヴェルリオを宇宙へと放つ。同時にヴェルリオのスラスターを全力で吹かし、一気に加速するとセラとヴィクトルを乗せたヴェルリオは一直線に小型艇へと飛び立った。


「そういえば……」


 ずいぶんな勢いで発進したが本当に魔王は無事なのだろうか? 気になって肩へとカメラを移すと何故かヴィクトルは、先ほどと同じ姿勢で座りながらもどこか感慨深げに頷いていた。


『そうだ……これが本当の発進の筈なのだよな……』

「……」


 何故だろうか。通信機から聞こえてきた声には哀愁が漂っており、セラは思わず目を逸らしてしまった。





「魔王様とセラ・トレイター機、小型艇へと接近していきます」

「付近に敵影はありません」

「レーダーにも、反応、無い。私には、胸も、無い」

「オペ子2号はそのまま魔王様のサポートを。オペ子3号は警戒を怠らない様に。それとオペ子1号。オペ子4号を慰めて上げなさい」

「4号! この巨乳お姉ちゃん枠の豊満な胸に飛び込んで好きなだけ咽び泣きなさい」

「ああああああああああああああ!?」

「報告っす。オペ子4号が1号に襲い掛かったっす」


 自前の魔導人形たちの様子にため息を付きつつもゼティリアは油断せず状況を見守る。今回、敵は本気かどうかは別としてこちらの誘いに乗ってきた。ならばあの小型艇に対しこちらがアクションを取れば、何らかの反応はしてくる筈だ。それに備えてネルソンやガルバザルは既に外で待機しており、ゼクトもバリア役として展開している。そう易々とやられることは無いが……。


「魔王様たちが小型艇に捕りつきましたー!」


 2号の報告にゼティリアは思考を一端止めた。スクリーンには小型艇に取りついたセラのヴェルリオとその肩に乗るヴィクトルの姿が映し出されている。後はあれを回収するだけだ。そして仕掛けるなら今しかない。

 そんなゼティリアの予測を裏付けるかのようにオペ子2号が叫んだ。


「っ、熱源接近!」

「ゼクト様!」

『また儂か!? まあ仕方あるまい!』


 その間僅か数秒。咄嗟にゼクトが艦を覆うようにバリア――正確には実は結界なのだが――を張る。そしてゼティリア達は衝撃に備えるが、そこで予想外の事が起きた。


『むうう!?』

「っ!?」


 聞こえたのは艦の衝撃音でなくガルバザルの唸り声。同時に艦の直ぐ横で光が爆ぜ、遅れて衝撃が来た。


「ほ、報告します! 敵のコーガク兵器による砲撃です。ですが狙われたのは本艦でなくガルバザル様です!」

「ガルバザル様……?」

「続けて、来ます!」


 スクリーンに警告が浮かぶ。同時に、横から、背後から、そして上下からエネルギー反応。続けて訪れたのは光の柱の群れ。一部は艦に向かいゼクトの結界に阻まれたが、他は全てガルバザルへと向けられている。


『ぬう、痛いではないか!』


 ガルバザルは初撃こそ喰らったものの、残りの攻撃は体を捻り、上下左右に動くことで回避していく。だがその度に艦から離れて行ってしまう。


「これは……」


 ゼティリアは気づいた。この攻撃は明らかにガルバザルを艦から引きはがす為に放たれている。現にガルバザルはどんどん離れていき、そしてそれを追うように敵のヴェルリオか超高速で接近してきていた。


「敵機確認! けどなんかいつもと装備が違う上に早い!?」

「データ確認! 追加ブースターと……なんか大砲みたいの持ってるっす!」

「っ、成程……。ガルバザル様の気を引くには十分な内容ですね」


 明らかに敵はガルバザルを引き離そうとしている。そしてそうなれば次は――


『むう、今度はこちらかね?』


 ネルソンの声。見ればネルソンの下にも敵のヴェルリオが数機迫ってきている。こちらは両手にライフルを持つ機体と、ガトリング砲を装備した機体だ。ガトリングを持つ機体がネルソン目掛け銃弾の嵐をばらまき、飛び散ったネルソンにライフルを持つ機体がDATEライフルでそれを焼き払おうとしている。ネルソンはその自由自在の身体を動かしそれを避けつつ、自らも障壁を張ってそれを防いでいるが敵は諦めずに銃弾と光の嵐からネルソンを逃がさない。

 更に5機のヴェルリオが戦場に現れ、こちらに向かってきている。


「敵艦補足! 背後からです!」


 そして、こちらの索敵範囲ギリギリで隠れていたらしい敵戦艦がその姿を漸く露わにした。レーダーに映るその姿をゼティリアは睨みつけると直ぐに命令を下す。


「迎撃します。オペ子3号、火器管制は貴方に――」

「ゼティリア様!?」


 オペ子2号の悲鳴のような声。それにつられる様にして見た光景にゼティリアは硬直した。


 遥か先。ヴィクトル達がとりついた小型艇。

 それがヴェルリオとヴィクトルを巻き込み大きな火球上げてていた。





「ザック部隊。予定通りトカゲの引き離しに成功」

「ビルシー部隊、水性特異体を押さえています」

「小型艇は爆破完了。……まあ効果は分かりませんが嫌がらせにはなりましたかね」


 ゼティリア達の背後に現れた艦の司令室で、艦長たる男は静かに頷いた。


「罠と知りつつ近づいたか、それとも本当に阿呆なのかは知らんが、あの程度で魔王とやらはやられるとは思えん。予定通りあちらにもヴェルリオを向かわせろ。但しまともに戦うな。気を引くだけでいい。その隙に奪われし我らが艦、≪ブラキオン≫を墜とすぞ」

「了解」


 静かな宣言と共に、アズガード帝国軍の攻撃が本格的に始まる。


帝国だってやられるだけじゃないんです

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