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第二話 朝日の町 アサンテルミン

「おい、二本足の生き物が沢山いるぞ!!クロ」


「ありゃ、人間だよ。お前だって似たような格好してるだろ」


ここは、ローレシア大陸の南、エンジニア王国領アサンテルミン。通称、朝日の町。

多くの人間が行き交い、とても活気のある町だ。


そんな所にやってきたのは、町を興味津津の様子で、きょろきょろと見ている他称魔王、そして真っ黒い犬の2人。


「お嬢さん!!一人旅かい?サービスだ!!」


体格のいい男が自分の店の肉の串焼きを彼女に差し出す。


「くれるのか?」


「ああ、美人さんに特別サービスだ」


びじんとはなんだ?と聞こうとする彼女の言葉をさえぎるようにわんわんわん!!と吠えるクロ。そのままどんどん走って行ってしまう。


「おいっ!!どこに行く……クロ!!」


彼女はクロを追いかけるが、全速力で走る犬に敵うわけもなく、クロの事を見失ってしまった。


「ハァ……ハァ……なんだあの速さは…………まったく、まおーを置いて行くとはいい度胸をしている」


彼女は息を整えると、先ほどもらった肉の串焼きをほおばる。


「…………口に合わん……クロが帰ってきたら食べさせよう……」


もぐもぐと固めの肉を口に含み、飲み込むタイミングをはかっていると、兵士の様な格好をした2人組が彼女に声をかける。


「おい、そこの娘。見たことがない格好だが?どこの国の者だ?」


高圧的な物言いに彼女は明らかに不機嫌そうな態度になり、声に嘲笑を込めて言い放った。


「貴様らに言う必要などない。分かったならさっさと私の視界から消えろ、不愉快だ」


まさか自分達がこんな口を聞かれるとは思わなかったのか、男達は一瞬呆けた後、怒りで大声を出す。


「貴様!!我々を誰だと思っている!?この街の管理をしている役人であるぞ!!」


「貴様の様な小娘を豚箱にぶち込むのなんて訳ないんだぞ!!」


「……うるさい、小物は騒ぐしか能がないのか……」


ほとほとあきれたという風に首を振る彼女は、その後、本当に役人につかまってしまった。



***




クロは、肉屋で何やらこちらの様子をうかがっていた小物の魔物を捕まえることに成功した。


「貴様、なぜこちらの様子をうかがっていた?何か用があったのか?ん?」


「うるせえ……貴様には関係ない。…………人間ごときに仕える犬め……」


なお悪態をついてくる小物にクロは鼻で笑う。


「あのお方は魔王だ。貴様には永遠に縁のない方だよ……死ね」


「魔王だと!?ば、馬鹿な!!ぎゃあああああああああ」


小物を自分の爪で切り刻み消滅させる。

そこで、やっとクロは自分の主である彼女を置いてきてしまったことに気付く。


「勝手な行動をするな!!とか言われて怒られんのかな……」


ぷらぷらとやる気のない足取りでクロは彼女と別れたところまで戻る。

ところがそこで待っているだろうと思っていた彼女はどこにも見当たらなかった。


「おいおい、まさか見捨てられちまったのか?」


当てもなくさまよっていると、広場の中心で何やら人が騒々しく騒いでいる場所を見つけたので、クロは何か手掛かりがあるかもしれないとそこに向かった。


果たして……そこにクロの目的の彼女がいた。

しかもただいたのではなく、見世物になっていたのだ。



「この者は、役人である我々を侮辱した。すなわちそれは我々の王国を侮辱したことに等しい!!よってここに、公開処刑を開始する」


随分と勝手な話だ。だが見物の客は随分な暴論を吐く役人には目もくれず、一体どのような者が公開処刑になるのかの方が気になるらしく、さっきから、縄で縛られている彼女の方に好奇の視線を寄せている。

クロはどうしたものかと考えた。この状況では彼女を助けるのは難しい。前のような巨大な体でなら力技で切り抜けられたかもしれないが、今の彼はその辺の野良犬と同じ体系だ。ここにいるたくさんの人間達全員の相手を出来る自信はない。


しかし、そんなクロの心配をよそに、当の彼女は全くの興味がないかのように、役人の身勝手な罪状を聞き流し、見物人の視線も無視して、無表情に空を見上げている。


「罪人は、今日から10日間、この街の中心で晒し者として罪を悔いてもらう。この期間ならばこの罪人に対してどのような行為をしても許されることとする」


役人は自分で作ったのだろうか、稚拙な内容の刑罰が書かれた紙を読み終わると、道に立てられた木の丸太に彼女を縛りつけ、そして刑罰を執行中であるという看板を立てると、その場を立ち去って行った。


役人が立ち去ったあと、見物人の群れが一斉に彼女のもとに近寄る。


「いや~なかなかの別嬪さんじゃね~か」


「おい、確か10日は好きにしていいんだったよな?」


近くに来てじろじろと見てくる見物人を彼女は鬱陶しそうな視線で一蹴すると、そのまま目を閉じてふて寝し始めた。


「おい、ねるな!!小娘!!」


一人の男が小石を彼女に向けて投げる。ちょうどそれが彼女の頭に当たり彼女はうっすらと目を開けて、石を投げた男に怒気を込めて言い放つ。


「私の前から消え失せろ」


その言葉を聞いた男は、それを自分が馬鹿にされていると思った怒りか、罪人である彼女より自分が圧倒的優位に立っていると思っていたことを彼女に完全否定されたのに対する羞恥のせいか、顔を真っ赤にさせて怒鳴った。


「罪人が調子に乗ってんじゃねえ!!」


そのまま怒りに身を任せ彼女に拳を叩きつけようとした時、男の腕に真っ黒い犬が思いっきり噛みついてきた。


「ぎゃあああああああ」


男の腕からは血が大量に流れ出し、男はそのまま腕を押さえて倒れてしまった。

その間に、真っ黒い犬は、彼女を縛っていた紐を噛み切ると、彼女の服を引っ張りながら全力疾走した。


その様子に村人たちは呆然としていたがすぐに、我に返って騒ぎだす。


「罪人が逃げたぞ!!」


「はやく役人様に知らせにやぁならん!!!」



***




町のはずれまで少女を引っ張ってきたクロはやっと走るのをやめた。


「何であんなことになってたのか説明しろ」


「説明しろと言われても……」


クロは言い淀む彼女をさらに追及する。


「なんで、魔王のお前が人間ごときにつかまっているんだ!?」


彼女はそんなクロを見て小さく鼻で笑い答える。


「そもそも、クロが私から離れたのが悪いのだ。私などクロに守ってもらわねば、人間とかいうものよりも弱いかもしれないな」


「どこにそんな魔王がいる!!そもそも何で俺がお前を助けなきゃならないんだ!?むしろ魔王のお前が俺を守ってくれよ!!」


クロの言葉に彼女はきょとんとした様子で、首を傾げる。


「……なんだ、お前は、私を守ってくれるためについてきたわけではないのか?」


その言葉に、クロは黙り込んでしまった。

別にこの娘に助けてもらおうという気はなかったのだ。むしろ魔王であるのに弱そうな彼女に少しでも力になりたかったのが本音である。この少女はクロをひきつける何かを持っているのだ。

だがそれを言葉にするとなんだかこっぱずかしい。


「ふ、ふん……ただ魔王についていけば面白そうだから、ついて来ただけだ。それにこの姿を戻してもらわねばならないだろうが……べつに……お前を助けるためについてきたわけじゃないからな」


「ふふん……そんな真っ赤な顔で言われても説得力がないな。」


「な……なんだと!!」



にやにやとからかうように笑う彼女に、クロは全身を真っ赤にさせてキャンキャンと吠えるのであった。






なんじゃこりゃ……(笑)

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