4、お気楽幽霊の復讐 ─ 日高 真昼 高校二年生(享年16) ─
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてくる。
「え、え、え?」
あきら少年が慌てた様子で、あたしとお父さんのほうを交互に見やっている。
『その右手の薬指の包帯は、あたしが噛んだ時の傷を隠すためのものだよね?』
「いやだから、突き指……」
『幽霊ていうのはね、誰の目の前にでも現れるものじゃなくて、普通は親しい人間の前に現れて、伝え残した思いを告げに出てくるか、それとも恨みのある人間の前に現れて恨みを晴らすか、そのどちらかだって相場が決まってるものなのよ!』
「そういうものなの??」
『お父さんですら見えてないみたいなのに、赤の他人であるはずのあんたにだけあたしが見えるなんておかしいじゃない? つまり、あんたがあたしを殺した犯人ってわけね! 我ながら名推理だと思うわ!』
「いやいやいや、それ違う、絶対、迷う方の迷推理だから!」
『キミの身に覚えが無くても、あたしの推理は絶対なのー! 絶対ったらぜったいー!』
叫んだら、なんだかすっきりした。まさか冗談で作った物が本当に役に立つとは思わなかった。もしかして、あたしの心残りって、これがしたかったんだろうか。
自分を殺した犯人を、自分で追い詰める! ああ、なんて燃える展開!
っていうか普通できないよねー、こんなの。
本当のところは、あきら少年が犯人であるかどうかはどうでもよかったんだけれど。
「……!!!!」
『ノリが悪いぞ~! ここは観念して、動機とか殺害方法を自白するシーンでしょう?』
絶句して声も出せないあきら少年の表情を楽しみながら、小さく笑う。
「だから、僕は、」
『キミが本当に犯人かどうかは知らないけれど、ここまで付き合ってくれてありがとね』
あきら少年の頭を、胸で包み込むように抱きしめて、そっと肩を叩く。
『そうそう、約束だから、あたしのぱんつは何枚か持っていっていいからね。おまけでブラも』
だんだんと、意識が薄れていくのを感じながら、最後にあきら少年に伝えるべきことを伝えた。
『さっきの手紙には、下のほうにちっさく、っていうのはウソー、って書いてあるから安心していいよ? 男の子なんだから、幽霊の性質の悪いイタズラくらい、笑って許してね』
そっと、あきら少年の頬にキスをした。
「……?!」
あきら少年がまだ何かあたしに向かって叫んでいるようだったが、もうあたしには何もわからなくなってきていた。
なんだか、光の中に溶けていくような気がした。これが成仏するってやつなのかなーとぼんやり思う。
成仏っていうのは、なんだか眠りに落ちる感覚に近いのかな、と思いながら、あたしの意識はすぅっと、落ちるように閉じた。




