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第二十話 沈没船と水の船

「ちっ…………」


 グラックは盛大に舌打ちするとエルフィーナの横をすり抜けて部屋を出て行った。船の不定期な揺れは収まるどころかだんだんと大きくなっているようで廊下から乗客の悲鳴や船員の怒号が聞こえてくる。彼女は残った紅茶を飲み干すと、フードをかぶったエルフィーナにこの揺れの原因を問う。


「……一体何が原因なんだ?」


 なおも落ち着いた様子の彼女にエルフィーナは焦った様子で事のいきさつを話す。


「外に出て波の様子を見ていたらな、急に強い雨風が吹いて来て、でっかい化け物が出てきたんだ!!今の揺れはその化け物がこの船に体当たりしたせいで、……ああっ早く何とかしないとっ!!」


「そうか」


 エルフィーナは焦りながら説明していると言うのに、彼女はまだ椅子からも立ち上がろうとしない。おまけに、何だそんなことかと言いたげな表情で鬱陶しいそうにエルフィーナを見ている。


「何でそんなに落ち着いていられるんだ!!おい!!お前たちも何か言ってやれ!!」


 エルフィーナはクロやガイコツにも彼女の説得を頼もうとするが、彼女がイスから立ち上がってエルフィーナへと口を開いたことでそれはさえぎられた形となった。


「ふん、ここは海だぞ。我々には最強の駒がいるだろうが」


 彼女は意味深に笑みを浮かべながら、転がったボードゲームの駒を一つ拾い上げる。しかし、何のことか分からないエルフィーナはその様子を首をかしげて見ることしかできない。






***






「おい、アニー!!こりゃ一体どういうことだ!!」


 グラックが、自分の持ち場に戻ると壊れた船の機材を椅子の様にして腰掛けているアニーが目に入った。


「おお!!グラック。どうだったよ? 彼女とうまくやれたのか?」


「今、そんな話してる場合じゃないだろうが!!」


 グラックは気楽にしているアニーを怒鳴りつけるが、アニーはゆっくり首を横に振ると悲しそうな目でグラックを見つめた。


「もう駄目だよ。何をしても、……もうこの船は沈む」


 その言葉にグラックは驚愕で目を見開く。船員ならば絶対にこんな言葉は言わない。たとえどんなことがあろうとも、客や品物を目的地に送り届けるまで絶対にあきらめない。しかし、最も自分が信頼を置く男がそれを言った。……もう沈むと。


「てめぇ!ふざけんじゃねぇ、それでも船員か!!」


 激昂してアニーにつかみかかったグラックは、そこで初めてアニーが涙を流していることを知った。急激にグラックの頭は冷めていき、アニーと同じように船の機材に腰をかけた。


「で……彼女とはどうだったんだ。最後にお前の色恋話が聞きたいなぁ」


 グラックが腰かけたのと同時にアニーがそんなことを言ってきた。グラックは小さくため息を吐くと、ゲームをしたとだけ簡単に答える。


「おお、随分と進歩したじゃないか! 告白とかしたの?」


「な!!す……するわけないだろうが!!…………それにどうせ暇つぶし程度にしか思われていねえよ。へんっ」


 ふてくされるグラックをアニーはクスクスと笑いながら見る。グラックは気付いていないだろうが顔が真っ赤だ。おそらく照れているのだろう。ほんとに感情が顔に出やすい男だ。


「…………ごめんな。俺のせいだ。あのときお前がヤダって言った時に船に乗せてなければな……俺のせいでお前の好きな人も……」


「けっ……な~に、餓鬼みたいなことぬかしてんだ。お前のせいじゃねぇだろうが」


 

 アニーはグラックの言葉を聞いてしばらくうつむいて黙っていたが、きっと顔を上げてニカッと笑うと、軽い口調でグラックに話しだした。


「さ、おしゃべりは終わりだ。お前は彼女のとこに行ってやれよ」


「はぁ!?……お前何言ってんだ?」


「いいから、いいから。ついでに告白して来いよ!!」


 ぐいぐいとグラックの背を押してくるアニー。しかし、素早くグラックはアニーへと向き直ると、にやりと笑って口を開いた。


「あいつらには仲間がいるが、お前は俺がいなくなったら独りぼっちになっちまうだろ?最後くらい俺がお前と一緒にいてやるよ。」


「えぇー!!最後がグラックと一緒とか俺、超嫌なんだけど!!」


「なんだと!!」


 破壊音とともに激しく揺れる船の中、二人の男は笑い合った。とうとう二人は最後まで死という言葉を使わなかった。




 


 ドゴオオオオッ!!!


 





 暗い闇夜を明るく照らす存在が海にあった。

 巨大なサンダルシアン船が、乗客の悲鳴を響かせながら、闇夜を照らす真っ赤な炎に包まれて船に沈んでいっているのだ。その船に巨大な真っ黒い魚が双眼を輝かせ何度も何度も船に体当たりを繰り返す。そのたびに船は悲鳴のような破壊音を出し、船体を変形させていった。


「おお!!あれだけデカイ魚だと一年間は余裕で腹いっぱい食えるな。いや、五年はいけるか?」


 サンダルシアン船に体当たりを繰り返している巨大な魚を見てクロは興奮した声を上げ、対する魔王である彼女は静かにサンダルシアン船が沈んで行くのを見ている。


 彼女達が今いるのはサンダルシアン船から少し離れた沖。透明な船に乗りながら沈み行く巨大船をまるで景色を見るのと同じように見ている。


「にしても……スライムを船代わりにするとはな」


 エルフィーナは半分呆れたような表情を浮かべ、自分たちの乗っている水分を含んで巨大化したスライムをつついた。フニャフニャしているがなかなかに快適だ。それにスライムが自分で動いてくれるので、(スライム)を漕ぐ必要もない。


「しかしどうしましょう魔王様。いきなりこんな沖では自分達の現在地が把握できません」


 「…………そうだな。どっちにしろこの闇夜では、下手に動かない方が良い。日が昇るまでしばらくここにとどまるとしよう」


 ガイコツは、きょろきょろとあたりの海を見渡しながら金属的な足で自分の頭をかいて彼女に尋ねる。 彼女は少しだけ間を置くとガイコツの問いに答えた。


「魔王様の仰せのままに」


 彼女の答えが自分の満足いくものだったのか、ガイコツは恭しく頭を下げた。








***







 漆黒の闇から意識が浮かび上がってくる。そんな感覚があって、彼女はゆっくりと目を覚ました。いつの間にか、夜も明けたのか辺りには太陽の光を反射してきらめく海が彼女をとりまいている。


 どうやら自分以外はまだ眠っているようで、彼女は他の者たちを起こさないように辺りの様子を見渡すと、遠くに陸地になっているのだろうと思われる場所があった。


「おや、魔王様お目覚めでございますか?」


 突然声がかけられる。

 それまでピクリとも動いていなかったため眠っている物だとばかり思っていたガイコツが遠くを見つめる彼女に口を開いたのだ。


「なんだ、お前は寝ていたわけじゃなかったのか?」


「ええ、他の者たちと同じにしないでいただきたいですねぇ。それに船の形が変わらないように注意していたのです」


 ガイコツは船代わりとなっているスライムをその金属の屑でできた足でべしべしと叩いた。確かにうっかり元の形なんかに変わられたら、みんなまとめて海に放り出されてしまう。それを案じてガイコツはスライムの相手をしていたらしい。


「ご苦労だったな」


「お褒めの言葉をいただけて感激でございます」


「ふむ、水玉お前もだ」


 彼女の言葉にスライムは嬉しそうに小さく揺れた。彼女はスライムをひとなですると話題を遠くに見える島へと移す。



「水玉も疲れたことだろう、あそこで少し休むぞ」


 

 スライムは魔王の命令に従って、遠くに見える島に向かって進み始めた。









二十話どうだったでしょうか……

アニーとグラックはチョイ役キャラのはずだったのに出番が多くて自分でもちょっとびっくりしてます。

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