11.魔王様、超レジェンドズバットアポアリプスコントロールクールアルティメットリベンジユーモラスインパクト魔王軍号です
タイトルはあまり気にしないでください(逃げ
そこは激しく揺れていた。
耳に叩き付けるような轟音。燃え上がる視界。そして激しい揺れによって崩れていく何か。それが自分が見ている光景だった。
『―――出っ、は――――しろ!』
『い――――あああ―――逃―――!』
誰かの叫び声が聞こえる。だが何といっているかはわからない。それは轟音のせいでもあるが、何よりも自分がその言葉を思い出せないからだ。
どこかぼやけた視界の中、赤く燃え上がる世界が更に広がり自分を包んでいく。揺れは激しくなろ脳は揺さぶられまともな思考など出来ない。
「あ…………」
何かを自分は言おうとした。だが結局何を言おうとしたのか自分自身ですらわからぬまま、一際大きな振動と共に世界は白く弾けた。
「ゼティリア」
自分を呼ぶ声。その声に導かれる様にしてゼティリアはゆっくりと瞳を開く。
まず眼に移るのはうす暗い部屋と、その正面に映し出されたスクリーンだ。部屋は段上になっており、スクリーンを取り囲むように席が設けられている。外側に行けば行くほど高くなっていく形だ。今現在、その席には様々な魔族が座るなり乗っかるなり浮遊なりしている。そしてゼティリアはその最前列の端、少し振り返れば部屋全体を下から見渡せる場所に座っていた。
ゼティリアはいつもの無表情にどこかあどけなさを残した表情でぼう、としていたが、そんな彼女の顔を良く知った顔が覗き込む。
「寝てたのか」
その言葉にゼティリアの意識が一気に覚醒する。そして直ぐに顔をいつもの無表情に戻すと、隣に座っていた主、ヴィクトルに頭を下げた。
「申し訳ありません。気が緩んでおりました」
「別に構わんがな。俺も少々めんどくさくなってきた所だ」
そう胡乱気にぼやいたヴィクトルは正面スクリーンに視線を移す。そのスクリーンにはデカデカとこう映し出されていた。
『祝・連勝祝い。ついでにそろそろこの戦艦の名前決めようよ大会』
ゼティリアもそのいかにも馬鹿が書いた様な文章を見て小さく頷き、
「馬鹿ですね」
「直球だなオイ」
ゼティリアの率直な意見にヴィクトルも肩をすくめた。その間にもこの場に集まった魔族たちの論争は続いている。
「俺たちの新しいアジトだろ? ならカッコよく無きゃ嫌だぜ! クールなのを頼む!」
「そうだな。それに強さを表す様な力強さが欲しい! 例えばアルティメットとか!」
「それにこれは反撃だよね? 僕たちに喧嘩を売ってきた馬鹿に対する反撃、反抗、復讐。そういう意味も含めてリベンジを入れてもいいんじゃないかな」
「待ってよ。ユーモアだって大事じゃない? 私達って快楽主義なのが多いしそういう心が大事よ!」
「そして何よりもインパクトだ! 私達の存在を知らしめるインパクトが大事だ!」
「よし、なら先ほどまでの案も追加して超レジェンドズバットアポアリプスコントロールクールアルティメットリベンジユーモラスインパクト魔王軍号でどうだ!?」
「いやいやちゃんと敬称つけようぜ。魔王様号だろ!
「それもそうだな。しかしちょっと語呂が悪くないか?」
「確かに」
「そうだな。じゃあ略して超レズコントロリモラスインパクト魔王様で決定という事で――」
「ハハハ、そうかそうか、貴様らが次の肉壁候補か」
朗らかな笑みを浮かべたヴィクトルは盛り上がっていた連中に向け魔力の塊を投げた。直撃を受けた机が吹き飛び魔族たちが宙を舞う。何とか回避した魔族たちは『わー魔王様がキレたー』とあたふたと騒いでいた。その光景を見てヴィクトルはため息をつく。
「全く、確かにこれは馬鹿らしい」
「でしょうね」
ゼティリアも同意する。そう、本当に馬鹿らしい。だがそれは悪いことばかりではない。馬鹿らしく出来るという事は余裕があるという事だ。初めての宇宙という環境に対し、どうやら魔王軍がそれなりに適応している様だった。……適応しすぎな気もするが。
「それで、お前はどうしたんだ」
「……何の事でしょうか」
突然の問いに内心驚きつつもゼティリアはあくまで無表情で返す。だがそんな彼女を見てヴィクトルは笑った。
「隠すな隠すな。お前が居眠りしてた時、妙に険しい顔をしていたからな。そんなに夢見が悪かったのか」
「女性の寝顔を覗くのはどうかと思いますが」
「知らん。お前が寝る方が悪い」
確かに。
ゼティリアも分が悪いことを認めると早々に誤魔化すことを諦めた。
「たまに見る、奇妙な夢です。全く身に覚えがないのにどこか懐かしい。そんな夢を見ていただけです」
「身に覚えがないのに懐かしい? なんだそれは」
「それがわからないのです。まあ夢なんて所詮そんなものですから。魔王様はお気になさらないで下さい」
「…………そうか。ま、何かあれば言えばいい」
ヴィクトルもそれほど追求する気は無いのか直ぐに引いた。薄情なのではない。ゼティリアなら大丈夫だろう、という信頼の表れだ。その信頼をゼティリアは誇らしく思う。
「で、艦の状況はどうだ?」
「修復可能な個所の修復は8割ほどまで完了しました。一部武装が稼働可能な事に加え、DATE出力……つまりこの艦メインエンジン修繕され航行能力も多少回復しています。また、艦内で仕事に従事させている元アズガード帝国兵達も特に問題はありません。恐らく彼らも慣れてきたのでしょう」
「それは良い事だ。つまりこの戦艦は戦艦としての能力を取り戻しつつあるという事だな」
「はい。ですがそれでも心許ない事は否めません。本格的な攻撃を受けてしまえば直ぐにでも撃墜されてしまうでしょう。シールドも復活しましたが本艦のDATEは未だ好調とは言えませんので」
セラやアズガード帝国が使用するDATE兵器。それは戦艦にも搭載されている。むしろこちらが元々らしい。DATEから得る莫大なエネルギーを艦の航行やエネルギー兵器。そしてシールドに使用しているのだ。だがこの戦艦のDATEは以前よりはマシになったがまだ不調という事らしい。
「本格的な修理には部品の調達が必要です」
「部品、か」
どうしたものかと考える。当然ながら魔王軍にそんな部品調達のアテは無い。ならばとるべき手段は限られている。相手から奪うか、もしくは修理の為の施設を奪うか。
「アズガード帝国が惑星侵略における拠点として建造した基地は一応あるようです。ですがそれもかなり距離は離れています。恐らくそこに辿り着くより、敵の本隊とぶつかる可能性が高いかと」
「そういうことか。ならしばらくはゼクトに肉壁になってもらうしかないな」
「はい」
さらり、と酷いことをいうヴィクトルと肯定するゼティリア。そこに躊躇いは無かった。ゼクトが聞いていたらさぞ震えた事だろう。
そして二人が話を進めようとした時だ。
「魔王」
背後からかかる声。ヴィクトルが振り向くとどこか悩んでいる顔のセラがこちらを見つめていた。
セラ・トレイターは悩んでいた。それはヴィクトルからの誘いの言葉に対してだ。
仲間になれ。単純に言えばその誘いに対し自分はどうするべきか。そしてその悩みの解決は可能な限り急がねばならない。それを確信したからだ。
きっかけは先日の戦闘だ。その際、セラは改めて目の当たりにした。魔王軍の強さと異常性を。そして戦慄したのだ。
アズガード帝国は決して弱くない。数々の惑星を侵略してきたのがその証拠であり、帝国の有する戦艦も、ヴェルディオも強力な兵器だ。いや、その筈だった。だが魔王軍と相対した時、その強さは容易く打ち砕かれた。まるで遊んでいるかのように、対した緊張感も無く、帝国の誇る強力な兵器が蹂躙されていく。その光景にセラは己の感覚が麻痺しかけているのを自覚した。
その麻痺とは即ち、『本当に帝国は強大なのか?』という疑問につながる。あれ程容易く敗北した帝国は実は本当は強くなく、今まで帝国と戦っていた星々がそれより更に弱かっただけなのではないか、と。
その疑問に対しセラは考えに考え、そして結局はそんな事は無いという結論に至った。帝国の持つ兵器はやはり強力で破壊的だ。そうでも無ければこの数世紀勝ち続ける事なんて出来なかった。ただ今回の相手が異常すぎただけなのだ。
まさに井の中の蛙。上には上が居たというだけの事実。そしてだからこそセラは悩まなければならない。今まで帝国兵として戦ってきたが故に帝国が完全敗北する姿は想像できない。己の星も容易く侵略した帝国に対する一種の恐怖は簡単には拭えない。
だが同時に、魔王軍が。正確にはあの魔王が敗北する姿というのもまた想像できないのだ。それほどまでの力を魔王は見せつけた。今までの常識を破壊するだけの力を。
「ほう? つまりそれは仲間になる決心がついたという事か?」
己の心情を吐露したセラの言葉にヴィクトルが興味深げに問う。隣のゼティリアは無言だ。そんな二人に対し、セラは少し悩んだあと口を開いた。
「以前、言ったことがあるな。帝国に支配された星の者が帝国に従う理由はいくつかあると」
「そうだな。金か人質か。単に恭順しただけか理由は様々だと。それはそれほど珍しい話ではない。そしてお前にもその理由があるという事か」
「…………妹がいる」
ぴくり、とヴィクトルの眉が動いた。そして納得した様に頷く。
「つまりそれはお前の戦う理由であり死ねない理由か」
「そうだ。だが別に人質に捕られている訳ではない。アズガード帝国に侵略された私の星エクライルでは、能力の有る者は帝国の次なる侵略作戦の為に駆り出された。元々エクライルの軍人だった私達はそのまま帝国兵の仲間入りと言う訳だ。そして私と妹はアズガード帝国第17機動艦隊のそれぞれ別の艦に配属となった」
「理解しました。つまり貴方が悩んでいたのは妹と敵対する事。しかしここでその話を出すという事は」
ゼティリアの言葉にセラは頷いた。
「そうだ。もし、私と仲間に引き入れるというのなら妹も同様にして欲しい」
これはセラにとっての賭けだった。そもそもこの魔王が自分に興味を持ったのはあの時の相対が理由だという。しかしそうならば魔王が興味を持っているのはセラ自身だけであり、妹の事を否定されれば今度こそセラは覚悟を決めるしかない。即ち、絶望的な力の差がある魔王と再び相対してでもこの艦から逃げ出すという選択を。
最初に捕らわれた時はそのつもりだった。隙を見て逃げ出し、帝国の本隊に戻る。それ以外の選択肢が無かったのだから。しかしセラには選択肢は与えられた。それはこの上ない幸運だ。そして魔王軍が容易くアズガード帝国の戦艦を撃墜できると知ってしまった以上、事は急がなければならなかった。いつ妹が搭乗する戦艦がこの魔王軍の前に現れるかわからないからだ。幸い今まで魔王軍が相手にした敵の中には居なかった。しかしこの先それが現れた時、いつもの様に撃墜されれば妹も死ぬ。
つまりセラの選択肢は二つしかなかった。絶望的に低確率な奇跡にかけて逃げ出すか。魔王の仲間となり、妹を救うか。そして魔王軍の力を思い知った今、確実性のあるのは後者だと判断した。
(もし拒否されれば)
いつでも体を動かす準備をしておく。拒否された瞬間、セラは直ぐに動くと決めていた。この場は引いて機会を伺うなどと言った事は考えていない。いつ妹の戦艦が現れるかわからない以上、猶予は無いのだ。セラは覚悟を決め、ヴィクトルの言葉を待ち、
「別に構わんが」
そのあまりにもあっけない返答に思わず姿勢を崩した。
「ま、魔王、頼んだ私が言うのも変だがそんなあっさりで良いのか!?」
「良いも悪いも。別に一人が二人になった所でたいして変わらん」
「いやしかしだな……そもそも私は元敵だぞ……?」
「それこそ今更だな。お前も見ただろう? この艦ではそういう連中も使っている」
「た、確かにそうだが……」
あまりにもあっさり受け入れられてしまった為か困惑を隠しきれないセラ。そしてそんな事も構わずにヴィクトルはふむ、と頷いた。
「と、なればまずお前の妹の乗る艦が何処にいるのかを突き止めなければな」
「あ、ああ」
なんだろうか、この徒労感は。散々覚悟を決めて打ち明けたというのにここまであっさり承諾されてしまうとセラとしても複雑だ。それに、
「一つ……聞かせてくれ。何故そこまで私を求める? はっきり言って私程度の人材ならまだほかにも居ると思う」
それは正直な話だ。確かに自分は強い。それは否定しない。だが自分以上の者などいくらでも居るだろう。それなのにここまで魔王が自分に固執する理由が分からなかった。
「前も言っただろう、気に入ったと」
「そんな理由で……」
「不満か? ならばそうだな」
ヴィクトルがにやり、と笑うと立ち上がりセラに歩みよる。思わずセラが後ずさるがすぐ後ろが壁だった為直ぐに追い詰められた。そしてそんなセラの間近まで迫るとその顎にそっ、と手を添えた。
「分かりやすい理由が欲しいか?」
「………………っ」
至近距離で瞳を覗かれセラは硬直した。魔族と言っても角がある事や瞳が深紅である事以外は人とそれほど変わらないのだ。つまり魔王も人間の男と似ているという事。そしてセラは今まで異性にここまで露骨に近づかれたことは無い。と、いうより近づいてきた連中はどいつもこいつも身体目当てだとわかっていたので無視か排除をしてきたのだ。
だが今その選択肢は無い。無視をして魔王の機嫌を損ねたら。それに力づくの排除も出来ない。ならば自分が出来るのは己を捨て身にしてでも妹の安全を確保する事しかない。
セラは悲壮な覚悟を決めると魔王を見つめ返した。
「本当に、本当にお前が約束をしてくれるならどうとでもしてくれていい。何でもしてやる! だ、だがな! 生憎と私は経験が無いぞ!? それでお前が満足するとは思えないがなっ」
もうヤケクソだ。死ねないも死にたくないのも妹の為。その為ならなんだってやってやろう。
「だがた、体力だけはある! 魔王の欲が何処までかは知らないが約束を守ってくれるなら私は力の限り―――――――――なんだその眼は!?」
顔を真っ赤にしてヤケクソ気味に捲し立てていたセラだが目の前のプルプルと震えながら笑みを浮かべている事に漸く気づく。
「前も言ったが……お前妄想豊かだよな」
「なっ!?」
いきなり下された評価にセラが噛みつこうとするが、それより早くゼティリアが頷く。
「そうですね。それに自爆癖もあるような気がいたします」
「な、なんだと!? それはどういう意味だ!?」
「魔王様はからかっただけです。ですが貴方が盛大に反応しましたので」
「…………っ!」
指摘され、そして改めて魔王の顔を見て、漸くセラも理解し震えた。続いて自分が発した言葉を思い出し羞恥に顔を手で覆って蹲る。
「最悪だ……何だそれは……。死にたい…………」
もう魔王が自分に固執する理由とかどうでもいい。それよりもどこかに穴を掘って埋まりたい。少しからかわれただけで自ら処女宣言し妙なアピールまでしてしまった。なんなんのだこれは。すまない妹よ。姉はもう駄目かもしれない……っ。
そんなセラにどこからともなく現れた二つの影が近づく。サキュラとネルソンだ。
サキュラは蹲っているセラの肩に優しく手を置き微笑む。
「大丈夫だよせっちゃん。テクニックはおねーさんが教えてあげる~」
いらんわそんな事!? と思っているとネルソンがうねうねと動き、
「なんでもするって、言ったね?」
そう言ったネルソンがセラに跳びかかろうとした次の瞬間、ゼティリアが氷結魔術を発動させネルソンを凍りつかせ、
「ネルソン、お前はしばらく冷凍庫な?」
ヴィクトルが凍りついたネルソンを力の限り蹴りとばした光景を見て、セラはもうどうにでもなってくれと遠い目で呟いた。
セラさん うっかり属性




