狂優
警告タグは一応つけているだけです。
狂人を題材にしてみました。
久しぶりの執筆です。
よろしくお願いします。
僕の彼女が死んだ……。
死因は、通り魔とすれ違う時に刺されたことによることらしい。
通り魔は未だに捕まっていない。
警察の人が一生懸命捜査しているらしいけど……正直、犯人探しになんて興味の欠片も無い。
捕まえたら、彼女は蘇るのかい?
いや、そんな訳ないよね。
もし、奇跡とかがあり得るなら、僕の前にその事例を出してみろってんだ。
それよりも心配なのは、僕自身のことだ。
僕は彼女という大切な存在を失ってしまった。
彼女の死にはさすがの僕でも悲しみが大きく、心はどんよりとしている。
僕にとって彼女は、かけがえのない存在……とまではいかないけど、大切な物であったことはかわりないからね。
そうーー彼女は僕の物だったんだ。
つまり、僕の物だった彼女を消し去ったということだ……通り魔は。
ハハッ、やってくれたな。
何様のつもりだ。
僕にとってかけがえのない人間とは僕自身であって、その僕とその他の人間の“関係”という名の個性の調和を壊すなんて許せない。
僕のこの怒りという感情は、僕の正義の基準ーーつまり、僕の中で行われている裁判の判決に従っているだけだ。
だから、僕は正義を主張しているだけであって、その正義も正当化されている。
僕の怒りは正しいんだ。
じゃあ、何で僕がこんなに辛く、悲しみに堪え忍ばなくちゃならないのだろうか?
不公平だよ。
彼女を殺した通り魔にも僕と彼女と同じ痛み、苦しみ、怒り、悲しみを受けて貰うことが、世の中で一番素晴らしい対応と言えるんじゃないのかな?
僕から大切な物を奪った罪は重いからね。
でもでも……僕もそこまで鬼ではない。
通り魔だって人間だ。
彼にだって罪悪感はあるだろうし、罪を償う覚悟があるかも知れない。
そこで僕は決めたんだ。
通り魔の家族に僕と彼女の心の叫びを聴いてもらうことを。
彼等はこの通り魔事件に深くは関わっていないから、より純粋な状態で聴いてくれると思ったんだよ。
彼等はしっかりと聴いてくれたよ。
肉体的にも精神的にも。
途中で反応がなくなった女性がいたけど……たぶん通り魔のお母さんだと思うよ。
こう見ると、僕って優しいね。
通り魔のことを思いやって、その家族に真実を教えてあげたんだから。
しかも、無償で。
大仏様もびっくりだよ。
僕の正義が、僕と通り魔とその家族、そして天国の彼女との間で、負の感情を分けあったーーつまり、共有させたんだ。
ハハッ……僕の行動は僕等の関係性をより深めるための起爆剤となったと言い換えてもいいのかも知れないな。
今回の件で僕ははっきりと分かったんだ。
やっぱり正義って大事だよね、と。
さて、明日も正義と共に歩んで行くとするか……。
読んで下さりありがとうございます。
感想などを頂けたら幸いです。
では、これにて失礼します。