イイ所
第12話です。
「あった・・・!」
学校に戻り家庭課室をのぞくとぼくのケータイは机の上にポツンと置いてあった。
(よかったぁ・・・盗られてなくて)
ほっと一息ついてから、ケータイをポケットに入れ、
「さて、帰るか・・・」
ぼくが家庭課室のドアを開けた時ーー。
ガタンッ
「!?」
何かが倒れる音が図工室から聞こえる。
(誰かいるのかな・・・?)
ぼくは不思議に思い、図工室をそっとのぞく。
するとそこには1人の茶色い髪の女子が必死に散らばった木材を立て直していた。
(・・・もしかして)
ある人物を思い浮かべたぼくは、静かに扉を開けた。
「何してるの、桜木・・・だよね?」
「!?」
茶髪の女子がゆっくりと振り返る。その顔はなぜか少し引きつっていた。
「小林・・・よね?」
「はい、小林ハルトです。」
なんにせよ、ぼくの予想はあたっていたようだ。桜木は木材を立て直しもう一度こちらを向いた。
ぼくとキチンと認識できた後の彼女はなぜか先ほどより引きつった表情はしていない。
そして、いつもの落ち着いた声で
「看板を描き直していたの」
と一番大きな縦長の板を指差した。
(確かーー)
「内装係の子がペンキをこぼしてやり直しになったんだっけ?」
「そう、実はその子私の足に引っ掛かってペンキをこぼしたの。」
「そうなんだ...。でも、何で桜木が看板を描き直してるの?」
「半分私のせいみたいなもんだし...それに急に私が役割を交代してもらって皆に迷惑かけたから...」
桜木はそこで言葉を切るとまた黙々と作業を再開した。
ぼくは少し考え、秋奈にメールを送った。
「ねぇ、看板以外に何をするの?」
「…?飾りのちょうちん2個と紙のもみじを20枚」
「ん、わかった」
ぼくは短く返事をすると鞄を机に下ろした。
「何するの?」
「ぼくも手伝う」桜木の近くにちょうちんの型紙らしきものと、作り方を書いたメモがあったのでそれを取りに行く。
「いいよ、手伝わなくて」
「安心して、ぼく器用な方だから。」
「そういう意味じゃなくて…」
桜木がはまだ下がってくれない。ぼくはため息をつきながら少し離れたところに座った。
「あの、小林…」
「大丈夫、今日妹も部活で帰りが遅いからどうせ帰っても暇だし。」
桜木の言葉をさえぎるように言ってから彼女の方を向く。
「 それに、何か桜木の事放っておけないんだ。」
「……」
(あれ…?)
しばらく沈黙が続きようやく違和感に気付く。
(な、何か今ぼく結構恥ずかしい事言ったような…)
そう考え始めるとだんだん照れ臭くなり慌てて顔をそらし、背を向ける。
「えっと、今のはその…特に深い意味は無くて…」
「うん、分かってるから。大丈夫だから。…じゃ、じゃあお願いします。」
桜木の言葉にホッとする。
(よかった…変に思われていないようだ。)
安心したぼくはとりあえずちょうちんの飾りから作り始めることにした。
「ーーー」
途中桜木が何か呟いていたが背を向けていたのもあるせいか、何を言っているかはわからなかった。