司法修習生
(注)旧司法試験制度を元にお話を進めているため、現在の法科大学院を中心とした新司法試験制度と研修の制度が異なります。
大学は何事も問題なく卒業できた。在学中に司法試験に合格できる人にとって、法学部の卒論は朝飯前だった。そして、僕は今、埼玉県和光市にある司法研修所に来ている。今日からここで三ヶ月間の前期修習を約千八百人の仲間と共に受けることになる。
僕が司法試験に合格した年は司法試験制度改革に向けた初年度して、合格者数が前年よりも五百人ほど増えた年である。また、これまで二年間の司法研修を受けることになっていたが、今年から期間が一年六ヶ月に短縮された。
司法試験合格者の場合、司法研修所において一年六ヶ月の修習を受ける。カリキュラムは三ヶ月間の前期修習、一年間の実務修習、三ヶ月間の後期修習に区分される。
初日の研修オリエンテーションで司法修習生に関する規則を全員で唱和させられた。いずれも司法修習生の立場を明確にしたものである。司法修習生は国から給料をもらいながら研修を受ける以上、当然副業は禁止である。
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司法修習生に関する規則
第2条 司法修習生は、最高裁判所の許可を受けなければ、公務員となり、又は他の職業に就き、若しくは財産上の利益を目的とする業務を行うことができない。
同3条 司法修習生は、修習にあたって知った秘密を漏らしてはならない。
同4条 司法修習生の修習については、高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努めなければならない。
同5条 司法修習生は、修習期間の中、少なくとも、6箇月は裁判所で、3箇月は検察庁で、3箇月は弁護士会で実務を修習しなければならない。
前項の実務修習の時期及び場所は、司法研修所長が、これを定める。
同17条 司法修習生で左の各号の一に当る者は、これを罷免する。以下略
同18条 最高裁判所は、司法修習生に左の事由があると認めるときは、これを罷免することができる。
1品位を辱める行状があったとき
2修習の態度が著しく不真面目なとき
3成績不良で修習の見込みがないとき
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最初の三ヶ月の前期修習と最後の三ヶ月の後期修習は、埼玉県和光市の司法研修所における集合修習で、民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁護・刑事弁護の5科目からなる講義をや演習を受けることになる。司法修習生を担当する第二部教官は、担当科目について実務経験の深い裁判官・検察官・弁護士が充てられる。各クラス、各教科につきそれぞれ1人の教官がいる。その他、各教科につき、クラスを担当しない「所付」と呼ばれる教官(教材作成やクラス教官補助を担当する教官で、比較的若い実務家が登用されることが多い)が一人ずつ修習生の個別指導や個別相談にあたる。
中間の一年間の実務修習は、民事裁判修習・刑事裁判修習・検察修習・弁護修習を3か月ずつ行う。司法修習生は各都道府県の地方裁判所本庁所在地に配属され、仕事に立ち会ったり、裁判手続や書面作成のレクチャーを受け、実際の事件を題材として、実務家の指導の下、実務家法曹としての基礎を学ぶ。
つまり、裁判所では民事と刑事を三ヶ月ずつ学ぶので、半年は裁判所で過ごすことになる。僕は両親のように生涯弁護士でいくのではなく、検事か裁判官を経験してから弁護士になってもいいと思っていた。やはり、これからは多様な視点から法曹に携わっていくべきだ。だから、独立資金を貯めてから、ヤメ検かヤメ判でいこうかと考えている。
まあ、これについては父や母と相談しながら、どうしたらいいかじっくり考えていこう。
一方、一橋奏は警察庁に入庁した。その時点で階級もいきなり警部補からスタートする。都道府県県警採用のノンキャリ組が巡査からスタートするから、スタート時点ですごい差がついているのだ。毎年二〇人程度しか採用されないキャリア組の一人として、まず警察大学校で三ヶ月の研修を受け、その後九ヶ月の現地実習を行うことになる。その後、さらに一ヶ月の研修を受けて、各地に配属される時には自動的に警部に昇進するらしい。
そして、三年間の勤務を経て、再度警察大学校で一ヶ月の研修を受けると、自動的に軽視に昇進する。ノンキャリ組が一つずつ昇進試験を受けて階級を上げていくのにキャリア組はエスカレータ式に昇進していく。
奏の話を聞いていて、すごい人物を彼女にしてしまったなあ…と改めて思った。僕も彼女に負けないように法曹の世界で頑張っていくしかない。
そうは言っても、彼女は彼女で大変なようである。二〇人中十八人は男性で、女性は二人しかいないらしい。警察の世界は完全な男性社会で、女性はキャリア組と言えども肩身の狭い社会とのこと。男になめられないように、誰にも負けないぐらい実績を積むしか無いと彼女は言っていた。もちろん、プロファイリングの第一人者になって、犯人逮捕や犯罪予防などに貢献することが彼女の一番の目的である。
こんな具合で、僕らは二人で励まし合いながら、社会人としての第一歩を踏み出したのである。