8、とある通行人Mの悲劇 ─ 日高 真昼 高校二年生(16) ─
すっかり部活で遅くなってしまった。
あたしはすっかり暗くなってしまった人通りのない道路をとぼとぼと歩いていた。
もう暦の上では春なのだけれど、夜にはまだまだ冷える。あたしは友人から借りた赤いコートのフードをかぶりなおして、両手にハァと息を吹きかけた。
早苗にこのコート借りなかったら、風邪引いちゃってたかも。
持つべきものは良き友人だ。といっても早苗には早苗で思惑があって、早瀬先輩のコートの下にもぐりこんで、アツアツで帰るんだって言ってた。
もう、見てられないよね。あたしもちょーっとあこがれてたんだけどな、早瀬先輩。
もういちど、はぁ、と手のひらに息を吐いて両手をこすり合わせる。
あたしも彼氏ほしーい。こういう寒い時なんかに、背中からきゅーっと抱きしめて暖めてくれるような、そういうのが欲しいのでーす。
背中がさびしいよう、って思いながら、早く帰らなきゃと足を速めようとしたとき、背後でざっと何かがこすれる音がした。何だろう、と振り返ろうとしたとたんに、後ろからなにかハンカチのようなものを口に当てられた。振りほどこうとしたが力が入らない。
何? 何? いったい何が?
よくわからないながらも、とりあえずハンカチに思いっきり噛み付いてみる。
「……がっ、ぐ!」
背後でくぐもった声が上がるがハンカチは離れない。
そのうちにだんだんと、意識が遠くなってきて……何もわからなくなった。




