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8月31日の憂鬱  作者: あまやま 想
小学生時代
5/19

妹が生まれてから(1−2)

 あえて、一つだけ上げるとすれば、誕生日のことぐらいである。また、八月三一日がやってきた。この日が近付くと二学期が始まると言うだけでも、憂鬱になるのに…。そのせいで、せっかくの誕生日のうれしさが半減する。


 この年は僕が勉強を頑張ったと言うことで、親子四人で動物園へ行った。本当は遊園地に行きたかったけど、去年みたいになるとかっこ悪いと思って、とりあえず我慢した。海美はどの動物を見ても、


「ニャンニャン」


「ワンワン」


のどちらかしか言わないので、なぜか面白かった。でも、動物園だけでは何か物足りない。僕はさすがに我慢できなくなって、ぽろりと


「やっぱり、遊園地へ行きたいよ」


泣きそうな声で言ったしまった。あっ、しまった…。そう思った時には、もうすでに遅かった…。すると、父と母がちょっと話していた。あっ、また怒られると思ったら、父が急に僕の手を引っ張った。


「よし、広道。お父さんと一緒に遊園地へ行こう! 去年、行けなかった分まで、一緒に遊ぶぞ!」


 そうやって、男二人で遊園地へと行くことになった。父は少年に戻ったかのように楽しそうに遊んでいた。それはわざとらしく見えて、演技をしているようにも見えた。案外、夢中で遊んでいたのかもしれない。


 だんだん、僕も遊ぶのが楽しくなって、そんなことはどうでもよくなった。明日から学校が始まることすら、どうでもよくなっていた。


 とにかく、未だかつてないほど、二人で夢中になって遊んだ。遊んでいる間は、母や海美のことをすっかり忘れているほどだった。


 帰り道、僕はすっかり疲れ果てて、電車の中で眠り込んでいた。ふと目が覚めると、僕は父の背中の中にいた。


「お父さん、降ろしてよ」


「お、広道、起きたか…。たまには思いっきり甘えておけよ」


「何、言ってんだよ」


 僕は何だか恥ずかしくなって、うれしかったのに、柄にもなく強い口調で言ってしまった。でも、父はそれすらも優しく受け止めてくれた。


「何言ってるって…。家に帰ったら、こんなことはできないだろう。なあ、広道、いつも我慢ばっかりじゃ、つらいだろう。たまには甘えろよ。父さん、分かるんだ…」


「何が分かるの?」


「父さんも長男だからな…。弟の政春おじさんがいたから、子どもの時はよく我慢した。母さんは姉さんの夏子おばさんがいるだろう。だから、いまいち広道の気持ちが分からない。『お兄ちゃんは妹のために我慢するのは当たり前』と思っている。まあ、それも間違いではないけど、それだけじゃつらいだろう…」


「うん…」


とりあえず、頷いておく。父の言っていることは何となく分かった。


「父さん、仕事ばっかりで、全然、広道にも海美にもかまってあげられなかった。だからこそ、たまには甘えてくれ。そして、母さんや海美の前では立派なお兄ちゃんでいてくれよ」


「うん!」


今度は強く頷いた。父の言いたいことがはっきりと伝わったから…。


「よし、もうすぐ家に着くから、降りるか?」


 何も言わずに、僕は父の背中から降りた。そして、何事もなかったかのように、家に向かって歩き出した。


 この時のやり取りは、今思い出しても胸が温かくなる。毎年、八月三一日になると何かと悲しくて、むなしくて、やり切れない気持ちになるのに…。この年は父といろんなやり取りをしたせいか、不思議と八月三一日が楽しくて温かいものになった。

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