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1.魔王様、戦闘です

何番煎じな魔王×宇宙もの

ただし偽SF

 かつて、この世界≪フェル・キーガ≫には平穏を脅かす存在--魔王と呼ばれる者が居た。

 その力は大地を割り、山を吹き飛ばし、海すら干上がらせるとも言われ、そんな絶対的な存在に人々は恐れ、嘆き、そして救世主の存在を願った。

 我こそは、と勇者を名乗る者たちは何人も居た。その者達はいずれも強大な力を持った者達だったが、それすらも魔王には敵わなかった。それでも人々は抵抗を続けたが、魔王を打ち滅ぼすことは出来ず、戦いは何百年と続いていた……。





「そう、その筈なのだ。俺は誰にも恐れられた魔王の筈なんだ。なのに何だ? なんだこの状況は?」


 男は一人自問自答する。それは今自分が置かれた状況に納得がいかないからだ。そうだ、何故こんな事をしているんだ自分は。魔王だぞ? 凄いんだぞ? そんな俺がこんな――


『文句を言わないで下さい。あと動かないで下さい。計算がズレます』

「ゼティリア、俺はお前にも言いたいことが沢山あるのだが」


 耳に付けた通信機(・・・)から聞こえた声に男は顔を歪めた。すると目の前に光が浮かび、そこに良く知った女性の顔が映る。

 かなり若く、人間でいうところの10代半ば程か。薄蒼色の美しい長髪。切れ長の相貌。雪の様な白い肌。そして何故かのメイド服とそれを押し上げる豊かな胸部。その少女――ゼティリアは紅の瞳でこちらを見返し、何の感情も載せていないような声で答えた。


『ご不満は後程聞いて差し上げますので今は大人しくして下さい。魔王様が皆の希望なのです』

「いやしかしだなこの状態は――」

射程(・・)に入りました。では、ご武運を』


 こちらのいう事など一切聞かず、通信が途切れ光も消えた。それと同時に感じる衝撃。忌々しげに足元を見ると、高貴な靴を履いた己の足が、地面から生えた巨大なスリッパの様な物の上にあるのがみえる。いや、スリッパ所ではない。これは大人一人は寝ころべそうな大きさの鋼鉄の板だ。


≪敵艦より機動兵器の発進を確認! ゴーレムマスターは発進シークエンスに移行して下さい≫


 先ほどの通信とは違う声がスピーカーから発せられる。それに呼応するように左右から、こう、『ぐごごご』としか言いようのない音が響く。そちらに顔を向けるとなんだか刺々しい巨大な土と鉄の塊……一応人型である……がゆっくりと腰を落としていた。その土と鉄の塊、いやゴーレムはこちらに目を向けるとその巨体に似合わぬ機敏さでびしっ、と敬礼をしてくる。思わず自分も返すとゴーレムはその身を感動した様に震わせ、そして先ほどよりも幾分か気合のました表情で……いや違う。ゴーレムに表情は無い。だがそんな気がしただけだ。まあとにかくそんな様子で前を見据える。


≪リニアボルテージ上昇! 魔導ライン構築完了。全進路オールクリア! ゴーレムⅠ、発進どうぞ!≫


 ゼティリアとは別の打って変わって明るい声が響き次の瞬間、バシッと閃光が走りゴーレムが足元のスリッパに乗ったまま急加速を開始した。そしてグングン速度を上げるとスリッパから解き放たれ遥か広がる大宇宙に飛び出していく。そう、宇宙なのだ。行先は。


「…………」


 時代は変わった。そう、変わりすぎた。何がどう変わったってもう言うまでも無いくらいに変わってしまった。それは良い。何も変わらないことなどありえないのだから。戦場が地上から宇宙に変わり、近代化と言う単語を飛び越えて劇的に進化した武器と兵器を用いて戦う。大いに結構だ。以前とは違い、人の数十倍はあるゴーレムに搭乗して戦う。それだって別にいい。受け入れよう。それが時代だと。だけど、だけどだ。


≪続いてゴレームⅣ、どうぞ!≫


 自分の近くでは先ほどから続いて巨大なゴーレムが発進していく。変わりすぎた戦場。変わりすぎた戦い方。以前の様に飛龍に乗って空から襲撃したり、海を割って突然奇襲をしたりすることは無い。それはいい、いいのだ。


『魔王様、そろそろ出撃です。発進シークエンスは私が』


 再び回線が開きゼティリアの顔を確認する。美しいその顔はいつもの様に無表情だ。


「発進、か」


 感慨深くその言葉を噛みしめ、男は改めて横を見る。丁度ゴーレムⅦが発進したところで、鋼鉄の巨体が凄まじい加速で外へと飛び出していった。うん、やっぱり時代は変わった。それは間違いない筈だ。


『リニアボルテージ上昇。魔導ライン構築。全進路オールクリア。発進タイミングは魔王様へお渡しします』

「なあゼティリアよ? やっぱりおかしくは無いだろうか? 俺は魔王だぞ? 魔王だよな? いやな? 出撃する事には躊躇いは無いぞ? だけどなんで俺だけ――」

『時間がありませんので出撃GOです』

「ちょっと待て!? タイミングは俺に渡したって――」

『ご武運を』

「待てコラアアアアアアアアアアあああああああ!?」


 画面越しにゼティリアが何かのボタンを押した途端、足元で衝撃。そして視界が一気にブレていく。全身に振動が走り足元ではバチバチと火花が散り、そして男はそのまま無限に広がる大宇宙へと飛び出した!


「って、なんで俺だけ生身なんだああああああああああああああああああああああ!?」


 その声は誰にも聞こえる事は無かった。






 アズガード帝国第17機動艦隊所属高速戦闘艦≪バルチェルス≫。その機甲部隊に所属するギル・バージェス特務兵は目の前に迫る敵を視界に収め不敵に笑った。


「はっ、そんなガラクタで張り合おうなど!」


 迫る敵は2体。何れも無骨で稚拙な泥と鉄の塊。ゴーレムと呼ばれる兵器だ。何でも魔力とやらで動いているようだが所詮はただの人形。このアズガード帝国の誇る人型機甲兵器≪ヴェルリオ≫の敵ではない。

 ヴェルリオの全長は約10メートル。濃い赤色が宇宙では際立つアズガード帝国の誇る機甲兵器だ。全体的にマッシブな造形であり、背部と両肩には大型のスラスター。丸みを帯びた頭部では黄色く光る一つ目のセンサーが敵を捕らえている。そして全てを焼き尽くす高出力DATE(次元活性変圧機関)ライフルとDATEブレード。精神操作式誘導ミサイルに常時展開型のシールドがある。

 一方、敵のゴーレムの武装は巨大な剣と、腕から出す謎の光線――魔術と呼ばれる力らしいがその威力は大した事が無く、このヴェルリオのシールドは破れない。そもそも動きが愚鈍であり、お話にならないレベルだ。

 科学を信仰しその絶大な力で侵略を進めるアズガード帝国。その力と技術の前では魔術等無力に等しい。この程度の敵は相手では無い。


「まずは一機!」


 ガラクタらしく、遅々とした速度で接近するゴーレムへ一気に距離を詰めると、ヴェルリオの右手首に内蔵されたDATEブレードを展開し一息に切り伏せた。


『っ!?』


 ゴーレムは何が起きたのかもわからぬままその巨体を身じろぎして、そして動きを止めた。だがその背後からもう1体のゴーレムが迫ってくる。ギルは今度はそちらを撃ち落とすべく、左腕に持った巨大なライフルをゴーレムに向けた。だが彼が発射するより早く、そのゴーレムは別方向から来た光に貫かれ爆散してしまった。


「この光は、ジークか!」

『おうよ。お前にだけ楽しまれてたまるか』


 そう言いながら現れたのは同じくヴェルリオに搭乗した味方機だ。彼の機体はこちらと異なり両腕にライフルを装備していた。更にはその背後には4機のヴェルリオを連れている。


「なんだよ、ゾロゾロときやがって」

『仕方ないだろう。今度の敵はあの惑星の王を名乗ってた輩らいしじゃないか。徹底的に潰して見せしめにするんだとさ』

『それに奴らに奪われた戦艦も取り返すと上は躍起になってるぜ』

『そういう事だ。仕方あるまい?』


 味方機の登場にギルは不満げだったが、それをなだめる様に通信が次々と入るとギルも鬱陶しげに手を振った。


「ああそうかい。分かったよ。だったらとっとと潰そうぜ。所詮は魔力なんて得体のしれないものに頼る原始人共だ。俺たちの敵ではない」

『魔力ねえ。つまり連中は特異種か。まあ今までも何度か特異種族は狩ってきたがどれもたいしたこと無かったしな』

「そういうことだ。だから―――」


 そこまで言いかけた所で、機体のレーダーが奇妙な物を捉えた。


「小型の飛来物……? この大きさはミサイルか? だがたった一発で何ができる」


 レーダーが捕えたのは2メートルにも満たない小さな物体だ。それがたった一つ、高速で迫ってきている。大きさ的にミサイルの可能性は高かった。だがそれがたった一発というのは不可思議だ。ヴェルリオの全身は約10メートル。確かに直撃すれば痛手だが、たった一発だけのミサイルなど今の技術では撃ち落とすのは容易すぎる。


「ふん、所詮原始人か。艦のミサイルを小出しにしていると見える」


 敵の戦艦。それは不覚にもこちらの軍から奪われたものだ。その事はアズガード帝国の兵士たちのプライドを大いに傷つけ、その件に関わった兵士たちは全員厳しい罰を受けている。そして『原始人』に奪われた戦艦を取り戻すことが今のギル達の使命だ。だが所詮は原始人。奪ったは良いがまともに使えず、武装の効果的な使用方法も知らないと見える。

ギルは馬鹿にした様に笑みを浮かべるとライフルを構えそのミサイルに照準を合わせた。


「馬鹿な連中だ。まあいい。とっとと艦から引きずり降ろして痛めつけてやるぜ」


 だがその前にまずはこのミサイルだ。脅威ではないが放っておくのも馬鹿馬鹿しい。とっとと撃ち落として一気に攻め上がる。そう決めて引き金に指をかけつつ、望遠カメラでそのミサイルを捉え、そして固まった。


「……は?」


 それは人だった。そう、ミサイルでなく人だ。人型とかそういう問題じゃなくて人そのもの。宇宙服も着ず、ただやたら豪奢な服と黒のマントだけを羽織った男が一直線にこちらに飛んでくるのだ。


「……………………」


 眼を瞑りそしてふう、と首を振る。

 意味が分からない。自分は夢でも見ているのだろうか? ああそうに決まっている。どうやら俺は疲れているらしい。この戦いが終わったら休暇を申請しよう。うんそれが良い――

 そこまで現実逃避したところで改めてモニターを見た。


 やたら目つきの悪くてしかも角まで生やした黒髪の男が凄まじい形相で睨みつけながら飛んできていた。


「はああああああああああああああああ!?」


 今度こそ絶叫を上げるのと、その男がゴンッ、と音を立てて機体のメインカメラにぶつかったのは同時だった。


『おいギル!? 何が―――ってなんだあ!?』

『に、人間!?』


 味方機もこちらの状態に気づき、そして一様に焦る。そんな中、その男はメインカメラ越しにこちらを睨みつけながら口を開いた。


『き・め・た』


 音は聞こえなかったが、口の動きで男がそう言ったことだけは理解できた。そして男が腕を振りかぶった次の瞬間、機体に衝撃が走る。


「う、うわあああ!? 何だ!? 何なんだ!?」


 不可解すぎる事態に叫び声を上げる。そんな間にも機体からはぐしゃり、バギィ、といったまるで何かを剥いでいるような音が響く。そして一際大きな音が響いた途端、コクピット内部の気圧が急速に変わり、そして目の前のモニターがズタズタに引き裂かれ、そこから男が顔を出した。


『貴様が敵か』

「ひいい!?」


 突如、脳内に響く声。だがそれはおかしい。今の自分は宇宙服を兼ねたパイロットスーツを着ており、会話は主に通信で行っているのだ。そもそも目の前の男は生身で宇宙空間に居るが、宇宙で会話など出来る訳が無い。というか常識的に考えて生身で宇宙空間に出る人間など居る訳が無い! だがその男の声は確かに頭に響くように聞こえてきた。


『貴様らが来たせいでこの俺が戦艦から見事に発進させられた訳か、生身で。部下達はゴーレムなのに俺だけが発進させられた訳だ、生身で。というかゼティリアの奴、最後の方で発射とか言っていたぞ。俺は砲弾か!?』

「ななななんなんだお前は!?」


 男の言っている意味は分からない。だがギルは恐怖に駆られながらも咄嗟に座席の下から銃を取り出すと男に向けた。すると男はふん、と馬鹿にするように笑う。


『今更そんな武器で俺がどうこう出来ると思っているのか。いやまあ確かに一番初めに天から光が落ちてきたときは俺も焦ったし痛かったが、貴様ら単体では大した力が無いことなどとうに知っている』

「うわああああああああ!?」


 もう理由も何も無い。ただ恐怖に駆られてギルは引き金を引いた。手に軽い衝撃が走り、放たれた銃弾は男の顔に当たり――――そして弾かれた。


「………………は?」

『温い、温いぞ人間! という事で俺のこの溢れるやり切れない思いのはけ口となって虚空の塵となれ』

「う、う、う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 男が手を翳すとそこに闇色の光が渦巻いていく。そしてそれが一瞬で弾け――

 ギル・バージェスは自らの機体ごと光に飲まれて消滅した。




「ギル・バージェス特務兵機、ロスト!」

「つ、続いてジーク・コエイム機もです!?」

「な、なんだあの光は!?」


 ≪バルチェルス≫艦長、リオ・アダル。今年で47歳になるその男は自らの帝国に誇りを持っていた。

 圧倒的な技術。そして力で他者を屈服させその勢力を広げるアズガード帝国。既にいくつもの惑星を植民地とし更に進むその力。その一つとして戦い、蹂躙することに彼は喜びを見出していた。

 弱者は強者に支配されるべきだ。そしてそれこそが弱者の幸福である。それが彼の信条。故に彼は今までも容赦なく、徹底的に敵を殲滅してきた。

 なのに、


「ば、馬鹿な…………」


 正面に浮かぶ戦術モニターでは≪バルチェルス≫から発艦したヴェルリオ部隊が次々と落とされていく様が映っていた。そして声も。


『なんなんだこいつは!? ひ、ひいいいい!?』

『ひ、人!? いや……化け物、化け物がああああああ!?』

『助け――』


 散っていったヴェルリオのパイロットたち。その叫びはどれも要領を得ない。一体何が起きている? 敵の戦力はこちらから奪った戦艦と鉄クズと泥で固めたゴーレムとか言う兵器のみの筈だ。それ以外の装備は何も聞いていない。ならば敵の新兵器か? 馬鹿な! こちらの技術を上回る兵器なんて、あの原始人共に作れる訳が無い!


「なんだ……何だと言うのだ!? いくら特異種族だからと言ってこんなものは聞いたことが無いぞ!?」


 特異種族。それはアズガード帝国が星々を侵略していく中で時たま遭遇する種族の事だ。そう呼ばれる星の者たちは人の身で奇妙な術を使ったり、そもそも人型ですらない事もある。そう言った者達を、アズガード帝国は特異種族と呼んでいる。

 彼らは確かに特殊な力を持っている。だがそんなもの、この宇宙で最強を誇るアズガード帝国の兵力と技術の前では児戯に等しい。事実、今までも幾つかそういう星を侵略、征服してきたのだから。だが今、自分たちが相対している特異種族は何かがおかしい。


「し、しかしこうも容易く我が軍のヴァルリオを墜とす存在など有り得ません!?」

「じゃ、じゃあいったいなんだと言うのだ!?」


 辛うじて聞き取れたのは『人』『化け物』。この二つの言葉だけ。つまり敵の人型兵器か? 


「か、艦長!? 何か、大きな光がこちらに接近してきます!?」

「何だと!?」


 オペレーターの声に振り返ると、正面スクリーンに外の映像は浮かび上がる。そしてそこには確かにこちらに急速に迫る赤い光が映っていた。


「う、撃ち落とせ!? ≪リーオン≫≪ジッカル≫にも伝えろ!」


 何が起きているかはわからない。だが何かはしなければならない。≪バルチェルス≫の斜め後方に位置していた僚艦にも指示を飛ばす。≪リーオン≫≪ジッカル≫は共に≪バルチェルス≫と同型の高速戦闘艦である。その形状は酷く鋭角であり、大型のスラスターを噴かせる艦後方から艦首にかけて鋭く細くなっていく三角形の形をしている。その戦艦の各砲台が起動し、迫りくる光目掛けて闇雲に砲撃を開始した。

 だが迫りくる光はそれをものともせず急加速をすると≪バルチェルス≫の真横を通り過ぎ、そして≪リーオン≫に突き刺さった。そう、突き刺さったのだ。


「なっ!? お、おい≪リーオン≫! 状況を報告しろ!」


 得体のしれない状況に混乱しつつもアダルは≪リーオン≫へ通信を繋ぐ。だが聞こえてきたのは予想外の物だった。


『ふはははははは! もうヤケクソだ! 何が最新鋭だ、何が進歩だこの野郎! まとめてこの宇宙とやらの塵にしてやろう!』

「な、なんだこの声は!?」


 聞こえてきたのは知らない男の声。そしてその背後では悲鳴や爆発音も聞こえてくる。思わずモニターで≪リーオン≫の状況を確認すると、その≪リーオン≫の艦首に『何か』が立っているのが見えた。


「な……っ!? なん……だっ……!?」


 その『何か』は人型をしており、その両手が光ったかと思うとその光を≪リーオン≫にぶつけている。その度に≪リーオン≫光を上げて爆発し、今や撃沈は時間の問題だ。

 そして最大の問題であり、理解しがたいのはその人型はヴェルリオよりも小さい、人間とほぼ同サイズな事である。そう、ただの人間のようなものが戦艦相手に戦っている。そんな馬鹿げた光景がそこにはあった。


「艦長、このままでは!」

「わ、わかっている! 撃て、今すぐあの化け物を撃てぇぇ!」

「しかしそれでは≪リーオン≫が!」

「どのみちあの艦はもう駄目だ! それよりあの化け物を潰せ!」


 オペレーターの悲鳴にアダルも絶叫で返す。その頃にはもう≪リーオン≫は限界を迎えており、一際大きな爆発と主に轟沈していくところだった。

 そして艦が落ちていく炎の中、悠然とその艦首に佇んでいた人型の『何か』がこちらに視線を向け、その真紅の瞳をギラつかせた。その威圧に。その異常性に。アダルは矜持も何もかも投げ捨て悲鳴の如く叫ぶ。


「ひっ!? は、早く撃てええええええ!」

「りょ、りょうか―――」


 オペレーターの言葉を最後まで聞くことなく、アダルと≪バルチェルス≫はその『何か』が放った光に飲み込まれた。




「ふははははははははははは! なんだこの鉄の塊共は! まるで歯ごたえが無いな!? この程度でこの俺、魔王ヴィクトルに喧嘩を売るとはなあ!」


 次節爆発を起こしながら砕けていく戦艦の上。そこで仁王立ちをしながら笑う男は残された最後の戦艦に目を向けると獰猛な笑みを浮かべた。


「喧嘩を売ってきたのはお前らが先だ。諸々のツケ、その身で味わえ!」


 腕を上にかざす。するとそこに黒の渦と赤い放電が生まれ、やがてそれは混じり合い破壊の為だけに特化した力の塊へと変化していく。


「砕けろぉぉ!」


 叫びと共にそれを戦艦へと投げつけた。放たれたそれは一直線に最後の戦艦に向かっていき、直撃すると一気にその黒を拡大させる。赤い放電が戦艦の装甲を奔りそれを追うようにして広がる黒。やがてその黒が戦艦の半分ほどを浸食した瞬間、戦艦は突如は突如として大爆発と共に砕け散った。


「ふん、こんなものか」


 砕け散った戦艦の破片が周囲に散らばっていく。自分に向かっていくそれを魔術の障壁で防ぎつつ男――魔王ヴィクトルはつまらなげに鼻を鳴らした。それはこの宇宙とやらに来て早10日、久々に戦った敵が予想外にあっけなくやられてしまった事への落胆だったのかもしれない。所詮はこの程度なのか、と。やはりこの魔王に敵う敵などそうそう居ないのか。これは過信ではない。自信だ。長きにわたり培ってきた経験と力は、こんな機械仕掛けの異星人とやらに遅れは取らない。


『魔王様』

「ゼティリアか」


 感傷に浸っていると通信機からゼティリアの声。あの感情の起伏が少ない部下もこれだけの戦果を上げれば驚きの声を上げるかもしれない。若干の期待を込めて返事をすると、帰ってきたのは予想外の一言だった。


『悦に浸ってないで早く帰って来てください。早くこの宙域を脱出したいのです』

「お、おいゼティリア? ちょっと位俺に対して『お疲れ様です』とか『キャー素敵魔王様!』とかそういう言葉があってもいいのではないか?」

『…………余分な時間を取ってまた敵が現れた際、その全てを魔王様が迎撃して下さるのでしたら多少は考えます』

「…………」


 これ絶対考えるだけで実践しないパターンだ、と確信する。それに敵の増援は確かに厄介だ。倒すのは今のとこ苦では無いが、それは自分に限った話。挟み撃ちなどされたら自分はともかく味方の居る艦が危ない。


「…………なんだか納得がいかないがわかった。帰るぞ」


 ここで自分が全て倒してやる、等とは言えない。魔王だからって味方を失うのは嫌なのだ。ゼティリアがちっとも褒めてこないのは少々不満だが。


『……魔王様、言い忘れておりました』

「お、何だ!? 賞賛か? やっぱりお前も参謀としての心得が分かって――」

『可能な限り残骸を拾ってきてください。土が少ないのでその残骸をゴーレムの材料に致します』

「…………」





かつて、世界には平穏を脅かす存在--魔王と呼ばれる者が居た。

 その力は大地を割り、山を吹き飛ばし、海すら干上がらせるとも言われ、そんな絶対的な存在に人々は恐れ、嘆き、そして救世主の存在を願った。

そんな魔王は今、

 

「あーこの鉄クズならいい感じに綺麗だしゼティリアの奴も満足するだろう。後はこの鉄の紐なんかもいいかもな。お!? このガラス、ゴーレムの眼につければカッコ良いのではないか!? …………ってなんで魔王たるこの俺が宇宙でゴミ漁りしなきゃならんのだああああああああああああああああ!?」


 ふわふわと宇宙空間を漂いながら、今しがた自らが破壊した戦艦の残骸の中で一人絶叫するのだった。


宇宙でやるファンタジーと思えばSFでいいかと自分で納得

しょうもないファンタジーでも可。

さいえんすふぃくしょん? ナニそれ知らない

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