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10.おお勇者よ、死んでしまうとは――役立たずめ

皆さん気にしていられた人類サイド。そしてここぞとばかりに厨二用語が飛び交うが私は気にしません。そんなもの前作で乗り越えたし!


それと気が付いたらお気に入りが1000件超えてました。みなさんご支援ありがとうございます。黒歴史ノートを超えたのがちょっぴり感慨深いです

 その日、フェル・キーガにいくつかの星が落ちた。

 フェル・キーガに落ちた星の数は5つ。その星たちまるで示し合わせたかのようにフェル・キーガの各所にほぼ同時に燃え尽きる事無く落ちていった。ある2つを除いて。

 その2つは地上まで残り数百メートルといった地点で、突如地上から放たれた光に貫かれ爆散したのだ。爆散した星は粉々に砕け散りそして地上に着くころには燃え尽きていた。

 そしてその光景を見て男は小さくため息を付く。


「全くヴィクトルめ。年寄りを使いおって」


 そう呟くのはしわがれた声の老人だ。漆黒の髪はオールバックに決め、皺の多い顔には片眼鏡をかけている。片手には杖を持っているがその佇まいに危うさは無い。確かに声はしわがれているがそれだけだ。大柄な体躯と羽織ったマントの上からでも分かる程のがっちりとした体つき。そして何よりもその存在が放つ気配がその老人の異常さを際立てている。

 先代魔王。それがその老人の正体でありそしてヴィクトルの父でもあった。


「けどあなた、これは誰かがやらなければならない事よ」


 そんな先代魔王の隣には美しい女性が立っていた。先代魔王とはうって変って純白の長髪を腰まで流し、それを夜空の光で輝かせる女性。すっとした鼻梁と傷一つない肌。たれ目がちの穏やかな瞳は紅色。衣服は大胆であり、豊満なその胸をギリギリ隠すか否か程度のナイトドレスの様な物に身を包んでいる。彼女こそ先代魔王の妻。つまりヴィクトルの母親である。


「ヴィルは己の役目を果たしに星の空に出た。だけどこの星を放っておくわけにもいかないでしょう?」

「それはそうだがな。人間たちの動きも怪しいものだし、油断は出来ぬ、か」

「ええそうよ。しかし心配ね……。ヴィルはやんちゃっ子だから、ゼティが苦労してそう」


 うふ、と笑いつつ頬に手を当てる妻の姿に先代魔王はため息を付いた。とても心配そうな顔には見えなかったからだ。そして彼は知っている。自分の妻であるこの女がトラブル大好きな事を。


「ひとまずは不躾な訪問者共の動向を見るしかあるまい。流石に儂だけじゃ撃ち落としきれん」


 先ほど落ちてきた星。それはただの隕石やそういう類ではない。あれには人の気配があった。そしてこのタイミングで来るとなるとその相手はただ一つ。


「アズガード帝国、か。全く面倒事を持ってきおって」

「仕方ないわよ。それにこれはある意味好機とも思えないかしら?」


 先代魔王はため息を付くが、妻の言葉にぴくりと眉を揺らした。そんな夫の姿に妻も小さく優しく微笑む。


「星の子……あの子(・・・)の事を知るいい機会だもの。きっと彼らは答えを持っているわ」

「……そうだな」


 妻の言葉に先代魔王は静かに頷いた。そして今一度夜空を見上げると目を閉じ、そして踵を返す。


「帰るぞ。落とせる分は落したが全部ではない。人間共の反応を見る必要がある。例の剣(・・・)はやはり見つからなかった様だしな」

「そう……ならばまた現れるのね。自称勇者とその一行が」

「そういう事だ。ならばこちらも準備せねばなるまい。行くぞ」

「はい、あなた」


 にっこりとほほ笑みついてくる妻。その姿を見て先代魔王は『しかし』と唸った。


「その服装はどうにかならんのか? 露出が多すぎる気が」

「あら失礼ね。ヴィルと同じ事を言うのね」

「む? ヴィクトルも言ったのか?」

「ええ。いきなり『母よ、その格好は露出趣味に目覚めたのか? その歳でか? それともサキュバスに転身か?』なんて言うのよ? 私もちょっぴり怒っちゃって一週間程地中に沈めちゃったわ。そのすぐ後に勇者一行が来た時は焦ったけど」

「…………もしかして今回の勇者戦でヴィクトルが妙に苦戦していたのは」

「そ、そんな事ないわよ? 私もちょっとやりすぎたと思って後で謝ったらヴィルも許してくれたもん!」

「因みにあいつは何て言っていた」

「えっとね、何を言っても『ハイ、カアサマ』って言ってくれたのよ? 素直な良い子は私達の自慢よねえ」

「それは素直とは別次元な気がするのだが……」

「とにかく! この服は私も気に入ってるの! だってまだ小っちゃい頃のゼティが作ってくれたものだし。裁縫を教えたのがサキュラの時点で何が作られるかは決まってたしねえ」

「………」


 それってつまりサキュバスの服装という事でヴィクトルの指摘もあながち間違っていなかったのでは? というかこの妻は自分と同じくらいの高齢の筈なのにどうしていつまでも若々しいのだろうか。いくら魔族と言えども少しずつ歳は取るというのに……。

 先代魔王は背に一筋の汗を流しつつ、そこには触れずに置こうと心に誓ったのだった。




 うす暗く、湿った空気のその部屋に松明の光が揺れる。だが部屋の広さに対して明らかに松明の数が足りず、松明から少し離れた場所は暗い。そんな部屋の中央には台座が有り、そこには奇妙な物があった。

 それは剣だ。白銀の大剣が台座に突き刺さっており、それを縛るかのように四方から伸びた鎖に絡め取られている。

 そしてその大剣を二人の男が見つめていた。


「今回の勇者も駄目か。剣がこの場に戻ってきたという事は」

「ええ。死んだという事でしょう。――全く、役に立たない」

「そういうな。死んだことで役に立つという事もあるだろう?」


 二人の顔と言葉には明らかな侮蔑が混じっていた。それは命がけで魔王と戦った者に対する物としては最も最低な行為だろう。だが二人はそんな事は気にしない。そんなもの今更だし、そもそも勇者とは聞こえは良いが早い話が道具である。

 そもそも、勇者の定義とは何か。そんな曖昧な称号は何によってつけられるのか。その答えがこの剣にある。

 聖剣≪無名の判定者(ホワイト・ジャッジ)≫。この剣が勇者を選び、そして選ばれた勇者は魔王に相対する程の力を得る人類の至宝にして最終兵器。それがこれだ。

 そしてこの剣は持ち主が死亡するとこの台座に必ず帰って来る。その際には以前の持ち主を吸収しそれを新たな力として蓄えながら。そして次にこの剣を扱う者は以前以上の力を得ることが出来るのだ。その在りようは聖剣というよりも呪われた剣に等しい。だがこの剣こそが魔王に対抗する人類の手段でもあるのだ。そして逆に魔王達もこの剣の事は警戒していると聞く。

 ならば勇者無き今、この剣に奪いに来るかと思えばそういう訳でも無い。聖剣が眠るこの場所はフェル・キーガで最も神聖なる場所。聖教会フェル・フォレスの管理する聖域、その奥地にある。その聖域は魔族にとっての猛毒である≪聖霊の血≫と呼ばれる力で満たされており、この中ではいかに魔王と言えどもまともに動くことは敵わない。事実、過去には何度か攻められた事があるが一度としてここは陥落していないのだ。

 故にこの聖域を、安全を求めてやってくる有力者は多く、その度にそこを管理する聖教会フェル・フォレスは権力を増していく。諸国は力を増していく教会を不満に思うが、聖剣がある以上下手に対立が出来ない。歴史上、何度かそう言った国が聖剣を奪おうとフェル・フォレスを攻め込んだ事もあるがそれらは全て返り討ちにされた。聖剣を抜く勇者が居なくても、常に≪聖霊の血≫の中で生きる教会騎士達は通常の人間以上の力を秘めているからだ。

 そして剣の前で話す二人もまた、教会騎士の称号を持つ男達である。二人は聖剣からは視線を逸らさず会話を続ける。


「次の勇者の選別は? 候補は居るのだろうな」

「準備はしていますよ。しかし前回の勇者ほど使えるかどうかは……」

「構わんさ。本人に力が無くとも我らが聖剣がそれを授ける。よしんば死んだとしてもそいつが新たな力となるさ。そうして行くうちに必ず魔王を仕留める者が現れる。真の勇者が」

「気の長い話ですね。ま、僕は良いですけど。何百年も前から続けている事だし今更ですもんね」

「そういう事だ。だが、時は近いかもしれんぞ? 何百年の積み重ねがあるからこそ、あの化け物を相手にしても戦える勇者が生み出されたのだ。ならばもう少し続ければ」

「魔王すら、ですか。それは素晴らしいですね。ならば次の勇者(生贄)をとっとと選定してしまいましょう」

「そうだな。出来上がったら早々に動いて貰うとしよう。斥候の報によれば魔王は空に消えたと言う。ならば今が好機だ」


 その言葉にもう一人は胡乱気に天を見上げた。生憎そこは室内なので空は見る事は出来なかったが。


「空、ですか。しかしなんだったんでしょうねあの空船は。何をしに来たのかも何の目的かもわからず内に消えましたけど」

「……聞いていないのか?」

「え? なんですか?」

「あれは空から、正確には星から降りてきたらしい」


 その回答に男はぎょ、と顔を強張らせた。


「なんですかソレ。馬鹿げてますよそんなの」

「私だってそう思う。だが捕えた魔族を拷問して吐かせた所によると、あれは我らの世界を侵略にやってきてそして魔王に返り討ちにあったとさ。そして魔王は今、あの空船を寄越した連中の下へと向かっているらしい」

「………………すいません。俄には信じられないのですが」

「私とて最初はそうだったから気にするな。とにかく今は魔王は居ない。あの空船も消えた。ならば我々がやることは至極単純だ」


 男は聖剣を見上げ口元を吊り上げた。


「この隙に魔族を叩くぞ。その為にも急いで勇者の選定だ」


 男の言葉に答える様に、白銀の聖剣がぎらり、と鈍く煌めいた。




 フェル・キーガ。その星のもっとも巨大な大陸の山岳地帯。日は落ちて暗闇に閉ざされていた筈のそこに赤い光が灯っていた。

 その光の元は奇妙な物体だ。楕円形のそれは金属でできており、所々が凸凹としている。その大きさは10メートル程あり、表面は赤く焼け焦げている。

 その奇妙な物体に近づく影があった。人の数倍はあるほどの茶色い体毛に覆われた体躯。鋭い鉤爪と槍の様な尻尾。獰猛な牙を揃えた咢と赤く光る眼。四足でゆっくりと近づくそれは地竜と呼ばれる竜種の魔獣だ。

 地竜は自らの縄張りに突然現れたその奇妙な物体に不快感を隠そうともせず人睨みすると尾を叩き付けた。ガキンッ、と金属質の音が響き奇妙な物体が揺れる。だが傷はついていない。それが地竜の闘争本能に火をつけた。


「――――――――!」


 獰猛な雄叫びを上げ、先ほど以上の力で尾を叩き付けるべく体を揺らす。そしていざ行動に移ろうとした、その時だった。


「撃て」


 突如響いた声。それと同時、地竜を四方から光が襲った。


「――――――――っ!?」


 光の直撃を受けた地竜は体の各所を爆発させ、そして肉片と血を噴き上がらせる。そして数歩よろめいた後、その場に倒れ付した。


「……対象排除」

「よろしい。まだ生きているな? ならば捕獲しろ」


 倒れた地竜を囲むように数人の人影が現れる。彼らは一様にグレーのスーツに身を包み顔を完全に覆うヘルメットを被っている。そしてその手には今しがた撃った銃を手にしていた。


「目標をサンプルA1とする。引き続きA2の確保に向かうぞ。準備しろ」


 リーダー格らしい人物が命令を下し、自らのヘルメットを剥いだ。続いてスーツも脱いでいく。そしてそれに部下達も続く。そこに恐れは無い。この星の環境が自分達に問題ないことは既に確認済みだからだ。

 やがて全員が準備を終えたのを確認するとリーダーである男は静かに頷いた。


「では作戦を開始する。1号と4号が落とされた今、残された2号、3号、5号で任務を果たす必要がある。幸いA1は既に入手できた。残るターゲットも入手し、帰還するぞ」

『了解』


 部下達の応答に満足すると男は動き出す。自分達の目的を果たす為に。

 彼らの目的。それはこの惑星、フェル・キーガの再調査とサンプルの回収。A1とはあらかじめ決められていた回収対象サンプルの呼称であり、それは『惑星に住む未確認生物』を指している。そして、


「過去の調査の不始末をするハメになるとはな。それに作戦開始前に既に2機が落とされるとは……。各員、注意しろ。捕獲の際は何をしてくるかわからん連中だ。油断はするなよ」


 そしてA2とは人型生命体。つまり人類を指していた。

 アズガード帝国フェル・キーガ調査隊。彼らは自分達の敵を知るべく、密かに行動を開始した。


実は最初の砲撃で死んでいた勇者とちゃっかり生きている先代魔王様。

そんな魔王家ヒエラルキー(上から順)

魔王ママ(母は強し)

魔王パパ(過去の栄光。けどパワーは落ちて息子に負ける)

ゼティリア(お目付け役)

ヴィクトル(一番強いよ!)


ヴィクトル「どうしてこうなった」

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