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第七話 耳長族

「ふん、では我が臣下達よ、この辺りに潜む魔物を手当たり次第連れてくるのだ」


エンジニア王国では自国から魔王を出さないようにするため、警備を強めていたが、嫌がるガイコツに能力を無理やり使わせて楽々とエンジニア王国を出国することができた魔王御一行。


「ちょっと待て!!お前はその間何をするつもりなんだ?」


不服なのかクロが彼女に問いただす。

彼女はさも当たり前のようにクロの問いに答えた。


「ここで休んでいるに決まっておろうが」


何か問題があるのか?とでも言いたげな彼女に、大ありだ!!とクロは怒鳴る。

そんなクロの言葉を聞き流し彼女はさっさと行けと言わんばかりに手をひらひらとさせる。

クロは体を震わせ怒りを必死で抑えようとした時、クロの頭でだらけていたガイコツが口を開いた。


「魔王様。この仕事でより実績のあるものを魔王様の一番の臣下にするというのはどうでしょう?臣下が増えた時にまとめるものが魔王様だけでは大変でございましょう?」


しばらく考えて、彼女はそれもそうだとガイコツの考えに賛同する。

それを見てガイコツはぼそりとクロに呟く。


「さあ獣、とうとうワタシがあなたの上司になる時が来たようですね」


その言葉にクロはそっくりそのままお前に返してやる!!と叫びガイコツを頭に乗せたまま、森の奥へ進んでいった。

その様子を確認した彼女は近くにある木に寄りかかり、目を閉じた。


森が風に揺られる音が聞こえる。

そんな音を聞いて彼女が和んでいると、どこからか幼い子供の泣き声が聞こえてきた。

彼女は閉じていた目をうっすらと開けてから辺りをめんどくさそうに見渡す。


と、ガサガサと草むらが揺れたかと思うと1人の少年が泣きながら出てきた。

彼女は少年を見て顔をしかめると少年へと口を開く。


「うるさいぞ、黙らんか」


彼女は眉を吊り上げてぎろりと少年を睨む。

しかし少年は、さっきよりも声をあげて泣きはじめてしまった。

どうしたものかと考えているとふと彼女の頭に一つの言葉が浮かぶ。

確かその言葉を知ったのは図書館でのことだ。

とある本にこんなことわざがのっていたのだ。


『汝、物事を解決させたければその根源を解決すべし。』


つまり・・・と彼女は考える。

今、彼女が困っているのは静かに物思いにふけるのを邪魔するこの少年の泣き声。

少年の泣き声の根源はこの少年・・・

イコールこの少年が泣きやめば問題解決、イコールこの少年が死ねば問題解決。

一般常識からかけ離れた彼女の頭の中で数式が出来上がり、彼女はそばにあった斧を手に取ると泣きわめく少年に振り下ろそうとする。

がいつの間にか小さな少年が近くまで寄ってきてぴったりと彼女にくっついていたため斧を振りおろしたのは何もない地面であった。


「くっつくな!!」


べりっと音がしそうな勢いで少年を引きはがす彼女。

少年は潤んだ瞳で少女を見上げる。

少年に抱きつかれて皺になった服を伸ばしながら、彼女は少年に尋ねる。


「お前は誰だ?ここで何をしている?」


そんな問いに少年はまだぐずぐずとしていたが、少ししてから小さな声で彼女に答える。


「マルクっていうの、おねーちゃんは?」


彼女は大きくため息を吐くと少年の頭を軽くなでる。


「私のことはいい。お前がここで何をしていたのかと聞いている」


少年はごしごしと自分の涙をふくと先ほどとは打って変わって強気な声を出す。


「こどもあつかいするなよ!!ぼくはもう5歳だぞ!!」


そう言って少年は彼女の手を払う。

しかし彼女は払われた手を素早く少年の頭に戻すと、今度はがっしりとつかんで力を込めた。


「ふふ、早く何をしていたのか答えないと頭が握り潰されてしまうぞ?」


実際彼女の握力では無理なのだが少年は真っ青な顔をして暴れだす。


「や、やめろよ!!」


いったんは涙の止まった目にまたじんわりと涙がたまる。

そんな様子がおかしくて彼女はクスクスと笑ってしまった。


「ふふふ、面白い奴だな。確か・・・マルクとかいったか。お前ひとりでこの森に来たのか?」


その彼女に拗ねたような顔をしたマルクは答えた。


「そうだよ、ここにいる魔獣を倒しに来たの」


その言葉を聞いてかすかに驚いた様子の彼女だったが、いつもクロを弄ぶ時の様に口元に笑みを浮かべる。


「そうか、その魔獣がいる場所は知っているのか?」


「うん確かこのあたりだってお父さんが言ってた。だからホントは危ないから行っちゃだめなんだって」


彼女は彼の答えを聞くと地面に突き刺してあった斧を手に取る。

それを見ていたマルクは慌てて彼女を止める。


「ぼ、ぼくひとりで倒すんだからね!!そんでみんなに自慢するんだから、邪魔しないでよ!!」


彼女は必死に訴えてくるマルクの様子を見て、持っていた斧を離し溜息をつく。

それに安心したのかマルクは胸を張って彼女にこういった。


「おねーちゃんのことも僕が守ってあげるよ!!」


彼女はそうか、と答えると少年が現れる前の時の様に木に寄りかかって目を閉じた。

マルクはしばらく彼女の様子をうかがっていたが退屈なのかその辺で一人遊びを始めた。

しばらくしただろうか、ガサガサと音がしたと思うとクロ達が戻ってきた。

行く前と何も変わっていないので何の収穫もなかったのだろう。

マルクはクロを見て、顔を青ざめていたが彼女に大丈夫だと伝えられると安心したのかまた一人遊びを始める。

彼女はマルクが遠ざかったのを確認してクロ達に小声で話す。


「魔物はどうしたのだ?」


「それが、このあたりに魔物は居ないようでございます」


彼女の問いにガイコツはそう答え、全くとんだ時間の無駄だったと溜息を吐く。

つまりはマルクの言っていた魔獣は唯の言い伝えの様なものか。

…………とんだ期待外れだったな…………

と彼女は、つぶやくとここにはもう用はないといった様子で出発する準備を始める。

マルクはそれに気が付いて不安そうな様子で彼女に尋ねる。


「もういっちゃうの?」


「ああ、マルコ、お前も遅くならないうちに家に帰るのだぞ」


彼女の言葉にマルクはこども扱いするな!!と頬を膨らませて、拗ねてしまった。

彼女はマルクの頭をひとなでするとそのまま歩きだす。

背後からマルクのじゃーねー!!という声を聞いて彼女はクスリと笑った。




***




しばらく歩いていると、クロが不意に口を開く。


「そういえば、あの餓鬼、エルフ族のものだったな……」


クロの言葉を聞いて彼女は首をかしげる。


「エルフ?何だそれは?」


彼女は図書館で得た知識を探るがあいにくエルフは出てこなかった。


「耳が人間よりも大きかっただろう?子供の時はそうでもないが・・・エルフというのは、耳が人間より尖っているのだ」


確かに言われてみれば、尖っていたような気もする。

彼女はふうんと相槌をうって、視線を先程の森へと移す。

もうずいぶんと小さくなったそれはざわざわと風に吹かれて揺れている。

そんな時ガイコツが思い出したかのようにカタカタとしゃべりだす。


「蔑称、耳長族。確か人間達がそう呼んでましたねえ。そういえばこのあたりは、人間に追われて逃げてきたエルフたちが作った集落の様なものがあるんでしたっけね。まあ興味もないですからどこにあるか忘れましたが・・・どうします魔王様?集落を探してエルフどもをとっ捕まえて奴隷にでも使いますか?」


けたけたと笑うガイコツの言葉に彼女は、やっと思い出したという顔をする。


「耳長族という言葉なら私も知っているぞ。確か人間よりも長寿で屈強で賢い種族だとあったな。しかし確かあやつらは魔王を恨んでいるのではないか?」


そう尋ねる彼女にガイコツはカチカチと顎を鳴らして答える。


「そんなこと関係ありませんよ。奴隷に使えばいいのですから。きっと楽しいですよ?」


クロの上ではしゃぐガイコツを見て彼女は口から笑みをこぼす。


「ふふん、私が弄ぶのはクロだけで十分だ」


なんだと!!と睨みつけてきたクロを彼女は華麗に無視した。








***








マルクは彼女達の向かった先をしばらく眺めていた。

しばらくして予想以上に空が暗くなっているのに気付き、慌てて森を出ようとする。


が、突如マルクは足を掴まれて転倒してしまった。

振り向くとそこにはむさくるしい格好をした男達が数人。

彼らは俗に言う所の追剥。マルクを見て下品に笑う。


「おい!!こいつは上玉じゃねえか?奴隷商に売れば金がたんまりだぜ」


そんな男達から逃れようとマルクは暴れるが、追剥に強く後頭部を殴られそのまま気絶してしまった。

追剥は高笑いし、マルクを乱暴に袋に詰めると奴隷商のある町へと向かっていく。




つまり、彼の父親が言っていた魔獣というのは追剥のことで彼らの縄張りであるこの森に入ってはいけないという注意だったのである。


『耳長族、それは人間に奴隷にされたエルフの呼び名である。』


ある書物にはそう記されていた。




あってもなくてもいい話でしたが何となく入れてみました。

魔王の思考回路がクロやガイコツの影響でだいぶおかしいですが気にしない。

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