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第三話 王立図書館と悪魔貴族

エンジニア王国、城下町ロンダリス ここには世界でも有数の巨大図書館がある。

これがエンジニア王国の誇る、エンジニア王立図書館。

ロンダリスはアサンテルミンから、飲まず食わず不眠不休で女と犬が歩くとすると3日ほどかかる。計算上の話であるが……実際にはそんなことできるだろうか?……


「おい!!クロ!!貴様がちんたら歩いているから3日もかかったではないか!!」


「お前が俺に乗ったからだろうが!!俺は馬じゃないんだぞ!!っていうか何でそんなぴんぴんしてんだ……飲まず食わずで……」


「ふん、私は少食なのだ。それにお前が休んでるときに私は木に実っていた果実を食べたからな……あまりうまいものでもなかったが……」


「なんだと!!貴様は一回常識というもの知った方がいい!!図書館にでも行って、可愛い獣への接し方を覚えてこい!!!」


クロをからかっていた他称そして多分自称魔王は、図書館という言葉に興味を示す。


「としょかん?なんだそれは?」


その言葉にクロはそんなこともしらないのかと呆れたように、彼女に図書館のことを説明した。


「図書館て言うのは、様々な事が書かれた書物がそれはもう、うんざりするくらいたくさんあるところだ。確かこの城下町にデカイ図書館があったと思ったんだが……もしかしたら、魔王についての情報もあるかもしれないな……」


「ほう……それはぜひ行ってみたいものだな」



***




しばらく歩いて、2人は図書館の受付へとやってきていた。


「すみませんがお客様、わんちゃんのご入館はご遠慮させていただいております」


優しそうな、若い受付係の女性は苦笑いしながら、当たり前の様に犬を連れてきた彼女を見つめた。

珍しい黒髪の女性だ。それに漆黒の衣を身にまとっている。

それゆえに肌の白さがより目立ち、美しい顔を一層引き立てている。


どこの国の人なのだろう・・・そんなことを受付の女性が考えていると、無表情のままで彼女が口を開く。


「わんちゃんとはこいつのことなのか?」


「え?あ・・・はい。そうですが・・・」


「ふうん、おいクロ、だそうだがどうするんだ?」


彼女は黒い犬を見下ろししゃべりかけるが、黒い犬はただ彼女を見つめるばかり。


「おい!!何とか言ったらどうだ!!」


何もしゃべらない犬に罵りの言葉をかける彼女。

それを見て受付の女性はどうしたものかと、溜息を吐く。


「あの、お客様、・・・」


彼女はやっと、目的を思い出したのか手続きを済ませると、犬に捨て台詞を吐いた。


「帰って来た時には……覚えているがいい」


受付の女性には、犬が溜息を吐いたように見えたが、きっと見間違いだろうと、自分の仕事に戻った。



***



クロは図書館の入り口まで出てきてぼやいた。


「まったく……人前でしゃべらせる気かねぇ……あのお嬢様魔王は」


そう言うとその場で丸くなって彼女が出てくるのを待った。



……彼女が入ってどれほどの時が流れただろう。

太陽は、空のてっぺんでギラギラと輝いている。その暑苦しさで、クロは目が覚めた。


「まったく……まだ出てこねえのか……ああ~暑い、腹減った……」


空腹と暑さを我慢し、クロはギュッと目をつむってもう一度眠り始めた。


クロが二度寝を始めて、かなりの時間が過ぎ、自己主張を激しくしていた太陽も今では西の空に沈もうとしていた。

クロは図書館の前で、簡易屋台が営業し始めたことで漂ってきた良い香りで目が覚めた。



「まだ読んでいるのか!!いったい、いつまで待たせる気なんだ……まったく」



…………………………

クロが完全に目覚め、屋台が本格的に始まり、太陽は西の空に完全に沈んだ。

しかしそれでもまだ彼女は出て来なかったのである。

クロはイライラとした様子でその場を行ったり来たりしていた。

クロの腹の虫は、屋台から漂ってくるにおいの刺激を受けさっきから泣きっぱなしだ。


「遅い!!!何をやってるんだ!!!」




…………

もうしばらくして図書館はとうとう閉館の時間を迎える。

閉館時間まで図書館にいるものなど、数えるほどだ。

ぽつぽつと、図書館から出てくる者たちの中に混じって、ひとり漆黒の少女が満足げに出てくる。


「おそいぞ!!何をそんなに読んでいた!!!」


クロは腹が減っているせいもあり、イライラを隠そうともせず彼女に詰め寄るが彼女に鼻で笑われ、カチンとくる。


「口のきき方に気をつけるがいい……クロよ」


はぁ?開口一番この娘は何を言うのかと、クロは目を丸くする。


「分からんか?……口のきき方に気を付けるがいい。今後は私を、魔王様とでも呼ぶんだな」


いつも以上に偉そうでクロを見下した態度をとった彼女に、ずっと待たされたことでだいぶたまっていたクロの鬱憤が爆発する。


「ふざけるな!!!一体いつまで待たされたと思っている!!調子に乗るのもいいかげんにしろ!!散々待たせた挙句に、その態度はなんだ!!!!」


息もつかずに、怒鳴り散らすクロを彼女は呆然と見つめている。

まさかここまで怒られるとは思いもしなかったのだろう。


「し、しかし、……私の読んだ本の魔王はもっと偉そうだったぞ……」


「本の魔王とお前が同じだと!?ふん、うぬぼれるのもいいかげんにしろ!!」


そう言い放つと、クロはさっさとその場から立ち上がり、とことこと歩いて行ってしまう。


「ク……クロ……待ってくれ…………」


おろおろと彼女はそのあとに続いた。



しばらく歩き、元よりこの町に滞在する気も金もないため、クロは町を出ていた。

その後ろを元気なく、無言でついてくる魔王。

しばらく彼女はクロの機嫌を取り繕おうと、クロに話しかけていたのだが、クロが全く相手にしなかったため、黙り込んでしまった。


いつもからは想像もできないしおれた姿に少しやりすぎたかもしれないと思っていると、不意にかすかな悪魔の霊気をクロは感じ取った。


「何者だ!!」


「……ど、どうしたのだクロ……」


霊気の持ち主を怒鳴り付けるクロ。

すると、薄暗い闇から染み出すように、1匹の魔物が闇より現れる。

黒いタキシードを身につけて高貴な雰囲気を纏っているが、頭がガイコツのため全てが台無しになっている。

クロは現れた魔物に、低い声で威嚇する。


「貴様…………一体何者だ」


「……クロ…………」


すると先ほどまで黙っていた彼女が何か言いたげな様子で、クロを見つめてくる。


「…………なんだ?」


緊張を解かず聞き返すクロに、彼女はやっと口を利いてくれたクロに微笑むと、クロに話し始めた。


「クロ……あれはな……ガイコツというんだ……」


「そんなこと言われなくても知ってるわ!!!」


せっかく今日手に入れた知識を、クロに無下に扱われ彼女は拗ねてしまった。


「もういい……クロなんてもう知らないからな」


「なんだと!?」


もめるクロ達にガイコツ男は、ケタケタと笑い始める。


「くくく……なにをもめているか知りませんが、そこの女性は唯の女性ではありませんね?」


「…………貴様に言う必要はない…………」


クロは低い声ですごんで見せるが、ガイコツ男は全く気にせずに続ける。


「貴方は魔物ですよね?なぜその女性に仕えているのか知りませんが…………その面白そうな女性はもらいますよ~」


ガイコツ男がパチンと手を鳴らすと、背後から斧や、槍を持った魔物が現れる。


「……やれ……」


それを合図にクロと彼女に、魔物達は襲いかかってくる。


「ちっ……おい、逃げるぞ!!」


予想外の敵の戦力に撤退することを考えたクロだったが、拗ねた彼女は動こうとしない。


「おい!!なにやってんだ!!」


動かない彼女に、魔物たちは襲いかかり、当然のごとく力のない彼女は簡単に斧で切りつけられてしまった。彼女の、か細い腕からは鮮血が流れる。


「おい!!馬鹿か!!さっさと逃げろ!!」


クロは彼女を襲った魔物を自慢の爪で切り裂く。

耳をつんざくような奇声を上げ、魔物は消えていった。


「全く何をしてるんだ!!逃げるぞ!!」


クロは彼女を引っ張って逃げようとするが、彼女は服の端をくわえたクロを振り払うとそっぽを向く。


「いい加減にしろ!!いつまで拗ねてるつもりだ!!」


「う……うるさい!!」


クロに、拗ねてると言われて彼女は頭に血が上ったのか、顔を赤くしながら先ほど倒された魔物が持っていた斧をつかむとクロに振り下ろそうとした。



が…………斧は彼女に手からすっぽ抜けてあさっての方へと飛んで行く。


「ぎゃああああああああああああ」


すると間もなく、ガイコツ男の悲鳴があたりに響く。

彼女の手から抜け落ちた斧が、ガイコツ男の頭を首からすっぱりと切り落としたのだ。


その様子を見た彼の手下らしき魔物は、慌てて逃げ始める。

なんだかよくわからないが、危機は脱したらしい。


クロは大きくため息を吐くと、彼女に文句を言おうとしたが彼女は切り落とされたガイコツ男の首をガン見している。


「な、なにやってるんだ?」


「ふん…………私の読んだ本では、魔物というものは死んだ直後に自分以外の鮮血を与えられると、生き返るものもいるらしいぞ?」


「何の本を読んだんだ……ってまさかそれをするとか言い出すんじゃないだろうな?」


「ふふふ……魔王は多くの魔物を従えて使役しているそうだ。それに、クロだけでは魔王の護衛は心もとないからな。」


なんだと!!とクロが言う前に彼女は頭蓋骨に自分の腕から流れる血液を、垂らしていた。


しかし、全く動く気配がない。


「ほんとに動くと書いてあったのか?俺はそんなの聞いたことないぞ……」


「いや、私が魔王ならば成功するはずだ………………たぶん」


「たぶんかよ!!信用できねえな……」


しばらく待って見たがガイコツは動かない。

クロはふんと鼻を鳴らす。


「お前やっぱり魔王じゃないんじゃないか?」


「そ、そうなのか?」


「そうだ。なんか変だと思っていたんだよ……やっぱりそうか、お前は魔王ではなかったのか……喰ってやろう!!!」


「な!!やめろ!!…………」


クロが彼女に襲いかかろうとした時、全く無音だったガイコツがかたりと音を立てたと思うと、そのまま顎を動かししゃべりだした。


「な…………これは一体何事ですか。ワ、ワタシの体がない!!」


その様子を見て彼女は襲いかかってきたクロに拳骨をお見舞いした。



***






「すみませんでした…………俺が悪かったです。だからもうやめ…………いたいいたいいたい!!!」


彼女はクロにお座りをさせて、頬の肉をぎゅーっと左右に引き延ばし謝罪を要求する。


「分かったか、クロ。私は魔王なのだ!!」


「はひ…………わひゃりまひた……」


「それにしても、魔王とは……王族の血は随分前に絶えたと思っていたのですが。」


首だけになったガイコツ男は感心したように彼女を見ている。


「詳しいな……何か知っているのか?」


彼女はクロを弄ぶだけ弄ぶと、ガイコツ男に視線を向ける。


「まあこれでも悪魔貴族の端くれですからね、ですがワタシが知っているのは、王族というものが魔物の中にもあったということだけですよ。王族も一つではなかったようですし、たぶん貴方の知りたいような大層な情報は持ち合わせてはおりませんよ…………それより!!一体どうしてくれるんですか!!この姿で一体どうやって暮らしていけばいいんですか!!」


ガイコツ男は頭だけで器用に、飛び跳ねながら怒っている。


「そんな心配はしなくていいぞ、お前は今日から私の手下2号だ。ちなみに1号はそこにいるクロだ。私が貴様の面倒を見てやる」


ガイコツ男は遠くで伸びているクロに目を移す。

それについて触れてはいけない気がしたのでガイコツ男は黙っていることにした。


「魔王様の臣下とは名誉なことではありますが、しかしこの姿ではとても役には立ちませんよ?」


それを聞いて彼女は少し考えると、ガイコツ男に少し待っていろと言い残すと町の方へかけて行った。


しばらくして、彼女が戻ってくると、どこから手に入れたのか、鉄くずを腕いっぱいに抱えてきた彼女。

ガイコツは怖々と聞く。


「そ…………それを一体何に…………」


「決まっているだろう、こうするのだ!!」


そう言うが早いか、ガイコツを押さえつけ彼女は作業へと入る。


「ひ……お止めなさい!!ひぎぃいいやああああああ!!!!」


「うるさい!!暴れるな!!」


ぎちぎちと骨がきしむ音がし、ガイコツ男の悲鳴が辺りにこだました。





しばらくしてクロが目を覚ます。


「んん……一体何してんだ?……」


「おお!!クロか、見るがいい私の手下2号だ。」


目を向けるとそこには、頭蓋骨へ不自然に鉄でできた足が蜘蛛の様に付けられているガイコツ男の頭があった。


「どうだ?良い出来だろう?」


ガイコツ男は、遠い目をしている。クロはなんと言っていいのか思いつかなかった。



魔王は新たな手下を手に入れた!!

クロがいつの間にか手下1号になっている……

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