パンケーキではじまるおしゃべり
「ママはね、料理が得意なの」
小さな魔女のアンが言いました。
「ハンバーグも、オムライスも、パフェも、
クッキーも、おにぎりも、焼き魚も……
なんでも得意なのよ」
隣に座っていた魔法使いのミントが言いました。
「そうだね、君のママの料理はとても美味しい」
でも、アンゼリカは不満そうな声で言います。
「でもね、パンケーキだけは下手くそなの」
「失敗するのかい?」
「そうよ、失敗するの」
アンは足をパタパタと揺らして地面の芝生を見つめました。
「ママは火曜日と水曜日、
パンケーキを作るって決めているの。
でもね、火曜日のパンケーキは
決まって失敗するのよ」
「それはなぜ?」
ミントが聞けばアンは
もっと不満な声で言います。
「パンケーキが膨らんでいる間は
どうしても考え事をしてしまうから、
結局焦げてしまうの。
食べれる程度に焦げてしまうから
もっと嫌なのよ」
「じゃあ、水曜日のパンケーキは
美味しいんだね?」
「ええ、美味しいわ。
昨日失敗しちゃったから
気をつけなきゃって思って
焼いてくれるから、
黄金色のとってもふわふわで
美味しいパンケーキになるの。
でも、平日を三日、休日を二日
またいでしまえば、また、
忘れて焦がしちゃうのよ。
私が焼いた方が綺麗に焼けるのに、
ママはやらせてくれないのよ!
よほどパンケーキを焼くのが好きなのね!
焦がしちゃうくせに」
「今日は水曜日だから
美味しいパンケーキが食べられるね」
ミントの言葉に、アンは
それはもうありえないわ
と言いました。
「今何時?」
ミントは懐中時計をみて答えました。
「3時6分かな」
「じゃあ、アニスおばさんが
家に遊びに来ているんだわ」
「おばさんが来たら美味しいパンケーキは
食べられなくなるのかい?」
「そうよ。
おしゃべりに夢中になって私のおやつを
忘れてしまうのよ酷いことに。
ママは2時52分に私を窓から呼ぶのよ。
三時のおやつですよ!って。
三時にもなっていないのに
三時のおやつなんて変な感じだけどね。
私、手を洗うのが下手くそだから
ちょっと早めに呼ばれるの。
でも、もう8分と6分……14分も
オーバーしているわ。
だから、水曜日のアニスおばさんは大嫌い!
今までにあの人のせいで
美味しいパンケーキが両手の指で
数えられるくらいしか食べたことがないの」
それは酷い、とミントは眉をしかめました。
「しかも、あの人、遊びに来たら
私の部屋を引っ掻き回すのよ!
自分の息子より成績がいいから
私の粗探しをしているのよ!
それにママは気づいていないわ。
だから、今日はお部屋に私以外が入ると
大騒ぎする猫のバルバを置いてきたの」
「なるほど、バルバがいれば安心だ。
バルバはアンにしか懐いていないからね」
「でもね、おばさんのせいで
おやつが食べられないから
水曜日はいつもお腹ペコペコなの」
ミントは、腕を組んで考えました。
「そういえば家にパンケーキの材料が
あった気がするなぁ」
「あら、あった気がするの?」
「うん、あった気がするんだ。
だから、アン、僕のためにパンケーキを
作ってくれないだろうか」
「いいわよ。
私ね、ママみたいにパンケーキは
あまり失敗しないの」
FIN